プジョー3008アリュールLEDパッケージ(FF/6AT)
ブルーライオンは僕らの味方 2017.08.29 試乗記 プジョーのミドルクラスSUV「3008」のなかでも、ベーシックな仕様の「アリュールLEDパッケージ」。アダプティブクルーズコントロールもドライブモードセレクターも付かない同グレードだが、その走りには上級グレードにはない確かな魅力があった。日本で乗るのに絶妙なサイズ
「どうして最初にアリュールに、乗せてくれなかったんだろ~なぁ!」
故・阿藤 快さんをしのんで、ちょっとみもだえしながら情感を込めて叫んでみた。
これは、プジョーのミドルクラスSUVである3008のアリュールLEDパッケージに乗って、素直に飛び出した心の叫びである。筆者はこのアリュールに乗るのを、3008に初めて試乗したときからずっと待っていた。しかし、プジョー・シトロエン・ジャポンが取材用のクルマをもっていなかったのである。
ちなみに、同社広報部のY氏も筆者とまったく同じ意見をもっており、このたびめでたく広報車の導入にこぎ着けてwebCG編集部に連絡をくれた。しかし社内では、それこそ「どーしてそんな、何も付いてないグレードを取材したがるんだろうなぁ!」と、まったく理解が得られなかったらしい。ノンノン、これこそがフレンチの神髄なのになぁ。
ということで本稿では、その理由をねっちりきっちり、インポーターの皆さんに……じゃないや、読者の皆さんにお伝えしようと思う。
ご存じの通り3008は、プジョーの新開発プラットフォーム「EMP2」を下敷きに作られたCセグメントクラスのSUVだ。
その魅力はなんといっても、絶妙なサイズとイケてるデザイン。全長×全幅×全高=4450×1840×1630mmという大きさは、一般的な立体駐車場こそNGだけれど、例えば「トヨタ・ハリアー」(4725×1835×1590mm、比較車は2リッターターボ)より少し小さいくらいで、それでいて荷物がタップリ積み込める、日本の環境にはぴったりな一台となっている。ちなみにそのトランク容量は、通常520リッター、リアシートをパタンと倒せば最大で1482リッターだ。
パワープラントの見事な働きぶり
そのうえで、2代目となった3008は近年のプジョーでは一番まとまりのよいルックスに仕上がっていると筆者は思う。SUVのボリューム感を巧みに使った彫りの深いキャラクターラインや、適度に迫力のあるフロントマスクによって、上手に庶民派からプレミアム路線への脱却を果たしており、どこへ乗っていっても恥ずかしくないどころか「ちょっといいでしょ?」と自慢したくなる。
そして、クルマ選びにおいて大切なこれら2点を踏まえつつ、3008は価格がとってもお手頃なのである。ガソリンエンジンのハイエンドモデルである「GTライン」でさえ396万円。そして今回紹介するアリュールLEDパッケージは369万円(もちろん税込み!)と、われわれにも本気で狙える価格設定となっているのだ。
さらに言うと、筆者にとってこのアリュールは“廉価版”の位置付けにはない。むしろ「これこそが3008の真打ちです!」と、みなさんにお薦めしたいモデルなのである。
搭載されるエンジンは、それこそ上級グレードのGTラインと同じ1.6リッターの直列4気筒直噴ターボ。そのパワー&トルクも165ps/240Nmと、まったく同じである。
そしてこのエンジンが、1470kgと現代のSUVとしては軽く仕上げられたボディーに対して、実に隙(すき)なくマッチする。街中ではアイドリング+αの1400rpmという回転で生み出される最大トルクが初速を打ち出し、2WDのミニマムな駆動抵抗が、タイヤをスムーズに転がしてくれる。
また、きっちりと回しても音量が適度でバイブレーションも少ないため、高速道路の追い越し加速などで頑張る必要があるときも、気持ちよくその加速感を楽しむことができる。速さが際立つことはないが、決して遅さを感じさせない見事な働きっぷりをするエンジンである。
これには6段ATとのギア比の妙も効いているのだと思う。過給圧の爽やかさと少しまったりとした息の長い加速感が、3008のキャラクターと絶妙に合っている。またギア比がクロスしていない分だけ、エンジンブレーキの利き具合も確かだ。
そんな動力性能に対して、アリュールの足まわりはドンピシャなのだ。
オススメする理由はタイヤにあり
3008は全車共通で18インチタイヤが装着されるのだが、GTラインおよびディーゼルモデルの「GT BlueHDi」は、マッド&スノータイヤが標準となる。そしてこの選択が、せっかくのプジョーライドを若干スポイルしている。
