第336回:39歳のイタリア新首相。彼が乗るクルマは?
2014.02.28 マッキナ あらモーダ!イタリア共和国史上最年少!
2014年1月、ボクは有名な紳士ファッション見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」開会式のため、フィレンツェ市庁舎に足を向けた。目の前で市長として並んでいた人物がわずか1カ月後、いきなり首相になってしまった。
イタリアでは2014年2月22日、中道左派・民主党の党首マッテオ・レンツィ氏が首相に就任した。レンツィ氏は1975年フィレンツェ生まれの39歳。イタリア共和国発足以来最も若い首相であると同時に、EU・欧州連合でも最年少の首相である。閣僚16人中半数の8人が女性という人事でも話題を呼んだ。
彼は父親が町議会議員だったこともあり、早くも高校生のときに政党の選挙作戦に参画している。大学卒業後は父親の会社で働く傍ら、現在党首を務める民主党の前身で役職をこなした。
その後29歳でフィレンツェ県知事に当選、続いて33歳でフィレンツェ市の市長当選と、早くから頭角を現した。
さらに昨2013年12月には、所属政党の書記長に67.5%という高得票率で選ばれ、フィレンツェ市長と「二足のわらじ」をこなしていた。
イタリアでは、レンツィ氏の私生活も数々伝えられている。それによると、19歳のとき、有名なテレビのクイズ番組に出場、円にして約300万円の賞金を獲得している。
24歳のとき結婚した夫人は高校で国語を教える非常勤講師で、夫が首相としてローマに行っても、子ども3人を育てるため地元フィレンツェに残留するつもりだ。
市長のときの給与は月額4300ユーロ(約60万2000円)で、夫人の月収5500ユーロよりも少なかった。住宅ローンの借入額は総額176万ユーロ(約2億4600万円)らしい。
足グルマは「スマート」
ところでレンツィ氏、共和国大統領から任命を受託する日に、自ら白の「アルファ・ロメオ・ジュリエッタ」を運転して官邸入りした。
いっぽう首相就任直後には、「アルファ166」がフィレンツェ郊外の自宅に迎えに来て、その後席に収まっている姿がニュースで確認できた。
ボクはそれを見て「アルファ166とは、ずいぶん古い絶版車を使うものだ」と思った。だがこれは臨時であって、今後公務にはレッタ前首相時代から使い始めた現行「ランチア・テーマ」(「クライスラー300」の姉妹車。カナダ製)を公用車にすると思われる。
レンツィ氏は、フィレンツェ市長時代、交通問題にも取り組んだ。
就任4年目の2011年、ドゥオモ(大聖堂)を含む歴史的旧市街で、永久歩行者天国化を施行してイタリア全国の話題となった。同時に、フィレンツェ市街に電気自動車(EV)用充電ポールを設置しEVのみが旧市街に進入できるという政策に踏み切った。充電は現在のところ無料である。
同時に、レンツィ氏がグレーの初代「スマート」を自ら運転する図は、たびたびイタリアで報道されていた。その後2012年10月にメルセデス・ベンツ・イタリアによって「スマート・エレクトリックドライブ」がフィレンツェ市に納められた。先日首相になったのちフィレンツェの家に帰った際も、同車に乗る姿が伝えられている。
分厚い防弾ガラスをもつ「アウディA8」の特注仕様車をショーファー付きで足としていたベルルスコーニ元首相時代からすると、なんたる変化だ。
都市部を中心にクルマ離れ・クルマ所有への意欲低下が進む今日のイタリアの価値観を、この若い首相は代弁しているといえまいか。
レンツィ氏が、これからもプライベートでそうしたクルマセンスを保ち続け、国政レベルでどのようなクルマ政策を講じるのか、とくと拝見したい。
充電用ポールに犬をつなぐな!
