「フォルクスワーゲンID.4 Pro」に乗って東京から房総半島へドライブ
フォルクスワーゲン(VW)の「ID.4」にはずっと興味を持っていました。初めて実車を見たのは2023年3月のSXSW(サウスバイ・サウスウェスト。テキサス州オースティンで開催)です。この、テックと音楽と映画のイベントに自動車メーカーとして唯一参加し、EVを展示していたのがVWでした。

展示といってもID.4と「ID.Buzz」の2台を芝生の上にポツンと並べ、スタッフもお兄さんがひとりだけ。見物客もまばらで、かなりカジュアルな内容でしたが、「ワーゲンバスのEV版」といえるID.Buzzを生で見られたのでかなり興奮し、隣にあったID.4はサイズ的に「テスラキラー」に見えました。事実、ID.4は2021年には「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。2022年には世界で約17万台を販売したヒットEVです。両車ともに、「売れそうなEV」オーラをまとっています。以来、ずっと試乗できる日を心待ちにしていました。

そして2024年秋の東京で、ついにその日を迎えました。試乗車は「ID.4 Pro」。ボディーカラーは、SXSWで見たのと同じレッド。VW車ではあまり見かけない色ですが、ID.4のボディーにはけっこう映えるヤツだと個人的には思います。

さあ、今回も丸一日試乗車が借りられたので、東京湾アクアラインを通って房総半島に向かいます。早速車内に乗り込んで、タッチスクリーンで設定を…… あれ、ちょっといつもと違う。タッチスクリーンがとってもプアーな感じです。
スタッフさんに確認したら、スマートフォンを接続して、iPhoneならApple CarPlayを、アンドロイドならAndroid Autoを使ってナビやインフォテインメント系の操作を行うのだそうです。なるほど、その手があったか。メーカーとしてはちゃんと自前のOSを整備して、クルマの制御からナビから音楽までをタッチスクリーンで操作できるようにしたいはず。しかし、VWはこの領域で足踏みしている。かつて、ソフトウエア開発を行う子会社「カリアド」に巨額の投資をしたけどうまくいっていない、という記事を読んだことがあります。

自前のOSが完成するまでの過渡的な対応と理解しました。自分が使っているiPhoneを接続し、Apple CarPlayでカーナビや音楽を利用することにします。ひょっとして、Siriも使えるかもしれない。それはそれで面白い。
さあ、例によって良かった点と微妙な点を、箇条書きにしていきましょう。私はふだん、テスラの「モデル3」に乗っています。レビューはあくまで“テスラー”目線であることをご承知おきください。


ID.4の良かった点は?
ルーミーな室内 後部座席も広々
早速ですが、モデル3とサイズを比較してみましょう。
フォルクスワーゲンID.4:全長×全幅×全高=4685×1850×1640mm(ホイールベースは2770mm)
テスラ・モデル3:全長×全幅×全高=4720×1850×1440mm(ホイールベースは2875mm)
ID.4は、モデル3と幅が同じ。全長もほぼ同じ。しかし、全高が20cmも高い。「テスラ・モデルY」とほぼ同等のヘッドクリアランスがあります。後部座席も足もとにけっこうな余裕を感じます。こんなに広かったのか! ファミリーならば、モデル3じゃなくてID.4を選ぶケースが普通にありそう。



開放感あふれるガラスルーフ 電動のシェードも付いている
EVの天井部分は、ガラスルーフを採用しているクルマが多いのですが、ID.4も同様に開放的なガラスルーフです。しかもサンシェードが付いていて、電動でスライドします。これは、“テスラー”としてはうらやましい限り。テスラのガラスルーフって、夏場は車内が異常に暑くなるんですよ。なので、空調を駆使して室内を冷やす運用を強いられるんですが、サンシェードが標準で付いているなら、そのほうが絶対に便利。

ペダルがストップ&ゴー ナイスデザイン!
これ、メーカーの広報さんに言われなかったら絶対に気がつかなかったポイントですが、ブレーキペダルとアクセルペダルに、ストップ(Pause)とゴー(Play)のマークがあしらわれているんです。ペダルの踏み間違えで大事故になるって、社会問題になってますよね。実は、なにげに重要な特長かもしれません…… 。でも、言われなかったらたぶん気づかなかった。


