フォルクスワーゲンhigh up!(FF/5AT)
理想のベーシックカー 2014.07.23 試乗記 誕生から3年、日本導入から2年を迎えようとしているフォルクスワーゲンのエントリーモデル「up!」。改良を受けたというトランスミッションの出来栄えを含め、その実力をあらためて確認した。ぜひお手本にしてほしい
私にいわせればこれ、“軽乗用車の理想形”である。ちょっと前までは「フィアット・パンダ」(先代)のことをそう呼んでいたけれど、up!はもっとそれらしい。安価に作れて安価で売れることを重視して作られた、小型で軽便な実用車。それのちゃんとしたやつ。ボディーも走りもしっかりした、快適で安心感の高いちびグルマ。いまの軽自動車がインチキものだとはいわないけれど、up!ぐらいのレベルになることを目指してさらに頑張っていただけるとさらにうれしい。手近な北極星として、ちょうどいいと思う。黒船というよりは(笑)。
軽乗用車の理想形、的なものとしてup!を考えた場合にもしなにかモンダイがあるとするなら、それはトランスミッションであろう。シングルクラッチの、いわゆるAMT。オウトメイティド・マニュアル・トランスミッション。われわれのギョーカイでは“ガチャコン”などと呼んだりもする。モンダイというか、日本で数を売るにあたって引っ掛かりそうなところとして。ちなみに、フォルクスワーゲン呼称はたしか(笑)「ASG」。「DSG」の1万分の1ぐらいしか有名じゃない。でまた、フードを開けてエンジンのあたりを眺めるとMPI。マルチ・ポイント・インジェクションですか。シングルポイントじゃないのがジマンという(笑)。
「変速プログラムが新しくなってるそうですよ」と編集部ホッタ君。それ、具体的に、どこがどう? 「いや、そこまでは……」。そこまで聞いたら答えも教えてもらってこいや。ま、本国からの情報にも詳しいことは書いてなかったのかもしれない。とにかく、そういわれると気になるのが人情というもので。
賢くなったトランスミッション
ひとつ「これかな?」だったのはダウンシフト。例えば……。前方でクルマの流れが詰まったのでブレーキをかけて減速。そしたらまた流れだしたのでブレーキペダルを踏むのをやめて……のときにブワンと。場合によってはブリッピングも入れながら、再びアクセルペダルを踏み込むまでの間にギアを落としてくれる……ようになった……と思う。これ、前はやってなかったような気が。再びアクセルペダルを踏み込んだらそのときのベストチョイスの段よりいっこ上とかで、モタモタ加速しはじめた直後に慌ててギアを落として「おっと」なことになった覚えが。新たに入った(?)ダウンシフト制御、ブレーキ回路内の液圧の変化をみてるのかなんなのか、いずれにせよ賢い。少なくとも、右足でブレーキとアクセルのペダルを踏み分けるスタイルの運転とは相性がよい(左足ブレーキでイジワルなことを試してはおりません)。あとこれ、発進もビミョーに上手になっているような。
泣いても笑っても前進用のギアは5段しかないので7段のDSGみたいなハヤワザ系ではないけれど、up!の自動変速のプログラムはサッサとギアを上げていく。エンジンの低回転域を積極的に使おうとするタイプ。そこは基本、相変わらず(アップシフトの直後にはカルいノック音らしきものがカリカリッと聞こえてきたりもする)。でまた、エンジンもその要求によく応えている。「クリープのないオートマなんて」という人はいるでしょう。それと、いわゆるトルク切れ、トルク・インタラプションはもちろんある。でもこれ、CVTつきのパワートレインよりよっぽど快適なんだけどなー。初めての人でも、イヤだと思ってた人でも、2、3時間も運転してれば……。5分、10分ではなく。
思い出すのはあのクルマ
運転した感じ全体としてはup!、実にフツー。ザ・フツーといいたいぐらいフツーで、それはひとつには、「ゴルフII」を思い出させるものがミョーにあるから。で、それはなぜなのか。どういうふうになのか。1トン未満の車重とか余計なものがついてない感じとかちっちゃいくせに室内が広々してるとか音や振動の感じがちょっと似ているとかボソッとめのタッチとかのほかに、デカい要因としては走りっぷり。
