マツダCX-5 XD(4WD/6AT)【試乗記】
ハイ・コストパフォーマンス・カー 2012.06.03 試乗記 マツダCX-5 XD(4WD/6AT)……308万円
販売好調が伝えられる、マツダの新型SUV「CX-5」。その魅力はどこにある? 中でも人気のディーゼルモデルを、巨匠 徳大寺有恒が試した。
これぞ“マツダのチャレンジ精神”
松本英雄(以下「松」):今日の試乗車は、ちまたで大注目の一台。「マツダCX-5」のディーゼル版です。
徳大寺有恒(以下「徳」):圧縮比14.0という画期的なローコンプレッションのディーゼルエンジンを筆頭に、「スカイアクティブ」のコンセプトに基づいてすべてゼロから新開発されたというモデルだな。
松:そうです。「スカイアクティブ」は、基本的には既存技術の改良ということですが、すでにリリースされている「デミオ」に乗って、エンジンの出来に感心しました。売り物である燃費のよさもさることながら、アイドリングストップからの再始動の速さなどもトップクラスですからね。
徳:価格が何倍もするモデルでも、あれより遅いのはあるものな。
松:失礼ながら、正直言ってマツダの開発能力を見くびっていました。もちろんロータリーエンジンを商品化して、ルマンで勝つまでに磨き上げたことについては高く評価し、敬意を抱いていますが、レシプロエンジンに関しては印象が薄かったんですよ。
徳:キミがそう言うのも無理はないだろう。でも、その昔はレシプロエンジンもけっこう凝っていたんだよ。例えば1962年にデビューした軽乗用車の「キャロル」用エンジンは、わずか360ccながら水冷4ストローク4気筒で、OHVながらバルブ配置は日本初となるクロスフローのヘミヘッドだったんだ。で、レギュラーガソリン指定ながら圧縮比は10.0。しかも総アルミ製で「白いエンジン」とうたっていたんだ。
松:すごく立派なスペックじゃないですか。同じ軽でも「スバル360」などの空冷2ストローク2気筒エンジンと比べたら、さぞかしコストもかさんだでしょうね。
徳:そうだな。もっとも、そこまで凝ったがためにクルマが重くなってしまい、自慢のエンジンはピーピー泣き叫ぶばかりで、なかなか前に進まなかったが。(笑)
松:本末転倒というか、まさに「意余って力足らず」だったんですね。
徳:ああ。そのほか、グッと時代は下がるけど、90年代に出た「ユーノス800」に、量産車としては世界初のミラーサイクルエンジンが搭載されていたこともあったな。
松:そうでした。「ユーノス800/ミレーニア」のミラーサイクルは数年で消えてしまいましたが、その技術が今日のスカイアクティブに継承されたと考えることもできますね。
徳:うん。何よりロータリーエンジンが証明しているが、マツダは昔からチャレンジ精神に富んだメーカーだったと言えるだろう。
松:たしかに。技術だけでなく、誰もが考えつくが、誰もやらなかったオープン2座スポーツを復活させた「ロードスター」など企画面も含めて。
徳:そうだな。じゃあ、そろそろ「CX-5」を見てみるか。
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完全新設計の強み
松:スタイリングは、2010年に発表されたコンセプトカー「靭(SHINARI)」に始まるマツダの新デザインテーマ「魂動(こどう)」に沿ったものだそうです。
徳:マツダが主張する「SUVのスタイルを変える」ほどとは思えないが、マツダらしいデザインではあるな。
松:プロポーションはライバルとなるであろう「日産デュアリス」や「フォード・クーガ」あたりに近いですが、ストンと切り落としたような顔つきは最近のアウディQシリーズやBMW X系に通じるテイストを感じます。
徳:いっぽうインテリアは、これといった特徴や個性は感じられないな。
松:そうですね。デザインは可もなく不可もなくといったところでしょうか。ただしマツダによれば、運転の楽しさや意のままに操る喜びを提供する基本として、ドライビングポジションには強くこだわったそうですよ。
徳:ほう。具体的には?
松:例えばドライバーがまっすぐ前を向いて踏めるペダルレイアウトを実現するために、フロントホイールセンターを50mm前方に出したそうです。その分フロントオーバーハングも短くなり、横から眺めた際のプロポーションもFRに近づいたとか。
徳:50mmとは小さくない数字だな。
松:ええ。すべてがゼロからの開発だったからこそ可能になったとのことです。ほかの操作系もドライバーにとって自然な位置にすべく、設計を全面的に見直したそうですよ。
徳:なるほど。実際に乗ってみて、ご自慢のドラポジはどうだい?
松:初めて乗って、シートとステアリングをサッと調整したところで違和感がないということは、開発者の意図するところは達成されているのではないでしょうか。
