メルセデス・ベンツE400ハイブリッド アバンギャルド
我慢しないハイブリッド 2013.08.01 試乗記 “ビッグマイナーチェンジ”を受けて環境性能を向上させた「メルセデス・ベンツEクラス」。その目玉、Eクラス初となるハイブリッドモデルは、いかなる走りを見せるのか。黒船、しかも大艦隊
一夜明けたら目の前の海に巨艦がズラリ。ちょうど160年前の日本人が黒船に感じたような威圧感と言ったら大げさに聞こえるかもしれないが、昨年末あたりからの新型輸入車の攻勢に接すると、ジワジワと囲まれるようなプレッシャーを感じるのだ。しかも続々とやって来る新型車は、かつて日本車が明らかに優位であった点、つまり燃費や価格、豊富な装備といった点でももはや引けを取らず、むしろ凌(しの)いでいるものもある。実際に今年は多くのブランドが販売台数を伸ばし、最高記録を更新するのではないかと見られている(今年1~6月の輸入車新規登録台数は前年比+12.6%)。
もっとも、一番脅威を感じているのは一般市民ではなく、事前にペリー来航の情報を得ていた当時の幕府と同じく、手をこまねいていた日本メーカーであることは言うまでもない(日本車は軽自動車を含めた全体で同じく-8%)。
そんな大攻勢の象徴が5月に発売された新しい「メルセデス・ベンツEクラス」だろう。メルセデス・ベンツの中核車種のセダンとステーションワゴンを同時に、しかもパワーユニットは新型直噴2リッター直4ターボからV6クリーンディーゼル、ハイブリッド、それに高性能版AMG用V8ツインターボまで取りそろえ、全部で21車種という大艦隊で攻め込んできた。プラットフォームは従来型を踏襲しているから一応マイナーチェンジの範疇(はんちゅう)に入るものの、一新されたパワートレインや安全装備をはじめ、変更点は計2000カ所以上という大掛かりなもの。どのモデルもそれぞれに魅力的だが、やはり目玉はEクラスとしては初めてのハイブリッド「E400ハイブリッド アバンギャルド」だろう。
従来の「Sクラス ハイブリッド」用システムはV6エンジンとモーターが直結しているタイプ、ホンダの「IMA」と同様にモーターはあくまでエンジンの補助的存在で、モーターのみによる走行はできなかった。新型Eクラスのシステムはその発展型で、エンジンルームに収まるコンパクトなリチウムイオン電池と、20kW(27ps)/250Nm(25.5kgm)を生み出す小型モーターという構成は同じである。15kW/160Nmだった従来型モーターよりは若干パワーアップしているが、例えば「トヨタ・アクア」の駆動モーター(45kW/169Nm)と比較すればその位置づけが変わっていないことが分かる。最大の違いは、3.5リッター直噴V6(306ps/6500rpm、37.7kgm/3500-5250rpm)との間にクラッチが新設され、新型「E400ハイブリッド」は短距離(距離1km、35km/hまで)ではあるがモーター走行ができるように変わったこと。またこのクラッチの新設のおかげで、高速走行時にスロットルを閉じた場合に、エンジンが停止した状態での惰性走行が可能となった。これをメルセデスは“セイリングモード”(160km/hまで)と称する。JC08モード燃費は15.2km/リッターである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
左ハンドルであることだけ
近頃はお忍び高級温泉旅館が似合うようなモデルもラインナップされているが、私が考えるメルセデスはあくまで最高の実用車、タフな要求に応える“仕事の車”だ。当然、ハイブリッドであっても積載能力などに言い訳は許されない。
E400ハイブリッドは、これまでのSクラス ハイブリッドと同じく、エンジンルーム右側のウインドシールド寄りにリチウムイオン電池が搭載されているため、邪魔者がないトランクには広大なラゲッジスペースが確保されている。VDA式の容量はガソリン車(531リッター)とほぼ変わらぬ505リッター、しかもリアシートは分割可倒式でトランクスルー可能である。
ミドルクラス以上のセダンでは「キャディーバッグを4個積めるかどうかが大問題なんです」なんて話を聞くが、本当はたとえ可能だとしてもパズルのように工夫してぎゅうぎゅう詰めに積むのは避けたいもの。自分でゴルフをする人なら同意してくれるはずだが、こんな場合にトランクスルーはありがたい機構だ。もっとも、トランクスルー機構を採用するにはそもそものボディー構造がしっかりしている必要がある。
ちなみに上記のバッテリー位置のせいでE400ハイブリッドは左ハンドル仕様のみとなる。同じく4マチックではトランスミッション右側にフロントアクスル用の折り返しのプロペラシャフトが通るために左ハンドル、他の新型EクラスはAMGも含めてすべて右ハンドルである。この点だけがハイブリッドに伴う小さなデメリットといえる。
実用セダンの理想像
細かいことを言えば車重も当然増えており、E400ハイブリッドの車重は同じ3.5リッター直噴V6エンジンを積む「E350アバンギャルド」に比べて100kg増しの1860kg(パノラミックスライディングルーフを装着するテスト車は1900kg)だが、そのハンディはまったく感じられず、それどころか山道でも予想以上に軽快に走る。スポーティーなサスペンションを持つアバンギャルド仕様とはいえ、セダンの王道たるEクラスとしてはこれ以上“俊敏”である必要はないと思うほどだ。