コーナーでロールしないのがいい走りとか、ハンドルはクイックなほうがいいとか、イニシャルのトーイン強め設定+真ん中のところでハンドルをギュッと固着させて真っすぐ走らせる(走れないけど)とか、ちょっとでも車両にヨー角がついたらすぐに後輪がグッとコーナリングフォースを出さないととか、そういうモロモロにup!は毒されていない。だから、というかそういう意味で「フツー」だし、ゴルフIIのことをミョーに思い出させる……のではないか。要は自然体。自然体の、ちっちゃいドイツ車。おっとりさん&しっかりさんのわかりやすい万人向けにしつけてあるのはフォルクスワーゲン流。ちょっと視野を広げて、1980年代モノのちび欧州車一般に通じる走りの気持ちよさがあるといってもいいかもしれない。で、そういうのが大好きな人は少なくない(ただし、主にオジサン)。
ちなみにゴルフII、私にとっては神車の一台。あんな運転ヘタだった俺が、あんなに安心して、あんなにぶっトバせたクルマ。だからup!も神車だとまではいわないけれど、こういうクルマはうれしい。ゴルフIIうんぬん抜きでも気持ちいい。余談だけど、同じフォルクスワーゲンの小型車でもポロだと運転してゴルフIIのことを思い出したりは別にしない。別モノ。
いまのワーゲン、スゴい
ちなみにup!、履いているタイヤでずいぶん印象が違う。14インチの「ブリヂストン・エコピア」を履いた素up!(move up!)はまるで日本車みたいにブワンとルーズな乗りアジだったし(駆動の感じまで違った)、そうかと思うとディーラーオプションの15インチのアロイホイールに「ミシュラン・パイロットスポーツ3」(非純正装着銘柄)を履かせたものがついた3ドアの素up!の広報車は、われわれのギョーカイ内のごく一部でちょっとした伝説の一台になっていたりする。山道で元気よく走るとものすごく楽しいクルマとして。で、その点、今回のは……。ま、中ぐらいのフツーってことで。ただ、もうちょっとピシッと真っすぐ走ってくれるとうれしい。あとハンドルの手応え的にも、もうちょっとハキハキと……。
「MQB」系列外のとびきり軽便なクルマをいまのワーゲンがマジメに作るとこうなる。up!はそういうクルマ。アタリマエといえばアタリマエ。「クルマって本来、こういうものだよな」と思いながら返しにいった……のは、実はちょうど、たまたま、そのタイミングで「ゴルフR」の広報車を予約していたから。「ついでがあるから俺が返しとくわ」と。そしてゴルフRにちょっと絶句。想定外のよさがあったので……という話はここには関係ないけれど、やっぱいまのワーゲン、すごい。ゴルフRもそうだけど、ゴルフRもup!も作れちゃうところが。Das Auto.
(文=森 慶太/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲンhigh up!
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3545×1650×1495mm
ホイールベース:2420mm
車重:920kg
駆動方式:FF
エンジン:1.0リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:5段AT
最高出力:75ps(55kW)/6200rpm
最大トルク:9.7kgm(95Nm)/3000-4300rpm
タイヤ:(前)185/55R15 82T/(後)185/55R15 82T(ブリヂストン・エコピアEP25)
燃費:23.1km/リッター(JC08モード)
価格:193万2000円/テスト車=206万3760円
オプション装備:なし/※以下、販売店装着オプション ETC車載器(1万4040円)/カーナビゲーションシステム<パイオニアAVIC-MRP008-VW>(11万7720円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:4393km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:413km
使用燃料:22.2リッター
参考燃費:18.6km/リッター(満タン法)/19.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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森 慶太
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