BMW i8(4WD/6AT)
異次元のクルマ 2015.04.09 試乗記 BMWが次世代のスポーツカーとして世に送る、プラグインハイブリッド車「i8」。実際、どんなドライブフィーリングが得られるのか? 高速道路からワインディングロードまで、さまざまな道で試してみた。走りだしから意外の連続
どこをどう攻めても、涼しい顔で駆け抜けてしまうBMW i8には、「すんなり」というキーワードがよく似合う。汗ばんで肩を怒らせ、歯を食いしばり目を血走らせてねじ伏せる20世紀的なスポーツカードライビングとは、次元が違う。とても不思議な次世代走行物体だ。
その正体は、PHV(プラグインハイブリッド車)。フロントのモーターで前輪を駆動し、リアに搭載したエンジンが後輪を回す、電・ガス分業の変則4WD だ。最近はスポーツカー界でもハイブリッド車がトレンドの先端を突っ走っているが、最も未来的なのがi8。そのうえ1917万円と、圧倒的に買いやすい(?)のも魅力の一つだ。
濃密な未来感は、走りだした瞬間すぐわかる。コンソール上のeDRIVEボタンを押しておくと、まったくエンジンが掛からず、モーターだけでほとんど無音のままスイッと駆けだす。つまり前輪駆動のPEV(純EV)だ。
モーターの最高出力は131psにすぎないが、起動と同時に最大値に達するトルク25.5kgm(しかも3700rpmまで持続)は普通の自然吸気ガソリンエンジンなら2.5リッター級に匹敵するから、1.5トンの重量には十分以上。この状態での最高速は120km/hだから、そのまま高速道路の追い越し車線のペースにも乗れる。
搭載するリチウムイオンバッテリーの総電力量は7.1kWhと小さいが、電動航続距離は意外に長い。自宅の200Vコンセントで充電(2.5~3時間で満充電)してから出勤渋滞をくぐり抜け、高速道路も含めて30km以上、自由にEV状態を満喫できた。計器盤の燃費表示は、その間もちろん99.9km/リッターつまり∞km/リッターのままだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
“二つの顔”の実力派
そうこうするうちにバッテリーの残量が20%を割ると、自動的にeDRIVEが解除され、やっとエンジンがボボ~ッと目覚める。それからは通常のハイブリッド走行(定常走行と軽い加速ではエンジンが主役で発電機も回し、減速状態では休止)になる。エンジンで走るといっても高速巡航で18km/リッター以上、市街地で13km/リッターは確実だから、高性能スポーツカーとしてはケタ外れの環境性能だ。
その反面、ワインディングロードに差しかかるなど舞台が整えば、i8はまったく違う顔も見せる。コンソール上のドライブモードセレクターで走り優先のコンフォートを選び(といっても、環境優先のECO PROとの感覚差は非常に小さい)、さらにシフトレバーを左側に倒してスポーツモードに入れると、やおら野獣の咆哮(ほうこう)が響きわたる。エンジンそのものは1.5リッター3気筒の231psにすぎないのに、そんなことが信じられないほどの迫力だ。
実は、排気系に小型のマイクを仕込み、車外だけでなくコクピットに向けても増幅されたサウンドを届けているのだが、そこには人工的な合成音も混じるから、いったい何気筒なのか判断しにくい。
でも、スポーツモードへの切り替えと同時に、液晶画面に映像として投影されるエネルギーモニターが赤いタコメーターに変身するので、いやがうえにも気分が盛り上がる。これをにらんで思い切り6500rpmまで引っ張り、シフトパドルかシフトレバーでシフトアップする瞬間、かすかにパスッとポップオフバルブが余剰過給圧を解放して、スポーツドライビングのリズム感を強調する。
端々に「未来」が感じられる
しかし、それでも「すんなり」は変わらない。高らかに吼(ほ)え、ハイブリッドシステム合計で360ps以上をたたき出し、ゼロ発進100km/hまでわずか4.4秒という「ポルシェ911」並みの加速力(最高速は250km/hでリミッター作動)を誇りながらも、必要以上の力みを感じさせないのだ。
まるでゲーム機のように軽いステアリングを切り込むと、すかさず前輪の確実な踏ん張り感が返ってくるだけでなく、そのまま踏み続けても、だらしないアンダーステアなど皆無。速度や舵角(だかく)から最適値を算出する人工知能が瞬間ごとにモーターの出力を加減するから、コーナー進入時に決めた舵角を、そのまま立ち上がりまで一定に保つだけで足りてしまう。
そこをエンジンが後ろから押し出しすぎないように、前後のバランスも微妙に調整される。数字の上ではエンジンの方がパワフルだが、どう仕事をすべきかは前輪の状態を読んで決める。実質的にはモーターが主役かもしれない。
だから積極的なアクセル操作でテールを滑らせるなど、公道では実質的に不可能で、いつでもどこでもオン・ザ・レール感覚しかない。迫力たっぷりなのに、緊張も恐怖もないのだ。いつか将来、完全な自動運転が実現したら、きっとこのように走るのだろうと想像させられてしまう。
