フォルクスワーゲン・ゴルフRヴァリアント(4WD/7AT)
速いゴルフのワゴンなのでR 2017.07.24 試乗記 さらなる進化を遂げた「ゴルフRヴァリアント」。「速いゴルフなら『GTI』で十分」という筆者の見方は、果たして? 共働きファミリーの日常を想定し、「R」モデルのワゴンが持つ、真の価値について考えた。ゴルフGTIで十分!?
フォルクスワーゲン・ゴルフRヴァリアントを前にして思うのは、ゴルフGTIで十分ではないか、ということだ。現行のGTIは速くて滑らか、めっちゃ洗練されたスポーツハッチの金字塔、あれ以上のゴルフがホントに必要なのか。
ちなみにゴルフRとゴルフGTIのスペックの違いを紹介すると、2リッター直列4気筒ターボエンジンを搭載するのは共通ながら、Rの最高出力は310ps、対するGTIは230ps。Rがフルタイム四駆と7段DSGを組み合わせるのに対し、GTIはFFで6段DSGとなる。
ここでフォルクスワーゲンのラインナップを眺めると、ゴルフGTIにはヴァリアント(ステーションワゴン)の設定がないことに気付く。なぜGTIにヴァリアントの設定がないのか、その理由はわからない。ただ、いまやGTIは単なるモデル名を超えたホットハッチの代名詞的な存在。そこにワゴンを設定してホットワゴンが生まれてしまうと、話がややこしくなることはなんとなく理解できる。
いずれにせよ、「速いゴルフのワゴン」を選ぶとしたら、ゴルフRヴァリアントになる。
で、1日半ほどゴルフRヴァリアントをお借りして、正札569万9000円のこのクルマがガレージに収まっている生活をなんとなく想像したのでR。ゴルフRの“R”とかけてみたけれど、この嵐山光三郎さんに代表される昭和軽薄体をご存じの方は、40代半ば以上の年齢ではないだろーかとソーゾーする。
ゴルフRヴァリアントを購入するご家庭は、共働きだと勝手に想像する。1974年のデビュー以来、世界中の人々に等しく、肉屋さんにも銀行員にもドラマーにも、新しいモータリゼーションを提供してきたゴルフというモデルの民主的なイメージがそうさせるのだろう。
というわけで、ひとり娘を幼稚園に送るのは電車通勤する会社員のご主人の役目。夕方、仕事を終えた奥さまが、ゴルフRヴァリアントで幼稚園へ迎えに立ち寄る。奥さまの職業は、インテリアコーディネーターとかフラワーアレンジメントの先生とか、荷物を運ぶ機会が多い職種。ここではインテリアコーディネーターということにしておきましょう。会社から独立したフリーランサーで、大体いつもクルマで移動している。
平日は忠実な仕事のアシ
日中のゴルフRヴァリアントは、奥さまの忠実な仕事のアシだ。ボディー四隅の見切りはいいし、サイズも手ごろ。欲をいえば日本で使うにはもう少し幅が狭いほうがありがたいけれど、おおむね運転しやすく、アポの時間が迫っていても都心のコイン駐車場に心理的な余裕を持って止められるのはありがたい。
もちろん立体駐車場にも難なく収まるから、都市部をちょこちょこ移動するような使い方も問題なくこなす。
20〜30km/h程度の速度域までは乗り心地が多少ゴツゴツするけれど、その領域さえ越してしまえば乗り心地はフラットで滑らか。特に足まわりの性格を変えられる「DCC」を「コンフォート」にセットすると快適至極。
ま、いまや500ps超のスーパースポーツであっても快適な乗り心地を提供する時代、310psのゴルフRの乗り心地は驚くには値しないかもしれない。と、書きつつも、本心では少し驚いた。もう少しバッタンバッタンするかと予想していたけれど、ヨンマル偏平(へんぺい)の薄いタイヤを完全に履きこなしている。
乗り心地よりも、速度域を問わずボーボーと重低音がうなる排気音のほうが、タダ者ではないスゴ味を伝える。あるいはドライバーのヤル気を盛り上げる演出かもしれない。けれども、洗練された足まわりと少し野蛮な排気音の組み合わせにはミスマッチ感あり。「野太い排気音=スポーティー」という公式を見直す時期かもしれない。
「R」ならではの存在感
インテリアコーディネーターの奥さまにとっては、荷室の使い勝手のよさは大事。見本用の椅子とか、湿度をコントロールする新しい壁材のサンプルとか、新しい柄のカーテンとか、いろんなモノを積む必要があるのだ。
その点、後席バックレストのレバーを操作するとワンアクションでバックレストが倒れるゴルフRヴァリアントは合格。しかも荷室床面がフラットで、荷室空間内に余計な出っ張りがないからモノを積み込みやすい。
職業柄、インテリアの質感は気になるけれど、ゴルフRはレベルが高い。基本的にはブラックとシルバーのツートンのコーディネート。でもよくよく見れば、同じブラックでも場所によって黒の深みやつやが異なり、シルバーの輝きも変化させている。
こういう細かい配慮によって、ブラック×シルバーの組み合わせだけでも豊かな表情が与えられるのだ。
