【F1 2017 続報】第15戦マレーシアGP「リスクを取るか、手堅く行くか」
2017.10.01 自動車ニュース![]() |
2017年10月1日、マレーシアのセパン・インターナショナル・サーキットで行われたF1世界選手権第15戦マレーシアGP。リスクを取り過ぎたチームはマシントラブルで勝機を逃し、失うものが何もない挑戦者はリスクを取って勝利を手にした。そして、リスクを計算したドライバーは2位で十分とした。
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レッドブルとアストンマーティンの「選択」と「今後」
英国を代表する高級スポーツカーメーカー、アストンマーティンが、2018年から「アストンマーティン・レッドブル・レーシング」としてレッドブルのタイトルスポンサーとなることが9月25日に発表された。既にレッドブルのマシンにはアストンの象徴「ウイングバッジ」が見られるが、この2社の関係は単なるスポンサーシップにとどまらない。
2016年にパートナーシップを締結して以来、両社は技術的な関与を深めており、ハイパーカーと称する超高性能市販モデル「アストンマーティン・ヴァルキリー」の開発には、レッドブルに4年連続タイトルをもたらしたF1界きっての名デザイナー、エイドリアン・ニューウェイらも参画している。今年末までには、レッドブルの本拠地である英ミルトンキーンズのファクトリー内に「アドバンスド・パフォーマンス・センター」が開設され、ヴァルキリーに続くモデルの開発に両社のスタッフがあたるというから、中長期的な視野に立った協業であることが分かる。
さらにアストンは、F1のパワーユニット(PU)の開発・供給にも強い興味を示している。2021年にPUのレギュレーション変更が行われるということで、アストンのアンディ・パーマーCEOはFIA(国際自動車連盟)の技術会合に出席し、「コスト抑制策が組み込まれるなら」と条件付きで将来的なPUサプライヤーとしての参戦を示唆している。
パーマーCEOはレッドブルとアストンをつなぐキーパーソンだ。2014年まで日産自動車の副社長を務め、高級ブランドのインフィニティなどを担当。そのインフィニティは、2011~2015年にレッドブルF1チームをスポンサードしていることからも、アストンのトップがF1に執着していることがうかがえる。またアストンマーティンにとっても、ライバルのフェラーリやマクラーレンといったプレミアムカーメーカーとともに、世界最高峰レースで覇を競うというシナリオは十分に魅力的なブランディングとなる。
当然レッドブルにももくろみがある。現行PU規定が始まった2014年以来、パワーや信頼性で劣るルノーPUへのフラストレーションを募らせており、2015年には決別を表明するも、ほかのPUが手に入らず、渋々タグ・ホイヤーのバッジをつけたルノーを使い続けているのが実情である。来季から姉妹チームのトロロッソがホンダで戦うことが決まっているが、ホンダが強さを発揮すれば「レッドブル・ホンダ」もあり得るだろうが、そうならなかった場合の選択肢としてのアストンは心強い存在でもあるのだ。
半世紀以上前の1959~60年、ほんの一瞬だけGPに参戦した記録が残っているが輝かしい成果は残せていなかったアストンマーティン。名ブランドの「復活」は、F1全体が歓迎すべきニュースとなるに違いないが、果たして……。
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ベッテル痛恨のQ1落ち、ハミルトン70回目のポール
前戦シンガポールGPでは、ポールシッターのセバスチャン・ベッテルがスタート直後に僚友キミ・ライコネンらと絡みリタイア。勝利が見えていたレースを取りこぼしたフェラーリ勢に対し、予選3列目と苦しんだルイス・ハミルトンが優勝、バルテリ・ボッタスは3位でゴールと、メルセデス勢には奇跡が起きた。これでポイントリーダーのハミルトンはランキング2位ベッテルに28点もの差をつけ、優位な立場で残る6戦に臨むこととなった。
今年で最後となる19回目のマレーシアGPは、長い2本のストレートに中高速コーナーを組み合わせたセパンが舞台ということもあり、メルセデスに分があると思われていた。しかしセッションが始まるとシルバーアローは絶不調。フリー走行3回のいずれにおいてもトップタイムを記録することなく、フェラーリ、レッドブルの後塵(こうじん)を拝して予選を迎えた。絶好のチャンスを手に入れたかに見えたフェラーリだったが、フリー走行3回目で電気系に不具合が生じ、4基目のエンジンを投入したベッテルは完調とならず、Q1でノータイム。なんと最後尾に。またとない好機を生かすことができなかった。
