ホンダ・フィット13G Sパッケージ(FF/CVT)/RS(FF/6MT)/ハイブリッド Lパッケージ(FF/7AT)
はやい、うまい、きもちいい 2013.09.23 試乗記 6年ぶりにフルモデルチェンジした、ホンダの売れ筋コンパクト「フィット」。性格の異なる3モデルに試乗し、その仕上がりをチェックした。注目は「ハイブリッド」
横浜で開かれた試乗会で、新しい「フィット」に乗った。通算3代目になる新型は、見た目のアイデンティティーこそ失っていないが、中身はすべて新しくなったといってもいい。中でも話題の中核は、最高36.4km/リッターのJC08モード値で「トヨタ・アクア」(35.4km/リッター)を抜いた「ハイブリッド」である。
新システムは、アトキンソンサイクルの1.5リッター4気筒DOHCにモーター内蔵の7段DCT(デュアルクラッチ式変速機)を組み合わせた。1モーター式だが、モーターより上流に置いたデュアルクラッチで、エンジンとモーターを完全に切り離すことができる。そのためEV走行も可能になり、駆動と発電というモーターの力をより有効に使えるようになった。
10kW(14ps)の旧型から22kW(29.5ps)に最高出力を倍増したモーターは変速機の末端にマウントされ、トランスミッションオイルで冷却される。モーターと変速機は内製。デュアルクラッチはドイツのルーク社製。ニッケル水素からリチウムイオンにバージョンアップし、蓄電容量を従来の1.5倍に増大した駆動用バッテリーは、本田技研とGSユアサによる合弁会社、ブルーエナジー製である。
フィットハイブリッドは先代シリーズの追加モデルだったから、モデルチェンジの頭からスタートするのはこれが初めてだ。2013年9月5日の発表から10日間で4万台を超えた受注の7割以上はハイブリッドだという。
試乗会で乗ったのはハイブリッド、「13G」、「RS」の3台。時間は限られていたが、刷新された3種類すべてのパワーユニットを試すことができた。
思わずうなる新システム
最初に乗ったのは、人気者のハイブリッドである。試乗車は上級グレードの「Lパッケージ」(183万円)。新装されたハイブリッドユニットやいかに、と走りだすと、肩すかしを食らうほどよくできたクルマだった。
137psのシステム出力は、「インサイト」の1.5リッターユニットを移植した旧型「ハイブリッドRS」よりさらに1割以上パワフルだから、走りはキビキビしている、というか、十分速い。最上級の「Sパッケージ」にしかパドルシフトは付かないが、全グレードにあってもいいかなと思うくらいスポーティーなハイブリッドである。
ゆっくりした発進なら、モーターのみで動き出すが、すぐにエンジンがかかる。アクアや「プリウス」にはある「EVボタン」のような、任意にモーターのみの走行ができる機構はない。「基本、エンジン」の印象はこれまでと変わらないが、パワフルになって、ドライバビリティーも損なわれていないのだから文句なしである。1.5リッターのi-VTECは、フルスロットルを踏むとけっこう勇ましいサウンドを発する。
7段DCTにもツッコミどころを探したが、たまにシュッという変速音が漏れた登場直後のフォルクスワーゲン製乾式DSGより、静かでスムーズだと思った。シンプルに半クラッチで実現しているクリープも自然だ。
急ブレーキを踏まない限り、10km/h以上での減速/制動は回生ブレーキによる。走行エネルギーを電気として「返せー」ブレーキだ。停車時は5km/hあたりから前:ディスク/リア:ドラムの油圧(機械式)ブレーキにバトンタッチしてゆく。新型ではそのサーボも油圧から電動になったが、違和感はない。今回は激しい走り方はしていないが、いつどこから踏んでも、ペダルフィールや効き方は普通の油圧ブレーキのようにナチュラルだった。
安価なモデルが選びにくい!?
