家族で使えるFFハンドリングマシン! ルノー・メガーヌR.S.ウルティムを試す
たどり着いた“究極” 2024.11.01 レジェンドドライバー山野哲也が語る「最後のRENAULT SPORT」<AD> レーシングドライバー山野哲也が「メガーヌ ルノー・スポール(R.S.)ウルティム」に試乗。幾多の名車でファンをうならせてきたルノー・スポールの最後の作品となる高性能ハッチバックだ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。魅力は速さのみにあらず
今回、レーシングドライバーの山野哲也がテストするのは、ルノー・メガーヌR.S.ウルティム。最高出力300PSの1.8リッターターボを搭載し、ボディー各部をブラックアウト化。超軽量ホイール「フジライト」もおごられたルノー・スポールの特別バージョンだ。本国フランスでは、すでに同部門がアルピーヌと統合されているので、R.S.を名乗る最後のモデルとなる。
webCG:山野さんは2022年から「アルピーヌA110」を駆って、全日本ジムカーナ選手権で3年連続のチャンピオンに輝いています。そんなジムカーナマイスターの目から見て、メガーヌR.S.の「強み」は何だと思いますか?
山野:言うまでもありませんが、A110が土台から専用設計のピュアスポーツであるのに対し、メガーヌR.S.は、より一般的な市販車の延長線上にあるのが大きな特徴です。
webCG:ドイツ・ニュルブルクリンクで、「ホンダ・シビック」と「最速量産FF車」の座を争ったことがよく知られています。
山野:そうですね。確かにメガーヌR.S.には「オレより速いFF車があればかかってこい!」的なオーラがありますが、個人的には同じホンダならシビックより「アコード」を心情的なライバルとして挙げたい。
webCG:アコード!?
山野:スポーツのテイストを漂わせつつ、大人な雰囲気を併せ持つ。そんなイメージがあります。
webCG:なるほど。
山野:メガーヌR.S.の速さを知っている人は、ついそのハイスペックやハンドリングマシンぶりに目がいきがちですが、実はストリートユースでの快適性を犠牲にしていないところが素晴らしい。
webCG:具体的には?
山野:実用的な室内空間と荷室容量。乗り込みやすく、降りやすい、乗降性のよさ。R.S.のシートはRECAROのバケットタイプですが、比較的たっぷりしたサイズなので、一定のホールド性を維持しつつ幅広い体形のドライバーをカバーします。一般的なドライバーにとっては、実用車由来の安心感も大事なポイントです。
webCG:安心感といいますと?
山野:どこへでも気兼ねなく出かけられる。一緒に乗るメンバーに対しても、スポーツモデルゆえの特別な配慮がいらない。
webCG:確かに車高の低い2ドアスポーツだと、運転する側にもドライブ前にある種の気構えが必要です。乗り降りも大変だし、持っていく荷物、場合によっては出先の駐車場の心配までしないといけない。
山野:まあ、そこがスポーツカーのイイところでもあるのですが、メガーヌR.S.は「いつでも私を使ってください」と待機していてくれる。気楽に出かけられる。それでいて、いざとなるとスゴい。
webCG:超絶、速い!!
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細部に宿るモータースポーツの魂
メガーヌR.S.ウルティムは、ルノー ・スポールの設立年を表す、世界1976台の限定販売。機械的な仕様は、従来のホッテストバージョン「R.S.トロフィー」に準じている。フロントアクスルにはトルセンLSDが組み込まれ、ホイールハブをアルミ化、ブレーキディスクはスリット入りとなる。装着タイヤは、ブリヂストンの「ポテンザS007」だ。
山野:メガーヌのスタイリングの特徴は、200m、300m離れた遠目でもひと目でそれと分かるロー&ワイドなプロポーション。フロントバンパーから流れるようにつながるワイドフェンダーもいいですね。
webCG:足元には、特別なフジライトホイールが与えられます。ノーマルのR.S.のホイールより1本あたり約2kgも軽いのだとか。
山野:使い古されたフレーズですが、軽量化は「走る」「曲がる」「止まる」とすべてに効きます。それにしても、これだけ開口部の広いホイールは珍しいですね。
webCG:ホイール内部のブレーキディスクはスリット入り。その大きさが迫力です。センターのハブはアルミ製なんだとか。
山野:フロントハブにグルリとうがたれた穴を見てください。 ブレーキングで生じる熱は、パッド、ローターからハブへと伝わります。ハイスピードからのハードなブレーキングを重ねてもフェードさせないため、通気性を確保して熱の上昇を抑える仕組みです。長期的にはハブやドライブシャフトのベアリング類を熱から守ることにもつながります。
webCG:リアのブレーキは相対的に控えめですが……。
山野:フロント荷重が大きいFFスポーツでは、このサイズで十分。リアに過剰なブレーキを与えると、前後のブレーキバランスをとるのにかえって苦労することになります。
webCG:いかにも「分かっている」。モータースポーツからのノウハウが詰まっているんですね。
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ルノー・スポールが追求した「さらなる理想」
メガーヌR.S.ウルティムのエンジンは、1.8リッター直列4気筒ターボ。300PS/6000rpmの最高出力と、420N・m/3200rpmの最大トルクを発生する。組み合わされるトランスミッションには2種類が用意され、EDCことデュアルクラッチ式のAT、またはコンベンショナルな3ペダル式MTから選択できる。いずれも6スピードだ。
山野:走り始めて、「エッ!? 2リッターじゃないの!?」と、ちょっと驚きました。1.8リッターの排気量にして、低回転域からトルクが太く、回せばしっかりパワーが出てくる。メチャメチャ好感触です。
早速ボンネットを開け、エンジンを確認する山野哲也。ルノー車らしい、飾り気のないエンジンまわりだが……。
山野:ターボユニットへのパイプが金属製ですね。樹脂、ゴムパーツとの接合部にはワイヤーロックが多用され、防振、抜け防止に万全を尽くしている。一見、そっけない見かけですが、無駄なものを省きつつ、パワーダウンやトラブル防止に入念な配慮がされている証拠です。
webCG:またまたモータースポーツからのフィードバックが! そういえば、この手のクルマの定番パーツ、剛性アップのためのストラットタワーバーが見当たりませんが。
山野:キャビンとエンジンルームを分ける壁、バルクヘッドを通常より前進させて、ストラットタワーの後部と溶接している。これはすごい。
webCG:両者が一体化されているので、構造的にタワーバーが必要ないのですね。
メガーヌR.S.のハンドリングを特徴づけるデバイスのひとつが、後輪もステアする「4コントロール」システムだ。低速時には旋回性を上げるため前後輪が逆に切られる逆位相が、高速時には安定性を重視した同位相が採られる。繊細なドライビングで知られるジムカーナチャンピオンは、ルノーのリアステアをどう評価するのか?
