北京モーターショー(Auto China 2024)が2024年4月25日に開幕しました。世界のEV大国である中国だけあって、地場系メーカーだけでなく、グローバルメーカーがこぞってEV関連の最新技術・最新モデルを展示しています。
日本においては隣国の動きとして話題性はそう高くないかもしれませんが、現地で取材していると「各ブランドの新たな動向を目に焼きつけていきたい」という世界各国のメディアの熱量に、日本の自動車・モビリティー業界関係者もこの大きな流れをしっかりと把握していくべきだと痛感します。
さて、今回の北京モーターショー(以下、北京MS)で注目すべき動向はいくつもあります。ひとつは、日系ブランドが電動化の開発を急ぎ、日本には存在しない新車種が誕生していること。しかも、その装備は最新のコネクテッド技術を活用したものとなっています。また、華為(Huawei:ファーウェイ)や小米(Xiaomi:シャオミ)などといった異業種からの参入も話題。そのほか、スマートキャビン化によって多種多様なクルマが大量投入されていることなど、今年の北京MSへの関心は尽きません。
そのなかで、今回『EVcafe』でお伝えするのは、会場で遭遇した、「テスラ・サイバートラック」のデザインに影響を受けたであろう3モデル(Cybertruck Look)です。デザインの同質化は、その時代のデザインの進化をトレンドとしてみていくことにもなりますが、テスラが生み出したサイバートラックというトレンドが今回の北京MSを通じて、いかなる商品として市場に出てきたのかをみていきたいと思います。

最初に紹介するのは、「東風・Dongfeng e-Truck 2024(東風・奕派2024概念車)」で、その名のとおり、“Truck”がついているこのモデルは、2023年4月の上海モーターショーでワールドプレミアされたものが、今回の北京MSでより具体的になってきました。
ボディーサイズは、その場に立つと”デカい”と感じるほどのスケール感がありますが、フルホイールステアリングの採用によって、最小回転半径は5.1m(「トヨタ・プリウス」と同じレベル)となるなど、取り回しを重視しているのがわかります。また動力源はBEVで1305PSのパワーがあるとされています。
現時点ではコンセプトモデルのために多くの情報がまだ出ていませんが、デザインは東風汽車R&Dデザインセンターで設計されたもので、展示車は後部に大きなテント型ルーフを広げ、アウトドアを楽しむかのような雰囲気で展示されていました。


続いて紹介するのは、「広汽・GAC Era(広汽・紀元)」。2023年11月の広州モーターショーでワールドプレミアを果たしたモデルです。広州では中央のステージ上に置かれ、その中を見ることが難しかったのですが、今回の北京MSではステージ下のブース入り口に置かれており、より分かりやすい展示になっていました。
デザインはテスラのサイバートラックよりも丸みを帯び、シャープなクーペタイプの超大型SUVといった感じ。その設計は、広汽のミラノ、ロサンゼルスのデザインスタジオで行われたらしく、サイバートラックのデザイントレンドに影響を受けたことがうかがえます。車格はサイバートラックのように”デカい”のですが、車室内はスマートキャビン化を図っているようで、今回の展示では後部を大きく広げ、野外でプロジェクター映像や音楽を楽しむようなプレゼンテーションが行われていました。
動力源はBEVで、広汽が開発を進めるエネルギー密度400Wh/kgを誇る全固定電池を搭載。2026年に量産化を目指すとされています。



最後に紹介するのは、今回の北京MSでワールドプレミアを果たした「長安・Changan Qiyuan E07(長安・启源E07)」です。このモデルは、お披露目を前に中国のメディアで「中国版サイバートラック」と表現されていました。いくつかの現地情報によれば、国に届け出た車型情報(開発コード:CD701)として、全長:5045mm/全幅:1996mm/全高:1640~1695mm/ホイールベース:3120mmとなっています。全長が5mを超えながらも、幅は2m以内に収まっていて、「コンパクトで取り回しのいい実用的な量産モデル」という見た目となっています。
動力源は、北部の寒冷地向けではPHEV、南部の温暖な地域ではBEVが販売の中心と考えられています。PHEVについては航続距離の長いレンジエクステンダーで航続距離651~701kmを誇ると報じられていて、まさに比較的リーズナブルな「中国版実用サイバートラック」が量産を開始する印象。2024年の下半期(10月頃)に予約販売が開始される見込みです。



これら、サイバートラックと同質化するデザインの3モデルは、どれも北京MSでは、アウトドア向けの提案がされていました。このようなかたちでEVのライフスタイルも多様化していくのだと感じられます。
日本人には、「また中国のパクリか」と冷ややかな見方をする方も多いかもしれません。ただ、これらのモデルが“客寄せ”であることも中国側は十分に理解しているはずです。グローバルブランドも合わせて多くのブランドが熾烈な市場間競争を繰り広げている中国のEV市場を考慮すると、ここには中国企業のしたたかな事業戦略が映し出されていて、それがさらなる進化を遂げ、グローバルに影響が波及していくことは時間の問題だとも考えられます。
イーロン・マスクは、4月28日に中国入りしました。今回、テスラは北京MSに出展していませんが、もし、イーロン・マスクが視察に訪れたなら、これらのEVを見てどのような反応をするのでしょうか?
(文と写真=八杉 理)

八杉 理(Li,Yasugi)
90年代初頭より中国で自動車産業・市場の研究活動を開始。トヨタ系マーケティング会社勤務時には、トヨタブランドの海外コーポレートマーケティングPDCA構築を手がけたほか、大手広告代理店とともに商品・技術ネーミング開発にも携わるシニアマーケティングアナリストを歴任。また、グローバルのモーターショー等イベント会場調査を実施しており、主要ブランドの先端技術動向にも精通するエバンジェリスト。一貫した“現場重視”のリサーチャーでもあり、豊富な現地ネットワークを構築し、オン/オフラインでの自動車イベント取材や専門家インタビュー等を実施して、常に“リアルな中国/中国車の動向”を伝えている。現在の勤務先は、トヨタ自動車が100%出資するトヨタグループの現代文化研究所・上席主任研究員。著書に、『巨大化する中国自動車産業』日刊自動車新聞社、『東アジア地域協力の共同設計』ミネルヴァ書房等分担執筆。明治大学大学院商学研究科博士課程、中国人民大学商学院シニア・スカラー修了(中国産業経済学専攻)。
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