ケータハム・セブン160(FR/5MT)
ありそうでなかった! 2014.05.01 試乗記 スズキ製の660ccエンジンを搭載した、軽自動車規格の「ケータハム・セブン」が登場。ダイレクトなドライブフィールと適度な動力性能がもたらす、このクルマならではの走行体験をリポートする。国境を超えたカーガイの共作
「そう。これはね、マイ・ベイビィ。でも私は作ってない。アイディアだけ。作ったのは武蔵野さん」
といってるのはジャスティン・ガーディナー(Justin Gardiner)さん。日本国内でケータハム・セブンの広報車があるところにはかなりの高確率でそこにいっしょにいる(今回もやはりいた)、ミョーに日本語の上手なガイジン。でも英語はもっと上手なので、たぶん英国人。いったいナニモノさん? プレスリリースによると、「現ケータハムカーズ ジャパン・ブランドマネジャー」。われわれのギョーカイの内輪では単に「ジャスティン」でオッケー。誰のことかは通じます。でもって、ジャスティンが言及した「武蔵野さん」とは「テクニカルセンター所長」の武蔵野明彦さん。
ただしもちろんというかケータハム・セブン160はメイド・イン・イングランド。武蔵野さんが「作った」のはその「プロトタイプ」。少し詳しく書くと長いことになっちゃうので省略しますが、2010年10月にそれを日本から本国へ提案したからいまがある。軽自動車のエンジンで走る、日本においては軽自動車として登録(っていうのか?)される、ケータハム・セブンの市販車。ジャスティンにとっては16年越しの夢だったそうな。
という、軽のセブン。でも、ジャスティン、なんでそれ、ずっとやりたかったの? 「だって日本人、軽自動車大好きだから」。ほー。「96年から、私の奥さん、『カプチーノ』に。私は『ジムニー』。それと、セブンのプロトタイプの開発のために『エブリイ』も買った。ヤフオクで8万円(笑)。でもエブリイ、意外と便利だったから車検通したよ」。ほー(笑)。「今回セブンのワン・シクスティができて、家まで乗って帰った。そしたら家の前に、カプチーノとジムニーとエブリイとセブン160。4台、兄弟!!」。って、アンタが軽自動車大好きなんじゃん!!
「そう。スズキの軽自動車、大好き。スズキさんにはほんと、感謝感謝!! ずっとやりたかったことがついにできたから、もういつ会社やめてもいいくらい」。はあ(笑)。「でもね、プロトタイプ作るのに部品代がかかってる。シャシーはイギリスのケータハムから送られてきたからタダだったけど、こっちでエブリイとカプチーノと『アルト』の事故車を買って10万円」。ほう(笑)。「パーツ代は10万円だったけど、作るのに1年半かかったよ」。武蔵野さん、大変でしたね。「で、その10万円ぶんの請求書は、どこへ出せばいいんでしょう(笑)」。あ、自腹。
駆動系はメイド・イン・浜松
プレスリリースによると、セブン160のエンジンは「スズキ・ジムニー」用(ただしECUはby Caterham)。トランスミッションも。デフ等コミのリアのアクスルハウジングはエブリイ用。「でもファイナルは変わってる。スズキさんが、軽じゃないなにかのクルマ用のを入れてくれてる」(ジャスティン談・以下も同)。それと、プロペラシャフトもスズキもの。「でも長さが違うから、切って短くして溶接とかはしてるはず」。
要するに、エンジンから始まって駆動系のコンポーネンツがズラッとスズキ。それこそリアのブレーキ(ドラム)まで。参考用に、そうじゃないセブンの場合はどうなるかきいてみたら……。「エンジンがフォード。トランスミッションはマツダの5速。ディフはBMWの『1シリーズ』用。ドライブシャフトはGKN。ブレーキはAP。あと、リアのアップライトはどこかわからない」と、少なくとも5社から部品をかき集めてクルマを作っている。それが1社提供になったことで、簡単にいうと「80万円、安くすることができました」。そりゃ、感謝もするわなあ。
ちなみに。セブン160および165(英国仕様)のために日本から船便で英国へ送られたスズキ軽系コンポーネンツは50台ぶん。それがファーストロットで、次のロットは「まだ浜松を出てないんじゃないかな(笑)」。ファーストロット50台ぶんのうち10台ぶんが日本(のカスタマー)向けのクルマのために使われて、出来上がったそれらは「船のなか。いまごろ地中海かな。まだスエズには入ってない」。「いまごろ」の「いま」とは2014年4月24日。
というか“軽terham”、欧州でも買われている。売れている。人気。生産キャパを「オウヴァ」するオーダーが入って、工場は「バンザーイ!!……どころかパニック状態」になっているという。スズキにとっては誤差の範囲の50台でパニクるケータハムの生産拠点。バックヤードかっ?!
