アウディA4/A4アバント
輝きを増した貴石 2021.01.11 半世紀の進化の到達点 新アウディA4<AD> デザインからメカニズムまでリファインされた、アウディの基幹モデル「A4」「A4アバント」。一段と磨きのかかった最新型の走りは、このブランドならではの確かな技術力を感じさせてくれた。存在感ある主力モデル
コンパクトなハッチバックからラグジュアリーサルーン、さらにはスタイリッシュなSUV、スーパースポーツまで、魅力あるモデルが数多くそろうアウディ。なかでも、そのブランドを代表するモデルとして、長きにわたり人気を集めてきたのがミッドサイズクラスの「A4」である。
その始まりは1972年に登場した「アウディ80」で、1994年、5代目にモデルチェンジしたのを機に車名はA4へと変更された。その後も世代交代を重ね、2015年にはA4として5代目、アウディ80も含めると9代目にあたる「B9」が登場。歴史的にも販売台数のうえでも、アウディの主力モデルとして重要な役割を果たしてきた。
それだけに記憶に残るモデルが多い。例えば、エアロダイナミクスに優れたスポーティーなデザインの3代目アウディ80や、洗練されたデザインが印象的な初代A4、4代目「A4アバント」をベースにオフロードイメージのスタイリングに仕立てられた「A4オールロード」など、筆者にとっても憧れのクルマが次々と思い浮かぶ。
そんなA4が、このほどマイナーチェンジにより生まれ変わったのだが、その変貌ぶりには驚くばかり。「マイナーチェンジなのに、ここまでやるのか」と言いたくなるほど、デザインから中身まで大幅に進化しているのだ。
たとえアウディのオーナーでなくても、クルマに興味のあるひとなら、新しいA4を見ただけで、まずフロントマスクの変化に気づくはず。短い縦のバーを連続させたデイタイムランニングライトを持つヘッドライトと、よりワイドになったシングルフレームグリルが組み合わされたフロントマスクは“最新のA4”を強く印象づけるに違いない。
もはやマイナーチェンジではない
フロントマスクのリニューアルはクルマのマイナーチェンジを実施するうえでの常とう手段だが、A4の場合は、ボンネットやルーフなどを除いてボディーパネルのほとんどを一新し、さらにブリスターフェンダーを採用することで全幅を5mm拡大するなど、もはやマイナーチェンジの域を超えた変更が施されている。
いっぽうインテリアは、スタイリッシュで開放的だ。デジタル化による先進性も感じられるデザインであることはマイナーチェンジ前と変わらないが、センタースクリーンをタッチパネル式にすることで、これまで以上にセンターコンソール部分がすっきりとし、スマートフォンを操るように、より直感的な操作が可能になっている。しかも、従来のインフォテインメントシステムに比べて、操作に対する動作が明らかに速くなっている。実は新しいA4には、「MIB3」と呼ばれる新世代のメインユニットが搭載されているのだ。
さらに新しいA4は、パワートレインにも大幅に手が加えられている。現在アウディは、さまざまなモデルでマイルドハイブリッドシステムの搭載を進めているが、このA4もまた、全グレードに12Vリチウムイオンバッテリーとベルト駆動式オルタネータースターター(BAS)を組み合わせたマイルドハイブリッドシステムが採用されているのだ。
エントリーグレード「35 TFSI」はエンジンも変わり、従来の1.4リッター直列4気筒直噴ガソリンターボに代えて、より排気量の大きな2リッター直4ターボが搭載された。アウディはこれまで、エンジンの排気量を小さくして燃費を稼ぐ「ダウンサイジング」を進めてきたが、2リッターエンジンの採用はその流れに逆行するように見える。しかし、この新しい2リッターエンジンは、「ミラーサイクル」と呼ばれる技術により、負荷が低いときには小排気量のエンジンのように振る舞い低燃費を実現するいっぽう、加速が必要な場面では2リッターエンジン本来の力強さを発揮する。適正な排気量のエンジンを積むという意味で、アウディはこの手法を「ライトサイジング(right sizing)」と呼んでいる。クルマのサイズやキャラクターを考えれば、このA4には2リッターがふさわしいという答えにたどり着いたのだろう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
どこまでも走りたくなる
まずはその新しい2リッターエンジンを積む「A4アバント35 TFSIアドバンスト」で走りだす。「アバント」とは、ステーションワゴンを意味するアウディ独自のネーミングだ。余裕あるラゲッジスペースが生み出す機能性に加えて、その美しいフォルムがとても魅力的である。「美しいワゴンをアバントと呼ぶ」という伝統は、この最新のA4アバントにも確実に受け継がれている。
35 TFSIに搭載される2リッターターボは、最高出力150PS(110kW)、最大トルク270N・m(27.5kgf・m)を発生するが、そのスペックから想像する以上に実際の走りは力強い。