徳:そうかい。シートはバックレストがやや固めだが、悪くないな。
松:ではいよいよエンジンを掛けますよ。
徳:見事に静かだな。「日産エクストレイル」のディーゼルの静粛性にも感心したが、設計が新しい分、さらに上をいっている。
松:出足の力強さも「エクストレイル」を上回りますね。「エクストレイル」のAT仕様は、ATそのもののセッティングのせいか、発進時のトルクの立ち上がりがディーゼルにしては物足りなかったんですよ。
徳:そうだったっけ。しかし、よく回るなあ。ディーゼルとは思えないくらいだ。
松:調子に乗って踏んでいると、5500rpmのレブリミットまで回してしまいますからね。そこまで回す必要もないのですが、逆をいえば、そこまでストレスなく吹け上がるディーゼルというのも、ほかに類がないでしょう。
徳:たしかに。先ほど話を伺った開発スタッフが、最後の1000rpmの伸びがすばらしいんですよ、と語っていたが、そのとおりだな。
松:いや、まったく。
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長距離乗るなら、さらにヨシ
松:こうした上りのワインディング(試乗路は芦ノ湖スカイライン)では、トルクの豊かなディーゼルの恩恵を感じますね。
徳:走りっぷりには、何も不満はないだろう。
松:強いて言うなら、いったんアクセルを戻して再び踏み込んだときのレスポンスというか、トルクの立ち上がりが少し悪いように感じます。とはいえ、そこまで望んでは申し訳ない気もしますが。
徳:そうだよ。(笑)
松:サスペンションもよく動いているし、19インチのホイール/タイヤを履いているにもかかわらず、乗り心地もいいですね。
徳:それでいて値段は高くないんだろう?
松:車両本体価格は、FFだと258万円から。4WDのトップグレードでも319万円です。
徳:すごくお買い得じゃないか。
松:コストパフォーマンスはすばらしいですよね。その値段でこんなディーゼル、ほかでは絶対買えませんから。
徳:おかげで初期受注は好調だそうだな。
松:そうなんですけど、マツダでは手放しには喜べないと言ってましたよ。いくらお買い得とはいえ、300万円前後するものを、試乗はおろかディーラーに展示車両すらないのに受注してしまう状況には、逆に不安を感じるそうです。
徳:その気持ちはわかる。金持ち向けの限定車ならともかく、こうした普通のクルマを、普通の人が通販感覚で注文してしまうことには、俺も疑問を感じるもの。新車を買うなんて機会は、めったにあるもんじゃないのに。
松:果たして、注文した顧客の使用状況がディーゼルに向いているかどうかわからない。ディーゼルの特性をよく知らない、これまで経験のないユーザーから、逆に悪い評価をもらう恐れもあるというわけです。
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徳:なるほどねえ。たしかに燃料の単価が安いというだけでディーゼルを選ぶ人がいまなおいるみたいだからな。これはハイブリッドも同じだが、燃料代という観点だけで見ると、距離を走らないとガソリン車との初期投資(車両価格)の差額は回収できないのに。
松:そうなんですよ。マツダとしても、例えば渋滞の多い都市部で、近距離の移動がメインのユーザーにはガソリン車を薦めたいそうなんです。ところが、そうした“適材適所”をアピールする情報の伝達が間に合わないと。だから、われわれメディアにも力を借りたいと言ってました。
徳:及ばずながら協力させてもらおうじゃないか。「CX-5」のディーゼルはたしかにすばらしいが、長距離移動の機会が多くないと、そのメリットを確実に享受できるとは言いがたいだろう。
松:逆に言うと、長距離ドライブでは威力を発揮するでしょうね。100km/h走行時のエンジン回転数は、ATの6速でわずか1700rpm。アクセルを踏めばどこからでも40kgm近いトルクが立ち上がり追い越しも楽々。いっぽう満タンでの航続距離は、80km/h巡航では1200km走るそうですから。
徳:そう聞くと、実際にロングドライブして真価を確かめたくなるなあ。
松:じゃあ、行きますか?
(語り=徳大寺有恒&松本英雄/まとめ=沼田亨/写真=峰昌宏)

徳大寺 有恒

松本 英雄
自動車テクノロジーライター。1992年~97年に当時のチームいすゞ(いすゞ自動車のワークスラリーチーム)テクニカル部門のアドバイザーとして、パリ・ダカール参加用車両の開発、製作にたずさわる。著書に『カー機能障害は治る』『通のツール箱』『クルマが長持ちする7つの習慣』(二玄社)がある。

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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