ジャガーXFスポーツブレイク プレステージ(FR/8AT)
SUVブーム歓迎 2018.08.10 試乗記 伸びやかなルーフラインが美しいステーションワゴン「ジャガーXFスポーツブレイク」に試乗。「Fペース」や「Eペース」といった同門のモデルも含めて、SUVが幅を利かせるいま、あえてワゴンを選ぶ理由はどこにある?車高が低いほどエライ!?
撮影現場でジャガーXFスポーツブレイクと対面して、思わず「おっ」と声が出たのである。めっちゃカッコいい。特に斜め後ろから見た時の、シュッとした佇(たたず)まいがいい。と思いながらボディーのサイドに回り込むと、真横から見た伸びやかなルーフラインもステキだった。つまりどこから見てもハンサム、正統派の二枚目だ。
昨今はずんぐりむっくりしたタイプが人気であるけれど、スーパーカーブームの波を、真正面からざぶんとかぶったアラフィーなので、車高は低いほどエラいと刷り込まれている。だからこの平べったい形にグッとくる。最近あまり見かけなくなった、ステーションワゴンというボディースタイルが新鮮だったことも好印象を持った理由だろう。
個人的には超盛り上がりつつも、このクルマがジャガーのニューモデルの中でそれほど注目されていないことはうすうす感じている。みなさん「Fペース」と「Eペース」と「Iペース」にご執心で、XFスポーツブレイクが日本に導入されていることにはあまり関心を示さない。
そこで、影のうすいかわいそうなジャガーXFスポーツブレイクを勝手に応援することに決めた。ここで盛り上げなければ、ステーションワゴンは絶滅してしまう。ウナギを食べられなくなった夏が寂しいように、ステーションワゴンのない世界も悲しいじゃないですか。というわけで、試乗をしながら、SUVではなくジャガーXFスポーツブレイクを積極的に選ぶ理由をいくつか考えたのである。
今回試乗したのは最高出力250psを発生する2リッターのガソリンターボエンジン搭載モデル。エンジンにはもうひとつのバリエーション、180psの2リッターディーゼルターボも存在する。ちなみに日本仕様のXFスポーツブレイクは、高級仕様の「プレステージ」のみの設定で、サルーンには用意されるベーシック仕様の「ピュア」は設定されない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
出自は古風でも装備は最新
このクルマでまずすてきなのは、スポーツブレイクという車名だ。シューティングブレイクの末裔(まつえい)であることを連想させる。
シューティングブレイクとはみなさんご存じのように、狩猟用(シューティング)の荷車(ブレイク)で、猟銃を積むための荷室を備えたクルマ。昔のイギリスのお金持ちは、キツネ狩りを楽しむために、クーペをコーチビルダーのところに持って行って荷室をつけた。獲物を追って山道をびゅんびゅん走らないといけなかったから、当時のステーションワゴンと違ってシューティングブレイクはびゅんびゅん走る荷車だった。
XFスポーツブレイクは4ドアサルーンのXFがベースであるけれど、XFはクーペっぽいフォルムだから大目に見てください。
というわけで、SUVではなくXFスポーツブレイクを選んでよかったと思えることのひとつは、貴族の遊びグルマの末裔に乗っていると感じられることだ。もちろん世の中には、軍用車両の末裔に乗っていることに満足感を得る人もいるでしょうが、「昔のイギリスの貴族はこんなムダなものをワンオフで作らせた」なんていうウンチクを語るおじいさんに私はなりたい。
とはいいつつ、エクステリアもインテリアもデザインは新しいから、ただ昔話をしているだけのおじいさんになりさがってしまう心配はない。インテリアは、メーターパネル内の液晶表示もタッチパネル式のインターフェイスも未来志向。びっくりしたのは試乗車にオプションで装着されていたジェスチャールーフブラインドで、これは手を振る動作だけでガラスルーフのブラインドを操作できる。「オッケー、スポーツブレイク、ブラインドを閉めて」と声に出してブラインドを操作するようになるのも時間の問題だろう、というのは余談であるけれど、このクルマに乗る人はきっと、部下や家族に教わらなくてもスマホを使いこなせる人だとお見受けした。
操作系がデジタルである一方で、シートのステッチなどがクラシックで、しかも両者が融合しているところが面白い。キツネ狩りのために荷役車を作らせた優雅な時代に思いをはせつつ、でもAmazonでポチッと買い物をする現代にも対応しているところ、クラシック・ミーツ・モダンなところがこのクルマのいいところだ。
これは“野生のジャガー”の足だ!