山野:FFを知り尽くしたルノー・スポールがさらなる理想を追求した。そんな印象を受けました。
webCG:小回りが利くという実用面もありがたいですが、ハンドリングという観点からはいかがでしょう?
しばらく考えていた山野哲也が、「特に理論的な裏づけがあるわけではないのですが」と断ってから話し始めた。
山野:あくまで個人的な意見ですが、クルマが曲がるにあたっては旋回軸が車体のど真ん中にあるのが理想だと思っています。そのためには重心位置がキモになります。「回っているコマ」を思い浮かべるとよく分かります。クルマに置き換えると、ミドシップがその条件に一番近くなります。一方、フロントに重量物が集まるFF車は、バランスがとりにくい。フロントタイヤの負担を減らしつつ、リアタイヤを積極的に使用していきたいのです。
webCG:そこで、リアステアで助けてやる?
山野:そう。ただ、後輪の動かし方や曲げるタイミングの案配が難しい。まずはリアステアがない状態で、スプリング、ダンパー、ブッシュといったサスペンションセッティングを煮詰めて、それでも足りない部分を補完する。そんなアプローチが必要なんじゃないでしょうか。
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これぞ究極のルノー・スポール
webCG:アクティブなリアステア機構は、昔から出ては消え、復活しては捨てられてきた。そんなテクノロジーですね。
山野:それだけチューニングが難しいということです。メガーヌR.S.のそれは非常によくできている。このクルマのフロントレスポンスはもともと例外的によくて、タイヤのグリップも高い。普通のFF車だと後輪はついてくるだけなので、リアグリップを積極的に使うのは難しいのですが……。
webCG:4コントロールを備えたメガーヌR.S.なら、4輪とも有効に使える、と。
山野:そうです。そのうえで、グリップの使い方について忘れてはいけないことがあります。
webCG:といいますと?
山野:サーキットでタイムを狙う場合、一般の方は、「コーナリング速度を上げよう」と考えますが、実はカーブの出口に向かって「早めに向きを変える」ほうが大事なのです。
webCG:加速を始めるタイミングが早まりますから。
山野:メガーヌR.S.は、コーナリング中でも「クルマを曲げなきゃ!」とドライバーを焦らせることなく、むしろ「曲がっているから大丈夫」と背中を押してくれます。これは速いわけです。
「接地面の変化が少ない」「相対的にタイヤの摩耗を均質化できる」「前輪が通ったラインに近い軌跡を後輪もなぞれる」と、モータースポーツの現場を知り尽くした山野が4コントロールの利点を並べる。標準で装備されるトルセン式LSDとのマッチングもよく、総じてメガーヌR.S.の「オン・ザ・レール」なハンドリングに高い評価が下された。
webCG:ちょっとマニアックな方向に話が進みすぎました。シャシーから専用設計のアルピーヌA110と比較して、実用車を徹底的に磨き込んだのがメガーヌR.S.ウルティムといったところでしょうか?
山野:確かに“ファミリー層でも使える”最速の量産FF車が、メガーヌR.S.ウルティムです。乗り心地もソフトではないけれど、不快な硬さはない。気兼ねなく他人を乗せられる。サーキットに行かなくとも、例えば街なかでも気づかないうちにハンドリングのよさを享受できる。無意識のまま、交差点でいいラインを走れる。メガーヌR.S.ウルティムは、そうした意味でも究極の、そして最後のルノー・スポールモデルといえるでしょう。
(語り=山野哲也/まとめ=青木禎之/写真=郡大二郎)
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車両データ
ルノー・メガーヌR.S.ウルティム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1875×1465mm
ホイールベース:2670mm
車重:1470kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:300PS(221kW)/6000rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/3200rpm
タイヤ:(前)245/35R19 93Y/(後)245/35R19 93Y(ブリヂストン・ポテンザS007)
燃費:11.3km/リッター(WLTCモード)
価格:659万円