レースでの知見がジャガーのPHEVを磨く
未来への道しるべ 2024.06.28 JAGUAR ~スポーツPHEVという選択肢~<AD> 電動車レースの最高峰、フォーミュラEで優勝を狙うジャガー。日本初開催となった2024年3月の東京E-Prixで、多くの人が電動車の魅力と可能性に気づいたはずだ。「E-PACE」と「F-PACE」のPHEVには、そのフォーミュラEで磨かれた知見が息づいている。選択と集中に取り組む
(→前編:「E-PACE」と「F-PACE」のPHEVがジャガーの新時代を告げる)
世界の多くの国と地域が、2015年に国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたいわゆる「パリ協定」に基づき、世界的な平均気温上昇を抑えるために「2050年カーボンニュートラル」を目標に掲げて取り組みを進めている。
気候変動の原因となっているのは二酸化炭素(CO2)を代表とする温室効果ガスであるため、自動車産業はさまざまな手段でCO2の排出量を抑えようと努力している。電動化は有効な手段のひとつだ。エンジンにモーターを組み合わせたHEV(ハイブリッド車)にすると、モーターがアシストするぶんだけエンジンの燃料消費が少なくて済み、燃料消費にともなうCO2排出量を削減することができる。
もっと極端な例はBEV(電気自動車)だ。バッテリーに蓄えた電気エネルギーでモーターを駆動して走るBEVの場合、走行中のCO2排出量はゼロだ。再生可能エネルギーで発電したグリーンな電力を使った場合は、温室効果ガスの削減効果がずっと高くなる。バッテリーの搭載量を増やして外部充電を可能にしたPHEV(プラグインハイブリッド車)は、走りのフィーリングも温室効果ガス削減の面でも、よりBEVに近い乗り物だ。
HEVかPHEVか、それともBEVか。程度の差こそあれ、世の流れは電動化である。エンジンはなくならないにしても、比率は減っていく(燃費と排ガス性能を高めながら)。こうした流れにあって、ジャガーは「ピュアEVのラグジュアリーブランドとして再生する」と宣言した。2021年2月のことである。しかも、「2025年からBEVブランドになる」というのだから(来年だ!)、意欲的というほかない。あれだけ長くつき合ってきた、クルマの心臓ともいえるエンジンに別れを告げるというのだから。
企業戦略的に分析すれば、ジャガーは選択と集中に取り組んだことになる。エンジンを延命させつつ電動化を推し進めるのは、ジャガーのような規模のブランドには荷が重い。エンジンかBEVか。二者択一をするなら、将来性があり、快適性や性能の面でモダンラグジュアリーとの相性がいいBEVに舵を切ることにしたのだろう。その、肝の据わった大胆な決断力もブランドの価値向上につながっている気がする。
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2種類のPHEVをラインナップ
モダンラグジュアリーなBEVブランドに生まれ変わる直前の、ジャガー伝統のエンジンの香りを残したPHEVが「F-PACE R-DYNAMIC HSE P400e」だ。やや専門的に表現すれば、アルミ材を多用した「プレミアム・ライトウェイト・アーキテクチャー(PLA)」のシリーズに属し、D7aに分類されるプラットフォームを採用する。
エンジンは2リッター直4ターボで、縦置きに搭載。その後方に配置する8段ATに高出力モーターを内蔵する。システム最高出力は404PS、同最大トルクは640N・mだ。駆動力はトランスファーによってフロントにも分配され、プロペラシャフトによってリアに伝達されるのと合わせて4WDになる。
車両重量は2250kgに達するが、高出力のエンジンと高出力のモーターの組み合わせにより0-100km/h加速を5.3秒でクリアする俊足ぶり。電気の力をパフォーマンス向上にうまく利用している。いっそ、スポーツPHEVと言い切っていいほどである。
F-PACE R-DYNAMIC HSE P400eは容量17.1kWhのバッテリーに蓄えた電気エネルギーを使うことで、68kmのEV走行(WLTCモード)を可能とする。ハイブリッドシステムのポテンシャルをフルに解き放ったときの動の走りと、電気エネルギーのみに頼った静の走り。コントラストの強い動と静の走りを兼ね備えているのも、このSUVの魅力だ。
F-PACEよりもひとまわりコンパクトなE-PACE R-DYNAMIC HSE PHEV P300eは、F-PACEと同様に明確にジャガーの一員であることを感じさせるスタイルをまといながら、搭載する電動パワートレインの構成はまったく異なり、ジャガーというブランドの技術力の高さ、発想の豊かさを感じさせる。
エンジン縦置きパワートレインのF-PACEに対し、「プレミアム・トランスバース・アーキテクチャー(PTA)」を採用するE-PACEはエンジンが横置き。モジュール設計された1.5リッター直3ターボエンジンをフロントに横置き搭載し、8段ATを組み合わせる。最高出力109PS、最大トルク260N・mのモーターはリアに搭載。システム最高出力は309PS、同最大トルクは540N・mである。0-100km/h加速は6.5秒。EV走行換算距離は68kmである。
E-PACE R-DYNAMIC HSE PHEV P300eがユニークなのは、発進時から低速時はリアに搭載するモーターのみで走ること。つまり、この状態ではFR。エンジンの動力も借りて走るときは自動的に4WDになる。切り替えはシームレスで、走りはただただスムーズだ。
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高い技術力が手の内にある
ジャガーは2016-2017年のシーズン3から電気自動車のトップカテゴリーレース、フォーミュラEに参戦している。参戦発表を行ったのは2015年12月のことで、その際、「JAGUAR RETURNS TO RACING」のタイトルを用いた。伝統のルマン24時間で7度優勝し、一時代を築いた「あのジャガーがレースに復帰するんだぞ」と声高に叫ぶようで、そのメッセージから強い決意を感じさせた。