ぶっ飛ばさなくても楽しめる
で、セブン160、乗るとどうか……の前に、眺めてどうか。簡単にいうと、軽に見える。黄色のナンバープレートを見なくても。フツーのセブンと違うのは、ひとつには後ろ。リアのフェンダーとタイヤのあたりが軽っぽい。「リアのフェンダーは、片側あたり4cmだけ、幅が狭い。四角いテールランプをつけたときの見た目のバランスが心配だったけど、やってみたら大丈夫だった」。アクスルハウジングがエブリイ用なので、相応にトレッドは狭い。フロントは、なにもしなくても軽の幅の枠内だったんでそのまんま。
あとタイヤ。銘柄こそ“英ヴォン(Avon)”だけど、155/65R14は思いっきりジャパンの軽用サイズど真ん中。ということは、お好みでチェンジもわりと自由自在。「いまついてるエイヴォンはサイドウォールが少し柔らかすぎるかもしれないから、合わない人はかえるといいかもしれない。でも、いまついてるタイヤが減ってからかえようと思ってると、そのタイミングは永遠にこない(笑)。なぜならセブンは軽いから。タイヤ、なかなか減らない」。
軽いセブンのなかでも160はさらに軽くて、カタログ上では490kg。車検証によると、フロント240kg+リア250kg。エンジンが80psだから、トンあたりの馬力は……ということで、車名というかグレード名。これと同じくらい軽いセブンを運転したことはあるかもしれないけれど、しかし……。
160、平和!! ピースフル。冗談抜き、カプチーノはこんなにノホホンとはしてなかった。もっとこう、ギャップがあった。デカかった。過給が効いてない領域でのオソさやホソさと、効いてからのモーレツさとの間に。ターボエンジンの、いわゆるNA領域。過給に頼ることができない領域。セブン160だと、そこが実になんてことなし。街なかだったら(あるいはもちろんイナカでも)、2000rpmちょいあたりでぽんぽんギアを上げていって何ら問題なし。ヨユー。
カプチーノよりも250kgとか軽いことが効いている……と考えるのは、この場合妥当でしょう。ジムニー比だったらざっくり半分(笑)。常用域のドライバビリティーが良好であることにくわえて、エンジンの存在感が排気量相応にプチであることもノホホンなラクさに関しては効いている。あーこれ、ナイスなお散歩セブン。目を三角にしてトバさなくてもステキなセブン。素晴らしい。
とにかくナマで、ダイレクト
パワートレインだけでなく駆動系ほぼ全体がまるっとスズキ1社提供であることと関係あるのかどうかはアレだけど、ドライブトレインのスムーズさも印象に残った。運転中、どうかするとプロペラシャフトあたりのどこかでガコッとバックラッシュが、なんてことが今回全然なかった。エンジンブレーキを使ってスピードをグーッとゼロ近くへ落としながらの途中にそういうのが出ると慌ててクラッチを切ったりするところだけれど、今回はやらなくてよかった。ラク。
アクセルペダルから足を離すと即燃料噴射をカット、が最近の(特にCVTモノの)クルマではアタリマエ。それはいいとして、トルコンのロックアップを解除するのと同時にまた吹きはじめるとそこで減速Gがステップ状に変動する。抜ける。これまたアタリマエというか、セブンではカンケーなし。真空倍力装置等がついてない、ナマのブレーキの気持ちよさを邪魔者なしに味わえる。ブレーキがナマならハンドルもナマ。ああ、ナマってステキ。略してナマステ(笑)。公道をフツーに走ってバッチリ気持ちいいセブンさん、こんにちは。
クルマ好きなら毎日……じゃなかった気になるギアシフト関係。ジムニー用トランスミッションについてるのを短く切っただけというレバーの操作感は、簡単にいうと少しゴギッと系。運転していてもしそれに困ったら、正しい操作を心がけるといい。正しい操作。順番としては、まずは手から。次につなぐギアのポジションへ向けてレバーに少し力をかけておいて、クラッチペダルを踏む。と、駆動が切れたところで自動的にレバーが動きはじめる。動きはじめたら、クラッチペダルの操作はもう、戻し方向。
そんな感じでやると、スッとできます。トランスミッションその他のメカに無用なストレスをかけることもなく、スムーズに、カルく、素早く。ゴギッとに対抗して左手もリキむと、場合によってはそのリキみが反対側にも影響するので要注意。つまり、右腕にも思わずグッと力が入ってクルマの進路がちょっとフラついたりするので。経験者談(笑)。旋回中心がドライバーのお尻よりも前にあるので、クルマの鼻先が左へいくと、自分は右へ。
動力性能に不足なし、問題は……
踏むと、アタリマエだけどちゃんと速い。車重やエンジン性能相応に。なにしろトンあたり160ps。トルクでいったらエーと……214Nm(22.2kgm)。スペックシートによると、最高速度は160km/h。0-100km/hの加速タイムは6.9秒。なお参考までに、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の1.2リッターTSIは車重1.24トンで105psと175Nm(17.8kgm)。
