レクサスIS300h“バージョンL”(FR/CVT)/IS250“Fスポーツ”(FR/8AT)
ずいぶん“大人なクルマ”になった 2013.07.09 試乗記 “気持ちよい走り”を実現するため、生産工程にまで踏み込んでボディー剛性アップを図ったという新型「IS」。その本気度を確かめた。ボディー剛性のアップに注力
「2倍、とまでは言いませんが、格段の差があったことは確かです」と、レクサスのトップエンジニアがおっしゃる。
――新しい「IS」の開発中に、実際に3シリーズを購入してテストしなかったのですか?
「もちろん、しました」
レクサスISと「BMW 3シリーズ」のボディー剛性について。3シリーズには、これまで蓄積されたさまざまなノウハウが凝縮され、その結果、現在のボディー剛性が出ているという。ジャーマンプレミアムをベンチマークに、レクサスが研究を重ね、猛追していることを、質問者が驚くほどストレートに話してくれた。
今年5月にフルモデルチェンジを果たしたレクサスISの開発テーマは、「真の“走る楽しさ”の体現」である。なんだか使い古された感のあるフレーズだが、真の、と付けたところに、レクサスの気合が示される。ISのDNAたる「気持ちよい走り」を実現するため、今度のISでは、クルマ全体が根本から見直された。具体的には、カタログスペックに載りにくく、新機能とも謳(うた)いづらい、ボディー剛性のアップに注力された。
そのために採用された生産技術が「レーザースクリューウェルディング」。従来のスポット溶接より、圧倒的に溶接打点のピッチを細かくできる。2枚の鉄板を縫い合わせる際の縫い目を、理論的にはどこまでも細かくすることが可能……と聞くと、それでは鋼板を線状につなげるレーザー溶接の方がいいではないかと思うが、そうでもないようだ。
――先代の「フォルクスワーゲン・ゴルフ」は、70mにわたるレーザー溶接を自慢していましたが……。
と、ボディー担当エンジニアの方に水を向けると、「あれは“イタスキ”が難しくて」とおっしゃる。イタスキとは、溶接する2枚の鋼板の隙間のこと。レーザー溶接では、コンマ何ミリの精度で維持しておかないと、キレイに溶接されない。現実の生産現場で、恒常的にこの精度を確保するのは難しい。ゴルフの実車を調査したところ、「トヨタの品質基準では、首をひねる部分もあった」と教えてくれた。
本気度が違う
新型ISのプレス向け試乗会は、開発陣の間で事前の打ち合わせでもあったのだろうか!? サスペンション担当のエンジニアの人からも、「結局は、ボディー剛性が大事」という結論が導き出された。しっかりしたボディーがあれば、サスペンションがスムーズに、思惑通りに動く。スポーティーなハンドリングと、プレミアムブランドにふさわしい乗り心地の両立ができる。決して目新しいハナシではないが、ニューISの開発では、生産工程にまで踏み込んでのボディー剛性アップが図られた。本気度が違う。
レーザースクリューウェルディングに加え、新型ISでは、複数の鋼板を面で結合してボディーのたわみを抑える「構造用接着剤」も投入された。「なぁ~んだ。ロータスなんか、20年近く前から接着剤を使っているよ」と鼻息を荒くするエリーゼ乗りもいらっしゃるでしょうが、まあそれはともかく、ラインで大量生産するISの場合は、違った苦労があったようだ。
「生産の現場というのは、新しいことをやるのを嫌がるんですね」と開発陣の一人が苦笑いする。言うまでもなく、生産現場では、ラインを止める事態を可能な限り避けたい。どうしても保守的になる。それが、責任ある態度というものだ。
「『接着剤が垂れたらどうするんだ』『床がべたべたする』とずいぶん責められました」
新しい溶接技術に接着剤。「従来型に比べ、ボディー剛性○○%アップ!」と謳いたいところだが、意外や、数値に表れない。
「乗って体感できるのだから、確実に剛性はアップしてるはずなのですが……。トヨタの計測方法が至らないせいかもしれません」
それは残念。とはいえ、開口部の多い車体では測りづらくとも、シンプルな閉構造(長方体)でテストすると、ちゃんと剛性アップの数字が出る。効果はあるわけだ。
ボディー剛性アップに血道を上げた(!?)新型ISだが、いわゆるジャーマンプレミアムのそれには、まだ届かない。
「そもそもの設計の仕方が違っているんです。われわれ(トヨタ/レクサス)だと、生産過程で(工員の)手を入れやすい、溶接機がスポットを打ちやすいといった理由で、鋼板に穴を開けてしまう。ドイツ車メーカーには、それがない」
――生産の効率化は、日本車のお家芸ですからね。
「われわれは“十二単(ひとえ)”と呼んでいますが、ドイツのメーカーは、複数の鋼板を何枚も、次々とつなぎ合わせてボディーを構成するんです」
――細かく鋼板の最適化を行っている、と。
「生産現場を巻き込んでのボディー剛性アップが図られています」
――伝統芸、ですか?
