第84回:人々に告ぐ!「アルファ145」を笑うな
2009.03.28 マッキナ あらモーダ!第84回:人々に告ぐ!「アルファ145」を笑うな
今どき155に……
イタリアの路上ではここ10年でめっきり古いクルマが減った。政府の自動車買い替え奨励金政策が繰り返されてきたためである。
それが始まったのは1997年。当時、フィアットを救済しようという目的だったのだが、EU加盟国である以上、対象を国産車に限定することができなかった。その結果、イタリア人ユーザーは一気に外国車に乗り換え、イタリアメーカーののシェアが3割を切るという逆効果を生んでしまった。
それはさておき、相次ぐ買い替え政策と並行して進んだディーゼルブームがきっかけで、気がつけばすっかり見かけなくなったモデルがある。そのひとつが「アルファ155」(1992-1997年)だ。
「フィアット・テンプラ」/「ランチア・デドラ」と共通のプラットフォームを用いながらも、そのスクエア感覚溢れるデザインは、デビュー時にそれなりのインパクトを人々に与えた。
ボクのシエナでのかかりつけ医や家主も乗っていた。家賃もこういう使われ方をするのなら、少々高くても許せた。
しかし、たとえディーゼルモデルがあっても旧世代の仕様だったため、、後年は環境対策で高額な自動車税が掛けられるようになってしまった。ガソリン仕様も、税金が高い高出力モデル中心だったことが災し、手放す人が増えた。ちなみに、かかりつけ医や家主も数年前に手放し、前者は「フォルクスワーゲン・ボーラ」に、後者は「フォルクスワーゲン・ルポ」に買い換えた。
今日、あるイタリアの若者にいたっては、「今どきアルファ155に得意になって乗ってるのは、外国人ぐらいだぜ」と言って、出稼ぎ労働者が多い、ある北アフリカの国名を挙げた。
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コマネチ ウィンドウ!?
「155」ほどではないものの、同様にイタリアで見かけなくなりつつあるモデルが、155の妹分とでもいおう、ハッチバックの「145」「146」(1994-2000年)だ。3ドアの145、5ドアの146とも、ウェッジの効いたスタイルは、155に負けず劣らず躍動的なモデルだった。
往年のビートたけしのポーズから、ボクが勝手に名付けた「コマネチ ウィンドウ」こと145のV字型リアウィンドウは、のちに多くのメーカーによる模倣を生んだ。
145/146は、基本的に初代「フィアット・ブラーヴォ」(日本名:ブラビッシモ)/「ブラーヴァ」と姉妹車ながらエンジンはチューンされ、エグゾーストノートもアルファ風味が効いていた。細部のフィニッシュも、フィアットよりも明らかに一段上質だった。
当時フィアット・ブラーヴォに乗っていた筆者は、「ボクのクルマは146のアウトレットだぜ」と負け惜しみを言っていたものだ。
145/146のベースモデルに搭載されていたエンジンは、その起源を「アルファ・スッド」に遡る、1.3リッター水平対向版だった。また、上級グレードには、2リッターツインスパークや1.9リッターターボディーゼルもあった。そうした豊富なバリエーションも効を奏し、145/146は当初から人気を博した。
当時イタリアのテレビでは「Cuore sportivo(スポーツ心)」のキャッチのもと、頻繁にCMが流れていた。以前ボクが住んでいた家のお隣さんも、シルバーの146を購入して、毎朝出勤時に丁寧に暖気運転をしていたのを覚えている。
しかし、じわじわと人気が高まってきた新世代の低燃費コモンレール・ターボディーゼルへのフィアットの対応は遅く、ようやく投入されたのは生産終了1年前の1999年だっだ。
そのため、155同様ディーゼルブームが訪れると、多くのユーザーがガソリンの145/146を手放してしまったのだった。
145のオーナー発見
個人的な体感にすぎないが、今やイタリアで145/146を発見する頻度は、東京の外資系企業の受付にバング&オルフセンの電話が備えられているのを見かけるのより低い。
そうした中、我が家がときおり訪れるワイナリーに、いまだ145が佇んでいるのを発見した。キャンティをはじめとするワインや、オリーブオイルなどを、昔ながらの方法で量り売りしてくれるため、週末になると地元の人がひっきりなしに訪れる人気農園である。
聞けば持ち主は、マルコさんという農園オーナーだった。マルコさんは36歳。「これは僕にとって3台めのアルファ・ロメオ。免許を取ってすぐに『ジュリエッタ』に乗って、次に『アルファ90』そしてこの『145』だよ」
アルフィスタになったきっかけは? と聞けば、
「親父も70年代に『アルファ・ロメオ・ジュリア』を持ってたからね」と教えてくれた。
ついでに新しい「アルファMiTo」の印象についても聞いてみた。「スタイルに迫力がある。インテリアの仕上げも入念で、過去数年のアルファ・ロメオの美点を継承している。同時に確実にテクノロジー的に進化していて、とても先進的な印象をもった。生粋のアルファだよ」と語ってくれた。
次に乗るアルファがない!
しかしMiToを買う予定は? というと、ちょっとお預けらしい。子供が2人いる彼は「次のクルマは家族を運べるステーションワゴンにしないとね」と言いながら、その視線の先には彼の奥さんがいた。
そのうえ昨年、一念発起して敷地内にレストランもオープンしたという。幸い自動車クラブのツーリング会御用達のポイントとなりつつあるが、やはり財布を締めてかからないといけないのだろう。
気がつけば、156以降のアルファ・ロメオは、ブランド戦略としてプレミアム路線を進めたが、逆にこうした働き盛りの人が気軽に乗れるアルファ・ロメオがなくなってしまった。
その路線修正のひとつがMiToなのであるが、3ドアゆえ、モノを満載するイタリア式ファミリーユースには限界がある。来年以降発売されるといわれる「147」の後継車(名前は「ミラノ」という説もある)も、プレミアム路線を継承するものと思われる。
そう考えるとアルファ145/146は、普通のイタリア人が普通に乗れた、近年最後のアルファ・ロメオだった。アルファ・ロメオの歩みを振り返っても、145/146の果たした役割は大きい。公社傘下時代に開発された、先代である「アルファ33」の後に、145/146があったからこそ、今日に続くフィアットとの差別化が確立したといえる。
ついでにいえば、今日、フォルクスワーゲンデザインを率いるデ・シルヴァのサクセス・ストーリーも、アルファ・ロメオ在籍時代の145/146から始まったといえる。悲しきかな145/146も155同様、「懐かしいねー」などとお笑いの兆しを見せているが、それは浅はかな行為である!
マルコさんにとって現在唯一のアルファである145が、いつまでも元気でいてほしいものだ。
「今も快調だよ、この145」そう言って彼はふたたび遠くにいる奥さんをちらっと見ながらコクピットに乗り込み、快音を残して去って行った。
(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ、FIAT)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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