ルノー・カジャー インテンス(FF/7AT)
古き良き時代の残り香 2018.05.30 試乗記 ルノーの新型SUV「カジャー」に試乗。巷間(こうかん)言われているとおり、その“生い立ち”は、確かに日産とのアライアンス関係によるもの。しかし、ひとたび走らせてみると、ルノーらしい味付けがしっかりと効いた、どこか懐かしみを感じるクルマに仕上がっていた。販売好調な日産車のルノー版
いつだったか、日産のエンジニアと話をする機会があった。その人は日本では販売されないクロスオーバーSUV「キャシュカイ」の開発を手がけたものの「自信作なんですが、日本で販売できないのは忸怩(じくじ)たる思いです」と話していた。キャシュカイはかつて日本で販売していた「デュアリス」の後継モデル。欧州全域で販売好調だという。確かに最近欧州で最も頻繁に見かける日産車はキャシュカイだ。北米では「ローグスポーツ」という車名で売られ、やはり販売好調のもよう。
なぜ日本市場では販売しないのか? エンジニアによれば同じプラットフォームを使う「エクストレイル」とサイズが似ているため、日本ではC/DセグメントのSUVをエクストレイルに統一するという経営陣の判断だそうだ。「エクストレイルよりもスポーティーな性格をもたせていて、乗って受ける印象はまるで違う。似たようなクルマをラインナップしているということにはならないはずなんです」と悔しそうに話すのが印象的だった。
今回乗ったルノー・カジャーは、そのキャシュカイのルノー版。と偉そうに書いたが、編集部に「カジャーに乗ってください」と言われた時、寡聞にして(!?)どういうクルマか頭に浮かばなかった。「いつ出たの?」と私。「この4月ですが、2017年夏にも100台限定で販売されました」と編集部。記憶にない。反省。
柔らかさがいい感じ
知らなかった告白の後だと取り繕っているように思われるかもしれないが、そうではなく東京・恵比寿の街中で引き渡されたカジャーの第一印象は本当に悪くなかった。突出して美しい部分があるわけではないが、ダメな部分もなく、うまくまとまっている。近頃のフランス車には外観にクロームを多用し、要素が多くガチャガチャしているモデルが少なくないが、カジャーはシンプルだ。前後フェンダーまわりの曲線が肉感的。地味だが深みのある「グリチタニアムメタリック」のボディーカラーがシルエットをより美しく見せている。
クッションのソフトなシートに腰を落ち着け、ポジションを調整して走行開始。すぐに当たりの柔らかい乗り心地を全身に感じる。フランス車だから“柔らかい”と決めつけて書いているわけではない。最近はけっこうガツンとくるフランス車もある。全体的にだんだんそうなってきているといっても過言ではない。しかしカジャーは本当に柔らかい。適度に柔らかい。ステアリングを切った時にぐらりとではなくじわりとロールする。ロールスピードがよくチェックされているというやつだ。
細かい入力、例えば荒れた路面を走行した際には、よくできたエアサスを使った高価なモデルほどではないにせよ、そこそこ不快さを取り除いたうえで、荒れているという情報も乗員に伝えてくれる。225/45R19という見た目重視の立派なサイズのタイヤが装着されているが、バタつく様子はない。足まわりの印象は昔のルノーという感じだ。これは褒め言葉である。大昔のように、フラットネスなんて考えずにロールしまくるようなソフトなものは難しいにせよ、フランス車、とりわけルノーには少しでもソフトな足まわりを期待したい。カジャーにはそうした時代の残り香がある。昔と違うのはステアリングフィール。アシスト量が適切で、フィールもしっとりしていて好ましい。
カーナビがなくても問題なし
1.2リッター直4ターボエンジンは実用域のトルクが厚く、車重1410kgのカジャーに対して十分だ。最高出力や最大トルクの数値はエクストレイルの2リッター直4ガソリンエンジンと同程度だが、ターボエンジンのほうがより低回転域にスイートスポットがあるため、力を引き出すのにエンジンの回転数を上げなくても済む。その分静かでもある。
7段のデュアルクラッチ式トランスミッションはトルコン型ATのように変速ショックをなくすことを優先したセッティングになっているため、ダイレクト感はないが、別にこれで問題ない。
センターパネルには7インチタッチスクリーンが備わり、肝心のカーナビを除いたさまざまな機能が盛り込まれている。でも大丈夫。スマートフォンをつなげ、Apple CarPlayかAndroid Autoを使えばカーナビ機能を呼び出すことができる。無理して中途半端にローカライズされたカーナビに数十万円支払うよりもスマホをミラーリングできるようにしてくれるほうがよほどありがたい。後席もそこそこ広く、大人4人での長時間ドライブも十分にこなすだろう。ラゲッジ容量は527リッター。
日産も売るべきだ!?