車高が低いXFスポーツブレイクのほうがSUVより走りがいい、だからXFスポーツブレイクを選びたい、と書きたいところだけれど、そうは書けない。なぜなら、例えばジャガーFペースは、背が高いくせに山道でもびゅんびゅん気持ちよく走るからだ。走りで選ぶならSUVよりセダンやワゴン、というのは、この5年かそこいらですっかり過去の常識になってしまった。
とはいえ、XFスポーツブレイクは運転していてしみじみとよくできていると感じるクルマだ。乗れば乗るほど好きになり、100km走ると200km走りたくなる。そう感じる理由は、まずステアリングホイールから感じる手応えがいいからだ。タイヤが路面とどんな風に接しているのかが、まさに手に取るようにわかる。だからクルマと対話していると感じる。
凸凹を乗り越えた時の衝撃は角のとれたまろやかなもの。それでいながらふわんふわんと柔らかいわけではなく、突起を乗り越えることで生じた揺れは、びしっと収まる。あたりの柔らかさと引き締まったフィーリングを両立しているあたり、野生のジャガーの足、という感じがする。
野生のジャガーといえば、コーナリングのフィーリングも生き物っぽい。ステアリングホイールを切った瞬間にパキッと曲がる、というデジタルなコーナリングではなく、タイヤが沈みこむ気配を感じさせる、一瞬のタメの後でコーナリングが始まるのだ。このあたり、人の感性に寄り添うチューニングのうまさは、スポーツカーとスポーツサルーンを作り続けてきたジャガーならではのものだろう。
一方で、ジャガーが自社開発した新設計の2リッター4気筒ガソリンターボは、最新のエンジンらしくよどみなく吹け上がり、スムーズに回るけれど、足まわりほどの感銘は受けなかった。静かだし、回せばパワーは出るし、文句のつけようはないけれど、文句のつけようのないエンジンは世の中にたくさんある。
まあ、F1もハイブリッド化しているこのご時世、エンジンに面白みを求めることが間違いなのかもしれない。ドライバーに気づかれないほどスムーズに変速する8段ATは上出来だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
勝負の結果は……?
今回の試乗で残念だったのは、ずっと空荷で乗ったことで、リアのエアサスのセルフレベリング機能を試すことができなかった。仮に重い物を載せたとすると、エアスプリングに空気を送り込んで車体の水平を保ち、乗り心地とハンドリングをハイレベルに保つはずだ。
ここで、重い荷物を積むなら、SUVよりフロアの低いXFスポーツブレイクと書きたいところだ。けれどもそうすると、絶対的な容量では高さのあるSUVが有利という反論を受ける。
そもそも、SUVの荷室まで持ち上げられないほど重い物なんて積むのか。猟銃や釣り道具は、あたりまえだが手で持てる重さだ。ゴルフはどうか。キャディーバッグはそこそこ重いとはいえ、ゴルファーはスポーツマンだ。これくらい持ち上げるだろう。ということで、荷室の使い勝手に関して、SUVに対するXFスポーツブレイクのアドバンテージはない、というのがフェアな結論だろう。
といった具合に、XFスポーツブレイクの“いいとこ探し”を続けたわけでありますが、デザインで勝ち、名前で勝ち、走りは引き分け、機能は負け。2勝1敗1分ということになる。ただしデザインは好みだから、1勝2敗1分に転ぶ可能性もないとはいえない。
こうして考えると、世の中をSUVが席巻する理由がよーくわかるという、皮肉な結果になってしまった……。
しかしですね、SUVがあふれる路上でXFスポーツブレイクを見ると、短パンTシャツのカジュアルな人の群れの中に、きちんとスーツを着ている人が交じっているようでカッコいい。
つまり、SUVが増えれば増えるほどXFスポーツブレイクに乗る人が引き立つということだ。XFスポーツブレイクはそんなに売れないと予想する。けれどもSUVのブームは、われわれ平べったい派にとっては誠に結構な事態なのである。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ジャガーXFスポーツブレイク プレステージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4965×1880×1495mm
ホイールベース:2960mm
車重:1830kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:250ps(184kW)/5500rpm
最大トルク:365Nm(37.2kgm)/1600-4000rpm
タイヤ:(前)255/35R20 97Y/(後)255/35R20 97Y(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3)
燃費:12.7km/リッター(JC08モード)
価格:756万円/テスト車=1097万2000円
オプション装備:メタリックペイント<ユーロンホワイト>(9万9000円)/ジェスチャールーフブラインド(2万円)/Meridianプレミアムサラウンドサウンドシステム(22万9000円)/カスタマイズ可能なインテリアムードランプ(4万5000円)/アダプティブダイナミクス(17万6000円)/20インチ スタイル5031アロイホイール<5スプリットスポーク、グロスブラックフィニッシュ>(35万5000円)/4ゾーンエアコン(14万8000円)/セキュアトラッカー(9万7000円)/プロテクト(4万6000円)/アダプティブLEDヘッドライトおよびオートマチックハイビーム(27万5000円)/パノラミックルーフ<電動ブラインド付き>(23万8000円)/フロントシートヒーター&クーラーおよびリアシートヒーター(17万5000円)/ソフトドアクローズ(10万7000円)/ブライトフィニッシュステンレススチールペダル(3万2000円)/コンフィギュラブルダイナミクス(3万1000円)/スエードクロスヘッドライニング(27万円)/プレミアムカーペットマット(2万円)/ブラインドスポットアシスト(14万5000円)/マニュアルリアサイドウィンドウブラインド(4万1000円)/プライバシーガラス(7万7000円)/イオン空気清浄テクノロジー(2万1000円)/SPORT BRAKEコンビニエンスパック(18万6000円)/サラウンドカメラシステム付きアドバンスパーキングアシストパック(39万円)/コネクトプロ(5万9000円)/ブラックパック(13万円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:5478km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:288.1km
使用燃料:30.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.6km/リッター(満タン法)/11.0km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。



































