アストンマーティン・ヴァンテージの魅力に迫る[第3回]ワークスドライバー ダレン・ターナーに聞く
限界まで攻め込める理由 2019.09.26 アストンマーティン・ヴァンテージ特集<PR> アストンマーティンが2代目「ヴァンテージ」の開発で目指したものは、いったい何だったのか。ポルトガルのアルガルヴェ・サーキットでヴァンテージのステアリングを握った自動車ライター大谷達也が、同車の開発テストに携わったアストンマーティン・ワークスドライバー、ダレン・ターナー氏に聞いた。新時代を象徴するニューモデル
日本のSUPER GTを戦うD'station Racingチームのアストンマーティン・ヴァンテージGT3。デビューシーズンの半ばの第4戦タイ大会で優勝目前まで迫ったこのレーシングカーは、ロードカーの新型ヴァンテージをベースに誕生した。つまり、レースでの活躍は量産モデルのヴァンテージに優れた素性が備わっていることの証明ともいえるのだ。
ヴァンテージこそは、アストンマーティンの現在と未来を結ぶスポーツカーと言っていい。アルミパネルを組み合わせてモノコック構造としたボディーアーキテクチャーは、アストンマーティンが「セカンドセンチュリープラン」に従って開発したまったく新しい手法を用いており、軽量・高剛性を誇る。
メルセデスAMGとの共同開発となる4リッターV8ツインターボエンジンは、アストンマーティンの流儀に従ってフロントミドに搭載。そのパワーはプロペラシャフトを通じて、キャビン後方の8段ATに伝達される。フロントにエンジン、リアにギアボックスを積むトランスアクスル方式は近年のアストンマーティンが好んで用いるレイアウトで、フロントエンジンのもたらす扱いやすさと前:後=50:50の重量バランスによる軽快なハンドリングを両立。さらには良好なスペースユーティリティーも持ち合わせている。
私は幸運にも2018年3月にポルトガルで開催された新型ヴァンテージの国際試乗会に参加し、そのパフォーマンスをアルガルヴェ・サーキットで満喫してきた。アルガルヴェといえば、低速コーナーから高速コーナーまでをバランスよく備えるとともに、自然の丘陵地帯を生かしたアップダウンの激しいコースレイアウトでも有名だが、この難攻不落ともいえるサーキットでヴァンテージは自在に振り回せる特性を見せつけたのである。
フロントエンジンの恩恵でしっかりとした前輪の接地感が味わえるいっぽうで、ターンインでは軽快な回頭性を披露。それとともに驚かされたのが限界領域でのドライバビリティーで、テールスライドし始める様子が手に取るようにわかるうえ、ドリフト状態に入ってからもトラクションが確実にかかるためにスロットルとステアリングで体勢を立て直すのも容易。軽快さとコントロール性を両立させたその走りは、フロントエンジンともミドシップとも異なる“第3のスポーツカー”と呼ぶにふさわしいものだった。
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ニュルで鍛えたパフォーマンス
実は、D'station Racingチームの第3ドライバーとして2019年8月3日~4日に富士スピードウェイを舞台に開催されたSUPER GT第5戦でヴァンテージGT3を操ったダレン・ターナー氏は、アストンマーティンのワークスドライバーとして同車の開発に携わると同時に、量産モデルのテストも行った人物。そこで来日したターナー氏に、開発現場の様子を尋ねてみた。
「私はロードカーの開発にそれほど深く関わったわけではありません。ただ、開発プログラムの終盤に、新型ヴァンテージの限界的なパフォーマンスがどの辺にあるのかを確認するためにニュルブルクリンクのノルドシュライフェでドライビングして、クルマの基本特性についてコメントしただけです」
ターナー氏はあくまでも控えめにそう語ったが、それはまさしくハンドリングの総仕上げと言ってもいい内容である。重要な役割を演じたことは間違いない。続いて彼にノルドシュライフェでテストを行う意義について語ってもらった。
「ノルドシュライフェは公道で体験するさまざまな状況を再現してくれるサーキットなので、スポーツカーのパフォーマンスを見極めるには最適です。ただし、だからといってノルドシュライフェで速いラップタイムを記録することが必ずしも必要なわけではありません。そもそもわれわれのようなプロフェッショナルドライバーと一般の方々では、ドライビングスキルに大きな違いがありますから。それよりも大切なのは、そのロードカーが目指しているのは何なのかという点。少し大げさに言えば、普段の生活に何を求めるのかということとも関係しているように思います。ノルドシュライフェでは、そういったことを意識しながらテストを行います」
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運転していて自然と笑顔に
では、新型ヴァンテージは“世界で最も過酷なサーキット”といわれるノルドシュライフェで、どんなハンドリングを示したのか?
