インディアンFTRラリーに見るアメリカン・モーターサイクルの“いま”
新しい時代の旗手 2020.05.15 新時代の旗手 Indian FTR Rallyの魅力と実力<AD> アメリカ最古のバイクブランドにして、ダートトラックレースで圧巻の強さを誇るインディアン。鮮やかな復活を果たした名門のニューモデル「FTRラリー」は、アメリカン・モーターサイクルの新時代を感じさせる一台に仕上がっていた。ダートの王者が仕立てた“クロスオーバー”
2000年代以降、四輪と二輪、両方の世界に符合するトレンドがある。それはオンロードとオフロードを“クロスオーバー”させたスタイルだ。クルマでいえば、クロカン風のデザインに、オンロードでの高い走行性能と優れたユーティリティーを併せ持つ“SUV”。バイクでいえば、オフロード走行に対応できる車体や足まわりを持ちながら、オンロードでもスポーツバイクに引けを取らない走りを見せる“アドベンチャー”、そして“スクランブラー”と呼ばれるモデルである。
四輪も二輪も、かつての花形だったレーシーなスポーツカー、スポーツバイクに取って代わって、いまはオンもオフも行ける、つまり“多様性を持つ”モデルが人気なのだ。あつらえたスーツでビシッと決めるより、ジャージ素材のジャケットをさらりと着こなすほうがイケてる。そんな時代の空気を、クルマやバイクも反映している。
と、そんなことを考えたのは、インディアンのニューモデルであるFTRラリーに乗ったからだ。インディアンといえばアメリカ最古のモーターサイクルブランドだが、今日ではダート(未舗装)のオーバルコースを走るアメリカで人気のモータースポーツ、フラットトラックレースの王者としても知られている。全米シリーズにおいて2017年、2018年、2019年と3年連続チャンピオンに輝いているのだ。そのレーシングマシン「FTR 750」 のイメージをもとにつくられたストリートバイクが最新のFTRシリーズであり、そこに“ラリー”の名を冠するこのモデルは、スポークホイール、ブロックパターンのタイヤ、メーターバイザーなどを付加して、よりオフロードテイストに仕上げられている。
そのスタイルは文句なしにカッコイイ
“フラットトラッカー”に“ラリー”の要素も加えたと聞くと、なんだかキャラが渋滞しているような気もするが、見て、乗ったうえでざっくりと感じたのは、これはインディアン製“スクランブラー”なのだな、ということだ。ちなみにスクランブラーとは、オンとオフのスタイルを「スクランブル(混ぜ合わせる)した」というのが由来である。
車体構成は基本的に「FTR 1200」と共通だから、一見した印象はフラットトラックマシンの色が濃い。鋼管製トラスフレームを採用したスリムな車体、高めのシート、跳ね上がったテールとマフラー。レトロとモダン、スポーティーさが融合した、文句なくカッコいいデザインだ。さらにFTRには「3年連続チャンピオンマシンの血統を受け継ぐ」という背景もあるのだから、これは強い。
高めのシートとはいえ、跨(またが)ってみると、車体のスリムさが効いているのか足つきは意外に悪くない。身長173cmの僕で両足のかかとが地面にギリギリつくかつかないか、というぐらいだ(足が長い人ならつくはず……)。おそらく165cmもあれば不安はないだろう。跨ったり、取り回したりする際の安定感の高さには、重たい燃料タンクをシート下に配していることによる車体の重心の低さも寄与している。シートはたっぷりとした厚みがあり、座り心地はいい。
スポーティーなエンジンとしなやかな乗り心地
軽いとも重いともいえない、程よい手ごたえのクラッチレバーを握り、ギアをローに踏み込んで走りだすと、ひとつめの交差点を曲がったあたりでアタマが“スクランブル”される。「アメリカンバイク」と聞いて想像される古臭いイメージが覆されるのだ。“鉄馬”的な重々しさはまったくない。むしろ軽やかで俊敏。語弊はあるかもしれないが、「まるでイタリアンバイクみたいだな」と感じられた。
まずエンジンがパワフルで軽やかなのだ。1203ccの水冷Vツインは最高出力123HPを発生するハイパワーユニットだが、その数値以上にパワーとトルクの出方がいい。低回転域からレスポンスがよく、アクセル操作に対しての反応もスムーズ。とてもよくしつけられている。なによりの美点だと感じたのは、実は音のよさ。アクセルを開けるたびに「バオ! バオ!」と、まるでキャブレター車のような勇ましい吸気音が聞こえる。スムーズなレスポンスとも相まって、ついアクセルのオン/オフを繰り返したくなってしまう。
パワフルなエンジンに対して、ハンドリングはわりと鷹揚(おうよう)で、乗り心地はしなやかだ。これはベースのFTRより5cm高められたハンドルを備え、ブロックパターンのタイヤを履くラリーならではの乗り味だろう。ライディングポジションはアップライトでとても自然。またアルミのスポークホイールにエンデューロタイヤ「ピレリ・スコーピオン ラリーSTR」の組み合わせは、路面への当たりが柔らかい。メーターに取り付けられたバイザーも多少の空力効果は期待できるから、ツーリングなどで長い距離を走る人にはメリットとなりそうだ。
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大人向けのアメリカンスクランブラー
もとよりフラットトラッカー由来だけあり、サスペンションのストロークは長く、足はよく動く。フロント19インチ、リア18インチの大径タイヤは、舗装路でギャップを越えたり、荒れた路面に踏み入ったりしても不安なく走破できる。ブレンボ製ブレーキはガツンと利かせるのではなく、レバーを握り込んでいくほどにジワッと利くタイプ。だから最初は少し「甘いかな?」と思わせるが、慣れてしまえばコントローラブルだ。このあたりもより“オフ”での走りを意識しているだろう、と思わせる。
総じて、フラットトラッカーのレーサーレプリカ的なFTR 1200に対して、ラリーはもう少し落ち着いた“大人向け”仕様といってもいい。チタンシルバーのタンクにブラウンのシートが組み合わされたクラシックなカラーリングも、そのキャラクターをよく表している。
見かけには古きよきアメリカンな豪快さ、おおらかさを残しながらも、その中身はとても洗練されている。オンとオフ、レトロとモダン、スポーティネスとコンフォート。FTRラリーはそれらを上手にスクランブルした多様性を持つモデルだ。いちど乗ってみれば、きっとアメリカン・モーターサイクルの新しい一面を実感できるだろう。
(文=河西啓介/写真=郡大二郎)
車両データ
インディアンFTRラリー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2287×850×1297mm
ホイールベース:1524mm
シート高:840mm
車重:230kg
エンジン:1203cc 水冷4ストロークV型2気筒 DOHC 4バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:123HP(91.7kW)/8250rpm
最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/6000rpm
タイヤ:(前)120/70R19 60V M+S/(後)150/70R18 70V M+S(ピレリ・スコーピオンラリーSTR)
価格:209万8000円