同時に、レンツィが去ったあとのフィレンツェにも注目すべきだろう。
とかくイタリアの都市では、時の経過とともに過去の政策があっさりと忘れられてしまうことが多いからだ。
かつてトリノで、公用車として大量導入された「フィアット・パンダ」の電気仕様が車庫に休眠中、というのが問題となった。
ついでに言うと、わが街シエナでも10年ちょっと前、ときの市長が景観にふさわしくないアンテナを取り払ってケーブルテレビを普及させる策を展開したが、市長が変わり、いつの間にか尻すぼみになってしまった。
カーシェアリング+電気自動車の普及は、まず変わらぬ政策と、メンテナンス体制という二大要素が必要だ。
すでにスタートして2年になるパリの「オトリブ」は、安定したドラノエ市政のもと、民間企業ボロレグループとのタッグで存続している。それでも、いざ利用すると、故障しているボルヌ(借り出し手続きをする端末)が少なくない。なかなか大変である。
良い治安も普及の鍵となる。イタリア各都市でもいよいよカーシェアリングが立ち上がり始めたが、パリ以上に公共物の破壊が深刻なこちらでは、設備をいたずらから守るのは容易なことではなかろう。
カーシェアリングを成功させるためにも、市政からいきなり国政に移ってしまったレンツィ氏には治安の向上に尽力してもらいたい。
使えなくなったEVの充電用ポールが、アパート探しや職探しビラの掲示板がわりになったり、犬のつなぎ場所になってしまうのは、あまりに悲しいではないか。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、ENI)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第953回:「黄金のGT-R」と宅配便ドライバーになりかけた話 2026.3.19 イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオが1年ぶりに日本を訪問。久々の東京に感じた世相の変化とは? 廃止されたKK線に、街を駆けるクルマの様相、百貨店のイベント。さまざまな景色を通じて、「中からは気づけないこの国の変化」をつづる。
-
第952回:わが心の「マシンX」? 本物の警察車両を買ってしまったおじさん 2026.3.12 情熱のあまり、元パトロールカーの「アルファ・ロメオ155」を購入! イタリア・アレーゼで開催された「アルファ・ロメオ155周年記念祭」の会場にて、警察車両とアルファをこよなく愛するエンスージアストに、大矢アキオが遭遇した。
-
第951回:日本が誇る名車を再解釈 「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」の開発担当者に聞く 2026.3.5 2026年の「東京オートサロン」で来場者の目をくぎ付けにした「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」。イタルデザインの手になる「ホンダNSX」の“再解釈”モデルは、いかにして誕生したのか? イタリア在住の大矢アキオが、開発関係者の熱い思いを聞いた。
-
第950回:小林彰太郎氏の霊言アゲイン あの世から業界を憂う 2026.2.25 かつて『SUPER CG』の編集者だった大矢アキオが、『CAR GRAPHIC』初代編集長である小林彰太郎との交霊に挑戦! 日本の自動車ジャーナリズムの草分けでもある天国の上司に、昨今の日本の、世界の自動車業界事情を報告する。
-
第949回:「戦場のスパゲッティ」は実在するのか? イタリア陸軍ショップで聞いた 2026.2.19 世界屈指の美食の国、イタリア。かの国の陸軍は、戦場でもスパゲッティを食べるのか? 30℃でも溶けにくいチョコレートに、イタリア伝統のコース構成にのっとったレーション(戦闘糧食)などなど、エゼルチト(イタリア陸軍)のミリメシ事情に大矢アキオが迫る。
-
NEW
ディフェンダー・トロフィーエディション キュレーテッドフォージャパン(4WD/8AT)
2026.3.26JAIA輸入車試乗会2026カッコと走りがすばらしい、だけじゃない。黄色いボディーが目を引く「ディフェンダー」の限定車「トロフィーエディション」を前にしたリポーターは、目の前の現実のはるか先にある、伝説のアドベンチャーレースに思いをはせた。 -
NEW
おめでとう勝田貴元選手! WRCでの日本人34年ぶりの優勝に至る、14年の足跡
2026.3.26デイリーコラム世界ラリー選手権(WRC)サファリ・ラリーで、勝田貴元選手が優勝! WRCのトップカテゴリーで日本人が勝利を挙げたのは、実に34年ぶりのことだ。記念すべき快挙に至る勝田選手の足跡を、世界を渡り歩くラリーカメラマンが写真とともに振り返る。 -
NEW
第954回:イタリア式「走ったぶんだけ保険」奮闘記
2026.3.26マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、マイカーの維持費を節約するべく走行距離連動型の自動車保険に挑戦! そこに待ち受けていた予想外のトラブルの数々とは? 保険にみるイタリアのお国柄と、2カ国生活者ならではの“あるある”な騒動をリポートする。 -
フェラーリ・アマルフィ スパイダー
2026.3.25画像・写真フェラーリが2+2の優雅なオープントップモデル「アマルフィ スパイダー」を日本初公開。フェラーリならではの純粋な走りの高揚感と、4座オープンのパッケージがかなえる多様な体験価値を提供する一台を、写真で紹介する。 -
キャデラック・リリックV
2026.3.25画像・写真キャデラック初の電気自動車「キャデラック・リリック」をベースに開発された高性能バージョン「キャデラック・リリックV」が、2026年3月25日に日本上陸。その姿を写真で紹介する。 -
今やジャパニーズBEVもよりどりみどり 国産6ブランドのBEV&PHEVにまとめて乗った
2026.3.25デイリーコラム「ニッポンのBEVはまだまだ」のイメージをぬぐうべく、国産6ブランドがタッグを組んで計8モデル(一部はPHEV)を集めたメディア向け試乗会を実施。各社が目指す未来を学ぶとともに、最新モデルの仕上がりをチェックした。