「とてもファン・トゥ・ドライブなスポーツカーでした。中でも大切なのは、運転に必要なインフォメーションをしっかりと教えてくれる点にあります。クルマからドライバーへともたらされるフィードバックが素晴らしい。だから、コーナリングの限界がどこにあるかもわかりやすいと思います」
ターナー氏が言いたいことはよくわかる。クルマが“能弁”だから、その瞬間に起きていることをドライバーは即座に、そして正確に認識できるということだ。ただし、私はそれだけでなく、次にクルマが起きることを予想しやすい特性もヴァンテージは身につけていると思う。これを英語でPredictable(プリディクタブル)という。
「そう、プリディクタブル」とターナー氏。
「だから運転していて自然と笑顔になる。ピーキーなハンドリングのクルマをノルドシュライフェで走らせていると、怖いばかりで楽しくありません。ところが、限界をあらかじめ教えてくれるクルマに乗っていると、余裕を持ってドライブできます。特にオペレーティングウィンドウが広いと、限界を超えてもひどいことにはなりません」
オペレーティングウィンドウ(作動領域)とは、クルマがどこまでスライドしてもドライバーがコントロールできるかを示す言葉。オペレーティングウィンドウが広ければ広いほど、ミスに寛容で懐の深いクルマということができる。
アストン社内の勢いもシフトアップ
ターナー氏が続ける。
「オペレーティングウィンドウが広いと、たとえプッシュしすぎてもコントロールを取り戻すのは難しくない。でも、これが狭いと、テールスライドが即座にスピンにつながります。最悪の展開といえます」
エスケープゾーンが狭いノルドシュライフェでは、とりわけ避けたい事態だろう。
「それは事実ですが、(オペレーティングウィンドウの狭さが)問題になるのは公道でも同様です。いずれにせよ、プッシュしたときにクルマがインフォメーションを伝えてくれなければ、限界まで攻めることはできません」
さらにターナー氏は新型ヴァンテージの魅力を挙げていった。
「エンジンはハイパワーでトルク特性も優秀。8段ATはシフトが素早く、素晴らしい仕上がりです。そしてEデフは画期的なデバイスで、コーナリングでドライバーを助けるだけでなく、スタビリティーの改善にも役立ちます。そうしたドライブトレインを手に入れた新型ヴァンテージは、メカニカルグリップの点でも優れています。つまり、ドライビングエクスペリエンスに必要なすべての要件を満たしているのです」
最後にターナー氏は、現在のアストンマーティンの状況をこんなふうに説明してくれた。
「アンディ・パーマーCEOがかじ取り役を担うようになって、アストンマーティンは大変革の時期を迎えました。おかげで社内の勢いが以前とはまったく変わり、まるで1速か2速くらいシフトアップしたような感じです。僕たちはこれからもプッシュして、素晴らしいロードカーと素晴らしいレースカーをつくり続けていく。これこそ、われわれアストンマーティンが目指す道筋なのです」
彼らの未来に幸多からんことを祈りたい。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=花村英典)
車両データ
アストンマーティン・ヴァンテージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4465×1942×1273mm
ホイールベース:2704mm
車重:1530kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:510PS(375kW)/6000rpm
最大トルク:685N・m(69.9kgf・m)/2000-5000rpm
タイヤ:(前)255/40ZR20/(後)295/35ZR20
燃費:10.5リッター/100km(約9.5km/リッター、EU複合サイクル)
価格:2019万5000円
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