次に乗ったのは1.3リッター。先代ではハイブリッドと並ぶ二本柱のひとつだった“ベーシック・フィット”である。新型はさらなる好燃費を狙って、アトキンソンサイクルのDOHCヘッドに換装し、JC08モード値を21.0km/リッターから26.0km/リッターに向上させている。試乗車は最上級モデルの「Sパッケージ」(156万円)である。
しかしその新型1.3リッターフィットも、ハイブリッドから乗り換えると分が悪い。パワーは100ps。システム出力137psのハイブリッドと比べると、その差以上に非力さを感じる。こちらの変速機はCVT。「まずエンジン回転が上がって、パワーはあとから追いついてくる」的なCVTの特性も、ハイブリッドの直後だとのんきに感じられる。
満タン法で燃費計測ができるほどの距離は走れなかったが、試乗スタート時にトリップコンピューターをリセットして車載燃費計をチェックした。ハイブリッドは32km走って15.2km/リッターだったが、13Gは28kmで9.2km/リッターと大台を割り込む。エアコンは常時オン。13Gは持ち時間がなく、「高速道路なしの市街地のみ」だったというハンデもあるが、それにしてもの大差である。
でも、どこかの使用局面では1.3リッターの燃費がハイブリッドに一矢を報いるシーンがあるのかとエンジニアに聞くと、ないそうだ。燃費は1.5リッターハイブリッドの総取りだという。あるとすると、距離を乗らない人なら1.3のほうがいいかもしれないと付け加えたが、それは同じ人がハイブリッドを買っても、価格差分のモトがなかなか取れないから、という意味だった。
「RS」も見どころいっぱい
ボディーの幅と高さは変わらないが、新型は全長を55mm延長した。これで長さと幅はアクアとぴったり同寸になった。全高はアクアより8cm高い。
ミニバンの素養を感じさせるフィットを 今回さらに使いやすくしたのは、後席スペースの拡大である。旧型よりレッグルームが広くなったことに加え、床がえぐられて、カルイ掘りごたつのようになり、足がますます楽に置けるようになった。天地にも前後にもたっぷりしたリアシートである。
最後に6段MTの「RS」(180万円)を試す。エンジンは、新しい直噴1.5リッターi-VTEC。132psのパワーは旧RSより1割パワーアップし、19.0km/リッターのJC08モード燃費も2割近く向上した。
フロントマスクのイメージが似ているので、1年ほど前までイギリスからお取り寄せされていた名車、「シビック タイプR ユーロ」の代車になり得るかと期待しつつ乗る。さすがにそこまではなかったが、わかりやすい楽しさではシリーズ随一である。
90km/hまで自分で引っ張れる2速の伸びが気持ちいい。本当に“カシッカシッ”と、かすかな快音を立ててキマるMTのシフトフィールは世界最良かもしれない。ハイブリッドは0-100km/hの社内データで10秒をわずかにきる快足だが、マニュアルのRSはそれよりもまたわずかに速いそうだ。
正味50分の試乗を終え、車載燃費計を見ると、38km走って15.6km/リッターだった。ガーン、最初に乗ったハイブリッドよりいいではないか。この不都合な真実を若いエンジン設計者に伝えると困っていたが、なにはともあれ、ハイブリッドと1.3リッターで販売の9割以上を占めるシリーズに、こういうモデルを残してくれたのはうれしい。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
ホンダ・フィットハイブリッド Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3955×1695×1525mm
ホイールベース:2530mm
車重:1130kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:110ps(81kW)/6000rpm
最大トルク:13.7kgm(134Nm)/5000rpm
モーター最高出力:29.5ps(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:16.3kgm(160Nm)/0-1313rpm
システム最高出力:137ps(101kW)
システム最大トルク:17.3kgm(170Nm)
タイヤ:(前)185/60R15(後)185/60R15(ブリヂストン・エコピア)
燃費:33.6km/リッター
価格:183万円/テスト車=220万4500円
オプション装備:Hondaインターナビ+リンクアップフリー(22万円)/コンフォートビューパッケージ(3万1500円)/あんしんパッケージ(6万円)/15インチアルミホイール(6万3000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:32km
使用燃料:--
参考燃費:15.2km/リッター(車載燃費計計測値)
ホンダ・フィット13G Sパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3955×1695×1525mm
ホイールベース:2530mm
車重:1030kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:100ps(73kW)/6000rpm
最大トルク:12.1kgm(119Nm)/5000rpm
タイヤ:(前)185/60R15(後)185/60R15(ブリヂストン・エコピア)
燃費:24.0km/リッター
価格:156万円/テスト車=187万1500円
