第186回:カーデザインの巨匠に聞く(前編) ――美とはいったい何なのか?

2013.05.29 エッセイ

7代目となる新型「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の発表会に合わせて、同社のデザインを統括するワルター・デ・シルヴァ氏と、世界的なカーデザイナーであるジョルジェット・ジウジアーロ氏が来日。発表会場で、日本人デザイナーの和田 智氏を聞き手に、トークショーが開催された。カーデザインに関する、熱いトークの内容を紹介する。

2013年6月25日に発売される、7代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。それに先がけ、同年5月20日には、都内で盛大な発表会が開かれた。
2013年6月25日に発売される、7代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。それに先がけ、同年5月20日には、都内で盛大な発表会が開かれた。
新型「ゴルフ」の発表会では、同モデルのヒストリーを感じさせる様々な展示が見られた。写真は歴代モデルのデザインスケッチ。
新型「ゴルフ」の発表会では、同モデルのヒストリーを感じさせる様々な展示が見られた。写真は歴代モデルのデザインスケッチ。
フォルクスワーゲン グループのデザイン責任者を務める、ワルター・デ・シルヴァ氏。過去には、フィアットやアルファ・ロメオでも腕を振るった。
フォルクスワーゲン グループのデザイン責任者を務める、ワルター・デ・シルヴァ氏。過去には、フィアットやアルファ・ロメオでも腕を振るった。
カーデザイン界の巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロ氏。初代「フォルクスワーゲン・ゴルフ」や「フィアット・パンダ」など、傑作と呼ばれる多くのクルマを手がけてきた。
カーデザイン界の巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロ氏。初代「フォルクスワーゲン・ゴルフ」や「フィアット・パンダ」など、傑作と呼ばれる多くのクルマを手がけてきた。

受け継ぐべきカタチがある

和田 智(以下、和田):私の元上司であるワルターがどれほど才能のあるデザイナーであるかはよく知っていますが、そのワルターは、今回で7代目になる「ゴルフ」を、ゴルフの伝統を謙虚に受け継ぎながらデザインしました。その真意をお話しください。

ワルター・デ・シルヴァ(以下、WdS):ゴルフで私たちが引き継いだのは、伝統という非常に重要なものであって、単に線を引くという作業ではありません。それはもう“文化”なのです。世界中を見渡しても、40年以上も同じデザイン的アイデンティティーを引き継いでいるクルマは、「ポルシェ911」とゴルフを除いて存在しません。したがって、安全性やパフォーマンス、ドライバビリティーといった技術的な発展はもちろんですが、それとともに、私たちはフォルクスワーゲン(以下、VW)の歴史も常に尊重しながらゴルフの開発に携わってきました。

和田:私はVWポロが大好きで、いろいろなところで「世界で最も美しい、普通なクルマ」と紹介してきました。ただ、日本メーカーのデザイン部門では、上司に「キミのデザインは普通だね」と言われるのは一番恐ろしいことなんです。それが怖いあまりに、なにか違ったデザインをしなければという機運が高まることがよくあります。この感覚はヨーロッパではあまり見られないような気がしますが、ジウジアーロさん、デザインの本質とは、いったいどのようなものなのでしょうか?

ジョルジェット・ジウジアーロ(以下、GG):新しいクルマをデザインすると、その特徴は代々受け継がれていくことになります。それは、私の子供が私に似ているのと同じことだと思います。人の顔には、目が二つあって、鼻が一つで、口も一つですが、それでも顔は人それぞれ異なっています。また、例えば映画に出演する女優さんには、最初の作品ではその美しさにあまり気付かれなかったのに、時間がたつにつれて、その美しさが次第に意識されてくることがあります。自動車のデザインも、音楽のように時間とともに熟成されて、だんだん美しくなっていくことがあります。その美しさに私たちが段々となれていき、愛情を覚えるようになる。それは家族が代々続いていくことと似た側面があると思います。
私はデザイナーなので、アバンギャルドなデザイン、ものすごくインパクトのあるデザインを作り出したいという気持ちも持っていますが、果たして、そういったデザインはどのくらい長い時間、通用するものなのでしょうか? 私は、多くの人から愛されているものがあるなら、それをずっと継承していくことも大切な仕事だと考えています。
今日は若いデザイナーの方々も会場にいらしているそうなので申し上げますが、皆さん、どうか自分の心の中を見てください。非常に変わったものを作るばかりが重要なわけではありません。前に進んでいくこと、しかもシンプルに進んでいくことが私は重要だと思います。

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