うれしいのは、フル加速することが多いこんな山道やハイウェイでも、シフトパドル付き「7Gトロニック・プラス」7段ATと余裕のあるV6エンジンのおかげでハイブリッド臭をまったく感じさせず、我慢が要らないこと。滑らかにギアをつないでどこまでも伸びて行くすがすがしい加速感は、電気式CVTなどを使うハイブリッド車には望み得ないものだ。
またセイリングモードでのクラッチの断続、エンジンの停止・再始動に伴うショックやノイズも気にならない。従来型Sクラス ハイブリッドでは、停止直前にエンジンが停止して、そこから再び加速するような場合にはショックを伝えることもあったが、新型では意地悪くいろいろと試してみてもあらゆる状況で滑らかさを失うことはなかった。
メルセデスの十八番(おはこ)である安全面についても、新型Eクラスはさらに進化した「レーダーセーフティパッケージ」を装備している。この種の衝突防止・被害軽減システムの中身のレベルは実はさまざまであり、「止まる」とか「ぶつからない」と称して誤解を招きかねないものもある。分かりやすく伝える努力はもちろんだが、できるだけ正確に伝える義務があると思う。
メルセデスの新しいシステムは異なるレンジのミリ波レーダー発振器を計5基、さらにステレオマルチパーパスカメラを備え、車両の周囲全方向を監視する最も高度なものである。その点では黒船ではなくイージス艦だ。
ガンガン走る人にとって、E400ハイブリッドは躊躇(ちゅうちょ)なく太鼓判を押せる車だ。問題は他のモデルも魅力的ということ。最もベーシックな「E250」(595万円)だけはレーダーセーフティパッケージがオプション設定となるが、それでも追加料金は19万円にすぎない。890万円のハイブリッドとどちらがいいですか? と聞かれると、正直答えに詰まる。新型2リッターターボ(211ps)を積むE250で十分満足できるが、予算があればやはりE400か。798万円の「E350ブルーテック アバンギャルド」(252psディーゼルターボ)も捨てがたい。うーん、続きはウェブで。いやまたの機会に。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツE400ハイブリッド アバンギャルド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4880×1855×1455mm
ホイールベース:2875mm
車重:1900kg
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:306ps(225kW)/6500rpm
エンジン最大トルク:37.7kgm(370Nm)/3500-5250rpm
モーター最高出力:27ps(20kW)
モーター最大トルク:25.5kgm(250Nm)
タイヤ:(前)245/40R18 93Y/(後)265/35R18 97Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト3)
燃費:15.2km/リッター(JC08モード)
価格:890万円/テスト車=910万円
オプション装備:パノラミックスライディングルーフ(20万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2087km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:372.4km
使用燃料:41.5リッター
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)、9.9km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
NEW
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
NEW
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
NEW
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。 -
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】
2025.12.2試乗記「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。 -
4WDという駆動方式は、雪道以外でも意味がある?
2025.12.2あの多田哲哉のクルマQ&A新車では、高性能車を中心に4WDの比率が高まっているようだが、実際のところ、雪道をはじめとする低μ路以外での4WDのメリットとは何か? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。





































