最新世代の「日産プロパイロット」を体験
自動運転技術の進化で見えた今後の課題とは?
2017.11.22
デイリーコラム
センシング能力を大幅に強化
移転しそうでなかなかしない新市場が無機質なまま存在するいっぽう、東京オリンピックの選手村建設に伴うさまざまな開発が進む東京・豊洲地区。ここを拠点にして、日産が開発を進めている「新世代プロパイロット」(自動運転技術)を搭載した実験車両の公道同乗試乗会が開催された。先に感想を言うと、スムーズでスマートな自動運転っぷりに感心した。開発したのが無資格検査問題でゴタゴタが続いている日産だということを考えると、とても対比的に思えた。現在、自動車メーカーは自動運転関連技術の開発競争や主導権争いを激しく展開している。この分野を制する勢力が先進国市場を制し、出遅れた勢力が他に飲み込まれることが想像できる。日産も、“守る部門”が謝罪の文面を考えている横で、“攻める部門”は開発のペースを上げたはずだ。
これまで同社の自動運転関連の公道実験車両は「リーフ」だったが、新世代のプロパイロット技術が盛り込まれた「インフィニティQ50(日本名:日産スカイライン)」が加わった。市販車では「セレナ」「エクストレイル」、そしてリーフに採用される現在のプロパイロットは、(センサーは)フロントカメラ1個のみによって設定車速内で先行車との車間距離を一定に保つよう制御するほか、車線中央を走行するようドライバーのステアリング操作を支援する機能をもつ。これに対しこのQ50は、12個のカメラと12個のソナー、9個のミリ波レーダー、6個のレーザースキャナー、そして高精細(HD)マップを使い、車両の周囲360度の情報と自車の正確な位置を把握し、複雑な道路環境での自動運転を可能とするという。
まずは豊洲の一般道をスタート。ドライバーを務めるのは日産の電子技術・システム技術開発本部/AD&ADAS先行技術開発部長の飯島徹也氏。信号を守って交差点をクリアした後、首都高へ。首都高の加速車線は短い。この日、本線は渋滞ではないが交通量は多め。Q50は1台の車両と数m並走したかと思うとほんの少し速度を下げ、そのクルマの後ろへすっと入って本線へ合流した。スムーズな動きだった。
合流に際し、まずターゲットとなる車両を決めて並走しながら、その車両と後続車両との車間を検知し、そこへ入るアルゴリズムが盛り込まれている。まだ完璧ではなく、本線を走行する車列の車間があまりに短いと検知できず、そのうちに加速車線が終わって停止するか、ギブアップサインを出すことになる。また、本線を走行する車両の流れがあまりに遅い(15km/h未満)と、システムはそれを車列とは認識できず、単に壁か何かと判断してしまい、合流できないそうだ。
“壁”問題という技術的な“壁”
首都高には、加速車線と走行車線の間に高さ1m程度のコンクリート壁があり、実際に合流できるゾーンが短いポイントがある。この手の場所はシステム泣かせで、本線を走行する車両の検知が難しくお手上げだそうだ。飯島部長は「このようなポイントを含め自動運転による合流を完全なものにするには、自律、すなわち車両単体の能力でカバーするのは無理で、壁越しの情報を把握できるようなインフラ整備が必須」だと話す。車車間通信によって解決できないのかとの問いには「技術的には可能でしょうが、道路上のすべての車両に通信可能な能力が備わるのに何十年かかるでしょうか」と、それが現実的でないことを示した。
この“壁”問題という技術的な“壁”は、例えば対向車線との間が高い中央分離帯で仕切られ、交差点部分のみそれが途切れているような場所(高速道路の高架下の一般道交差点などに多い)での右折時にも立ちはだかる。対向してくる直進車が直近に迫るまで検知できないからだ。従って実験車両は現状、矢印のある交差点でしか自動で右折できない。われわれはそういう場面では、車両の鼻先をけっこう前に出してよーく確認しながら切れ目でビュッといくか、直進方向の信号が赤になった瞬間、まだ交差する側も赤の間にあわててビュッといくという現実的な方法でクリアするが、自動運転にはそれが難しい。
市販車のプロパイロットとはセンサーの数が違い、それに伴い処理能力も次元が異なるのだろう、車線変更を伴わず単に先行車両を追従しているだけの場合でも挙動が滑らかで安心感が高い。車線内をふらつくことがない。その理由のひとつは、この車両に備わる高精度のHDマップが自車の位置を数cmレベルで把握しており、車線中央維持を基本とする最適なルートを選んで走行しているからだそうだ。ETCゲートを正しく選び、ど真ん中をスムーズにくぐるのもそのおかげ。
すっかり安心しながら首都高を走行中、隣の車線を走行中の大型トレーラーが急な車線変更をしてこちらの車線にやってきた。危ない! と思った瞬間に強い減速Gが発生して事なきを得た。同乗していたジャーナリストは皆、ここまでの認知、判断、操作ができるのか! と感心したが、直後に飯島部長が「今のは私がブレーキを踏みました」と少々バツが悪そうに話した。「そりゃそうですよね~」とわれわれ。「私が踏まなくてもおそらく止まることができたと思いますが、確実ではなかったので」と専務。
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事故の責任は誰が取る?
しかし、この場面で自動でも衝突を回避できたかどうかは大した問題ではない。現状でも平均的なドライバーと同等かそれ以上の運転性能が備わっていて、もっと性能を上げれば衝突回避の確率をもっと減らすことができる。性能を上げれば上げるほど衝突は減る。けれどもゼロにはできない。ゼロにできない以上、起こってしまった事故の責任の所在について考えなくてはならない。ここが難しいのだ。
今回体験した実験車両は自動運転の分類ではレベル2に相当する。仮に「この車両はレベル4です」と言われて同乗しても、体感的な驚きはほぼ同じだっただろう。少々乱暴にいえば、自動運転のレベルはシステムの能力の差ではない。事故発生時に、運転席に乗る人に責任があるのがレベル2、ないのがレベル4なのだ(わかりにくいレベル3については今回は割愛)。ということは、レベル4の車両を実用化するならば、“運転者のいない車両”が起こした事故で死亡者が出た場合にだれが責任を取るのかを決めなくてはならない。所有者に責任を負わせるのならだれも買わないだろう。メーカー(開発者)や販売店に……というのも難しい。人工知能(AI)を使うレベル4の自動運転車両は走行(経験)を重ねるに連れて学習し、販売された時点とは別モノに進化(!?)している可能性があるからだ。民法の上の賠償については自動車保険などで現実的に対応するという動きが見られるが、刑法上はだれも責任を取れない。冗談ではなくAIに(人間の死刑に相当する破壊を含め)責任を負わせる可能性について議論をしている法律家もいる。
飯島部長が言うように、高速道路本線への合流を完全に自動化させるため、国民が相応のコスト負担を受け入れるかどうか。また、遺族が怒る相手(人間)がいないということになりかねないが、それでも完全自動車両の実用化を目指すのか――。人間が想像し、望むことは技術的にはいつか可能となるだろう。そのとき国民はそれを心から望むのか、どこまで(のコスト負担をして)望むのか、どこで止めるのか。今後、そういうことについてひとつひとつ国民が合意形成を重ねていく必要がある。自動運転の本当の難しさは技術ではなく、その合意形成にあるのではないか。自動車メーカーが技術を駆使して徐々に“完全”に近づくたび、そのことを考えさせられる。Q50はスタートしたポイントとまったく同じ地点で停車し、同乗試乗が終了した。
(文=塩見 智/写真=日産自動車/編集=藤沢 勝)
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塩見 智
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