ポルシェ・マカンGTS(4WD/7AT)
SUV界きってのピュアスポーツカー 2015.12.23 試乗記 「ポルシェ・マカン」のラインナップに新たに加わった、スポーティーグレード「マカンGTS」に試乗。「マカンS」をベースに、よりパワフルなエンジンと鍛え上げられた足まわりが与えられたGTSの走りは、ポルシェが主張するとおり“SUVのピュアスポーツカー”と呼べるものだった。SUVが売れるとスポーツカーが進化する
つい先だってポルシェから、「2015年の世界販売台数が、史上初めて20万台を達成」というニュースが発表された。より正確に記せば、年末までまだ1カ月を残した1月から11月の段階で、すでに21万台近くを販売。それは、2014年の年間販売台数の19万台弱を大きく超え、前年同期間比では約24%増しに相当するという。
まさに“わが世の春”と言うべき状況だが、実はそうした記録に最も貢献しているのは「カイエン」だという。
前述の11カ月間に売れたカイエンの台数は6万8000台強で、すなわち全ポルシェ車中の3割以上がこのモデル。ここに、弟分であるマカンのデータも加えれば、軽く過半の台数がいわゆるSUVで占められていることは想像に難くない。
“生粋のスポーツカーメーカー”として世界に知られるポルシェ社。が、今やその実態はこういうことになっているのだ。
もっとも、だからといってこのブランドのスポーツカーこそを愛す、という人も、落胆の必要はない。
なぜならば、「数ある中から自社のSUVが支持されるのは、それが優れたスポーツカーメーカーの作品だからこそ」というのが、ポルシェ自らの考え方。それゆえ、手にした利益の大きな割合を割いてまずはスポーツカーの進化を図り、そこで得られた技術やイメージを、その他のモデルにフィードバックさせる、というサイクルが、彼らの戦略にほかならないからだ。
すなわち、言い換えれば「SUVが売れるほどにスポーツカーが進化を遂げる」と、そうも表現ができそう。いささか極端な見方かもしれないが、しかし、あながち“丸はずれ”でもないはずだ。
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ちょっと特別で、よりスポーティー
かくして、好調なセールスを背景に、必然的に開発にも気合が入るポルシェSUV群。その中にあって、最新のモデルがここに紹介するマカンのGTSだ。
同じ3文字記号が与えられたモデルたちが、どれもモータースポーツとのつながりを強くアピールするのと同様、既存のSグレードと「ターボ」グレードの中間を狙ってマカンのバリエーションに加えられたこのモデルも、Sグレード用をベースにより強化されたエンジンや大容量のブレーキ、専用チューニングが施されたシャシーなどを標準採用することで、まずは走りのポテンシャルをより磨き上げたことが大きな売り物。
ちなみに、他モデルのGTSたちがそうであるのと同様、マカンGTSにも専用のコスメティックが施されている。例えば、エクステリア各部に採用のブラックのアクセントや、さまざまなマットブラック・エレメントをメインとした“スポーツデザインパッケージ”がその一例。前後異サイズのタイヤと組み合わされるつや消しブラックの20インチホイールや、やはりブラックのツインテールパイプもGTSならではの装備品だ。
インテリアでは、ヘッドレスト部分に「GTS」のロゴ加工が施された、アルカンターラを多用の専用フロント・スポーツシートがまず目を引く存在。さらには、このグレード専用のオプションとして、コントラストカラーを用いた装飾ステッチやシートベルト/フロアマットなどからなる“インテリアパッケージ”を注文することも可能になっている。
かくして、装備面でも見た目でも「ちょっと特別で、よりスポーティー」と、そんなイメージをアピールするのが各GTSに共通する戦略なのだ。
シリーズ随一の快適さ
機は熟したということか、ついにマカンにも設定されたGTSグレードで走り始める。
と、まず印象に残るのは「吸排気効率の向上や過給圧の上乗せで、20ps増しの最高出力を獲得」とうたわれるエンジンが生み出す、より強力な加速力……ではなく、もはや“驚くべき”という形容詞を躊躇(ちゅうちょ)なく使いたくなる際立つ快適性が実現された、よりしなやかでさらに上質さを増したフットワークのテイストの方だった。
Sグレード比で15mmのローダウンが図られ、電子制御式可変減衰力ダンパー“PASM”のチューニングも「一層スポーティーな仕上がり」と報告されるのが、GTSに標準仕様のサスペンション。が、実は今回テストを行った車両はオプション設定のエアサスペンション付き。
そんなオプションアイテムの効用も大きかったに違いないが、それにしても、たとえ“PASM”でスポーツのモードを選択してすら、「十分に快適」と表現できるしなやかで路面凹凸への当たりの優しい乗り味は、もはやあきれるほどの仕上がりとしかいえないものなのだ。
実はこの個体は、やはり高価なオプションアイテムであるセラミックコンポジット・ブレーキ“PCCB”も選択。それゆえ、ばね下重量の低減にも威力を発揮するこのアイテムが、快適性面で有利に働いていた可能性も考えられはする。
一方で、逆に快適性にはマイナスの影響を及ぼしそうな、標準サイズ比1インチ増しの21インチ(!)のシューズもオプション装着していた点も見逃せない。
いずれにしても、このGTSがこれまで自身が経験をしたマカンの中で、「最も優れた快適性の持ち主だった」のは間違いない事柄。
