マツダ・デミオXDツーリング(FF/6AT)/デミオ13Sツーリング Lパッケージ(FF/6AT)
深まる人馬一体感 2016.02.23 試乗記 発売から1年あまり、「マツダ・デミオ」がドライバーとの人馬一体感を深める改良を受けた。その進化のほどは? 街中での試乗を通じて確かめた。「買い得だから」から「好きだから」へ
デミオはロングクルージングが得意な珍しいコンパクトカーだ。いくつか理由があって、まずスペースの関係でペダル配置が適切じゃないコンパクトカーがけっこう売られているが、デミオはペダル配置が適切なだけじゃなく、ステアリングホイールやシートなど、操作系のレイアウトがきちんとしているので長時間運転するのが苦にならない。またディーゼルエンジン車の場合、トルキーで運転が楽しく、かつ音と振動が納得できるレベルに抑えこまれているので疲れにくい。さらに燃費がよく、燃料費も安いことも長距離ドライブにもってこいだ。
いいことばかりというわけでもなく、デミオはコンパクトカーとしては安いほうではない。2WDで約190万円、4WDだと200万円を超えるグレードもある。ただし安くない理由をそこここに感じられるから納得できる。例えばこのクラスとしては珍しいチルト&テレスコピック機能付きのステアリングホイールを装備したり、高級車でおなじみのカーナビやオーディオを操作するためのダイヤルスイッチを設定したり。そもそも高価なディーゼルエンジンを設定すること自体、日本車の戦略としてはユニークだ。
そうしたデミオのやり方は、安い値付けや値引きで勝負して疲弊した過去を持つマツダが考えた生き残るすべだ。マツダはそれを「クラスの概念を打ち破る」と表現する。要するに、大メーカーのように安さが自慢の小さなクルマから豪華で大きなクルマまで取りそろえ、思うように売れなかったら値引きするという売り方から、得意なモデルだけに絞ってつくりこみ、「買い得だから」ではなく(高くても)「好きだから」という理由で買ってくれるお客さんを大事にする戦略。そういえばここ最近大幅値引きをうたうマツダの折り込みチラシを見ていない。
わずかな、しかし着実な進化
今回のマイナーチェンジでは見た目に変化はほぼない。ルーフエンドのアンテナが棒状からシャークフィンに変わっただけ。
最初にディーゼルエンジン搭載の「XDツーリング」をテストした。ディーゼルエンジンに対し、ひと足早くマイナーチェンジした「CX-3」と同じDE精密過給制御という改良が加えられた。全開加速ではなく、パーシャルスロットル時に若干もっさりした感じを与えるきらいがあったのを改良し、前のクルマとの間隔が開きすぎて少しアクセルを踏み増した場合などの出足をよくした。またCX-3で初採用されたピストンピン内部にダイナミックダンパー状のパーツを仕込むナチュラルサウンドスムーザーがデミオのディーゼルモデルの上級グレードに標準装備された。
新旧モデルを乗り比べた。DE精密過給制御については、僕に言わせればわずかな違いで、改良前モデルのオーナーも悲観することはない。ナチュラルサウンドスムーザーも、あればあったに越したことはないが、劇的に違うというわけでもない。ただ、こうした改良を出し惜しみすることなく投入するマツダの姿勢は評価すべきだろう。
今回のマイチェンで全モデルの電動パワーステアリングのセッティングが見直された。端的に言えば操舵(そうだ)が軽くなった。特に切り始めの重さを軽減し、交差点を曲がる際などにすっと切り始められるようなセッティングにしたという。エンジンよりもこちらのほうがわかりやすく、改良前モデルオーナーはエンジンの変更よりこちらのほうが悔しいはずだ。
ガソリンモデルは板厚アップによる遮音フロントガラスとラゲッジのトノカバーが装備され、遮音性能が向上した。これも新旧モデルを交互に乗ったが、残念ながら街中のみの試乗ではその違いを感じることができなかった。高速巡航時にご利益があるはずだ。
広がるバリエーション
15年10月に追加されたモータースポーツベース車の「15MB」にも短時間試乗した。ノーマルモデルのガソリンエンジンが1.3リッターなのに対し、このモデルはガソリンの1.5リッターを積む。最高出力116ps/6000rpm、最大トルク15.1kgm/4000rpmと1.3リッターに比べ24ps、2.8kgmのアップ。街中でしか試乗できなかったので“速さ”を確認するのは難しかったが、吹け上がりのよいエンジンではあった。インテリアは質素。足まわりもイジる前提なのでノーマルではソフト過ぎるが、ノーマルモデルが5段MTなのに対し6段MTが備わるほか、軽量の15インチアルミホイールが標準装備されるなど、ジムカーナのベース車両として適した仕様となっている。
マイナーチェンジに合わせて、「ブラックレザーリミテッド」という特別仕様車が発売された。ガソリンとディーゼルの上級グレードをベースに、黒いレザー/クロスのコンビシート(中央に着物の帯のようなストライプを配置)をはじめ、専用のインパネのデコレーションパネル、ドアアームレストなど、いずれも黒で統一されたインテリアが採用されている。
ブラックレザーリミテッドは、「ミッドセンチュリー」「アーバンスタイリッシュモード」に続くデミオの特別仕様車第3弾。毎回、自らハードルを上げるカッコいい名前を冠するが、いずれも名前負けしない出来で、特に第1弾の白いボディーカラーに真っ赤なインテリアのミッドセンチュリーは出色の出来だった。ブラックレザーリミテッドは落ち着いた色づかいで大人の男女が乗るにふさわしく、またボディーカラーを選ばないので、売れるんじゃないだろうか。
(文=塩見 智/写真=高橋信宏)
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テスト車のデータ
マツダ・デミオXDツーリング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4060×1695×1525mm
ホイールベース:2570mm
車重:1130kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼルターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:105ps(77kW)/4000rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-2500rpm
タイヤ:(前)185/60R16 86H/(後)185/60R16 86H(トーヨー・プロクセスR39)
燃費:26.6km/リッター(JC08モード)
価格:196万5600円/テスト車=219万2400円
オプション装備:特別塗装色<ソウルレッドプレミアムメタリック>(4万3200円)/CD・DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(3万2400円)/i-ELOOP(6万4800円)/セーフティパッケージ(8万6400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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マツダ・デミオ13Sツーリング Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4060×1695×1525mm
ホイールベース:2570mm
車重:1030kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:92ps(68kW)/6000rpm
最大トルク:12.3kgm(121Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ヨコハマ・ブルーアースA)
燃費:24.6km/リッター(JC08モード)
価格:173万8800円/テスト車=190万800円
オプション装備:特別塗装色<ソウルレッドプレミアムメタリック>(4万3200円)/CD・DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(3万2400円)/セーフティパッケージ(8万6400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

塩見 智
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