第84回:日本に残る「氷河の足跡」、木曽駒ヶ岳(その6:花崗岩の岩塊にハイマツが生えるわけ)(矢貫隆)

2006.08.11 エッセイ

第84回:日本に残る「氷河の足跡」、木曽駒ヶ岳その6:花崗岩の岩塊にハイマツが生えるわけ(矢貫隆)

ロープウェイを降りると、大カールが迎えてくれる。ここが標高2612メートル。
ロープウェイを降りると、大カールが迎えてくれる。ここが標高2612メートル。
稜線までは、時間、距離にするとさほどではないが、斜面が急なため、キツイ。
稜線までは、時間、距離にするとさほどではないが、斜面が急なため、キツイ。
花崗岩の間に群生するハイマツ。その秘密は、気候変動に隠されていた。
花崗岩の間に群生するハイマツ。その秘密は、気候変動に隠されていた。

■岩石の凍結破砕作用

ロープウェイの千畳敷駅を降り立つと、目の前には大カールが広がっていた。夏は、ここに高山植物が咲き乱れるらしいが、いつも時期外れに登山をしているものだから僕は見たことがない。この地に立って後ろを振り返れば南アルプスの山並みが眺められ、それはもう別世界の景色なのである。

カール地形のなかに造られた登山道を登り稜線にでる。1時間もあれば登り切れるが、急斜面が続くだけに体力的には辛い。
「ゼーッゼーッ」
「ハーッハーッ」
何?
「ゼーッハーッ」
さすがA君、いい質問だ。

今回の登山の1年前、落雷事故でロープウェイが止まって山頂駅に取り残された。その勉強会登山でこの山に登ったときに教えられ、言われてみれば「なるほど」と思ったのだけれど、木曽駒ヶ岳という山、花崗岩だけでできている。それがこの山の特徴のひとつなのだ。

「ハーッゼーッ」
もっともな質問だ。
そう、僕がこの山に3度も登る理由は、この山の雰囲気が好きだから。最初は自分でもなぜこの山が気に入っているのか理屈で説明できなかった。でも、前回の勉強登山でわかったんだ。どうやら僕は、花崗岩の山が好きみたいなんだな。花崗岩の岩塊とハイマツが入り組んだ風景、あの景色がたまらなく好きで、それで木曽駒ヶ岳に登っている。

パックリと割れた花崗岩。氷河期、大きな岩は「凍結破砕作用」により徐々に細かくなり、下へと移動していく。
パックリと割れた花崗岩。氷河期、大きな岩は「凍結破砕作用」により徐々に細かくなり、下へと移動していく。
切り立った花崗岩の壁。長い時間をかけて、少しずつ姿を変えてきた。
切り立った花崗岩の壁。長い時間をかけて、少しずつ姿を変えてきた。

では、どうして花崗岩の岩塊とハイマツが入り組んだ斜面ができてきたのか、山に登るたびに小泉教授から教えられてきたことだけど、「凍結破砕作用」があの風景を作り出してきたのである。

そもそも岩石には「節理」と呼ばれる大小のひびや割れ目がある。そこから染み込んだ水が凍結し、そのときに生じる力が岩石を破壊する。その働きが凍結破砕作用だ。
氷河期のように気候が寒冷な時代であれば、もちろん節理の大きさにもよるけれど、大きな岩石は凍結破砕を繰り返し、やがて小さな石に姿を変えていく。言いかえれば、凍結破砕が続くということは岩塊が生産され続けているという意味で、とりもなおさず岩塊は斜面を移動(少しずつ斜面を落ちていく)しているわけだ。

けれど間氷期で気候が温暖な現在は凍結破砕が起こらないようで、したがって岩塊は移動を止めている。だからこそ岩塊の周囲には植物が生育できるようになり、やがてハイマツが岩塊の周囲を覆うようになってきたのである。

僕の大好きな花崗岩の山の頂上付近の風景は、こうした自然の働きによって造られてきたものだった。

(つづく)

(文=矢貫隆/2006年7月)

この記事の大きな画像を見るためには、画像ギャラリーをご覧ください。

矢貫 隆

矢貫 隆

1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、 多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。 自動車専門誌「NAVI」(二玄社)に「交通事件シリーズ」(終了)、 同「CAR GRAPHIC」(二玄社)に「自動車の罪」「ノンフィクションファイル」などを手がける。 「自殺-生き残りの証言」(文春文庫)、「通信簿はオール1」(洋泉社)など、著書多数。