FFを採用するぶん車両重量が軽いということもあるが、動きだしは軽やかでエンジンをあまり回さなくても力強い加速が味わえるのだ。しかも、低回転域でも、アクセルペダルの微妙な動きに間髪入れずにエンジンが反応する。おかげで、速度変化が多い街なかでは実に扱いやすい。これを支えている技術こそが前述のマイルドハイブリッドシステムで、加速時にモーターがエンジンをアシストすることにより、いわゆる「ターボラグ」を忘れさせてくれるのである。
一方、高速道路の流入や追い越しなど、素早くスピードを上げたい場面では、排気量が2リッターに拡大したおかげで、これまで以上に余裕ある加速が楽しめる。そして巡航状態に戻れば、メーターに示される瞬間燃費の数字に驚くはずだ。これこそが、アウディが「Bサイクル」と呼ぶミラーサイクル技術の成せるワザ。アクセルペダルを丁寧に操作すれば20km/リッター超えの低燃費もたやすい。フラットかつシャキッとした乗り心地や軽快なハンドリング、高速走行での安定感が得られるなど、走りのレベルは総じて高い。走り始めるとどんどん遠くまで行きたくなるA4アバント35 TFSIアドバンストである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
速さと安定性に感服
そんなA4アバントから、まばゆいばかりの「ターボブルー」をまとう「A4 45 TFSI クワトロSライン」に乗り換えると、運転の楽しさはさらに加速する。モデル名に続く2桁の数字は出力のレベルを表し、数字が大きいほうが高出力になる。45 TFSIのエンジンは、排気量こそ35 TFSIと同じ2リッターだが、最高出力249PS(183kW)、最大トルク370N・m(37.0kgf・m)という高出力バージョン。デュアルクラッチトランスミッションの7段Sトロニックとフルタイム4WDのクワトロにより、そのパワーを余すところなく路面に伝えていくのだ。
ほぼ100PSアップした2リッターエンジンは実に頼もしく、1000rpm程度の低回転でも余裕あるトルクを発生させる。そしてアクセルペダルを深く踏み込めば、回転計の針は6000rpm超まで一気に駆け上がり、病みつきになるほどの、胸のすく加速を味わわせてくれる。その加速中でも挙動が安定しきっているのがクワトロらしいところで、FFモデルをさらに上回るスタビリティーの高さを知ってしまうと、たとえ降雪地域のユーザーでなくともクワトロを選びたくなるだろう。
驚いたのはそのシャシー性能だ。今回の試乗車にはオプションの「ダンピングコントロールサスペンション」が装着されていたのだが、やや硬めながらしなやかに動くサスペンションが極めてフラットな乗り心地をもたらし、コーナリング時にはロールを抑えた安定した姿勢で思い通りのラインをトレースしてくれる。オプションの245/35R19タイヤを装着するにもかかわらず、路面からのショックを巧みに遮断し、快適な乗り心地と俊敏なハンドリングを見事に両立しているのだ。マイナーチェンジ前のA4も、ダンピングコントロールサスペンションの出来の良さには感銘を受けたものだが、この新しいA4では従来型をしのぐ仕上がりの良さが実感できる。
デザインのアップデートだけでなく、その中身も格段に進化したアウディA4。FFとクワトロ、セダンとアバント。その組み合わせの中に、きっと自分のスタイルにフィットする一台が見つかるはずである。
(文=生方 聡/写真=田村 弥)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
車両データ
アウディA4 45 TFSIクワトロSライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4770×1845×1410mm
ホイールベース:2825mm
車重:1545kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:249PS(183kW)/5000-6000rpm
最大トルク:370N・m(37.7kgf・m)/1600-4500rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 93Y/(後)245/35ZR19 93Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.9km/リッター(WLTCモード)
価格:627万円
![]() |
アウディA4アバント35 TFSIアドバンスト
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4760×1845×1435mm
ホイールベース:2825mm
車重:1570kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/3900-6000rpm
最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/1350-3900rpm
タイヤ:(前)225/50R17 94Y/(後)225/50R17 94Y(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:13.6km/リッター(WLTCモード)
価格:552万円