クルマの使い方はどう変わる? アフターコロナの世界
2020.05.06 デイリーコラムあれほど見たかったはずなのに
多くの国民が暇を持て余しています。どちらかというと普段から自宅勤務でわりと暇な私は、会社勤めの方々よりも生活の変化は少ないかもしれませんが、平日でも子供が学校へ行かずに家にいるというのは大きな変化です。
不思議なもので、忙しくしている時にあれも見たいしこれも見たいけど時間がないと思っていた「Amazonプライム・ビデオ」や「Netflix」をはじめとするさまざまな動画配信サービスですが、いざあり余る時間ができてからあらためて物色すると、大した作品が見当たらないのはどういうからくりでしょうか。作品ごとに課金されるわけではないので、取りあえず見始めても、つまんないとすぐにやめてしまいます。
Appleが2003年に「iTunes Music Store」として最初に本格展開し始めた、コンテンツのサブスクリプションサービス。今では多数存在し、私もいくつかを便利に利用しています。ただこれ、どうしても一つひとつのコンテンツを軽んじてしまう仕組みであることは否めません。映画やドラマならつまんない部分はすぐにスキップしますし、それでも面白くなければ先に述べた通り途中であっさり見るのをやめてしまいます。映画館まで足を運んで見ている作品を途中でやめることに比べると、そのハードルはとてつもなく低いです。
音楽もそう。最近はアルバム単位で聴かなくなりました。アルバム単位で入手した作品でも(自分にとって)パッとしない曲はスキップします。まあこれはレコードやテープ時代には技術的に難しかったからやらなかっただけというのもあるでしょうが。提供する側からしてみれば複雑かもしれませんが、今ではミュージシャンも現実を受け入れ、最近はそれを見越して楽曲制作をしていますよね。
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誰もが消費者&提供者に
私も映画や音楽では消費者側ですが、自動車記事についてはコンテンツ提供側です。雑誌への寄稿が中心だった頃には毎号お金を払っていただいて自分の記事(が載った雑誌)を読んでいただいていたので、よっぽどつまんない内容でない限りは最後まで読んでいただいていた可能性が高いと信じていますが、ウェブサイトへの寄稿が中心となった今では、読者は直接的にお金を支払っているわけではなく(一般論として。『webCG』にはプレミアム会員の方もおられますね)、また読んでくださる方々のうち、積極的に私が書いたものを読みにきたという人の割合は少なく、車種で検索した結果だったり、新着記事だからクリックした結果だったりというケースがほとんどなわけなので、少しでも退屈だと感じた瞬間に離脱されているはずです。まずはここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。
つまりテクノロジーが可能にした、消費者にとって便利な、しかし提供側にとっては残酷な商売のプラットフォームですが、消費側と提供側というのは表裏一体というか、誰もがあるモノやコトの消費側であると同時に別のモノやコトの提供側ですから、全体として価値があると社会に認められ、受け入れられたということでしょう。「YouTube」なんかもまさに皆が消費側であり提供側でもあるサービスですよね。そこへちょうど世界中の人々が外へ出掛けられなくなる事態が起こり、サービスにとって猛烈な追い風になりました。コロナ禍が収束しても時間をつぶす有力な選択肢のひとつになることでしょう。
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クルマとの付き合い方はどう変わる?
あらゆるものがサブスクリプション、すなわち買い切りではなく都度利用にお金を支払う仕組みを導入しようとしています。クルマ業界には昔から企業向けにリースなどの仕組みがありましたが、例えばトヨタの「KINTO(キント)」やボルボの「SMAVO(スマボ)」など、2019年あたりから個人消費者向けのサブスクリプションサービスが増えてきました。ボルボの場合、人気車種に長い納車待ちが発生したため、販売店が客を逃さぬよう、目当ての車種が届くまでの間、よい条件で別の車両を利用できるサブスクリプションサービスを展開したのをきっかけに、徐々に利用が広がりつつあるようです。トヨタの場合はまだ実験的な導入であり、利用できる車種が限られていることもあって、利用者は少ないようです。
クルマなどの消費財と違ってコンテンツには在庫の概念がありませんし、商品の劣化もありませんから、サブスクリプションといわれても利用者の感覚は異なりますが、サブスクリプションに限らず、コロナの前と後とでクルマとの付き合い方に変化は起こるでしょうか?