けどこれ、セブン160、やはりというか、暴力的な速さではない。暴力的なのは風の力。これはセブンのお約束で、ウインドシールドつきでドア(的なもの)なしだと、快適に乗っていられるのはせいぜい80km/hぐらいまで。もちろん車両や乗員の装備状態にもよるし、「いや俺はこの状態で普段のカッコで乗って、100km/hでも全然……」という人もいるだろうけど、いずれにせよ、このへんに関してセブンはフツーではない。例えば隣の車線をトラックがグオッと通り過ぎると、セブンの乗員は風でブワッとあおられる。風圧がモロに、ダイレクトに自分にくる。その場合は横から(笑)。
「ウインドスクリーン・ソフトトップ&ドア:¥237,000」と価格表にあるとおり、素の状態のセブンに風防ガラスはついてこない。標準装備は「エアロスクリーン」(いわば乗員への走行風の直撃を多少やわらげるためのスポイラー的物件)。それつきの状態でバイザーありのヘルメットをかぶって運転するのが、サーキットを走るならもっとも快適であると思われる。ハイウェイ速度で吹く風のただなかにあのサイズのガラスの板をバッとかざすと、どんな抵抗や流れの乱れが発生するか。想像しただけでもなんとなくはわかるでしょう。
5速80km/hで、エンジン回転数は3000rpmあたり。そこから踏むと、ほぼ遅れなしにグッと過給がかかる。つまり、ターボ的においしいゾーンにすでに入っている。80km/hと3000rpmを倍にすると、160km/hと6000rpm。最高出力発生回転数は、スペックシートによると5500rpm。
いままでなかったことが不思議
アシは、簡単にいうと、やわらかい。少なくとも乗り心地はいい。エラくいい。タイヤにかかった力によって動く部分=サスペンションと、しない部分=シャシーの区別がこれほどハッキリしているセブンには初めて乗ったかもしれない。快適さを限定というか減点しているのは主に風。あと紫外線をあびる量はオープンカー一般のレベルと比較してもおそらく多めで、陽気のいい昼間に2時間も運転したら、その晩はグッスリ眠れる。
動力によるものもさることながら、横方向のGの刺激もまた、この160はおとなしい。少なくともケータハム・セブンとしては。あえて強調すると、そこがイイ!! 食べ物でいったら激辛ぶりにもん絶するような――あるいはそれに対してヘーキでいられる自分を褒めるような――楽しみかたがいまのセブン界ではフツーなのかもしれないけれど、そういうのはレーシングカートでもできる。新車のセブンを買えるぐらいの財力があるなら、中古のFJマシンや中古のF3マシンを買ってサーキットで走らせるのもいいでしょう。
公道でノホホンと楽しい。運転しやすく快適。クルマの性能的においしいゾーンを味わうためにむちゃな速度やGを出す必要がない。セブン160の美点は、短く書くとそういうところにある。いわば公道用セブン。ルーツにあたる「ロータス・セブン」はモータースポーツ用の機材だったろうけれど、その乗りアジやドライビングプレジャーをいまのテクノロジーを使って再現したら結果はこれに近いものになるのではないか。“軽terham”。どうしてこういうのがいままでなかったのか。試乗したあとではむしろ不思議に思えてくる。
(文=森 慶太/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
ケータハム・セブン160
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3100×1470×1090mm
ホイールベース:2225mm
車重:490kg
駆動方式:FR
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:80ps(59kW)/5500rpm
最大トルク:10.9kgm(107Nm)/3400rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75T/(後)155/65R14 75T(エイヴォンZT5)
燃費:--
価格:394万2000円/テスト車=455万7300円
オプション装備:ウインドスクリーン+ソフトトップ&ドア(23万7000円)/レザーシート(8万5100円)/ヒーター(5万5600円)/ソリッドペイント<ヘリテージブルー>(23万7600円)
※価格はいずれも8%の消費税を含む。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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森 慶太
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