GTSはシリーズ随一の快適さを備えたマカン――筆者のメモリーにはこのようにインプットされた。
SUVであることを忘れてしまいそう
そんな圧倒的に上質な乗り味を提供してくれたこのモデルが、セールストークである「SUVのピュアスポーツカー」という表現を納得せざるを得ないダイナミックな走りのポテンシャルの持ち主であるのも、また当然のごとしだった。
さすがに、連続するコーナーをタイヤグリップ力の限界近くまで追い込んでいくと、「ちょっと頭が重くてアンダーステア気味かな……」という雰囲気が感じられた場面もある。
が、端的に言って、それはもはや“レーシングスピード”の領域でのハナシ。通常の公道走行レベルであれば、間違いなく徹頭徹尾のオン・ザ・レール感が得られるのみだ。
リアアクスルにより大きな駆動力バイアスが掛けられた4WDシステムを採用する上に、オプションアイテムである電子制御式のトルクベクタリング・システム“PTVプラス”を加えた今回テストの個体では、スポーツプラス・モードを選択の上でタイトターンからの立ち上がりでタイミングを計りつつフルアクセルを与えると、パワーオーバーステアの挙動さえ得ることができた。
なるほどこれは、まさに“スポーツカーメーカーのSUV”そのものという走りのテイスト。無論、“PCCB”が発する制動力にも一点の不安もなく、同日程でテストドライブのプログラムが組まれた新たな「911カレラ」シリーズに交じって走っていると、自身がSUVを操っていることなど、忘却のかなたへと消え去りそうだった。
ポルシェ自らが、マカンを「SUVのピュアスポーツカー」と表現するのは、決して比喩などにとどまらない――実際に自らステアリングを握ってみれば、誰だってそう納得をせざるを得ないはずだ。
「ターボ」とはここが違う
ところで、マカンGTSがここまでスポーティーなキャラクターの持ち主となると、「それでは、マカン ターボの価値は一体どこにあるのか?」と、そんな疑問を抱く人も現れてくるかもしれない。
なるほどカイエンの場合、GTSの心臓部は3.6リッターの6気筒で、ターボ系は4.8リッターの8気筒と、スペック上も明確な差別化が確立されている。
それに対して、マカンの場合はともに6気筒エンジンを搭載。GTSとターボ系の心臓は、「排気量が600cc違うにすぎない」という見方もできそうだ。
ところが、いかにGTSの心臓がSグレードをベースにポテンシャルのアップを図ったとはいっても、そこではターボの圧倒的な迫力に溢(あふ)れる加速感には追い付かない。すみ分けはしっかりできているのである。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ)
テスト車のデータ
ポルシェ・マカンGTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4692×1926×1609mm
ホイールベース:2807mm
車重:1895kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:360ps(265kW)/6000rpm
最大トルク:51.0kgm(500Nm)/1650-4000rpm
タイヤ:(前)265/40R21 101Y/(後)295/35R21 103Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5P)
燃費:9.2~8.8リッター/100km(約10.9~11.4km/リッター、NEDC複合モード)
価格:939万円*1/テスト車=--円
オプション装備*2:LED headlights incl. PDLS Plus/ParkAssist front and rear incl. reversing camera/Privacy glass/Roof rails in aluminum painted in black(high-gloss)/Side blades in carbon/PDK/Power steering Plus/Air suspension with leveling system and ride height adjustment incl. PASM/PTV Plus/PCCB/Sport chrono package/21 in. 911 Turbo design wheels/HomeLink(garage door opener)/Sports seats GTS(8way)/Seat heating front and rear/Side airbags in rear compartment/Roof lining in Alcantara/Carbon interior package/Outer door-sill guards in carbon incl. load space protection/Navigation module for Porsche/PCM/BOSE Surround Sound System/Porsche Car Connect incl. PVTS Plus/Connect Plus※諸元は欧州仕様のもの。
*1=日本市場での車両本体価格。
*2=装備の名称は試乗した現地での表記(英語)に従いました。
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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