具体的に言うとGT系は、荒れた路面での乗り心地があまりよくない。ざらついた低級路では常にハンドルへ微振動が小刻みに伝わってくるし、凹凸路面で強い入力が入った場合などは、ボディーがふるえる場合がある。
これはGT系の少しだけ固い足まわりに対して、マッド&スノータイヤのちょっとごつく設定されたブロックが共振するからだと思う。特に、われわれに貸し出された「デビューエディション」は、その重心高を上げ、ボディー剛性にも若干影響を及ぼすだろうパノラミックサンルーフが装着されていたから、こうした傾向が強かったのかもしれない。
しかし、フツーの“夏タイヤ”を履くアリュールには、そうした難しいところが一切ない。
荒れた路面でも、いや荒れた路面でこそ、プジョーらしいダンピング性能をもって、その入力を上手に吸収してくれるのである。「ミシュラン・プライマシー3」の高いトレッド剛性がもたらす反発を、ダンパーが抑えきれない部分はご愛嬌(あいきょう)だけれど、それも踏まえてプジョー味だ。
“プジョーライド”の体現者
そしてこれを、操作感が心地よい電動パワステで曲げていくと、ピターッと吸い付く独特のコーナリングフィールが味わえる。車高の高いSUVボディーを穏やかにロールさせるダンパースピードの適切さ。サスペンションが縮んで“じゅわっ”と深まる接地感。この身のこなしが結果的に3008の操作性を高め、“穏やかなのにスポーティー”な、プジョーライドが完成するのである。
つまりは3008のボディーサイズに対して、新型とはいえ「EMP2」プラットフォームの剛性が、ほ~んの少しだけ足りないではないか? と筆者は思う。だからもう少しだけ車体に補強を施すか、アダプティブダンパーでもおごればGT系でも上質感を出せるとは思うのだが、そうすれば車両価格は当然跳ね上がってしまうだろう。
また、言ってしまえばGT系だって、サンルーフを選ばずサマータイヤを履くだけでその多くを解決できるはず。しかしそれではせっかく2WDでも素晴らしい悪路走破性を見せる「アドバンスド・グリップ・コントロール」の意味合いがなくなってしまう。
だったら……アリュールでよいのである!
アクティブクルーズコントロール(ACC)の設定がGT系にしかないことは残念だけれど、369万円という価格で、これだけ生活密着型で、走りとカッコもイケてるヨーロピアンSUVは、現状3008だけだと思う。国産SUVにも匹敵するコストパフォーマンス。やっぱりプジョーは、ボクらの味方なのである。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
プジョー3008アリュールLEDパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4450×1840×1630mm
ホイールベース:2675mm
車重:1470kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:165ps(121kW)/6000rpm
最大トルク:240Nm(24.5kgm)/1400-3500rpm
タイヤ:(前)225/55R18 98V/(後)225/55R18 98V(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:14.5km/リッター(JC08モード)
価格:369万円/テスト車=395万8380円
オプション装備:メタリックペイント<メタリック・コッパー&ブラックダイヤモンドルーフ>(5万9400円)/NEW3008タッチスクリーン専用カーナビ(19万8720円)/ETC(1万0260円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1008km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:235.8km
使用燃料:26.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.0 km/リッター(満タン法)/11.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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