「哲学です」
ドイツ車メーカーでは、「ボディー剛性が大事」という意識が、設計・開発から現場の生産部門まで、徹底して織り込まれているのだ。
普段使いでもわかる俊敏性
新型レクサスISは、3.5リッター(318ps、38.9kgm)、2.5リッター(215ps、26.5kgm)のV6モデル「IS350」「IS250」と、「トヨタ・クラウン」ゆずりのハイブリッドシステムを積む2.5リッター直4(178ps、22.5kgm)+モーター(143ps、30.6kgm)「IS300h」に大別される。
国内販売の7割を占めるというISハイブリッドに乗る。まず「オッ!」と思わせるのが、運転席の低さ。もちろん、座面を上下できるので、好みの高さに調整できるが、立て気味のステアリングホイールと併せ、同車のDNA(とレクサスが主張する)「気持ちよい走り」を予感させる。
ちなみに、もうひとつのDNA「スポーティーなデザイン」も頑張っている。サイドスカートの曲線がそのままリアランプにつながるラインが、わかりやすい工夫だ。ただ個人的な嗜好(しこう)を述べると、フロントはいささか煩雑で、他車との差別化のため、ちょっと頑張り過ぎちゃったかなぁ。という感じ。 素直にヘッドライトとその前に設けられたL字型のポジショニングライトをひとまとめにしたほうが、スッキリするのに。さらに透明カバーで覆ったら、うーん、クラシカルに過ぎるかしらん?
「300h“バージョンL”」は、ハイブリッドモデルらしく、するするとスムーズに、やや重厚感を持って動き出す。なるほど、ボディーのしっかり感がある。ステアリング操作への反応に雑味がない。横浜の街をチョイ乗りしただけだが、落ち着いたドライブフィールで、ずいぶん“大人なクルマ”になった印象だ。先代の、硬めのアシに吹けの良いエンジンの組み合わせも、“若武者”みたいで好きだったので、やや複雑な気持ち。
乗り換えたクルマは、「IS250“Fスポーツ”」。言うまでもなくISのよりスポーティーなグレードで、エンジン出力は普通のIS250と同じながら、専用チューンのサスペンションがおごられる。普段使いでも、クルマの俊敏性がわかる設定だ。ハンドルを切ると、「待ってました!」とばかりにノーズが向きを変える。のほほんとトヨタの従来型セダンに乗っていたオーナーがいきなり“Fスポーツ”に乗り換えたら、少々驚くのではないか。
驚いたといえば、“Fスポーツ”を運転していて何より驚いたのが、回転計と速度表示を一体化した「“Fスポーツ”専用メーター」。なにしろ、メーターナセルの中で、丸いメーターそのものが横にスライドして、空いたスペースに別のインジケーターを表示するのだ。こんなことを考えついて、実際に装備できるのは、日本車くらいだろう。ボディー剛性を地道に上げつつ、こんな“飛び道具”も用意している。レクサスも、なかなか油断ならないブランドだ。 ぜひとも「ニンジャメーター」とでも名付けて、大々的に宣伝していただきたい。
(文=青木禎之/写真=田村弥)
テスト車のデータ
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レクサスIS300h“バージョンL”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4665×1810×1430mm
ホイールベース:2800mm
車重:1680kg
駆動方式:FR
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:178ps(131kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:22.5kgm(221Nm)/4200-4800rpm
モーター最高出力:143ps(105kW)
モーター最大トルク:30.6kgm(300Nm)
タイヤ:(前)225/40R18 88Y/(後)255/35R18 90Y(ブリヂストン・トランザ ER33)
燃費:23.2km/リッター(JC08モード)
価格:538万円/テスト車=588万6100円
オプション装備:フロント225/40R18+リア255/35R18タイヤ&アルミホイール(5万1450円)/プリクラッシュセーフティシステム+レーダークルーズコントロール(6万3000円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万2000円)/ブラインドスポットモニター(5万2500円)/レーンディパーチャーアラート+オートマチックハイビーム(5万2500円)/ステアリングヒーター(1万500円)/“マークレビンソン“プレミアムサラウンドサウンドシステム(23万4150円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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レクサスIS250“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4665×1810×1430mm
ホイールベース:2800mm
車重:1590kg
駆動方式:FR
エンジン:2.5リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6AT
最高出力:215ps(158kW)/6400rpm
最大トルク:26.5kgm(260Nm)/3800rpm
タイヤ:(前)225/40R18 88Y/(後)255/35R18 90Y(ブリヂストン・トランザ ER33)
燃費:11.6km/リッター(JC08モード)
価格:480万円/テスト車=572万1900円
オプション装備:プリクラッシュセーフティシステム+レーダークルーズコントロール(6万3000円)/“Fスポーツ”専用本革スポーツシート+電動チルト&テレスコピックステアリングコラム+オート電動格納式ドアミラー+後席SRSサイドエアバッグ+ブラインドスポットモニター(37万8000円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万2000円)/LEDヘッドランプ+レーンディパーチャーアラート+オートマチックハイビーム(19万4250円)/ステアリングヒーター(1万500円)/“マークレビンソン“プレミアムサラウンドサウンドシステム(23万4150円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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