クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

エンジニアが語る“継承と進化”

クルマを鍛える、人を育てる 2018.12.21 Moduloの25年史<PR> サスペンションや空力パーツなどの用品を通して、あるいはコンプリートカー「Modulo X(モデューロX)」によって、ユーザーに上質な走りを提供するブランド「モデューロ」。その走りの“味”はどのようにして育まれ、今日に継承されてきたのか。3人のエンジニアに話を聞いた。

バランスを整え、快適で速いクルマをつくり上げる

ホンダ車をカスタマイズするための純正アクセサリーブランド、モデューロ。そこにはクルマのジャンルを問わず、共通の乗り味が貫かれている。シンプルに表現すれば、ストレスなく、自然に速く走れるクルマ。運動性能を高めつつ、乗り心地も犠牲にしないのがモデューロのやり方だ。

そんな乗り味の生みの親が、玉村 誠さんだ。玉村さんは本田技術研究所で3代目「シビック」、通称“ワンダーシビック”のサスペンション開発を担当。さらに初代「NSX」の開発にあたっては、ドイツのニュルブルクリンクでその走りを鍛え上げた。その経験を生かすべく、1993年にホンダアクセスに異動し、モデューロの乗り味を確立した。

「目指したのは乗りやすく、安心して飛ばせるクルマ。それでいて、ゆっくり走っても硬さが不快じゃないセッティングです。サスペンションの前後バランスや、ボディーとの硬さのバランス、さらには前後の空力のバランスをうまく取ることで、それを実現しています」

彼の絶妙な乗り味をもたらすセッティングは、“玉サス”と呼ばれている。

「ダンパーの伸びと縮みのバランスがほぼ1:1。ノーマルに比べて伸び側を下げて素直に脚を伸ばし、次の縮みでしっかりと動きを抑えます。バネは、フロントのレートを下げて、リアを上げる。こうすることで『4輪で舵を切る』ようにするセッティングが“玉サス”です。これは初代NSXと同じ考え方で、それがモデューロのセッティングとして受け継がれているのです」

→コンプリートカー「Modulo X」の詳細はこちら

次の記事:モデューロの技が生きるミニバン2台を試す
前の記事:モデューロの歴史を彩る新旧3台を比較試乗

玉村 誠(たまむら まこと)さん
1971年本田技術研究所入社。振動騒音、人間工学の研究を経て操縦安定性の開発部門に移り、3代目「シビック」や初代「NSX」など、さまざまなモデルの開発に携わった。1993年にホンダアクセスに移り、今日に続くモデューロの走りの“味”を確立させた。
玉村 誠(たまむら まこと)さん
	1971年本田技術研究所入社。振動騒音、人間工学の研究を経て操縦安定性の開発部門に移り、3代目「シビック」や初代「NSX」など、さまざまなモデルの開発に携わった。1993年にホンダアクセスに移り、今日に続くモデューロの走りの“味”を確立させた。拡大
玉村さんが先行車開発とサスペンション開発を担当した3代目「シビック」。玉村さんは、ラリーやレースなどで得た自身の経験も生かしながら、車両の開発を進めていった。
玉村さんが先行車開発とサスペンション開発を担当した3代目「シビック」。玉村さんは、ラリーやレースなどで得た自身の経験も生かしながら、車両の開発を進めていった。拡大
玉村さんが手がけたサスペンション、通称“玉サス”は、ボディーの硬さや空力特性など、クルマ全体とバランスをとったうえで、後輪をしっかり働かせて「4輪で舵を切る」ようセッティングがなされていた。
玉村さんが手がけたサスペンション、通称“玉サス”は、ボディーの硬さや空力特性など、クルマ全体とバランスをとったうえで、後輪をしっかり働かせて「4輪で舵を切る」ようセッティングがなされていた。拡大

開発のステージはドイツの田舎道

“玉サス”の特徴を表すこんなエピソードがある。

「『玉さんのクルマを運転して降りると、FF車なのにリアタイヤからニオイがする』と言われたことがあります。それはリアタイヤがしっかりと仕事をしているからです。FFなら、いかに後輪でアンダーステアを消して、ニュートラルステアにするかがポイントになるのです」

