小沢コージの勢いまかせ番外編コージの勝手にTMS09ポジティブアワードぉぉぉぉ!!
意地と夢だけで作った「スパッセV」
いやはや今年の東京モーターショー(TMS)、後ろ向きに考えるとどんどんエビのように後ろに行きますな。プレスデイの駐車場はいやってほど空いてるわ、会場も至る所にオープンスペースあるわで、サッカーやったら誰でも勝てるよ(意味分かりませんね(苦笑))。一般の入場者数を知るのが待ち遠しいやら怖いやら……。さておき今が不況は誰もが承知の事実。それと受け止め前向きに行かねば! というわけでTMS、コージの勝手にポジティブアワードぉぉぉぉぉ!!
というわけで栄えある大賞はコレ、「鈴商スパッセV」だ。なにそれ? って思う人も多いと思うし、詳しいはずの業界人の間でも知らない人が多かった一台。で、なにが凄いってこのクルマ、元は名古屋の並行輸入屋さん「鈴商」が作った2台目のオリジナルカーで、現在御年60過ぎのワンマン社長、鈴木敏夫さん(元レーサーの鈴木利男さんとは違います)の「とにかく作る!」って意思だけで製作したということだ。
市販化予定で、実際されるとは思うが、いわゆる大メーカーの「これくらいのクラスならこれくらい売れそう」とか「世界○カ国で出せるはず」という見込み、マーケティングは全く無い。
しかし設計は本格的。ボディはアルミのツインチューブモノコックがメインで、上にFRPパネルを貼り付けてあり、跳ね上げ式のドアを採用する。デザインは、なんと日本オリジナルのF1「マキF101」や歴代グラチャンマシンを手掛けた、70年代の名レーシングカーデザイナー三村建治氏で、フレーム設計は、社長の鈴木さんとその息子さんが手掛けているらしい。今後、国土交通省の認可を受ける予定で、実際パスもしそうという。というのも2004年にはスーパーセブン風の1号車「スパッセ」を発表、同様にフレームの設計からオリジナルで国土交通省の承認を受け、正式にメーカーとして「鈴商」は認められているし、すでに何台か納車実績もあるからだ。
考えようによっては、光岡のスーパーカー「オロチ」と似たような成り立ちなわけだが、会社規模もプランニングレベルも段違い。社員は数人いるかいないかだし、1号車「スパッセ」も何台売れたのやら……って感じ。
つまり、今回スパッセVを作り、売ろうってのは完全に社長、鈴木敏夫さんの個人的意地と夢。いまどき珍しいくらいのドン・キホーテぶりなのだ!
聞けば開発費に“億”はかかってるし、このため並行屋時代に手に入れた自慢のヒストリックレーシングカーを3台も売ったとか。肝心の価格は900万円前後の予定で、発売は「なるべく早く」だそう。車重は850kg、エンジンは「マツダスピード・アクセラ」用の2.3リッターターボで270ps、それでいてシャシーはヘタなレーシングカー顔負けだから、性能は期待できる。
たしかにロータスやKTMなど、有名メーカーの作品のが無難っちゃ無難。でも、もしもスタイルが気に入ったのなら、こういう“和のオトコの意地”を試してみるのも手かもしれません。どうせならさ。
現場出しは大事、「スズキ・キザシ」
お次ポジティブアワード2位は、メジャーメーカーでは一番衝撃的だった「スズキ・キザシ」だ。
まずはほぼ事前公開がなく、突然会場デビューというのがエライ! 最近じゃ告知効果があるのか、取材対応がラクなのか、事前に告知があるのが主流だが、ショーはそもそもが祭り。こういう“現場出し”を怠ってちゃいけません。ますます会場に人が来なくなるじゃないの。
それからクルマ自体が大変な意欲作。最初は、一体なに狙ってるセダンなのかと思いきや、日本は受注生産で、一番の狙いは北米市場。ただ、それなりに勝算があって、まずサイズはアコード&カムリより「ちょっと小さいくらい」のニッチで、さらにエンジンはエスクード用2.4リッター直4をチューニングして、横置きにしたもの“一本”! メカニズム的にはFFとオンデマンドな新開発4WDシステムが選べ、特に4WDはスバル系よりずっとスポーティになり、今までありそうでなかったスポーティセダンなんだとか。価格も絶妙に安い。
しかもスズキは北米では元々バイクが有名で、さらにヨーロピアンイメージもあり、それを見込んである種VWジェッタ的な外観デザインにもしてある。
一方、ヨーロッパじゃ「スイフト」や「SX4」の買い替えという需要もあるだろうし、ちゃくちゃくとスズキパワーは世界を侵略中! って感じもしなくもないのだ。やっぱり東京モーターショー、チェックは欠かせませんな。
