「ザ・コンクール・デレガンス・ジャパン2013」の会場から
2013.07.23 画像・写真2013年7月19日〜21日、神奈川県横浜市の横浜美術館および横浜赤レンガ倉庫にて「ザ・コンクール・デレガンス・ジャパン2013」が開かれた。
古くは1920年代のパリで始まったといわれるコンクール・デレガンス。自動車文化先進国である欧米では、自動車文化の継承と芸術的価値を評価するイベントとして、すっかり定着している。日本でも過去にはいくつか実施されたが、今日まで継続開催されているものは見当たらない。この「ザ・コンクール・デレガンス・ジャパン」は今回が初開催だが、主催者は「コンクール・デレガンスは、開催国にクルマ趣味の歴史がなければ実施できない。戦後70年近くを経て、世界に冠たる自動車生産国となったわが国にも自動車趣味が根付いていることを、広く世界に向けて発信するためにも、ぜひとも開催すべきと考えた」という。
今回、横浜美術館に展示されたエントリー車両は、1910年から74年までに作られた39台。それらの車両は4つのクラスに分けられ、8名の有識者からなる審査委員によって、オリジナリティー、保存状態、ヒストリーなどを厳密に審査された。
また第2会場となる横浜赤レンガ倉庫では、今年設立50周年を迎えたランボルギーニのオーナーズミーティングや、コンクールのエントリー車両の末裔(まつえい)ともいえる最新の高級輸入車の合同試乗会なども行われた。
自動車文化の歴史を継承すると同時に、現在そして未来への視点も備わっていたイベント会場から、出展車両を中心に紹介しよう。(文と写真=沼田 亨)

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横浜美術館の正面入り口前に並べられたエントリー車両。クラスA(1910〜30年)は5台、クラスB(1931〜45年)は11台が参加した。
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参加車両中、最古のモデルだった1910年「スチュードベーカー・スピードスター」。南米ウルグアイで発見され、生まれ故郷のアメリカを経て1992年に日本に上陸。今年になってレストアが完了したという。
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1926年「ブガッティT37」。かつての「カーグラフィックTV」のオープニングにおけるエンジン始動シーンでおなじみの、直列8気筒エンジンを積んだグランプリカー「T35」と同じシャシーに、1.5リッター直4を搭載したモデル。クラスAの優勝を獲得した。
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1927年「アミルカー CGSS」。モーターサイクル由来の小型エンジンを積んだ、サイクルカーと呼ばれたスポーティーなモデルの代表格。1.1リッターの直4エンジンを搭載、モータースポーツでも活躍した。アミルカーはフランスのメーカーだが、ドイツやイタリア、オーストリアでもライセンス生産された。
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これもフランス製の軽スポーツである1931年「ラリーN.C.P」。サイクルカーメーカーであるサルムソン製の1.3リッター直4 DOHCを搭載、生産台数は一説によると17台という希少車である。
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1935年「ベントレー3-1/2リッター」。1924年から30年までにルマンで5勝を挙げたものの、32年にロールス・ロイスの傘下となり、以後98年までロールスをベースに、オーナードライバー向けのモデルを作っていたベントレー。このスポーティーな2ドアサルーンの3.5リッター直6エンジンも、ロールス版よりチューンが高められている。
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1937年「ブガッティT57ヴァントー」。優美な2ドアボディーの長いボンネットの下には、それ自体が芸術品のようなオールアルミ製3.2リッター直8 DOHCエンジンが収まる。このイベントの直前に日本に上陸した個体という。
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1937年「ジャガーSS100」。SSカーズ・リミテッドという社名を名乗っていた時代に作られ、スポーツカー・メイクとしてのジャガーの基盤を築いたモデル。エンジンはまだDOHCではなく、OHVの2.6リッター直6。クラスBの優勝、そしてベスト・オブ・ショーも獲得した。
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1937年「ダットサン16型クーペ」。日本初の量産乗用車だった日産の小型車であるダットサン。当時からセダン、ロードスター、フェートン、そしてこのかわいらしいクーペのバリエーションをそろえていた。エンジンは直4サイドバルブの722cc。
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「ダットサン16型クーペ」をチェック中の審査員たち。右から海外で活動する日本人カーデザイナーの草分けで、長らくオペルで腕を振るった児玉英雄氏、ルイ・ヴィトン・クラシック・アワードの審査委員長を務めるクリスチャン・フィリップセン氏、英国AUTOCAR誌編集長のスティーブ・クロップリー氏、日産自動車常務執行役員チーフ・クリエイティブ・オフィサーの中村史郎氏。
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クラスC(1946〜60年)は13台、クラスD(1961〜75年)は10台がエントリーした。
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1947年「スタビリメンティ・ファリーナ・フィアット1100スパイダー」。スタビリメンティ・ファリーナとは、ピニンファリーナの創業者であるバッティスタ・ファリーナの兄が営んでいたカロッツェリア。実用的な小型車だったフィアット1100のシャシーにワンオフのボディーを架装したこの個体は、イタリアの高名なコンクール・デレガンスで優勝を飾った実績がある。今回もクラスCの1位に輝いた。
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1948年「タッカー・トーピード」。5.5リッターのフラット6をリアに搭載、4輪独立懸架、ステアリングと連動して動く中央のヘッドライト、シートベルトなど当時としては革新的なメカニズムやアイデアを備えていたものの、ビッグ3の圧力により、わずか53台しか作られなかった非運のアメリカ車。Most Innovative Car(革新的な技術を採用したクルマ)を受賞した。
