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「マツダRX-7」の復刻部品を生産!? ミクニの挑戦は旧車オーナーの福音となるか?

2026.10.23 デイリーコラム 渡辺 敏史
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「マツダRX-7」の重要部品が欠品に

「あ~これ、壊れてる部品の供給終わってますね。もう直せないっす~」

もし自分が長年の時をともにしたクルマの調子が悪くなって、修理をお願いした整備士さんが、端末見ながらそう告げてきたら、果たしてどう思うでしょうか。いやいや待て待て。そんな簡単かよと。俺とこの子とで積み重ねた時間をなんだと思ってるわけと。それを直せないっす~ってチャラッとひと言とか、そんなんないから。ヤフオクとかeBayとかほじくり返してなんとかしようとか努力みせんかいヴォケ~。

……と、自分なら頭のなかで毒づくだろうことは容易に想像できます。いや、なんなら口にしてしまうかもしれません。このご時世、ボケ呼ばわりは当然カスハラですから自制は大事ですが、愛車が走り続けられるか否かの状況で冷静でいられるのか、その自信もありません。

と、世のクルマたちはたったひとつの欠品が不動状態へのトリガーになってしまうことも往々にしてあります。たとえばリザーバータンクのような専用形状品や、リレー、ハーネスなどの弱電部品、ECUのコンデンサーなど、内部の豆粒のような部品ひとつでも、機能停止してしまいます。特に登場から30年前後なんてよわいのクルマについては経年劣化もたっぷり進んでいるわけで、そういうことを真面目に心配するお年ごろです。

そのひとつとして、一昨年に顕在化したのが2代目「マツダRX-7(FC3S)」後期型のメタリングオイルポンプの欠品です。

ロータリーエンジンの場合、潤滑はハウジングやシールの保護という観点からも、レシプロエンジンにもまして大事なプロセスですが、メタリングオイルポンプはmetering=測定の名のとおり、アクセル開度や稼働負荷などを織り込みながら最適な油量を吐出するという重要な役割を果たしています。

1985年に登場した「マツダ・サバンナRX-7」(FC3S)。
1985年に登場した「マツダ・サバンナRX-7」(FC3S)。拡大
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古い自動車部品を供給し続ける難しさ

ロータリーオーナーの間では「メタポン」と略称で呼ばれるそれは、元来、使用回転数に応じて機械的に管理されていたわけですが、内燃機の電子制御化が進むとともに、稼働状況のより詳細な情報が得られるようになりました。それを活用して制御を緻密化したのが、FC3Sの後期型メタポンというわけです。その効果もあって、後期型はパワーを1割以上高めて200PSオーバーを実現することになりました。

が、2024年冬、製造を担当してきたサプライヤーがこのメタポンを完納。その翌春にはマツダの部販でも完売扱いとなります。ここで慌てたのがFCを愛するオーナーたち。メタポンが飛んだが最後、愛車が寝たきりになってしまう。その焦りは古いマツダ車のレストアや部品再販活動を行うクラシック部門にも届き、マツダ側もサプライヤーに再販を要請したそうです。が、時すでに遅し。部品の図面や治具も処分された後ということで、届いたのは「ムリ」という返事でした。

つれないなあとお思いの方もいるでしょう。でも、彼らにも事情があるんです。在庫部品は流動資産で決算にも直結しますし、型や治具の保管も含めて、維持管理にもスペースや手数が費やされます。関係者に聞くと、生産終了後の車両の部品管理については、ほぼすべてのサプライヤーがトントンか赤字だろうと。しかもそれが延々常態化しているといいます。

というわけで、サプライヤー的には生産終了した車両の部品は一刻も早く手放したい。でも法的義務プラスアルファで10年くらいはケアするのが通例です。と、そこを四半世紀も維持していたとあれば文句を言われる筋合もないと。いやはやそのとおりすぎて返す言葉もありません。

でも、今もFC3Sを大事にしてくれているお客さんはマツダにとってもかけがえのない財産です。なんとか部品を調達できないものか。次に打診したサプライヤーがミクニでした。

