アストンマーティン・ヴァンテージの魅力に迫る[第1回]D'station Racingチームのドライバーに聞く
ジェントルでエレガント 2019.09.12 アストンマーティン・ヴァンテージ特集<PR> 「アストンマーティン・ヴァンテージGT3」でSUPER GTを戦っている、D'station Racingチームの藤井誠暢選手とジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手。ふたりが、レーシングマシンのポテンシャルや市販モデルとの共通点、そしてアストンマーティンでレースを行う意義を語った。性能調整テストでトップタイム
灼熱(しゃくねつ)のチャーン・インターナショナル・サーキットで繰り広げられたSUPER GT第4戦タイ大会。その決勝レースで、3番グリッドからスタートしたNo.7 D'station Vantage GT3(藤井誠暢/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)は果敢な走りで優勝争いを演じたものの、2番手を走行中だった57周目に右リアタイヤがパンク。ピットでタイヤ交換すると素早くコースに復帰したが、入賞圏外の19位でフィニッシュした。それは62周でチェッカードフラッグが振り下ろされたレースが、残りわずか5周となった時点で起きた悪夢のような出来事だった。
とはいえ、ヴァンテージGT3が今シーズンの第4戦という早い段階で優勝争いを演じると予想できたファンは、そう多くなかっただろう。実は、チームのナンバーワンドライバーである藤井選手はシーズン前にこんな言葉を口にしていた。
「性能調整を決めるテストで、ヴァンテージGT3がライバルたちを1.5秒も上回るトップタイムを記録したんです」
このとき、意外にも藤井選手はなかばうれしそうな、しかし残念がるようでもある複雑な表情を浮かべていたのが印象に残った。「自分が走らせるマシンがそれほど速かったのなら不満はなにもないはず」と誰もが思うところだろう。しかし、GT3という枠組みで走るレーシングカーにとって、「性能調整を決めるテスト」で突出して速いことはあまりうれしい出来事とはいえないのだ。
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スーパー耐久ではデビューウィン
エンジン排気量や車体レイアウトがまったく異なるマシンが競い合うGT3レース。そこで緊迫した戦いを生み出すため、第三者機関がシーズン前に各メーカーのGT3マシンを一堂に集め、オフィシャルドライバーの手で性能チェックを行う。その結果に基づいて決められるのが性能調整(またの名をBoP)。ここで各車のエンジン(エアリストリクター径や最大過給圧など)や車重による性能差をコントロールし、パフォーマンスに一定の歯止めをかけ、各マシンの速さをバランスさせてレースが盛り上がるように工夫しているのである。
当然、このテストで速ければそれだけ厳しいハンディキャップが課せられることになる。藤井選手が複雑な表情を浮かべたのも当然のこと。事実、D'station Racingがスーパー耐久にエントリーしたヴァンテージGT3は、この性能調整の結果が公布される直前に催された開幕戦で鮮やかなデビューウィンを飾ったものの、その直後に実施された SUPER GT開幕戦では予選19位、決勝リタイアと低迷。性能調整が成績に与える影響はかくも大きいことを証明したのだ。
しかし、D'station RacingチームはヴァンテージGT3の実力を信じ続けた。
「いまは極端に厳しい性能調整が課せられているが、これもいつかは適正な値に再設定されるだろう。また、スーパーGTの環境で速さが発揮できるように開発を続ければ、きっと好成績が狙えるはず」
こうしてドライバー、エンジニア、メカニックが一体になっての挑戦が始まった。エースドライバーの藤井選手が語る。
「新型ヴァンテージをベースにしたレーシングカーには、ルマン24時間や世界耐久選手権(WEC)などを戦うヴァンテージGTEと、僕たちが走らせているヴァンテージGT3の2種類があります。このうちヴァンテージGTEはロードカーのヴァンテージとほぼ同じタイミングで発表されました。つまり、ロードカーとレーシングカーが並行して開発されていたのです。しかも、ヴァンテージGTEはデビューして5戦目にしてWECで初優勝を飾った。それくらいヴァンテージGTEはポテンシャルが高いんです」
藤井選手が続ける。
「このヴァンテージGTEをGT3規定に合うようにつくり直したのがヴァンテージGT3。だから速いのは当たり前で、性能調整テストでの結果はある意味で当然といえるものだったのです」
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第4戦タイ大会で見せた実力
アストンマーティンレーシングでセールスマネージャーを務めるブノワ・ブールデール氏は新型ヴァンテージGT3の進化を次のように説明してくれた。