玉サスの原点となるNSXの開発では、ニュルブルクリンクの旧コースを走り込んだという玉村さんだが、モデューロが想定するステージは実はそこではない。

「NSXクラスのスポーツカーであればニュルブルクリンクを走る意味はあります。クルマをゼロからつくり上げる場合もそうでしょう。しかし、出来上がったクルマをベースとするモデューロの場合、そこまでは不要です。その点、ニュルブルクリンクの周辺にある一般道は、ワインディングロードやバンピーな路面、アウトバーンなど、どこもテストに適しています。そこで安心して走れて、結果的に速いというのが目標でした」

こうしてモデューロの乗り味を確立した玉村さんだが、2011年には定年退職し、次の世代に開発を委ねている。

「モデューロという幅のなかに収まっていれば、必ずしも“玉サス”である必要はありません。担当者それぞれの個性があっていいと思うんです。福田は福田のセッティング、湯沢は湯沢のセッティングでいいから、ブレないでほしい。ミニバンでもSUVでもスポーツカーでも同じ考え、同じセッティングで、同じフィーリングを実現してほしいと思います」

ここで名前が挙がった福田さんというのが、現在モデューロの開発統括を務める福田正剛さんだ。福田さんは玉村さんと同じく本田技術研究所の出身で、第2世代のモデューロ開発エンジニアとなるべくホンダアクセスに異動してきた。

「『4輪で舵を切る』とか、『クルマはバランスで走るもの』といったモデューロの基本は大切だと思っています。玉村には、ニュルブルクリンク周辺で走り込んだ道に連れて行ってもらったのですが、なるほど、上質な走りをつくるにはうってつけでした」

→コンプリートカー「Modulo X」の詳細はこちら

次の記事:モデューロの技が生きるミニバン2台を試す
前の記事:モデューロの歴史を彩る新旧3台を比較試乗

玉村さんがテストドライバーとして開発に携わった初代「NSX」。同車の誕生20周年を記念したカスタマイズパーツの開発を最後に、玉村さんは2011年にホンダアクセスを退社した。
玉村さんがテストドライバーとして開発に携わった初代「NSX」。同車の誕生20周年を記念したカスタマイズパーツの開発を最後に、玉村さんは2011年にホンダアクセスを退社した。拡大
2018年5月に発表された「S660モデューロX」。今日に続く“モデューロの走り”をつくり上げた玉村さんだが、福田さんや湯沢さんの手がけるクルマについては「必ずしも“玉サス”である必要はない。担当者それぞれの個性があっていい」と語った。
2018年5月に発表された「S660モデューロX」。今日に続く“モデューロの走り”をつくり上げた玉村さんだが、福田さんや湯沢さんの手がけるクルマについては「必ずしも“玉サス”である必要はない。担当者それぞれの個性があっていい」と語った。拡大
クルマづくりの現場からは退いた玉村さんだが、クルマにかける情熱が失われたわけではない。現在はタイのプリンス・オブ・ソンクラー大学において、学生フォーミュラ部の生徒にクルマづくりを教えている。
クルマづくりの現場からは退いた玉村さんだが、クルマにかける情熱が失われたわけではない。現在はタイのプリンス・オブ・ソンクラー大学において、学生フォーミュラ部の生徒にクルマづくりを教えている。拡大
福田正剛(ふくだ せいこう)さん
1981年本田技術研究所入社。サスペンションの基礎開発からスタートし、初代「オデッセイ アブソルート」や3代目「レジェンド」など、さまざまなモデルの開発に携わった。現在はホンダアクセスにおいてモデューロの開発統括を務め、商品開発と後進の育成に腐心している。
福田正剛(ふくだ せいこう)さん
	1981年本田技術研究所入社。サスペンションの基礎開発からスタートし、初代「オデッセイ アブソルート」や3代目「レジェンド」など、さまざまなモデルの開発に携わった。現在はホンダアクセスにおいてモデューロの開発統括を務め、商品開発と後進の育成に腐心している。拡大

