モータースポーツ界の巨人 山野哲也がCHEVROLET CAMAROを語る
進化するレジェンド 2021.12.28 レジェンドの邂逅 山野哲也×シボレー・カマロ<AD> 1966年の誕生以来、今日に至るまでパフォーマンスを磨き続けられてきた「シボレー・カマロ」。その最新モデルは山野哲也の目にどう映るのか? アメリカのモーターカルチャーが育んだレジェンドの地力に、日本が誇るモータースポーツ界のレジェンドが触れた。アメリカで“スポーツカー”といえば
「わが家のお向かいさんのクルマが、シボレー・カマロだったんです」と、山野哲也が懐かしそうに話し始める。1981年から4年ほど、16歳から20歳という多感な時期を北米ロサンゼルスで過ごしたという。
「特に乗せてもらったということはなかったんですが、毎日目にしたクルマですから、よく覚えています。カマロ、その姉妹車といえる『ポンティアック・ファイアーバード』、ファイアーバードの高性能版である『トランザム』あたりが、アメリカの一般庶民が買えるスポーツカー。現地ではそんな感覚がありました」
山野哲也は、言わずと知れたニッポンのジムカーナマイスターである。繊細かつロジカルな操作でマシンをコントロールし、1992年に「ホンダCR-X」で全日本ジムカーナ選手権を優勝。以来、獲得したトロフィーは数知れない。さらに1999年からは全日本GT選手権(現SUPER GT)に参戦。GT300クラスでは、異なるマシンで3年連続チャンピオンに輝くという偉業を成し遂げた。
「『コルベット』はレーシーなイメージが強くて、ちょっと特殊な立ち位置でしたから、アメリカンテイスト濃厚なスポーツモデルといえば、やはりカマロなんじゃないでしょうか」
シボレー・カマロは、半世紀を超える歴史を持つアメリカを代表するスペシャリティークーペである。1966年(モデルイヤー的には1967年)に登場した初代から数えて6代目にあたる現行モデルは、2015年にデビュー。新開発のプラットフォームに載せられた筋肉質なボディーは、アルミニウムやコンポジット素材を多用することで90kgを超える軽量化を果たした(北米仕様)。パワーユニットとして、伝統のプッシュロッドエンジンである6.2リッターV8(最高出力453PS、最大トルク617N・m)に加え、2リッター直4ターボ(同275PS、同400N・m)が使われたことも話題になった。
日本でのラインナップは、2リッタークーペの「LT RS」(569万円)、同エンジンの「コンバーチブル」(659万円)、そして6.2リッタークーペの「SS」(729万円)となる。
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問答無用でカッコいい
この日、山野が試乗したのは、V8エンジンを搭載した「カマロSS」。2018年、2020年と、2度の改良を受けて精悍(せいかん)なスタイルにさらに磨きがかかり、オートマチックトランスミッションは、ぜいたくにも10スピード(!)にグレードアップされた。レーシーなスタートダッシュを決めるローンチシステムの高機能化や、インフォテインメントシステムのアップグレードも見逃せない。
試乗車のボディーカラーは「サミットホワイト」。意外なほど(!?)清新なイメージをまとうSSの姿に、山野哲也の表情が緩む。
「クラウチング……。全体のフォルムは『うずくまって獲物を狙う肉食獣』といったところでしょうか。逆スラントの顔がいいですね。上下に薄いヘッドランプもすごみがある。今のクルマゆえ、歩行者保護との兼ね合いでボンネットの位置は高いですが、それでもフロントフェイスを間延びさせず、上手に緊張感を維持しています」
「エンジンルームの熱気抜き用エアアウトレット(エアエクストラクター)を設けたエンジンフードも、絶妙に段がついた谷間を左右に設けてスポーティーさを強調しています。芸が細かい。さらにフロントウィンドウを経てルーフに至ると、左右が盛り上がった“ダブルバブル”になっている。空気の流れを視覚的にも表しているんですね」
現代的なエアロダイナミクスを体現したカマロSS。モダンなアメリカンスポーツのまわりをゆっくり歩きながら、山野哲也はチェックを続ける。
「サイドウィンドウの天地が薄いのもカマロらしい。リアクオーターウィンドウの下端がキックアップしている部分に、かつてのモデルへのリスペクトが感じられます。あと、これは個人的な嗜好(しこう)なのですが、テールのコンビネーションランプがいいですね。色のついていない、クリアなレンズがいい。ブレーキを踏んだり、ウインカーレバーを操作したりすると、はじめて赤やオレンジが点灯する。後続ドライバーの注意を喚起するし、なによりカッコいいじゃないですか!」
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細部まで考え抜かれた操作性
最新カマロの、過去モデルからの引用は室内にも及んでいる。インストゥルメントパネルは、「初代のそれを現代風に再解釈した」とうたわれるデザインがとられ、メーターはオーセンティックな2眼式。しかし両者に挟まれた8インチのインフォメーションディスプレイ「ドライバーインフォメーションセンター」が、21世紀らしい先進性を訴える。速度やエンジン回転数をフロントウィンドウに投影するフルカラーのヘッドアップディスプレイは、運転中の視線移動を最小限に抑え、安全性の向上にも寄与する。
「ボディーの大きさを感じませんね」と、ドライバーズシートに座った山野。実際、現行モデルは旧型と比べて、ホイールベースが45mm、全長が60mm短縮されている。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4785×1900×1340mm。しかし、シェイプアップされた車両寸法とは別に、最新カマロをコンパクトに感じさせる秘密がある、と山野は語る。
「新型カマロをコンパクトに感じさせる一因として、操作系がよく考えられている点が挙げられます。シフターは手になじむ大きさで、ギアポジションを変えるために押すロック解除ボタンが、中指薬指の位置にあって自然に押せる。ドライブモードセレクターのボタンがシフターのそばにあるのも好印象。ドライブに関する主要な機能が右手の範囲内に収まっていて、しかもボタン類に適度なサイズがあるので、いちいち目視する必要がない。そのうえ操作の結果がすぐにメーター内のディスプレイに表示されるので安心です。直感的に操作できて、考えないで済む。ドライブの楽しさをスポイルしない。当たり前のようだけれど、今日のように先進装備が次々と追加される状況だと、ボタンやスイッチをあちらこちらに散らばさせず、シンプルにまとめるのは意外と難しいのです」
運転席に座った感覚はどうなのだろう?
