第16戦ブラジルGP「バトンに問う、チャンピオンの資質」【F1 09 続報】

2009.10.20 自動車ニュース
キャリア10年目にしてようやく初タイトルを勝ち取ったジェンソン・バトン。2000年に名門ウィリアムズから鳴り物入りでデビュー、将来を有望視されたが、その後ベネトン/ルノー、BAR(ホンダの前身)、ホンダではいい環境に恵まれず。2006年ハンガリーGPで悲願の初優勝を遂げるが、勝利はこれっきりのまま、2008年末、ホンダF1撤退を受けドライバー生命の危機にも直面した。今年、ホンダ改め新生ブラウンGPで才能を開花させ、6勝をマークしワールドチャンピオンに。イギリス人としては10人目の王者誕生である。(写真=Brawn GP)
第16戦ブラジルGP「バトンに問う、チャンピオンの資質」【F1 09 続報】

【F1 09 続報】第16戦ブラジルGP「バトンに問う、チャンピオンの資質」

2009年10月18日、ブラジルのインテルラゴスで行われたF1世界選手権第16戦ブラジルGP。ジェンソン・バトンは予選14位から挽回し5位でゴール、最終戦を待たずして悲願の栄冠を勝ち取った。開幕から7戦6勝、怒濤の快進撃でGPを席巻したのも既に懐かしく、6月上旬の第7戦トルコGP以来バトンに勝利はない。後半戦の低調ぶりに王者の資質を問う意見も聞かれたが……。

ホンダF1をチーム代表のロス・ブラウンが引き受けることで、短期間で奇跡的に参戦が実現したブラウンGP。ホンダのエンジニアたちが技術と知識の粋を集めつくった「BGP001」は、バトンの手により6勝、ルーベンス・バリケロにより2勝し初年度で見事コンストラクターズタイトルを獲得。それもブラウンをはじめ、2人のドライバー、厳しい状況下で八面六臂の活躍をみせたチームクルーの賜物である。(写真=Brawn GP)
ホンダF1をチーム代表のロス・ブラウンが引き受けることで、短期間で奇跡的に参戦が実現したブラウンGP。ホンダのエンジニアたちが技術と知識の粋を集めつくった「BGP001」は、バトンの手により6勝、ルーベンス・バリケロにより2勝し初年度で見事コンストラクターズタイトルを獲得。それもブラウンをはじめ、2人のドライバー、厳しい状況下で八面六臂の活躍をみせたチームクルーの賜物である。(写真=Brawn GP)
レース前、タイトル獲得を目指す3人のドライバー。ポイントリーダーのバトン(中央)、ランキング2位のバリケロ(右)、3位セバスチャン・ベッテル(左)。(写真=Red Bull Racing)
レース前、タイトル獲得を目指す3人のドライバー。ポイントリーダーのバトン(中央)、ランキング2位のバリケロ(右)、3位セバスチャン・ベッテル(左)。(写真=Red Bull Racing)

■チャンピオンに相応しいか

1位 ジェンソン・バトン 85点
2位 ルーベンス・バリケロ 71点
3位 セバスチャン・ベッテル 69点

ブラジルGP前、2戦を残した時点でタイトルの可能性があった3人の位置関係である。バトンは3位以上でゴールすると自力でチャンピオンになれる。だが仮に無得点に終わると、バリケロ4位以上、ベッテル2位以上で最終戦の舞台、アブダビの新コースに持ち越される。

最後に勝って以来、8戦にわたるバトンの戦績は、2位1回、5位2回、6位1回、7位2回、8位1回、リタイア1回というもの。表彰台はイタリアでの1回のみ、ほかではしぶとく小さな点を稼いできた。最大で26点あった貯金は、8レースで14点にシュリンクしたが、それでも一度もポイントリーダーの座を明け渡さなかったのは、この堅実な“ポイント拾い”による。

前半戦で破竹の連勝を記録したバトンは、後半になりなぜ勝てなくなったのか。実のところその答えは誰にもわからない。未勝利のスタート地点、第8戦イギリス、次のドイツでは、涼しい気候でタイヤを十分あたためられないことが要因とされた。しかし夏の暑さが戻ってもバトンは上位になかなか顔を出せず、いっぽうでチームメイトのバリケロはバレンシア、イタリアと2勝を記録した。よりアグレッシブなドライビングスタイルのバリケロに、ブリヂストンタイヤとアップデートされたマシンがマッチしていた、ともいえるが定かではない。シーズン序盤に不調だったマクラーレン、フェラーリの中盤以降の復活も影響したかもしれない。

