第35回:フィアットCEOは、どんな時でもセーター姿!? そのワケがついに判明!
2008.04.05 マッキナ あらモーダ!第35回:フィアットCEOは、どんな時でもセーター姿!?そのワケがついに判明!
とっても大好き、ドラえもん
突然だが、ボクは「ドラえもん」が好きだ。なぜなら登場人物が原則として着替えないからである。髪型も同じである。したがって、どれがのび太で、どれがスネ夫で、どれがジャイアンか、いつ見ても一発でわかる。
それに対してハリウッド映画のキャストは、ただでさえ判別がつきにくいガイジンのうえ、衣装協力各社への配慮からか頻繁に服装が変わる。これで髪型まで変えられると、もうお手上げだ。ストーリーについてゆけなくなる。
イタリアの実生活でも同じである。いつも白衣を着ている薬局のおばさんが普段着で歩いていると、途端にわからなくなる。だから人と会ってしばらく話していてから、「ああ、思っていたのと違う人だ」と気がつくことがよくある。
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万年セーター
そうした服装・髪型自動認識方式のボクにとって、たいへん嬉しい人物がいる。フィアット・グループのセルジオ・マルキオンネCEOだ。いつも濃色のセーター姿なのである。
ラフなスタイルの財界人といえばヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソンがいる。だが、何かと堅く、モーターショーだなんだと集まりが多い自動車業界でマルキオンネのそれはかなり目立つ。
ここでマルキオンネについて、ちょっと振り返っておこう。
彼は1952年、日本でいえば昭和27年、イタリア中部アドリア海に近いキエティで生まれた。しかし彼とイタリア半島との繋がりは、早くも少年時代に途絶える。両親とともにカナダに移民したからである。そのため現在でも、イタリアとカナダの二重国籍を有する。
トロントと米国の大学で学び、会計士と弁護士の資格を取得したマルキオンネは、1983年にカナダの監査法人で社会人生活のスタートを切る。やがて総合マテリアルメーカーに転職。1989年には37歳の若さでこれまた別の会社の副会長になる。
その後、ふたたび前述の総合マテリアルメーカーに戻る。ところが会社はスイス系金属メーカーの傘下入りすることになった。その中でも頭角を現したマルキオンネは、スイスにフィールドを移し、90年代後半から親会社の社長や、同社から分離独立した会社の会長などを歴任する。続いて2002年には検査認証会社の社長となった。
ここまで財務畑中心に、どちらかというと地道にキャリアを積んできた彼に、運命の転換が訪れたのは2003年5月、彼が51歳の年だった。故郷イタリアのフィアットに、取締役として請われたのである。
当時のフィアットは経営危機のどん底にあった。マルキオンネがイタリアの雑誌に語ったところによれば、「あの頃のフィアットには死の匂いが漂っていた」という。創業家出身のジョヴァンニ・アニェッリ名誉会長も、その年の1月に失意のうちに世を去ったばかりだった。
翌2004年6月、社長に就任した彼は、専門分野の才能をフルに発揮。コアビジネスへの集約を行なういっぽうで、2005年にGMとの提携解消で得た資金をもとに積極的な投資と新車開発を断行した。
おかげで2006年初頭に、フィアットは経営危機脱却宣言を果たした。
ニュースはトリノ五輪と前後したことからたちまちイタリアの奇跡として報じられ、マルキオンネはイタリアのカヴァリエーレ勲章をも受賞するに至った。
謎が解ける
イタリア一般市民の間でカルロス・ゴーンは知られていないが、セルジオ・マルキオンネを知らない人はいない。ちなみに現在彼は、仕事場のトリノと家族の住むスイスをフェラーリで往復する生活だ。
マルキオンネのファッションの話に戻ろう。
彼は、セーターのまま、かなりフォーマルな場所まで出席する。
2番目の写真から、彼が愛用している一着はドイツのHUGO BOSS製であることがわかる。ご本人の身長がデカいこともあり一見ボサッとしているが、やはりCEOなりに良いものを選んでいるのである。
なぜそんなにセーター好きなのかは、長いこと明かされる機会がなかった。
だが、ようやく先日、その謎が解けた。2008年3月トリノで、新型「フィアット500」の「オート・ヨーロッパ2008」授賞式が行なわれたときのことである。その日も、マルキオンネはセーター姿で現れた。
ラ・スタンパ紙によると、会場で彼は自らのファッションについて記者の質問に、「けっしてパフォーマンスではない。セーターを着るのは、自分が楽だからだ」と答えたという。
ついでに、整っているのを見たことがない髪について質問されると、「くしを使わないからね」と笑いながら教えたらしい。
そのうえで、窮屈そうなネクタイ姿の人物を見ると、「どうやって我慢すればいいのか考え込んでしまう」ともコメントした。
実はフィアット復活を成功させる前の彼は、他のビジネスマン同様スーツ姿だった。したがって今は、成功者だけに許されるマイスタイルともとれる。だがそれを差し引いても、今いちばんイタリアで脚光を浴びているカリスマ財務マンは「見かけではなく実力で勝負」と無言のうちに示しているのかもしれない。
グループ全体、キャラ確立
昨年、フィアット500発表会の際も、マルキオンネは夏にもかかわらずセーター姿だった。
もしかして冷え性? とも勘ぐってしまうが、そうでなければぜひ夏バージョンも考えてほしいものである。アロハシャツなど良いのではないか。
ふと思えば、元スクデリア・フェラーリのジャン・トッドは、チームウェアの印象が強すぎ、スーツを着るとぎこちなく見える。モンテゼーモロ会長がいきなりカツオ刈りにしたら、これまたみんな困惑するだろう。
フィアット・グループの面々は、アニメに匹敵するくらいキャラクターデザインがしっかりしているのだった。
(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/ 写真=大矢アキオ、FIAT)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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