フロントシートはドリンク3個までOK アームレストも邪魔にならない
とにかく室内が広々していて気持ちいいID.4。センターコンソールにはドリンクホルダーが2個ありますが、その後部にもトレイがあって、そこにもドリンクが置けます。モノがたくさん置ける。TPOに応じて効率よく収納できる。ここらへんは、テスラにはない思想です。さらに、運転席・助手席のアームレストが、モノの取り出しに邪魔にならない仕様になっています。かゆいところに手が届く、老舗メーカーならではのユーザビリティーにうれしくなります。

「スポーツモード」がウケる 照明も真っ赤に転じて走り屋モードに
走行モードは、「エコ」「コンフォート」「スポーツ」の3タイプがベースで、これらに個人的な嗜好を加えた「カスタム」の4種類から選べます。なかでも「スポーツ」を選ぶと、タッチスクリーンの表示やアンビエントライトなどがことごとくレッドの表示に変わり、「走るぞ!」「熱いぞ!」って雰囲気になるのが面白い。これはけっこうウケました。

「スポーツ」モードではタッチスクリーンが赤色に。

アンビエントライトが赤色になる「ID.4」の「スポーツ」モード。
ID.4の微妙な点は?
では、ちょっと微妙だったのはどんなところでしょう。
加速が物足りない 乗り心地ももっさり
ID.4の0-100km/hのタイムは8.5秒。フル加速しても「速い」ではなくて「重い」という印象です。乗り心地も意外ともっさりしていて、“テスラー”目線で評価すると、やはり物足りない感じはありますね。

「ID.4」の加速は、少し重い印象。
フロントの騒音がやや大きい
これ、意外でした。騒音がけっこう大きい。特に、フロントからのノイズが室内に聞こえてくるんです。風切音ではありません。となるとファンでしょうか、あるいはモーターでしょうか。ちょっと気になりました。

「ID.4」のフロントマスク。
フランクはありません
車内空間が広々としているID.4ですが、フランクはありません。ボンネットを開くと内燃機関車のエンジンルームみたいな光景が。エンジンがないとはいえ、フロント部分に収納スペース(=フランク)を設けるのって意外に大変なんですね。

フランクはありません。
OSが未整備 ガジェット感がいまひとつ
今回、一番の驚きは、やはりVWが自前のOSを整備できていない点でした。CarPlayはもちろんそこそこ使えるんですが、AppleのMapって、やはりナビとしては微妙なんですよね。Siriにしても、ナビの目的地を告げるぐらいの利用しかできなくて、少し残念な印象でした。ソフトウエア開発に関する問題を早急に解決して、すてきなOSを搭載いただけるよう期待したいと思います。

ナビはAppleのMapを使用した。
そういえば、新型の「フォルクスワーゲン・ゴルフ」にはChatGPTを搭載したという報道もありましたよね。それ、めちゃめちゃ興味あります。自動車の運転も、AIに依存する未来がすぐそこまで来ていると思います。この領域は、ぜひとも各社で競っていただきたいところですね。
ID.4試乗のまとめ
とがっていないし加速も控えめ 「個性的でないところが個性」な「ID.4」
VWの広報さんによれば、「ID.4はガソリン車からEVへの買い替えのEVエントリーモデルとして、あえてガソリン車的な運転の味わいを残している」とのことでした。非常に納得感のあるお言葉です。
つまり、ID.4にはアクセルを踏んだとたんに「グワーン」とくるような加速もないし、ワンペダルドライビングもできません(Dモード、Bモードで回生ブレーキの利きを選ぶことはできます)。でも、室内はかなり広々としているし、インテリアの雰囲気は上品だし、シートも過不足ありません。Travel Assistというレベル2の自動運転も標準装備です。この、必要十分な感じがフォルクスワーゲンのフォルクスワーゲンたるゆえんなのかもしれません。

EVのエントリーモデルとして、あえてガソリン車的な運転の味わいを残したという「ID.4」。
おそらく、ゲストを乗せたら、このクルマが電気自動車だって気がつかない人も多いでしょう。逆に、「電気自動車はここがすごいんだよ」って自慢するポイントもない。試乗を終えて、VWの、メーカーとしてのEVづくりの哲学みたいなものに思いを巡らす結果となりました。大変有意義でした。
(文=EVcafe編集長 駒井尚文 @tesla365days)