第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20 カーマニア人間国宝への道カーマニア的クーペ考察
新型「ホンダ・プレリュード」が予想を覆す人気を集めているが、その陰で、割と似たようなスペシャリティークーペが消える。2014年に発売されて以降、「孤高の国産ハイクオリティーFRスポーツクーペ」として販売されてきた「レクサスRC」が、2025年11月をもって生産終了となるのだ。
2025年1月に発売された「RC“ファイナルエディション”」は、すでに売り切れとなっているが、その他のグレードは、「詳しくは販売店にお問い合わせください」(レクサスのオフィシャルサイト)なので、あの5リッターV8エンジン搭載の「RC F」すら、まだ買えるかもしれない。急げカーマニア!
と言ったところで、急いで買うカーマニアはあんまりいないだろう。そもそもRCというクルマ自体、覚えている人が少ない気がする。
なぜプレリュードはウケてるのに、RCはウケなかったのか。今回はその理由を、カーマニア的に考察してみたい。
RCは、プレリュードをはるかに超える破壊力を持つスペシャリティークーペだ(った)。なにせ発売当初から、2.5リッター直4ハイブリッド、2リッター直4ターボ、3.5リッターV6ターボ、そして5リッターV8という、超多彩なパワーラインナップをそろえていたのだから!
なかでも5リッターV8のRC Fはすごかった。私は当時、RC Fと「BMW M4」を比較試乗して、「RC Fのほうが断然魅力的」という結論を出した。5リッターV8のエンジンフィールおよび至高のソプラノサウンドは、M4の3リッター直6ターボを、あらゆる面で凌駕(りょうが)していた。負けていたのは、前後重量配分くらいのものである。RC Fは、プレリュードでいえば「タイプR」。それが最初からあったんだからスゲエッ!
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スポーツカーはノスタルジー商品
現状、プレリュードの心臓はハイブリッドの「e:HEV」のみだが、RCにはハイブリッドの「300h」があり、生涯を通じて販売の主力だった。そこだけを比較しても互角。価格も600万円台で近い。
それでも、RCは最初から最後まで一度も話題にならず、プレリュードは最初から話題になった。なぜなのか。
第一の理由は、言うまでもなく車名だ。プレリュードはかつてのビッグネーム。デートカーというジャンルをつくった名車だが、RCという車名は、カーマニアすら形が思い浮かばないくらい印象が薄い。もしもRCではなく「セリカ」だったら、少なくとも10倍は記憶に刻まれただろう。
ついでに「レクサスLC」のほうも、「ソアラ」という車名だったら、存在感はひとケタ違うはずだ。フェラーリが今ごろになって「テスタロッサ」の名前を復活させているくらいで、スポーツカーは完全にノスタルジー商品なのである。
第二に、RCはデザインに訴求力がなかった。別にどこもカッコ悪いところはなく、それどころか正統派のスタイリッシュなクーペなんだけど、レクサスの文法内にガッチガチに収められていて、離れて見たら「IS」との区別が難しい。「よく見りゃ2ドアだな」で見分けるしかなかった。しかも、出たときからどこか古臭くてセンスがなかった。
一方のプレリュードは、正統派でもなく、それほどカッコよくもないけれど、「なんだこりゃ?」と思わせる個性がある。オーバーハングの長いFFのクーペなんて、今や世界中探してもほかにないので微妙に目立つし、ハンマーヘッド型のヘッドランプはいかにも今どきだ。
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ヘタな面影は欲しくない
つまり、プレリュードは、昔の名前で出ているけれど、見た目は今どきっぽいサラッとしたアーティストで、その組み合わせが、中高年カーマニアには新鮮だった。
一方RCは、車名は今どきっぽくて記憶に残らないけど、見た目が昭和のアイドル風。中高年は、還暦を迎えてもキレイなままの昭和アイドル(本人)には萌(も)えるけど、令和に18歳の聖子ちゃんカットのコが、今どきっぽいアルファベット名でデビューしても、「このヘンな子、なに?」とスルーするだろう。
トヨタはすでにセリカの復活を発表している。「MR2」も復活するとかしないとか。
ならば、LCと統合されるといううわさ(あくまでうわさ)の次期RCは、ぜひソアラという名前で出してもらいたい。国内向けのみのサブネームでいいので。
デートカー世代にとって、プレリュードという車名の破壊力は強力だが、ソアラはそれ以上のはず。中高年カーマニアの反応は、それだけでひとケタ増しである。
その場合、デザインに昔のソアラっぽさはナシでお願いします。ヘタに面影があると、ニセモノっぽくなってしまうので。
(文=清水草一/写真=清水草一、トヨタ自動車/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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