1年の真ん中を頂点に描かれるなだらかな下降線、と表現してしまえば簡単だ。バトンはチャンピオンたる資質を持ち合わせているか、という論議もわからないでもない。しかし事はそれほど単純でもない。

仮にバトンにその資質が足りなかったとしたら、母国ブラジルの大声援に押され息巻く最大のライバル、バリケロがポールポジションを奪取し、自分が予選14位からスタートしなければならなかったとき、大きなプレッシャーのなかで果敢に前車を追い抜き、そして着実にポイントを手にするということができたであろうか? 勝てない自分と対峙しながら、心折れず毎戦ミスなく得点を続けることはできたであろうか?

決定戦ブラジルGPでもトップ争いに加わることなく終わった新チャンピオンだが、未勝利を続けた後半の戦いぶりも、王者の名に恥じないものだった。例えば昨年最終戦まで覇を競い合ったルイス・ハミルトンとフェリッペ・マッサは、何度ミスをおかし、点を取りこぼしたことか。追突されてリタイアしたベルギーGPを除き、バトンはすべてのレースで着実にポイントを集めた。流れが自分にないときに、でも。

スタートでトップを守るポールシッターのバリケロ(先頭)。後続ではスピン、クラッシュが多発し、早々にセーフティカーが導入された。(写真=Brawn GP)
スタートでトップを守るポールシッターのバリケロ(先頭)。後続ではスピン、クラッシュが多発し、早々にセーフティカーが導入された。(写真=Brawn GP)
このレースを制したマーク・ウェバー(右)と、2位ロバート・クビサ(左)。今年ドイツGPで念願の初優勝を記録したオーストラリア人は、危なげないレース運びで2勝目をマーク。今年1年苦しんだクビサは今季初表彰台。(写真=Red Bull Racing)
このレースを制したマーク・ウェバー(右)と、2位ロバート・クビサ(左)。今年ドイツGPで念願の初優勝を記録したオーストラリア人は、危なげないレース運びで2勝目をマーク。今年1年苦しんだクビサは今季初表彰台。(写真=Red Bull Racing)

■バトンに吹く風

サンパウロといえば不安定な天候がいたずらをすることで有名だが、今回も例外ではなかった。金土と時折激しい雨に見舞われ、特に土曜日の予選はセッション中断を挟み2時間40分もの時間を要し、大荒れの展開となった。

空模様に翻弄され下位グリッドに沈んだドライバーのなかに、栄冠を目指す2人が含まれていた。レッドブルのベッテルは、難しい状況下でアタックのタイミングを誤り予選16位でQ1敗退。バトンはQ2で破れ14位と、2人にはレースを前に高い障壁が立ちはだかった。

いっぽうもう1人のチャレンジャー、バリケロは母国で5年ぶりのポールポジションを獲得。奇跡の逆転が起こりうるグリッドポジションだ。バリケロにとって理想的なのは、ブラジルで勝利し、バトンがノーポイントで4点差で最終決戦を迎える、というシナリオ。しかしこの筋書きは、早々に書き換えられてしまう。

スタートでトップを守ったバリケロに、予選2位のマーク・ウェバーが続いたが、後続で混乱が生じた。ベッテルとの接触でヘイキ・コバライネンがジャンカルロ・フィジケラを道連れにスピン、キミ・ライコネンはウェバーにあたりノーズを壊し、ヤルノ・トゥルーリとエイドリアン・スーティルは、フェルナンド・アロンソを巻き添えにスピン、クラッシュ。セーフティカーの出番となった。

この混乱に乗じて、バトンは9位、ベッテルは11位までジャンプアップ。早くもポイント目前にまできたポイントリーダーに追い風が吹いた。そしてその風に乗るように、ロマン・グロジャン、中嶋一貴らを次々とパスし7位まで上昇すると、今度は療養中のティモ・グロックにかわりGPデビューを果たしたトヨタの小林可夢偉に照準を合わせた。
しかしタイトル争いなどどこ吹く風の小林は、執拗にラインをブロック。バトンは1コーナーでオーバーテイクを試みるも、すかさずトヨタのマシンが差し替えし、ブラウンを前に行かせない。ポイントリーダーは、24周目の1コーナーでようやく血気盛んなルーキーを料理し、先を急いだ。