思いついたことからランダムに書きなぐってみますが、これも最近増えたカーシェアリング。コロナが収束した後もしばらくは、他の人が触れたクルマに接することに抵抗がある利用者が少なくないでしょうから、短期的には向かい風が吹くかもしれません。
けれどもクルマを所有せずに利用するサービスは本来、固有の車両を一定期間専有するリースに似たKINTOやSMAVOなどではなく、利用者がどこにいたとしても、例えば家にいても会社にいても、旅行先や出張先でも、クルマを利用したいと思った時に近くにある車両を利用でき、不要になった場所で手放せるカーシェアリング的なものだと思います。使っていない時にも発生する固定費を減らすのが“所有ではなく利用にコストを支払う”サービスの目的だとしたら、一定期間であっても専有していないほうが有利です。専有しなければ用途に応じて車種を変えることができますし。ただし専有していなくても必ず利用したいタイミングで利用できるという条件がつきますが。
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いつでも状況に合ったクルマを使える
今回のように緊急事態宣言が出て外出を封じられるようなケースは人生においてそう何度もあることではありませんが、そう言いつつ阪神・淡路大震災(1995年)、リーマンショック(2008年)、東日本大震災(2011年)、そしてコロナショック(2020年)と、10年に一度くらいの割合でなんらかの緊急事態が起こっています。突然リセッションで仕事がなくなったり、災害で財産(不動産)を壊されたり流されたり、何よりも自分や家族の命を奪われたりすることが起きる前提で生きていかなければなりません。そう考えると、所有するクルマは家と同じで津波で流されてもローンが残ります。利用ならそれを防ぐことができますし、突然仕事が減った場合、所有する燃費の悪いクルマが負担になってきても、思うような価格では売れない可能性があります。そのタイミングでは周囲も燃費の悪いクルマを維持できませんから。利用ならいつも使っていたV8のクルマをやめて直4のクルマに切り替えることができます。
もう一点、コロナとは直接関係ありませんが、近ごろはクルマの電化、自動化が日進月歩です。タイミングによっては1、2年前のクルマと比べて同じような価格でも装備内容がまるで異なることもあります。例えば最高出力が200PSから220PSになった、燃費が20km/リッターから23km/リッターになったとしても、すぐに以前のクルマを前時代的に感じるようなことはありませんが、ACCが全車速対応か否か、ハンズオフが可能か否かという違いは大きいと思いませんか? あくまで私の価値観ですが。そうした変化に1度か2度は買い替えで対応したとしても、3度、4度も買い替えするのは負担です。こういう時代背景も、所有よりも利用を促すインセンティブに働いています。
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目指すは利用にも“愛着”をもてる世界
いくら備えていても備えきれないレベルの災害や恐慌に対し、個人が唯一できる対策は生活を身軽にしておくことです。その一環としてクルマを所有せず、シェアリングやリース、サブスクリプション、そしてタクシーおよび公共交通機関などを駆使し、利用にのみコストを支払うのは、間違いなく有効で、コロナ収束後も、サービスが充実した都市部を中心にそういう傾向が強まるのではないでしょうか。
ただ、これはクルマを純粋に移動の手段として考えた場合の話であり、愛着を感じる存在として固有の車両を所有しているのであれば、経済合理性や危機管理で語ること自体がナンセンスになります。クルマは冷蔵庫と違って損得だけで語ることができないのは昔から変わりません。冷蔵庫好きの方がいらっしゃったらすみません。ただし、2021年に日本導入が予定されている新型「フォルクスワーゲン・ゴルフ」(VIII)は、自分のIDをクラウド上に登録してシートポジションなど好みの設定を登録しておけば、レンタカーなどで別のゴルフに乗った場合にその設定を再現できるようになっているようです。こうした技術が高度に発達し、固有の個体ではなくても愛着をもてるほどの好みの世界(設定)を再現できるようになれば、あえて固有の車両を所有する意味は薄まるかもしれません。ほとんど『トータル・リコール』の世界ですね。
お金を支払っていないからもったいなくなんてないのに、最後まで読んでくださって本当にありがとうございます!
(文=塩見 智/写真=ボルボ・カーズ、トヨタ自動車、日産自動車、フォルクスワーゲン/編集=藤沢 勝)
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塩見 智
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