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1951年「アストン・マーティンDB2ヴァンテージ」。1949年にアストンがデイヴィド・ブラウンの支配下となってからリリースされた第2弾。ヴァンテージは今日まで続く高性能版の名称だが、ゆえに2.6リッターの直6 DOHCエンジンは標準の105psから125psまでチューンが高められている。
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1953年「アルファ・ロメオ1900Cスプリント・ピニンファリーナ・クーペ」。戦前は高級スポーツカーメーカーだったアルファは、戦後の1950年に送り出した4ドアセダンの「1900」によって量産メーカーに転身した。これはその1900のシャシーにピニンファリーナがボディーを架装したクーペで、37台が作られたという。
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1954年「フェラーリ250エウローパ」。2800mmという長いホイールベースを持つシャシーに、ピニンファリーナ製の優雅なボディーを架装したクーペ。3リッターV12エンジンは、有名な「250GT」シリーズに使われているジョッキアーノ・コロンボ設計のユニットではなく、アウレリオ・ランプレディ設計のものである。
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1955年「アルヴィスTC108Gカブリオレ」。アルヴィスは1919年に創業、67年まで存在したイギリスのメーカーで、戦後はいぶし銀のように渋く上質な高級車を少量生産していた。3リッター直6 OHVエンジンを積んだシャシーに、スイスのコーチビルダーであるグラバー社製のアルミボディーを架装している。
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1960年「ダットサン・フェアレディSPL212」。1.2リッター直4 OHVエンジンを搭載した、輸出専用だった初代フェアレディ。ボディーカラーのピンクが印象的だが、初代オーナーだったミネソタ在住の日系人が、夫人の希望によりオーダーしたものという。
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1961年「ファセル・ヴェガ・ファセリアF2」。クライスラーV8エンジンを積んだ、戦後のフランスで唯一の大型高級車を作っていたファセルが手がけた、小型のオープン2シーター。自社開発の1.6リッター直4 DOHCエンジンを搭載する。
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1961年「ロータス・エリートS2」。ロータス初のクローズドボディーにして、量産車としては世界で初めてFRPモノコックボディーを採用したモデル。「5」で始まる、陸運支局名が入らなかった時代の東京ナンバーが物語るように、新車で日本に輸入された超希少な個体。クラスDの優勝を獲得した。
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1967年「ポルシェ911S」。今年生誕50周年を迎えた「911」に、1966年に加えられた高性能グレード。67年当時の日本での価格は、標準の911が435万円、911Sは510万円。この年に発売された「トヨタ2000GT」が238万円だったことを考えると、ものすごく高価なクルマだったのである。
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1967年「ランボルギーニ400GT 2+2」。ランボの処女作である「350GT」の発展型で、カロッツェリア・トゥーリングの手になるボディーに、後に「ミウラ」にも使われる4リッターV12 DOHCエンジンをフロントに搭載。この個体は新車で輸入されたもので、最初のオーナーは夭折したレーシングドライバー浮谷東次郎の父である浮谷洸次郎氏だった。Best Preserved Car(ノンレストアでオリジナル状態を保っているクルマ)を受賞した。
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1969年「フェラーリ365GTB/4 デイトナ」。4.4リッターのV12 DOHCエンジンをフロントに搭載、5段ギアボックスをデフの直前に置くトランスアクスル方式を採用したベルリネッタ。この個体は量産開始から4台目という初期モデルで、新車当時ロード&トラック誌のテストで最高速度175mph(281.6km/h)を記録したという。
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8台の特別展示車両のうちの1台だった2012年「アルファ・ロメオTZ3ストラダーレ」。かつての「TZ1」や「TZ2」と同じくコーダトロンカのテールを持つザガート製ボディーに、「ダッジ・バイパー」用の8.4リッターV10 OHVエンジンを積んだモデル。わずか8台が製造された。
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これも特別展示車両である、2013年のジュネーブショーでデビューした2013年「ロールス・ロイス・レイス」。2ドア4シーターのファストバッククーペボディーに、ロールス・ロイス史上最強の632psを発生する6.6リッターV12ターボユニットを積む。
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7月20日、第2会場である横浜赤レンガ倉庫で開かれた「設立50周年記念 ランボルギーニ・オーナーズミーティング」。約50台の歴代ランボが集まった。
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特別に展示されていた「イオタSVR」と「ウルフ・カウンタック」。スーパーカー世代に強烈に訴える、2台のスペシャルである。
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ガンディーニによるシャープなボディーに3リッターV8エンジンをミドシップした2+2クーペの「ウラッコ」。隣はもちろん「ミウラ」である。
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赤レンガ倉庫にはF1などコンペティションマシンも展示され、エンジン始動パフォーマンスも行われた。右から1989年「ロータス101」、90年「ミナルディM181」、99年「フェラーリF399」、そしてグループCカーの89年「日産R89C」。
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赤レンガ倉庫を起点に50台のランボが横浜の中心部を走り抜けるパレードも実施された。