「ベースとなったロードカー仕様のヴァンテージが性能面で飛躍的な進歩を遂げた結果、レーシングカーのパフォーマンスも大きく向上しました。ロードカーでは、まずボディー剛性が向上し、主要コンポーネントのレイアウトも改善されています。エンジンが従来の自然吸気V12からコンパクトなツインターボV8に置き換わり、車体の中央に近い低い位置にエンジンを搭載できたことも大きなメリットです。そしてそこからレーシングカーにモディファイする際には、エンジンをさらに車体中央寄りの低い位置に移動するとともに、オイルタンクやスターターモーターなどの補機類をすべてボディー後方に移設してボディーの重量配分を最適化しました。加えて、ボディーパネルはすべてカーボンファイバー製に改めたほか、エアロダイナミクスも大幅に進化させてダウンフォースを増やしています」
日本のレース環境にマッチさせるための努力も怠らなかった。藤井選手のチームメイトを務めるデ・オリベイラ選手が語る。
「スーパーGTではテストの機会が制限されているので、短期間でセッティングを煮詰めるのが難しい。そこで僕たちはイギリスにある7ポストリグを使ってシミュレーションを行い、セッティングを見直しました」
7ポストリグはF1チームなども用いるシミュレーション技術の一種で、走行中に発生する路面からの振動を高速で作動する油圧シリンダーで再現。この振動をタイヤに加えることで、サーキットを走ったときのサスペンションの動きを実車で評価する試験装置のことだ。デ・オリベイラ選手が付け加える。
「僕たちが使うヨコハマタイヤはスーパーGT専用に開発されたもので、海外のGT3レースで使われるタイヤとは特性が大きく異なります。そこで、7ポストリグを使ってヨコハマタイヤにマッチしたセッティングを見つけ出すことにしたのです」
これと前後して、新型ヴァンテージGT3に課せられた性能調整があまりに厳しかったことが明らかになり、シーズン半ばにしてエンジンの過給圧に関する規制が次第に緩和。さらにD'station RacingがヴァンテージGT3のポテンシャルを引き出すノウハウを手に入れた結果、第4戦タイ大会では「あわや優勝か?」という健闘を示すことができたのだ。
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アストンマーティンは格別
「タイでの結果は、僕たちの方向性が間違っていなかったことを証明しています」とデ・オリベイラ選手。
「新型ヴァンテージGT3にとって、今年はSUPER GTのデビューシーズン。でも、日本のSUPER GTはパッとやってきてすぐに優勝できるほど簡単なレースシリーズではありません。マシン本来の性能を引き出すための開発が必要だし、チームにしてもすべてがしっかりと機能していなければいけない。でも、僕たちはこれから力強いパフォーマンスを発揮できると信じています。特に9月下旬に行われる第7戦菅生大会は、伝統的にヨコハマタイヤが強さを示すレースなので、いい結果が残せると期待しています」
藤井選手もシーズンの残りレースで好成績を挙げられると信じている。
「タイでは僕たちに勝てるポテンシャルがあることを証明できました。今年は、シリーズタイトルを狙うのは難しい状況ですが、まずは1勝したいと思っています」
そう語る藤井選手は、アストンマーティンとともにレースを戦える喜びをかみしめているという。
「アストンマーティンはイギリスを代表するスポーツカーのトップブランドで、ルマン24時間でも数多くの実績を残しています。そんなアストンマーティンの新型ヴァンテージGT3をアジアで唯一、走らせているということにものすごく誇りを感じています」
こうした思いが高じ、いまやプライベートでも新型ヴァンテージを愛用しているそうだ。
「僕はレーシングドライバーであると同時にひとりのクルマ好きでもあります。だから、これまでもたくさんのスポーツカーに乗ってきましたが、アストンマーティンだけは格別。先日も忙しい合間を縫って妻とふたりで銀座に出掛けましたが、アストンマーティンに乗っていると、周囲の僕たちに対する見方も変わってきて、やはりとても誇らしい気持ちになります。アストンマーティンというと、僕のなかでは50代以上のクルマというイメージがありましたが、いま30代後半の僕にとっても魅力的。スポーツカーとしてのパフォーマンスも高いけれど、ただ速いだけでなく、すごく乗りやすくて懐が深い。ジェントルでエレガントなオーラを漂わせているところにも引かれますね」
ジェントルでエレガントなアストンマーティンとともにSUPER GTを戦う藤井選手とデ・オリベイラ選手の活躍に期待したい。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=田村 弥)
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