「長く乗りたい」と思われるクルマをつくりたい

取材当日は、福田さんの運転でホンダアクセスの栃木研究所近くの道を走る機会があった。

「ここは山を抜ける生活道路です。ドイツの田舎道もそうですが、カーブの先が見えなかったり、先がぬれていたりするかもしれない。最初にうまくクルマを曲げてやらないと、アクセルを開けていけないですよね。4つのタイヤをきちんと使って接地性を出してやれば、うまい人なら舵角を一発で決めて、あとはアクセルとブレーキだけでコントロールできます。こういう道で、ラクに安心して走れることが大切だと思うんですよ」

しかし、受け継いだ伝統を守るだけでは未来を切り開くことはできない。

「モデューロの芯となる部分は守らなければなりませんが、それだけでは不十分です。どんな高級ブランドでも、新しいことに挑戦し、刺激を与え続けなければ廃れてしまいますよ。だから、基本はきっちりやりつつ、お客さまの期待に応えられるよう、環境の変化を先読みしながら、モデューロを常に進化させている。さらなる走りの上質さを盛り込んでいるつもりです。とにかく、お客さまが長く乗りたいと思うクルマをつくっていきたい」

そのために、福田さんは開発メンバーには自分で体験して感じることの大切さを教え、自身も常に現場に近いところで開発に参加しているのだ。

そんな福田さんや玉村さんの背中を見ながら、次のモデューロを担うエンジニアとして奮闘しているのが湯沢峰司さんである。ふたりの先輩とは異なり、湯沢さんは生え抜きのホンダアクセス社員だ。

「F1が好き、ホンダが好きで、ホンダに入社しました。最初の配属がホンダアクセスになりましたが、学生時代には空力を勉強していましたし、エアロや足まわりなど、クルマをいじるのが好きだったので、ホンダアクセスは面白そうだと思いました」

実際、入社後はサスペンションやエアロパーツの開発に携わることに。さらに今ではコンプリートカーの「モデューロX」も担当している。

→コンプリートカー「Modulo X」の詳細はこちら

次の記事:モデューロの技が生きるミニバン2台を試す
前の記事:モデューロの歴史を彩る新旧3台を比較試乗

「S660モデューロX」のリアを飾る「Modulo X」のロゴ。「モデューロX」の第1弾が登場したのは2012年12月で、玉村さんが退社した翌年のことだった。
「S660モデューロX」のリアを飾る「Modulo X」のロゴ。「モデューロX」の第1弾が登場したのは2012年12月で、玉村さんが退社した翌年のことだった。拡大
2017年12月に発売された「フリード モデューロX」。コンパクトミニバン「フリード」をベースとしたコンプリートカーで、モデューロXのご多分にもれず、サスペンションや空力パーツ、シートなどの内装と、およそパワートレインを除くすべての箇所に手が加えられている。
2017年12月に発売された「フリード モデューロX」。コンパクトミニバン「フリード」をベースとしたコンプリートカーで、モデューロXのご多分にもれず、サスペンションや空力パーツ、シートなどの内装と、およそパワートレインを除くすべての箇所に手が加えられている。拡大
自身が手がけた「フリード モデューロX」を運転する福田さん。「玉村に2度ほどニュルやその周辺のカントリーロードに連れて行ってもらい、自分でも実際に走った。クルマの基本が分かった」とかつての思い出を語った。
自身が手がけた「フリード モデューロX」を運転する福田さん。「玉村に2度ほどニュルやその周辺のカントリーロードに連れて行ってもらい、自分でも実際に走った。クルマの基本が分かった」とかつての思い出を語った。拡大
湯沢峰司(ゆざわ たかし)さん
2003年ホンダアクセス入社。今日まで一貫してサスペンションや空力パーツといったモデューロの用品開発に携わる。「モデューロX」シリーズでは「N-BOX」「N-ONE」のサスペンションとブレーキ、「フリード」の空力パーツの開発を担当。「S660」では走行性能の開発リーダーを務めた。
湯沢峰司(ゆざわ たかし)さん
	2003年ホンダアクセス入社。今日まで一貫してサスペンションや空力パーツといったモデューロの用品開発に携わる。「モデューロX」シリーズでは「N-BOX」「N-ONE」のサスペンションとブレーキ、「フリード」の空力パーツの開発を担当。「S660」では走行性能の開発リーダーを務めた。拡大

