ダークなカスタムに潜む知性 Indian Scout Rogueのすべて
荒れ馬なれど優駿 2023.06.29 漆黒の駿馬 インディアン・スカウト ローグの世界<AD> 120年超の歴史を誇るアメリカの名門、インディアン。そのラインナップの中核をなす「スカウト」のなかでも、特に異彩を放つのが「スカウト ローグ」だ。ダークなカスタムスタイルをまとう“ならず者”は、同時にスポーティーでクレバーな一面も持ち合わせていた。スゴみの利いたルックスとは裏腹に
今日ではV型ビッグツイン、そしてロー&ロングなスタイルは「クルーザー」というカテゴリーでくくられているが、インディアン・スカウト ローグに乗ってまず悟ったのは、「これは単にクルーザーのくくりで語ってはいけない」ということだった。いや、マシンからにじみ出るインテリジェンスを感じて、スカウト ローグに悟らされたと言おうか。おそろしく手の込んだエンジンのエンブレムなど、エクステリアの上質さはもちろんのこと、単にトルクとパワー感で満足させるのではなく、その先の走りを高めた上品さを端々に感じた今回の試乗だった。
正直に言えば、身長160cmで短足気味な筆者は、スカウト ローグのようにシート高が低いクルーザー系のバイクとて、車重がそれなりに重かったり、エンジンの腰下の幅が広くて足がつきにくかったりすることもあり、乗る前から緊張して慎重に走りだすものがほとんどだ。しかし、スカウト ローグにまたがり、サイドスタンド状態から直立させた瞬間、そのような気負いはあっさり消えた。さすがに649mmのシート高なら不安なく足がつくし、燃料搭載時でも250kgという車重では、バイクを直立させるのにもさほど力は要らない。
アルミフレームを用いたシャシーによって大幅な軽量化が施されていて、かつエンジン搭載位置等のディメンションが重心の低さをもたらすスカウト ローグでは、その初対面の“とっつき”はすこぶるフレンドリーだ。
クルーザーといえば「大きくて重い」がむしろチャームポイントになっている車種もあるというのに、なぜスカウトはアルミフレームで軽量化を図っているのか? 歴史をひも解くと、そもそもスカウトが登場した1920年のコンセプトにつながっているのではないかと思い至った。
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100年後にも受け継がれるコンセプト
モーターサイクルの市販車が普及し始め、それぞれのモデルの熟成が進んでいった1920年代にスカウトシリーズは誕生した。まだ、オートバイのカテゴリーがロードスポーツやオフロード、クルーザーなどに細分化される前の時代である。
初代スカウトが発売された当時の広告を見てみると「Power(パワー), Swiftness(すばやさ),Stamina(スタミナ),Economy(エコノミー)」や「Easy to Start(簡単に始動), Easy to Control(コントロールが簡単)」の文言が見て取れる。
また当時の雑誌記事では「軽量化と出力アップでパワーウェイトレシオに優れる」「ディストリビューションを下側に配置することで低重心化を図った」「フレームは軽く、ハンドリングはコントロール性に優れる」などと書かれている。これはそのまま、およそ100年たった現代のスカウトシリーズにも当てはまる内容ではないか、と驚いた。
今、私がまたがっているスカウト ローグは、その「100年後のスカウト」のなかでも2022年に追加された最も新しいモデルだ。フェンダーを切り詰め、細部をブラックで統一し、ミニエイプハンガーハンドルの先にミラーを垂らした、スゴみの利いた一台である。
ただ、ハンドルポストから上に伸びるハンドルバーは、外観こそアグレッシブな印象を与えているが、ライダーにとっては無理のないポジションがとれる位置関係となっている。高すぎず、遠すぎず。チョッパーを想起させるバイカースタイルなのに、自然なハンドリングを実現している。
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クレバーなハンドリングに感じる出自
交差点を右左折するような、ちょっとしたコーナリング時には、スカウト ローグのほうから語りかけてくるようなハンドリングを示す。「あなた、今こっちのほうに曲がりたいんでしょ?」とでも言いたげに、まずはフロントタイヤがリーンのきっかけをつくる。軽くスロットルを開けながらコーナーを立ち上がろうとすると、今度はどっしりとリアタイヤが旋回を支えてゆく。キャスター、トレール、ステムとフロントフォークのオフセット、それにタイヤの幅やホイールサイズなどが絶妙にバランスし、ディメンションから知性を感じるようなハンドリングなのだ。
足もとこそフォワードコントロールなステップ位置なので、筆者の身長と足の長さだと、ステップワークでの左右重心移動というより、ヒップをうまく使って入力する、というような運転となる。それでもなお、あるいは「ワインディングも楽しめそうだな」という余白すら感じるハンドリングは、もともとロードレースでも活躍したインディアンというブランドのフィロソフィーなのかもしれない。スポーティーさを決してスポイルせずにマシンをつくり込もうとする伝統の向こうに見えるのは、「世界一過酷な公道レース」と言われるマン島TTレースで1位・2位・3位を独占した1911年から続く、インディアンの歴史だ。
ただの“ならず者”ではない
ストレートな広い道をクルージングしていて気づいたのは、ライダーに与えるパルス感をあえて演出として使っていない点だった。
最新の技術なら、Vツインらしいとされる“ドコドコ感”は意図的につくれるし、与えることができるはずだ。しかし、スカウト ローグは信号待ちでアイドリングしているとき、あるいは低中速でパーシャルスロットルのとき、物理的にライダーに伝わるエンジンからの振動は少ない。これは疲労の軽減にもつながるだろう。サイドから見ればそれは至極当然のことで、シートの位置はエンジンよりも後ろにあり、これは1920年の初期型スカウトと変わらない位置関係である。
ただし、スロットルを少し元気よく開けたときのトルク感はビッグツインらしい野太いフィーリングだ。特に中速域でも高速域でも変わらず、スロットルに反応してトルクを太らせるエンジンカーブは、インディアン開発陣の知能の集大成だろう。ほんの3000rpm付近から、トルクを音圧やタイヤの蹴り出しで感じるような気持ちよさがある。
そして高速走行になると、途端にハンドリングが変化して「クルーザー」と呼ぶにふさわしい快適な直進安定性を感じる走りとなる。1576mmという長いホイールベースなのだから当然といえば当然なのだけど、低速から中速にかけての軽快感と、高速走行時の直進安定性という、相反するキャラクターを体現させているというのは、インテリジェンスのたまものというほかない。
「クルーザー」というくくりで先入観を持ってしまったらもったいない。ネーミングにこそ「Rogue」(=ならず者)の名が付いているが、スカウト ローグはさまざまな側面を持ち、マシンから知性を感じるようなモデルなのである。
最後になるが、今回の車両にはサドルバッグや高品位なFoxのリアショックなど、インディアンの純正アクセサリーが多数装備されていた。今はキャンペーンも開催されているということなので、気になった人はディーラーに足を運んでみてはいかがだろう。
(文=小林ゆき/写真=郡大二郎)
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車両データ
インディアン・スカウト ローグ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2274×995×1181mm
ホイールベース:1576mm
シート高:649mm
車重:250kg(燃料搭載時)
エンジン:1133cc 水冷4ストロークV型2気筒 DOHC 4バルブ
トランスミッション:6段MT
最大トルク:97N・m(9.9kgf・m)/5600rpm
タイヤ:(前)130/60B19 61H/(後)150/80B16 77H(メッツラー・クルーズテック)
価格:236万8000円~248万6000円