「レガシィ」登場からブーム到来、そして終焉へ 国産ステーションワゴン興亡史(後編)
2026.09.09 デイリーコラムブームの源流
(前編より)
後編では1980年代以降の歴史をたどるが、その幕開けとなる1981年には、後のワゴンブームの源流となるモデルが誕生した。2代目「スバル・レオーネ」に追加された「ツーリングワゴン」である。1966年に登場した「スバル1000バン」以来、バンとはいえ四輪独立懸架を備え、初代「レオーネ エステートバン」からは4WD仕様を用意するなど、スバルのバンはRV的な資質を持っていた。エステートバンをベースにしながらも、後席以降をハイルーフにしたボディーを持つツーリングワゴン。後に「レガシィ」で大ブレイクする歴史がここに始まったのだった。
1986年には、7th(セブンス)こと7代目「スカイライン」(R31型)にワゴンが復活した。6代目には5ドアハッチバックが用意されていたためバンのみでワゴンはなかったのだが、7thではバンが消滅してワゴン専用設計となった。トップグレードの「GTパサージュターボ」は、2リッター直6 SOHCターボユニットを搭載した高級かつ高性能なワゴンだった。
1988年に5代目「マツダ・カペラ」に「カーゴ」の名で初めて加えられたワゴン。バンと共通のボディーだが、ミディアムクラスでは初めてサードシートを備えて7人乗りを実現。プレッシャーウェーブスーパーチャージャーと呼んだ独自の過給器付きのディーゼルユニットを用意したことも話題となった。
3代目「三菱ギャランΣ(シグマ)」をベースに三菱のオーストラリア法人が開発、生産したモデルが「マグナ」。ギャランΣのボディーを拡幅し2.6リッター直4 SOHCエンジンを積んで3ナンバー規格となったマグナのワゴンを、三菱は1988年から輸入販売した。1990年代にホンダやトヨタが続いた国産メーカーの輸入ワゴンの先駆けだったといえる。
成り立ちとしては1960年代以来の商用バンと基本設計を共有するモデルだが、記しておきたいのが1983年に登場した日産の5代目「セドリック」&6代目「グロリア」のワゴン(Y30型)。角張ったスタイリング、通称ベンコラこと前席ベンチシート(セミセパレート)とコラムシフトの組み合わせも用意されたアメリカンな雰囲気で根強い人気があり、セダンやハードトップの世代交代を横目にバンともども1999年まで16年間にわたってつくり続けられた。
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レガシィとそのフォロワー
そして1989年、その登場を挟んで紀元前と紀元後に分かれるくらいの、国産ワゴン史における最重要モデルである初代「スバル・レガシィ ツーリングワゴン」がデビューする。レオーネよりひとまわり大きいボディーはワゴン専用設計となり、当初は4WD仕様のみで、2リッターターボユニット搭載モデルを中心に「高性能4WDワゴン」という新たなカテゴリーを創出。一部の富裕層におけるボルボやメルセデス・ベンツなどの輸入ワゴンのような、いわばライフスタイルカーとしても認められた。代を重ねるごとに「レガシィといえばワゴン、ワゴンといえばレガシィ」の評判を絶対的なものとしていったが、人気のピークは2代目の時代で、1996年には月販平均にして7100台以上が売れた。
1990年代に入ると、日産はそれまでの「ブルーバード」やスカイラインのバン/ワゴンを統合し、それらの後継となる新車種「アベニール」をリリース。トヨタも同様に「コロナ」や「カリーナ」のバン/ワゴンに代わる「カルディナ」を1992年に出した。ワゴンブームを牽引していたレガシィとほぼ車格の等しいこれらは、4WDの高性能グレードを用意するなどして複数世代にわたってレガシィに挑み続けたが、ついにその牙城を崩すことはできなかった。
そのいっぽうで、レガシィとはまた違ったベクトルのスタイリッシュなモデルとして人気を集めたのが、1991年に登場した「ホンダ・アコード ワゴン」。アメリカ工場製の輸入車だったが、翌1992年にはトヨタもアメリカから「セプター ワゴン」の輸入販売を開始。既存の国産ワゴンにはないアメリカンな雰囲気が持ち味だった。