昨年のサンパウロでタイトルを勝ち取ったルイス・ハミルトン。予選で17位と出遅れたが、レースではセーフティカーにあわせ給油、タイヤ交換を済ませ1ストップ作戦を敢行。ロングランでのしぶとい走りが奏功し、見事3位表彰台にのぼった。(写真=Mercedes Benz)
昨年のサンパウロでタイトルを勝ち取ったルイス・ハミルトン。予選で17位と出遅れたが、レースではセーフティカーにあわせ給油、タイヤ交換を済ませ1ストップ作戦を敢行。ロングランでのしぶとい走りが奏功し、見事3位表彰台にのぼった。(写真=Mercedes Benz)
2人の日本人ドライバーがブラジルGPに出走。先輩格の中嶋一貴(左)は、ティモ・グロックの代役としてデビューした小林可夢偉(右)とコース上で丁々発止。 小林がピットアウトする際に2台は交錯し、中嶋はコースアウト、リタイアした。 血気盛んなトヨタのルーキーはコース各所で果敢な走りを披露、だがやや行き過ぎた感もあり、バトンはブレーキング時のライン変更の多さに苦言を呈すほど。予選11位から、ヘイキ・コバライネンのペナルティで順位をあげ9位完走。(写真=Toyota)
2人の日本人ドライバーがブラジルGPに出走。先輩格の中嶋一貴(左)は、ティモ・グロックの代役としてデビューした小林可夢偉(右)とコース上で丁々発止。
小林がピットアウトする際に2台は交錯し、中嶋はコースアウト、リタイアした。
血気盛んなトヨタのルーキーはコース各所で果敢な走りを披露、だがやや行き過ぎた感もあり、バトンはブレーキング時のライン変更の多さに苦言を呈すほど。予選11位から、ヘイキ・コバライネンのペナルティで順位をあげ9位完走。(写真=Toyota)

■当たり前のことを、当たり前に

これまでレースリーダーとして周回を重ねたバリケロが、21周目に最初のピットストップを実施。その2周後にロバート・クビサ、26周目にウェバーがピットに駆け込むと、早くに給油したバリケロはウェバーとクビサに先を越され、3位にまで落ちてしまった。バトンにとって最大のライバルの脱落は、さらなる追い風を意味する。

タイトル争いとは無縁のウェバーは、その後水を得た魚のようにトップを快走、またエンジンのオーバーヒートをケアしなければならないクビサは、今季自身最高位をキープし続けた。レース中盤を過ぎ、3位はバリケロ、バトンは6位。このままでいけば、バトンのタイトルが決まることになる。

そして残り10周、バリケロは予選17位から1ストップで驚異的な追い上げをみせていたルイス・ハミルトンに抜かれ4位に落ちると、やがてスローパンクチャーが発覚し緊急ピットイン、8位にポジションダウンしてしまう。これでバトンが5位、先んじて順位をあげていたベッテルは4位で、フェリッペ・マッサが振るチェッカードフラッグをくぐり抜け、バトンのポイントは誰にも抜かれないことが決定となった。

ウェバーの今季2勝目も、2位に入ったクビサや3位ハミルトンの健闘も、すべてはバトンのチャンピオン決定の前には霞んでしまった。当たり前に走る、ということすら難しいとされるタイトル決定戦で、バトンは当たり前にレースをこなし、必要とされる結果をちゃんと残した。当たり前とは、果敢に上を狙い、クレバーに状況を判断し、最後まで諦めずに走り切ることだ。初タイトルを前にそれをまっとうすることがいかに難しいかは、先人たちが口を揃えて唱えていることである。くだんの資質に関していえば、疑いようもない。

昨年末に消滅しかけたチームとともに勝ち取った栄冠。一団を率いる名将ロス・ブラウンをはじめ、敗れたバリケロですら、バトンとともにダブルタイトルを心から祝っていた。

最終戦アブダビGPは、11月1日に決勝が行われる。

(文=bg)

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