韓国からの刺客、「CT&T」
最後の3位はついに韓国から上陸してきた謎(?)の電気自動車メーカー「CT&T」。元々は2002年に現代自動車の技術者が集まって興した非財閥系EVベンチャーで、2004年にゴルフ用カートの生産から始めたという。2007年には韓国のゴルフカート市場の7割以上を牛耳ったそうで、昨年は3671台の電気自動車を販売したという。
現在は日本の軽自動車規格での衝突安全を既にクリア、来春より日本と韓国でアルミフレームのシティEV「eZONE」を発売予定。コイツが一番凄いのはそのコンセプト。最高速は70km/h前後、完全2人乗りと割り切り、価格を160〜180万円と驚異的な安さに抑える予定で、補助金を使えば、100万円ぐらいになることも予想され、まさに日本の軽自動車レベル。
果たしてその秘密は、駆動用バッテリーに従来の鉛電池を使っていることで、そこがある意味、現実的。値段は未定だが、余裕があれば他にリチウムポリマー電池も選ぶことができるそうで、いろんな意味でユニークだ。加え、プレゼンでしゃべったイ・ヨンギ社長のパワフルな風貌、物言いが驚異だった。ある意味、昭和初期の日本人みたい。
でも東京モーターショーといえば、上海や北京とは違うアジアを代表するショー! そう言われるためには、こういう新手のパワーが出てこないとね。ドンドン誘致しなきゃだめですよ。毒を食らわば皿までってね(笑)。
がんばれニッポン、がんばれ東京モーターショー!!
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
-
エディターから一言番外編
島下泰久が提言、「東京ショーは、生のクルマ情報のネタ元たれ!」 2009.11.13 2009年10月23日から11月4日まで催された「東京モーターショー」。今回は海外主要メーカーの出展とりやめ、開催期間の短縮などもあって、総来場者数は61万4400人と前回(2007年)より81万1400人も減ってしまった(57%の減少)。
そんなショーを、自動車ジャーナリストの島下泰久はどう見たのだろうか?
-
NEW
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】
2025.11.27試乗記ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。 -
NEW
第938回:さよなら「フォード・フォーカス」 27年の光と影
2025.11.27マッキナ あらモーダ!「フォード・フォーカス」がついに生産終了! ベーシックカーのお手本ともいえる存在で、欧米のみならず世界中で親しまれたグローバルカーは、なぜ歴史の幕を下ろすこととなったのか。欧州在住の大矢アキオが、自動車を取り巻く潮流の変化を語る。 -
NEW
「スバル・クロストレック」の限定車「ウィルダネスエディション」登場 これっていったいどんなモデル?
2025.11.27デイリーコラムスバルがクロスオーバーSUV「クロストレック」に台数500台の限定車「ウィルダネスエディション」を設定した。しかし、一部からは「本物ではない」との声が。北米で販売される「ウィルダネス」との違いと、同限定車の特徴に迫る。 -
NEW
ジープ・ラングラー アンリミテッド ルビコン(後編)
2025.11.27あの多田哲哉の自動車放談かつて家族のクルマとしてジープを所有したことがある、元トヨタのエンジニア、多田哲哉さん。ジープを取り巻くビジネス環境やディーラーでの対応を含め、同ブランドについて語る。 -
第855回:タフ&ラグジュアリーを体現 「ディフェンダー」が集う“非日常”の週末
2025.11.26エディターから一言「ディフェンダー」のオーナーとファンが集う祭典「DESTINATION DEFENDER」。非日常的なオフロード走行体験や、オーナー同士の絆を深めるアクティビティーなど、ブランドの哲学「タフ&ラグジュアリー」を体現したイベントを報告する。 -
「スバルBRZ STI SportタイプRA」登場 500万円~の価格妥当性を探る
2025.11.26デイリーコラム300台限定で販売される「スバルBRZ STI SportタイプRA」はベースモデルよりも120万円ほど高く、お値段は約500万円にも達する。もちろん数多くのチューニングの対価なわけだが、絶対的にはかなりの高額車へと進化している。果たしてその価格は妥当なのだろうか。