振り返ってみれば、1990年代半ばから2000年にかけてがワゴンブームのピークだったろうか。1996年に登場した新たなワゴン専用車種の「日産ステージア」をはじめ、「トヨタ・カムリ グラシア/マークIIクオリス ワゴン」「三菱レグナム」「日産プリメーラ ワゴン」「日産セフィーロ ワゴン」「トヨタ・ビスタ アルデオ」「トヨタ・クラウン エステート(現行型はSUV)」などが続々と市場に送り出されたのである。
こうした結果、トヨタと日産に限っていえば、セダンがそうであったように同じクラスに複数のワゴンをラインナップする事態となった。たとえば日産では、Lクラスにステージア、セフィーロ ワゴン、そしてまだ生き残っていたセドリック/グロリア ワゴン。これらはまだそれぞれテイストが異ったものの、ミドルクラスのアベニールとプリメーラ ワゴンとなると……ワゴンブームのいっぽうで、市場は確実に飽和に近づいていったのだった。
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相次ぐ生産終了
2000年代に入ると、市場の主役はワゴンと並行して1990年代中盤からはやり始めたミニバンに完全に取って代わられた。それでも新たなワゴンはポツポツと出てはいた。「マツダ・アテンザ スポーツワゴン」に「トヨタ・マークIIブリット」、さらに英国から輸入された「トヨタ・アベンシス ワゴン」、変わったところでは「三菱ランサー セディア ワゴン」に「ランサー エボリューションIX」の中身を移植した「ランサー エボリューション ワゴン」など。だが1990年代の勢いは望むべくもなかった。
そうこうするうちに、トヨタは2007年にカルディナ、マークIIブリット、クラウン エステートの生産を終了。Lクラスの後継として出た「マークXジオ」はミニバンとのクロスオーバーの趣が強かったが、ミドルクラスでは2011年に「プリウスα」を発売、いったん終了していたアベンシス ワゴンの輸入を再開するなどして、「カローラ ワゴン」改め「カローラ フィールダー」と共にワゴン需要に対応した。そして2025年以降は「カローラ ツーリング」に集約されている。
レガシィ ツーリングワゴンでワゴン市場をリードしてきたスバル。そのレガシィは4代目以降はメインとなる北米市場に合わせてボディーを大型化していったため、日本では大きすぎるという声に応えて全幅を除いて5ナンバーサイズに収めた日本市場向けの「レヴォーグ」を2014年に発売。ワゴンのリーディングブランドとしての矜恃を見せた。
日産は2005年にアベニールとプリメーラワゴンを、2007年にはステージアを生産終了。唯一残された「ウイングロード」も2018年に生産終了してワゴン市場から撤退。ホンダはアコード ワゴン生産終了後の2015年に「ジェイド」を出したがこちらも2020年に終了。三菱はランサー セディア ワゴンを2007年に販売終了。しぶとくアテンザ改め「マツダ6ワゴン」を残していたマツダも2024年に販売終了。こうして前編で述べたように、カローラ ツーリングとレヴォーグのみという状況に至ったのである。
ワゴンがブームだった1990年代、その主役だったレガシィ ツーリングワゴンは、ピークだった1996年には8万5000台以上売れた。対して実質的な後継車となるレヴォーグ(レイバック含む)の2025年の販売台数は1万5000台以上。それでも銘柄別販売台数の39位といえば健闘しているようにも思えるが、43位の「マツダ・ロードスター」が1万台売れているといえば、そんなものかという感じになってしまう。
いっぽうカローラ ツーリングは、ちょっと古いデータだが2023年には4万台以上売れていた。ということは、いささか乱暴だが国産ワゴン市場はこの2車種で十分間に合っているというか、新たに参入する余地はないように思える。今さらな結論で申し訳ないが、ワゴンが絶滅危惧種であることは、動かしがたい事実のようである。
(文=沼田 亨/写真=スバル、マツダ、日産自動車、三菱自動車、トヨタ自動車、本田技研工業、TNライブラリー/編集=藤沢 勝)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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