そんな未来は、i8全体の構成からも見て取れる。バッテリーケースを兼ねるバックボーンフレームなど、ほとんど全面的にアルミで作られたシャシーに、サスペンションはもちろんモーターもエンジンも集約。総カーボン製のボディーは乗員の安全を守るカプセルに徹している。これらを組み立てるライプチヒ工場の電力がすべて風力発電で賄われているのも、強い未来志向の表れだ。
リアのエンジンを見るには、ボルトを7本も外し、厳重なカバーをめくらなければならないし、フロントのモーター関係はのぞくことさえ許されない。すべてサービス工場に任せろというわけだ。こういうメンテナンスフリーなところにも、未来のクルマの姿が見える。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
付き合い方に注意は必要
それでいながら、どこか懐かしいというか、20世紀的な味わいに親しんだスポーツカー愛好家が納得しやすい部分もある。
流麗でドラマチックなクーペボディーは新しそうだが、じっくり眺めると小松崎茂(半世紀も前に少年の人気を集めたイラストレーター)の作品を思い出させる。コクピットの眺めも、既存のBMW各車を忠実に踏襲している。
その中でせめてもの新しさを強調するために、ポップアップドアを採用したのだろうか。大きく上に跳ね上がるので、全開でも側方に45cmしか張り出さず、狭い場所では助かるが、開いたドアの頂点は高さ195cmにも達するので、天井が低い車庫では要注意だ。
カーボンボディーの剛性確保のためサイドシルも高く幅広く(開口部の地上高は53cm、フロアから24cm、幅は22cmもある)、しかもドアを避けるためリンボーダンス的にのけぞらなければならないので、頻繁な乗り降りには適さない。実用性といえばプラス2としての後席もあるが、狭すぎて子供専用。大人は乗れても、完全に詰め込まれた状態にしかならない。
ともあれ、i8とデートした2日間だけで、これからのスポーツカー像を痛いほど思い知らされたのは否定できない。豊かで滑らかなトルクと鋭いレスポンスで異次元の走りを表現しているからだ。
だとすれば、フロントにモーターを2基搭載し、左右それぞれ個別に加速も減速もできる次期「ホンダNSX」がどんなハンドリングをみせてくれるのか、今まで以上に興味が盛り上がる。
(文=熊倉重春/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
BMW i8
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1940×1300mm
ホイールベース:2800mm
車重:1500kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期モーター
トランスミッション:6AT
エンジン最高出力:231ps(170kW)/5800rpm
エンジン最大トルク:32.6kgm(320Nm)/3700rpm
モーター最高出力:131ps(96kW)/3800rpm
モーター最大トルク:25.5kgm(250Nm)/0-3700rpm
タイヤ:(前)215/45R20 95W/(後)245/40R20 99W(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:19.4km/リッター(JC08モード)
価格:1917万円/テスト車=2074万6000円
オプション装備:ピュア・インパルス<20インチBMW i ライトアロイホイールWスポークスタイリング470+ストレージパッケージ+アンソラジットルーフライニング+拡張機能付きLEDヘッドライト+スフェリック・パーフォレーテッド・フルレザーシート+「i8」エンボス加工ヘッドレスト+ブラック・セラミック・セレクターレバー+ブラックレザー・パイピング+BMW i ブルーステッチ入りフロアマット+ブラックレザー・エンジンカバー+アミドメタリック・ドアシルプレート+ブラックハイグロス・フロントブレーキキャリパー+BMW i ピュア・インパルスカード>(147万円)/BMW i コネクテッド・ドライブ・プレミアム<コネクテッドドライブサービス+BMWドライバーサポートデスク>(5万7000円)/メタリックペイント<アイオニックシルバー/BMW i ブルーアクセント>(4万9000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:7829km
走行状態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:377.0km
使用燃料:24.0リッター
