ロータス・エリーゼ(MR/6MT)【試乗記】
引退なんてありえない 2011.01.20 試乗記 ロータス・エリーゼ(MR/6MT)……532万円
マイナーチェンジで、見た目も中身も新しくなった「ロータス・エリーゼ」。その仕上がり具合をチェックしてみた。
この味、いまだけ?
2010年のパリサロンでのロータスは、衝撃的だった。復活版「エスプリ」から4ドアの「エテルネ」まで、一度に5台のコンセプトカーを登場させたからだ。
しかしそのうちの1台、次期型「エリーゼ」には、複雑な感想を抱いた。320psを発生するスーパーチャージャー付き2リッターエンジンで、全長4m、全幅1.85mのボディを270km/hまで引っ張るという内容は、もはやライトウェイトスポーツではないと思ったからだ。
次期型の車重は1095kgだからライトウェイトだと反論する人もいるだろうが、限られたパワーを使い切り、小型軽量ボディが生み出すキビキビ感を味わうという「人車一体感」は、スペックを見る限り薄れているような気がした。
今回のエリーゼの取材は、ゆえに特別な感情とともに臨むことになった。次期形の発表は2015年とまだ先なのに、「現行エリーゼに乗れるのはあとわずか」という気持ちが先行してしまったのだ。
試乗したのは、6月に発表された2011年モデルのベーシックグレード。2006年にインプレッションを書かせていただいた先代エリーゼSと比較すると、外観は前後左右のルーバー風装飾が消えたおかげで、クリーンかつモダンになった。
高く幅広いサイドシルを乗り越えてのアクセスは従来どおりだが、インパネは2008年の「SC」追加あたりから採用されたタイプに替わっている。エアバッグやパワーウィンドウ、スターターボタンなど、装備レベルは今日的になった。
それでいてフロアやサイドシルには、アルミフレームが露出している。これを安っぽいと捉えるのは間違いで、むしろ内装材でごまかせないからこそ、工作水準の高さが実感できる。これだけで鑑賞に値する工芸品的な造りだ。
変わらないスピリット
メカニズムにおける最大の変更点は、ベースグレードのトヨタ製エンジンが1.8リッターから1.6リッターになったことだ。
目的はもちろん環境性能の向上で、燃費は23%向上、1kmあたりのCO2排出量は13%以上削減されている。フェラーリやポルシェを含め、多くのスポーツカーがちゅうちょするダウンサイジングを、いち早く実践した勇気に拍手を送りたい。
ただし最高出力こそ136psのままだが、最大トルクは17.6kgmから16.3kgmに下がっている。トランスミッションは5段から6段に増えたものの、車重は870kgから900kgに増えた。そのため平坦地のダッシュは不満ないものの、山道では的確な変速を行わないと、望みどおりの加速が手に入りにくくなった。
無造作にスロットルペダルを踏むだけで必要な力が得られるクルマに慣れてしまったから、こう感じたのかもしれない。でも考えてみれば、本来スポーツドライビングとはこういうものだったはずだ。
しかもエンジンは旧型の1.8リッターよりなめらかに回るうえに、3000rpm以上ではフォーンという快音を発し、トルクが明確に盛り上がるなど、スポーツカーらしいピークを備えている。ペダル配置はヒール&トゥに最適で、アルミのノブを持つシフトレバーはメカニカルなタッチが心地いい。2011年モデルになっても、正統派ライトウェイトスポーツの精神は不変だった。
50km/hの非日常
そんなパワートレインの能力をフルに引き出し、ワインディングロードを駆け抜けるとき、ドライバーは無心になれる。操舵(そうだ)に対してスッと向きを変え、路面にぴたっと張り付き、思ったとおりのラインを抜けていく心地よさは、セダンやハッチバックベースのスポーティカーとはまったく別次元にある。
しかしエリーゼは峠走りだけが魅力の単能的なクルマではない。6速で約2500rpmの100km/hクルージングは、ノイズレベルは相応だし、オープンでは背後から忍び込む寒気が気になるけれど、直進安定性や姿勢のフラット感は小型軽量車とは思えぬレベルにあるから、慣れれば何時間でも走り続けられる。
乗り心地は旧型より少し固くなったようで、アルミフレーム特有のパキッとしたショックが目立つようになったが、プロバックスシートの素晴らしすぎる設計のおかげで、不快には感じない。エンジンは使いやすいし、操作系は軽いし、なによりも小さいから、乗り降りにさえ慣れれば足代わりに使える。
でもエリーゼなら、日常的な場所へ行く時間さえ、非日常に変えてくれる。たとえ50km/hしか出せなくても、じゅうぶんスポーツできる。ついでに言えば、周囲へのアピール度も高い。とくに子供からの人気は絶大だ。こんなクルマが他にあるだろうか? だからこそ、1日も長く現役を続けてほしいと思った。
(文=森口将之/写真=峰昌宏)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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