フォーミュラEは、2014-2015年のシーズン1は全車共通マシンで争う決まりだったが、2015-2016年のシーズン2からは、モーター、インバーター、ギアボックスで構成されるパワートレインの独自開発が可能になった。電動化技術のカギを握るパワートレインの開発が可能な規則になったことが、ジャガーのフォーミュラE参戦を後押ししたと考えられる。
このころジャガーはまだBEVブランドになるとは宣言していなかったが、「電動化を積極的に進めていく」とアナウンスしており、その姿勢を広く世界にPRするのに、フォーミュラEはうってつけのカテゴリーだった。レースという厳しい環境で電動化技術を磨き、鍛え上げた技術を量産分野にフィードバックする狙いもあった。
ジャガーには先を見通す目があったということだろう。参戦8年目を迎えた2023-2024年シーズン、16戦中12戦が終了した時点で、ジャガーTCSレーシングは2位のポルシェ、3位の日産を抑え、参戦11チーム中のトップを独走している。
パワートレインは独自に開発が可能だが、裏を返せば競合に差をつけられる大きな要素はパワートレインしかなく、ハードウエアでは高効率化や軽量化の技術、ソフトウエアでは限られたエネルギーをいかにうまく使うかといったエネルギーマネジメントが優劣に結びつく。
ジャガーの現在のポジションは、ハード、ソフトの両面で技術的優位に立っていることを証明している。2025年のBEVブランド化を控え、高い技術力が手の内にあることを示しているといえるだろう。
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乗り手を楽しませる術を知っている
雲行きが怪しくなると手のひらを返したように前言を撤回するのが欧州の文化、と言ったら皮肉にすぎるかもしれないが、今のところ、「2025年からモダンラグジュアリーなBEVブランドになる」ジャガーの大胆な変革の道筋に変更はないようだ。「F-TYPE」は「ジャガー最後の内燃エンジン搭載スポーツカー」として、2024年モデルをもって生産を終了することがすでに発表されている。
F-PACEとE-PACEに設定された2台のPHEVは、完全なBEVブランドに移行するまでのジャガーの立ち位置を示す。どちらもエンジンとモーターを搭載しており、走行状況に応じて使い分けるが、どんなにバッテリー残量が減っていても、発進時はモーターのみで走りはじめる。
高出力なモーターとある程度の容量を持つバッテリーを搭載していなければできない芸当だ。EV走行をしているときのF-PACEとE-PACEは静粛そのもので、静粛性の高さこそがラグジュアリーな価値を高めることを、2台のPHEVは教えてくれる。
反対に「それでいいんだっけ?」と、思わず頰が緩みながらも頭の中に疑問符が浮かんでしまうのが、むちをくれたときだ。F-PACEは4気筒、E-PACEは3気筒と、気筒数の異なるエンジンを積んでいるにもかかわらず、強い加速を求めたシーンでは同じように乗り手を激しく高揚させる官能的なサウンドを響かせて、シームレスで力強い加速を提供してくれる。
「気持ちいいエンジンだなぁ」と思うと同時に、ジャガーはドライバーを気持ち良くする術を知り尽くしているのだと気づいた。内燃エンジンの生産を終了し、BEVブランドに切り替わるからといって、ブランドの性格までが変わるわけではない。電動化を推し進めてもきっと、ジャガーは長い内燃エンジン時代に培った官能的な走りを受け継ぐ。2台のPHEVはジャガーのそんな未来を示唆しているように感じた。
(文=世良耕太/写真=郡大二郎、ジャガー・ランドローバー)
→前編:「E-PACE」と「F-PACE」のPHEVがジャガーの新時代を告げる
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車両データ
ジャガーE-PACE R-DYNAMIC HSE PHEV P300e
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1900×1650mm
ホイールベース:2680mm
車重:2070kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:200PS(147kW)/5500-6000rpm
エンジン最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/2000-4500rpm
モーター最高出力:109PS(80kW)
モーター最大トルク:260N・m(26.5kgf・m)
システム最高出力:309PS(227kW)
システム最大トルク:540N・m(55.1kgf・m)
タイヤ:(前)235/50R20 104W/(後)235/50R20 104W(グッドイヤー・イーグルF1 ATアシメトリック)
ハイブリッド燃料消費率:13.0km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:68km(WLTCモード)
交流電力消費率:230.7Wh/km(WLTCモード)
車両本体価格:973万円
ジャガーF-PACE R-DYNAMIC HSE P400e
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4755×1935×1665mm
ホイールベース:2875mm
車重:2250kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:300PS(221kW)/5500-6000rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2000-4500rpm
モーター最高出力:142PS(105kW)/3650rpm
モーター最大トルク:278N・m(28.4kgf・m)/1000-3700rpm
システム最高出力:404PS(297kW)
システム最大トルク:640N・m(65.3kgf・m)
タイヤ:(前)265/45R21 104W/(後)265/45R21 104W(ミシュラン・ラティチュード ツアーHP)
ハイブリッド燃料消費率:10.8km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:68km(WLTCモード)
交流電力消費率:306Wh/km(WLTCモード)
車両本体価格:1150万円