参考燃費:15.7km/リッター(満タン法)/10.0km/リッター(車載燃費計計測値)

熊倉 重春
-
ケータハム・スーパーセブン2000(FR/5MT)【試乗記】 2026.4.28 往年のスポーツカーの姿を今日に受け継ぐケータハム。そのラインナップのなかでも、スパルタンな走りとクラシックな趣を同時に楽しめるのが「スーパーセブン2000」だ。ほかでは味わえない、このクルマならではの体験と走りの楽しさを報告する。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.4.27 「ランボルギーニ・テメラリオ」がいよいよ日本の道を走り始めた。その電動パワートレインはまさに融通無碍(むげ)。普段は極めて紳士的な振る舞いを見せる一方で、ひとたび踏み込めばその先には最高出力920PSという途方もない世界が広がっている。公道での印象をリポートする。
-
アルファ・ロメオ・ジュニア イブリダ プレミアム(FF/6AT)【試乗記】 2026.4.25 世界的に好調な販売を記録している、昨今のアルファ・ロメオ。その人気をけん引しているのが、コンパクトSUV「ジュニア」だ。箱根のワインディングロードでの試乗を通し、その魅力をあらためて確かめた。これが新時代のアルファの生きる道だ。
-
ホンダ・シビックe:HEV RS プロトタイプ(FF)【試乗記】 2026.4.23 一部情報が先行公開され、正式な発表・発売を2026年6月に控えた「ホンダ・シビックe:HEV RS」のプロトタイプにクローズドコースで試乗。2ドアクーペ「プレリュード」と同じ制御技術「ホンダS+シフト」が移植された、新たな2ペダルハイブリッドスポーツの走りやいかに。
-
日産アリアB9 e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.4.22 「日産アリア」のマイナーチェンジモデルが登場。ご覧のとおりフロントマスクが変わったほか、インフォテインメントシステムも刷新。さらに駆動用電池の温度管理システムが強化されるなど、見どころは盛りだくさんだ。400km余りをドライブした印象を報告する。
-
NEW
第959回:「うすらデカいフィアット」がもたらしてくれたもの
2026.4.30マッキナ あらモーダ!11年にわたりモデルライフを重ねてきた、フィアットのCセグメント車「ティーポ」が、ついに生産終了に……。知る人ぞ知る一台の終売の報を受け、イタリア在住の大矢アキオが、“ちょっと大きなフィアット”の歴史を振り返り、かつての愛車の思い出を語る。 -
NEW
BMWの新世代BEV「i3」の姿からエンジン搭載の次期「3シリーズ」を予想する
2026.4.30デイリーコラム「iX3」に続き、完全な電気自動車として登場した新型「i3」。BMWはノイエクラッセをプロジェクトの御旗に電動化を推進しているが、同社の伝統たる内燃機関搭載車「3シリーズ」のゆくえやいかに。 i3の成り立ちからその姿を予想する。 -
ディフェンダー110オクタP635(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.29試乗記「ディフェンダー」シリーズの旗艦「オクタ」が2026年モデルへとアップデート。メカニズム面での変更はごくわずかのようだが、その速さと快適さは相変わらず圧倒的で、それはオンロードでもオフロードでも変わらない。300km余りをドライブした印象をリポートする。 -
第110回:新型BMW i3(前編) ―BEV版「3シリーズ」のデザインはなぜ「ノイエクラッセ」から変節したのか?―
2026.4.29カーデザイン曼荼羅いよいよ登場した新型「BMW i3」。スポーツセダンのベンチマーク「3シリーズ」がついに電気自動車となったわけだが、そのデザインにはどんな見どころがあるのか? ショーカー「ビジョン ノイエクラッセ」から様変わりした理由とは? カーデザインの識者と考えた。 -
「シビック タイプR」は入手困難 北米生産の「インテグラ タイプS」はその需要を満たせるか?
2026.4.29デイリーコラムホンダが北米生産の「アキュラ・インテグラ タイプS」の国内導入を発表した。エンジンなどのスペックから、それが「シビック タイプR」にほど近いクルマであることがうかがえる。果たしてタイプSは入手困難なタイプRの代替になるのだろうか。 -
クルマの開発で「コストをかけるところ」と「割り切るところ」はどのように決まるのか?
2026.4.28あの多田哲哉のクルマQ&A車両開発において、予算配分は「顧客に最も満足してもらえるクルマ」をつくるための最重要事項である。では、それはメーカー内で、どんなプロセスで決まるのか? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。