マニュアルを読むより経験を積め

そんな湯沢さんも、先達が築き上げてきたモデューロの乗り味を理解するには苦労もあったという。

「『4輪で舵を切る』を理解するまでには時間がかかりました。なにせ、玉村はいっさい何も言わず、『乗って覚えろ、見て覚えろ、俺の背中を見ろ』……みたいな職人気質の人でしたからね(笑)。それに比べると、福田は感じるチャンスというかヒントは与えてくれますが、どうすれば正解にたどり着くかは、やっぱり教えてくれませんでした。でも、自分で考えて、いろいろ体験して、確かにそうだなとわかるまでの時間が、自分にとってはとても勉強になりました」

そんな湯沢さんに理想のクルマ、実現したい走り味について訊ねたが、今時点での理想は、玉村さんや福田さんがつくってきたモデューロだという。

「私たちが取り組んでいるのは、数字にはなかなか表れない、でも、人間には感じ取れる部分の乗り味です。それはいわば職人の領域。世の中の職人さんって、親方がいて、弟子がいて、三度の飯を一緒に食べながら仕事を進めていくじゃないですか。マニュアルがあって、それをやれば親方と同じことができるわけではなく、親方の背中を見て学んでいくわけです。モデューロの開発はまさにそういうやり方で、福田の考え方や日々の発言を通して、モデューロの味が受け継がれていくのかなと。そんな古風でアナログなやり方で生まれてくる製品のほうが、お客さまには魅力的に感じてもらえるはずですし、後輩たちにも、マニュアルではなく自身の体験を大切にするやり方を続けてほしいと思います。そして、常にお客さまのことを考えてモデューロを開発してほしい」

三者三様のやり方でモデューロの走りを極めてきたエンジニアたち。走る楽しさを追い続ける彼らの情熱が、モデューロの乗り味を支えているのだ。

(文=生方 聡/写真=荒川正幸)

→コンプリートカー「Modulo X」の詳細はこちら

次の記事:モデューロの技が生きるミニバン2台を試す
前の記事:モデューロの歴史を彩る新旧3台を比較試乗

玉村さん、福田さんより「習うより慣れろ」というスタンスで“モデューロの走り”を受け継いだ湯沢さん。そのために費やした手間や時間と、そこで得た経験の蓄積こそがエンジニアとして大切だったという。
玉村さん、福田さんより「習うより慣れろ」というスタンスで“モデューロの走り”を受け継いだ湯沢さん。そのために費やした手間や時間と、そこで得た経験の蓄積こそがエンジニアとして大切だったという。拡大
湯沢さんが手がけた「S660モデューロX」。コンプリートカーに使用することを前提に空力パーツやサスペンションが調律されているため、ノーマルの「S660」にモデューロの用品を装着しても、同じ走りとはならない。
湯沢さんが手がけた「S660モデューロX」。コンプリートカーに使用することを前提に空力パーツやサスペンションが調律されているため、ノーマルの「S660」にモデューロの用品を装着しても、同じ走りとはならない。拡大
湯沢さんは「自動車開発の現場にデジタル技術が進出して久しい今だからこそ、人の手によるアナログなクルマづくりが受け入れられるのではないか」と語った。
湯沢さんは「自動車開発の現場にデジタル技術が進出して久しい今だからこそ、人の手によるアナログなクルマづくりが受け入れられるのではないか」と語った。拡大
現在、ホンダアクセスにおいてモデューロの商品開発を主導する、福田正剛さん(左)と湯沢峰司さん(右)。
現在、ホンダアクセスにおいてモデューロの商品開発を主導する、福田正剛さん(左)と湯沢峰司さん(右)。拡大