カジャーは地味だがよいクルマだった。“その手があったか系”のクルマ選びをしたい人にオススメしたいと言いたいところなのだが、347万円と価格だけ地味じゃない。こうなると事情が変わってくる。19インチホイールは要らない。レザーシートも要らない。もっとアフォーダブルにお願いしたい。
カジャーの素性のよさを知って思う。日産のラインナップにキャシュカイがあれば、受け入れられるのではないだろうか。キャシュカイを2列シート5人乗り、エクストレイルを3列シート7人乗りに分けちゃってもいいし、今のままエクストレイルに5人乗りと7人乗りがある状態でもよいと思う。各サイズのSUVに、SUVとそのクーペ版を用意するメルセデス・ベンツやBMWの細分化大作戦、あるいはジャガーとランドローバーによる同門競作大作戦を見れば、ある程度までラインナップは多ければ多いほどビジネスとしてうまみがあるというのが最新のクルマ商売のトレンドなのではないだろうか。
インポーター各社がリスクを背負ってラインナップを充実させるなか、日産が日本市場でラインナップを絞るのは寂しい。寂しすぎる。カジャーに乗って日産を嘆くのもおかしな話だが、カジャーに乗って導かれた結論なのでお許しいただきたい。
(文=塩見 智/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ルノー・カジャー インテンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4455×1835×1610mm
ホイールベース:2645mm
車重:1410kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:131ps(96kW)/5500rpm
最大トルク:205Nm(20.9kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)225/45R19 96W XL/(後)225/45R19 96W XL(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:--km/リッター
価格:347万5280円/テスト車=353万7920円
オプション装備:ETC車載器(1万2960円)/フロアマット<ベーシックタイプ>(1万8360円)/エマージェンシーキット(3万1320円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1186km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:605.0km
使用燃料:50.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.0km/リッター(満タン法)/7.9リッター/100km(約12.7km/リッター、車載燃費計計測値)

塩見 智
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
NEW
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】
2025.12.2試乗記「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。 -
NEW
4WDという駆動方式は、雪道以外でも意味がある?
2025.12.2あの多田哲哉のクルマQ&A新車では、高性能車を中心に4WDの比率が高まっているようだが、実際のところ、雪道をはじめとする低μ路以外での4WDのメリットとは何か? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
BYDシーライオン6
2025.12.1画像・写真BYDオートジャパンが、「ジャパンモビリティショー2025」で初披露したプラグインハイブリッド車「BYDシーライオン6」の正式導入を発表した。400万円を切る価格が注目される新型SUVの内装・外装と、発表イベントの様子を写真で詳しく紹介する。 -
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】
2025.12.1試乗記ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。 -
あんなこともありました! 2025年の自動車業界で覚えておくべき3つのこと
2025.12.1デイリーコラム2025年を振り返ってみると、自動車業界にはどんなトピックがあったのか? 過去、そして未来を見据えた際に、クルマ好きならずとも記憶にとどめておきたい3つのことがらについて、世良耕太が解説する。 -
第324回:カーマニアの愛されキャラ
2025.12.1カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。マイナーチェンジした「スズキ・クロスビー」が気になる。ちっちゃくて視点が高めで、ひねりもハズシ感もある個性的なキャラは、われわれ中高年カーマニアにぴったりではないか。夜の首都高に連れ出し、その走りを確かめた。






