トップ10グリッドを決めるQ3になると、調子を取り戻してきたメルセデスのハミルトンが最速タイムを記録し、マレーシアで4年連続5回目、今季9回目、自身通算70回目のポールポジションを決めた。フェラーリのキミ・ライコネンが肉薄するも0.045秒及ばず予選2位。マックス・フェルスタッペン3位、ダニエル・リカルド4位とレッドブル勢が並び、メルセデスのバルテリ・ボッタスは帳尻を合わすことができず、5位につけた。
ベッテルの脱落もあり6番手と好位置を得たのはフォースインディアのエステバン・オコン。僚友セルジオ・ペレスも9番手に入った。後半戦で速さをものにしはじめたマクラーレン勢は、ストフェル・バンドールンが善戦し自己最高の予選7位、フェルナンド・アロンソも10位と2台そろってトップ10に入り、ルノーのニコ・ヒュルケンベルグは8番グリッドから上位を目指した。
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フェルスタッペン、ハミルトンからトップを奪う
ハミルトンとタイトルを争う最後尾ベッテルのダメージを最小限にするためには、2番グリッドのライコネンが優勝し、ハミルトンになるべくポイントを取らせない作戦しかなかったが、スタート前の試走中、あろうことかライコネンのマシンはパワーロスに見舞われガレージに押し戻され、結局出走することなくリタイアせざるを得なくなった。
シンガポールに続き、ライバルの早々のつまずきで、またしても有利にレースを始めることができたハミルトン。しかしマレーシアでは、宿敵フェラーリ以外にも強敵がいた。
56周レースのスタートで首位を守ったポールシッター。並びかけてきたボッタスを振り切ってフェルスタッペンが2位、ボッタス3位、リカルド4位、そしてバンドールンは5位に上がった。ベッテルは2周目に早くも12位まで駒を進めていた。
このレースで元気だったのはレッドブルの2台だ。失うものは何もない2位フェルスタッペンは、4周目、果敢にハミルトンの間隙(かんげき)を突き1位奪取に成功。ハミルトンは無用なリスクを取ることはしなかった。ファステストラップをたたき出しトップを快走するチームメイトに負けまいと、もう1台のレッドブルを駆るリカルドも奮起。9周目には激しいつばぜり合いの末、ボッタスをオーバーテイクし3位にポジションアップした。これで2位ハミルトンを間に挟み、レッドブル1-3となった。
フェラーリも順調に順位を上げてきていた。大勢がスーパーソフトタイヤを履いてスタートした一方で、ベッテルはロングライフのソフトタイヤを装着。22周目にベッテルは5位まで上昇したのだが、ペースが伸び悩む4位ボッタスは、なかなか先行を許してくれなかった。
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ベッテル、表彰台をかけて猛追
上位陣で最初にピットに入ったのは2位ハミルトンで、27周目にスーパーソフトからソフトに変更。翌周には1位フェルスタッペン、そしてベッテルもタイヤを交換した。ピットストップが一巡したところで、1位フェルスタッペン、2位ハミルトン、3位リカルドは変わらず。ハミルトンのためにベッテルを抑えたボッタスは5位に落ち、4位には速いスーパーソフトタイヤで表彰台を目指すベッテルが上がってきていた。
3位リカルドと4位ベッテルの間にあった10秒以上のギャップは、37周目に9秒台、それが8秒、7秒と着々と削られていった。46周目にいよいよ1秒を切ってきたベッテル、何が何でもポディウムを死守したいリカルド。2台の緊迫した戦いは、49周目にフェラーリが仕掛けたものの抜くことはできず。その後ベッテルはタイヤと、マシンのクーリングに気を使う必要が出たため、ペースを緩めざるを得なかった。
フェルスタッペンは、ハミルトンに12秒もの差をつけチェッカードフラッグを受けた。昨年のスペインGPでの初優勝は、メルセデスの同士打ちに乗じての勝利だったが、今度は自らの力でメルセデスを打ち破っての完勝である。今季リタイア7回と思うように戦えていなかった挑戦者は、レース序盤のしかるべき時にリスクを取ったことでポディウムの頂点を勝ち取った。
一方2位に終わったハミルトンは、フェルスタッペンとコース上で絡むようなリスクをおかさなかった。ベッテルが自分より後方となれば優勝せずとも十分、そうした計算の上で2位を受け入れたようなドライビングだった。
フェラーリは勝てるレースを2戦連続して落とした。ライバルとのタイトル争いの前に、自らの信頼性の欠如というリスクに足を引っ張られては勝負にならない。20位から4位まで追い上げたベッテルも「前からスタートしていれば勝てたレースだった」と悔しさをにじませていた。
今季のメルセデスが万能ではないことが明らかである以上、残り5戦で34点も突き放されたベッテルとフェラーリにもまだチャンスはあるはず。最終戦まで熱のこもった戦いを期待したい。
F1の次なる舞台は、多くのドライバーが称賛する鈴鹿サーキット。日本GP決勝は1週間後の10月8日だ。
(文=bg)