もうひとつ、世界のさまざまな名作チェアに座ったことのある奥さまは、ゴルフRヴァリアントのシートの出来にも感心する。ふんわり包んでいるようで、実はしっかりホールドするシートは、実際に長時間乗っても疲れないのだ。
このクルマを仕事に使ってよかったと思えることのひとつが、知的でモノの価値がわかった人間に見られることだ。これは、ゴルフというモデルが40年以上かけて築き上げたイメージもあるけれど、シンプルでありながらスタイリッシュに見える、デザイン性の高さにもよる。
もうひとつ、「あいつ、もうかってんな」的な、ねたみの視線を浴びないこともゴルフというクルマの人徳である。
仕事を終えた夕方、ひとり娘を幼稚園に迎えに行くときも同じ。目立たないけれど存在感はあるという、絶妙のポジションをゴルフは獲得している。幼稚園にお迎えに来たおとーさんの中に、まれに「R」のエンブレムに気付く人もいるけれど、多くの人はこのクルマが500万円もして、なんならポルシェと一騎打ちできるくらい速いということには気付かない。
家族想いのハイパフォーマンス高級GT
そして休日、広大な荷室にベビーカーとかビーチパラソルとかボディーボードとか、たっぷり載せて遠くへ出掛ける。奥さまも運転は好きだけれど、平日にハンドルを握っているのでここはドライバーズシートをご主人に譲る。
高速道路では、パワーにゆとりのある優雅なクルーザーだ。巡航速度が上がると、前出のDCCを「ノーマル」にセットしたほうが上下の揺れがビシッと収まるようになって、より快適になる。アクセルペダルを踏み込むと310psがさく裂して、ボーボー言っていた排気音が抜けの良いサウンドに激変、猛烈なダッシュを見せる。でも追い越し車線を爆走するのも、ゴルフというモデルのキャラに合わないような気がする。
では310psをどこで発散させるのか? やっぱりワインディングロードでしょう。そしてここで、ゴルフGTIとの差が顕著になる。FFのGTIのほうが身軽というか、同じコーナーでもRよりシャープにターンインする。運転にコツがいるのもGTI。四駆のRはアクセルを踏みすぎても、前後の駆動力配分をほぼ0:100から100:0まで自在に変化させることで、オン・ザ・レール感を保つのだ。
GTIは230psといっても二駆だから、駆動輪1本あたりが受け持つパワーは115ps。いっぽうRは310psを4本に振り分けるから、約77ps。1本にかかる負荷が全然違うのだ。
だからといってゴルフRのコーナリングが退屈であるというわけではなく、むしろコーナーでの振る舞いはモダンで洗練されているといえる。タイムを競えば圧倒的にRだろう。でも面白いもので、古典的ではあるものの、操縦している実感はGTIのほうが強い。
というわけで、ゴルフRとゴルフGTIのすみ分けが、自分のなかでしっかりまとまった。Rは速いクルマはもちろん好きだけれど、家族や趣味などほかにも大切なものがあるハイパフォーマンス高級GT。GTIは、クルマ命のエンスージアストに向けたドライビングマシン。RにヴァリアントがあってGTIにはないのは、そんなところも理由だとお見受けした。
(文=サトータケシ/写真=小林俊樹/編集=大久保史子)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフRヴァリアント
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4595×1800×1465mm
ホイールベース:2635mm
車重:1570kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:310ps(228kW)/5500-6500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2000-5400rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:13.0km/リッター(JC08モード)
価格:569万9000円/テスト車=574万2200円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット<プレミアムクリーン>(4万3200円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1412km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:128.0km
使用燃料:16.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.9km/リッター(満タン法)/9.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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