「アメリカ人のなかには、日本人から見たら規格外の体形の方もいます。そうしたドライバーも想定しているのでしょう。シートは、クッションが豊かないわゆるソファ系です。ただ、座面左右のサポートはしっかりしている。バックレストも優しく背中を抱いてくれます。こうしたホールド感と快適性のバランスは大事です」
「ドライビングポジションは、ごく自然。ガスペダル(アクセルペダル)はオルガン式、つまり床から生えるタイプです。上からつり下げる形式より、操作時にペダルと足の裏が擦れる度合いが低い。つまり生じる摩擦が小さく、細かいペダル操作をしやすいものです。もちろんペダル位置も問題ありません」
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このクルマをつくった人は“分かっている”
先述の通り、カマロSSの動力系は、最高出力453PSを誇る6.2リッターV8に、パドルシフト付き10段ATが組み合わされる。マッチョな加速性能は容易に想像がつくが、ニッポンのトップドライバーを驚かせたのは、また別のファクターだった。
「カマロSSのハンドリングには驚かされました! タイヤの接地面積が広くて、しかもそれを可能な限り一定に保つようなセッティングが施されている。617N・mというV8エンジンの大トルクを余すことなく路面に伝えられる。サスペンションの基本的なジオメトリーがいいんですね。タイヤが路面に食いつくさまが手にとるように分かります。当然、ステアリング操作に対するクルマのレスポンスもいい」
「今日の路面は昨夜の雨が残っていて、しかもまだ冷たい。エンジンにムチを入れると、それこそ簡単に後輪がホイールスピンを起こしてしまうのですが、足まわりがいいせいでしょう。むやみに暴れず、空転しながらも安定している。そうした状況でも、一定のトラクションをかけ続けられるんです」
山野を感心させたカマロの足まわりは、フロントがマクファーソンストラット式、リアはマルチリンク式。左右後輪の間には、リミテッドスリップデフ(LSD)が組み込まれる。SSの豪快な走りは、よく煮詰められたドライブトレインとサスペンションが支えているのだ。山野の説明が続く。
「クルマがコーナリングするときは、普通はボディーがカーブの外側に傾くので、タイヤの外側が使われます。ところが、極端な言い方をすると、カマロはむしろ内側を使う感じ。つまり、クルマがロールしても、タイヤは可能な限り路面に正立しようとする。タイヤが本来持つグリップをできるだけ引き出すサスペンションになっているんです。先ほど『タイヤの接地面積が広い』といったのは、そういうことです」
1000分の1秒を削り取る作業を強いられるレーシングドライバーならではのコメントだ。シボレー・カマロは、大ざっぱで大味。そんな古い「アメ車」のイメージを払拭(ふっしょく)する。「“分かっている”開発陣が手がけたスポーツカーなんじゃないでしょうか」と、ステアリングホイールを握る山野哲也は語る。
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期待以上のドライバーズカー
学生時代に毎日目にしていたカマロというクルマが今も生産されていて、しかもドンドン進化していることに感銘を受けたという山野哲也。もちろん、ハンドリング面に限らず、動力系にもカマロならではの魅力を見いだしている。
「伝統のOHVユニットも今日的にブラッシュアップされていて、NASCAR(ナスカー)そのものといったサウンドを響かせながら、一気に吹け上がる! その音色は極太管楽器の多重奏のよう。トルクのつきもいいし、時折パパンと破裂音を演出する10段ATとの相性も抜群。まるで古さを感じさせません。むしろずっと味わっていたいですね」
「カスタムできるローンチコントロールや、ホイールスピンでタイヤの温度を上げてグリップを高めるラインロック機能は、一般道では使えないし、試すことのないオーナーの方が大多数かもしれません。でも、スポーツカー好きのハートをくすぐる機能であることは間違いない」
「カマロSSは、おそらく一般に思われている以上にドライバーズカーであり、ハンドリングマシンです。サーキット走行にも十分対応できる。細かいことですが、ドライブモードをボタン『長押し』ではなく、瞬時に切り替えられるのもポイントが高い。有効活用すれば、レースコースでも“走りの幅”を広げられるはずです」
カマロSSの潜在能力や、心くすぐる機能を試すため、クローズドコースに持ち込むことも「大いにアリ!」と語る山野哲也。一方で、日常生活でも活躍するはず、と太鼓判を押す。オーナーとなるための関門を突破する術(すべ)として……「カマロは限られたスペースとはいえリアシートを備えます。パートナーがいたり家族がいたりする方でも、その点を強調すれば購入しやすいんじゃないでしょうか」と、世のクルマ好きの背中を押すのだった。
(文=青木禎之/写真=荒川正幸/取材協力=箱根ドールハウス美術館)