オプション装備:有償ボディーカラー<ティンテッドシルバーメタリック>(3万1500円)/Hondaインターナビ+リンクアップフリー(22万円)/あんしんパッケージ(6万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:28km
使用燃料:--
参考燃費:9.2km/リッター(車載燃費計計測値)
ホンダ・フィットRS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3955×1695×1525mm
ホイールベース:2530mm
車重:1050kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:132ps(97kW)/6600rpm
最大トルク:15.8kgm(155Nm)/4600rpm
タイヤ:(前)185/55R16(後)185/55R16(ブリヂストン・トランザ)
燃費:19.0km/リッター
価格:180万円/テスト車=208万円
オプション装備:Hondaインターナビ+リンクアップフリー(22万円)/あんしんパッケージ(6万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:38km
使用燃料:--
参考燃費:15.6km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
メルセデス・ベンツGLA200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.12.22 メルセデス・ベンツのコンパクトSUV「GLA」に、充実装備の「アーバンスターズ」が登場。現行GLAとしは、恐らくこれが最終型。まさに集大成となるのだろうが、その仕上がりはどれほどのものか? ディーゼル四駆の「GLA200d 4MATIC」で確かめた。
-
フォルクスワーゲンTロックTDI 4MOTION Rライン ブラックスタイル(4WD/7AT)【試乗記】 2025.12.20 冬の九州・宮崎で、アップデートされた最新世代のディーゼルターボエンジン「2.0 TDI」を積む「フォルクスワーゲンTロック」に試乗。混雑する市街地やアップダウンの激しい海沿いのワインディングロード、そして高速道路まで、南国の地を巡った走りの印象と燃費を報告する。
-
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】 2025.12.17 「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。
-
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】 2025.12.16 これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】 2025.12.15 フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。
-
NEW
病院で出会った天使に感謝 今尾直樹の私的10大ニュース2025
2025.12.24デイリーコラム旧車にも新車にも感動した2025年。思いもかけぬことから電気自動車の未来に不安を覚えた2025年。病院で出会った天使に「人生捨てたもんじゃない」と思った2025年。そしてあらためてトヨタのすごさを思い知った2025年。今尾直樹が私的10大ニュースを発表! -
NEW
第97回:僕たちはいつからマツダのコンセプトカーに冷めてしまったのか
2025.12.24カーデザイン曼荼羅2台のコンセプトモデルを通し、いよいよ未来の「魂動デザイン」を見せてくれたマツダ。しかしイマイチ、私たちは以前のようには興奮できないのである。あまりに美しいマツダのショーカーに、私たちが冷めてしまった理由とは? カーデザインの識者と考えた。 -
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(FF)【試乗記】
2025.12.23試乗記ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」に新グレードの「RS」が登場。スポーティーなモデルにのみ与えられてきたホンダ伝統のネーミングだが、果たしてその仕上がりはどうか。FWDモデルの仕上がりをリポートする。 -
同じプラットフォームでも、車種ごとに乗り味が違うのはなぜか?
2025.12.23あの多田哲哉のクルマQ&A同じプラットフォームを使って開発したクルマ同士でも、車種ごとに乗り味や運転感覚が異なるのはなぜか? その違いを決定づける要素について、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
クルマ泥棒を撲滅できるか!? トヨタとKINTOの新セキュリティーシステムにかかる期待と課題
2025.12.22デイリーコラム横行する車両盗難を根絶すべく、新たなセキュリティーシステムを提案するトヨタとKINTO。満を持して発売されたそれらのアイテムは、われわれの愛車を確実に守ってくれるのか? 注目すべき機能と課題についてリポートする。 -
メルセデス・ベンツGLA200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】
2025.12.22試乗記メルセデス・ベンツのコンパクトSUV「GLA」に、充実装備の「アーバンスターズ」が登場。現行GLAとしは、恐らくこれが最終型。まさに集大成となるのだろうが、その仕上がりはどれほどのものか? ディーゼル四駆の「GLA200d 4MATIC」で確かめた。






