「マツダ・サバンナRX-7」(FC3S)に搭載された「13B」型ロータリーエンジン。ターボチャージャー付きで、1.3リッターの排気量から後期型では205PS(一部限定モデルでは215PS)の最高出力を発生した。
「マツダ・サバンナRX-7」(FC3S)に搭載された「13B」型ロータリーエンジン。ターボチャージャー付きで、1.3リッターの排気量から後期型では205PS(一部限定モデルでは215PS)の最高出力を発生した。拡大

頼みの綱は当時のサプライヤー

ミクニといえば、スズキやヤマハの4発バイクが使っていた4連キャブレターを想像してしまうのは自分のようなオッさん世代です。創業100年を超える社史を振り返ると、第2次大戦前から英アマル社のキャブレター輸入、零戦のキャブレター製造など、内燃機関連に大きな強みがあったことがうかがえます。そして戦後もモータリゼーションの勃興に伴い、キャブまわりを中軸に燃料供給や制御へと領域を広げ、内燃機の高性能化を支えてきました。その過程で、燃料やオイルを圧送するポンプ類の製造も活発化し、1970年代には東北に生産拠点が設けられました。

そんなミクニとマツダとの縁を取り持ったのも、実はポンプです。ご存じ、マツダ初のロータリー車となった「コスモスポーツ」に始まり、10A~12Aの全盛期にはすべてのロータリー車にミクニのオイルポンプが採用されていました。その後、13B世代では3代目RX-7(FD3S)後期型から再び供給を開始、「RX-8」もオイルポンプは全車ミクニ製となります。マツダとしてもそういった経緯から、ミクニに復刻生産を打診したものと思われます。

それを受けてミクニでは社内の各部門に検討を指示。が、約1カ月後には対応不可との結論が出てきます。理由はいたって合理的なもので、まず開発部門は、熟練者の退職が進み、試験のための設備も老朽化しているため。生産部門からは同じく設備老朽化に加え、年間数十台という想定生産量への対応が難しいとの回答が上がってきました。そして調達部門は、極小の部品取引の将来的継続性、サプライヤーの悩みごとである部品在庫の保管や管理の負荷に対する懸念を挙げます。そしてこれらを受けて……というわけではないでしょうが、営業部門にもビジネス的に黒字化が想定できないと、バッサリ切られてしまいました。

ミクニが手がけていた、「マツダRX-7」(FD3S後期型)用のメカニカル式メタリングオイルポンプ。
ミクニが手がけていた、「マツダRX-7」(FD3S後期型)用のメカニカル式メタリングオイルポンプ。拡大

事態を好転させた社内の改革プロジェクト

とりつく島もないお返事を携えて、ミクニの担当者はどんよりした気持ちで広島を訪れたそう。が、それでも折れずに食い下がるマツダ側の担当者の熱意にほだされて、担当者は再検討をお土産に広島をあとにすることになります。でも、このときの心持ちを担当者は「OEMの人たちとこんなに気持ちの入ったやり取りができたのは初めてで感動しました」と振り返ります。

OEMとサプライヤーのつながりは、開発協調でありながら多分に従属的になりがちです。先のカスハラ話ではありませんが、どっちが金払っとる思うとるんやヴォケ~的な意識が先立ってしまうと、サプライヤー側は言われた時間に言われた量だけブツを納める御用聞きのようなスタンスに陥りがちです。あげく、納入価格はバチバチにしごかれるわ、在庫管理は赤字だわ、労多くして功少なしの典型で、これではサプライヤーは幸せになれません。

幸いだったのはこのタイミングで、ミクニの社内では働き盛りの有志を中心に、会社の将来像を見据えて多方面から事業改善が検討されていたことです。その課題のひとつには、長年お荷物だった在庫管理の件も含まれていました。ミクニ内では補修部品のことを補用と呼ぶそうですが、その「補用変革プロジェクト」と銘打った取り組みのなかでは、つくり方や売り方を変えることでマイナスをプラスに転化するやり方があるんじゃないかと話し合いを続けていたといいます。

そこにちょうど重なってきたのがメタポン再販の話。ゼロベースの開発と生産を介せばもちろん部品価格も今までどおりではいきません。でも、それでもいいからつくってほしいというカスタマーがいる。そして御用聞きではないOEMとの関係も構築できる。なにより役に立っているという実感を伴う自分たちらしいものづくりができる。そこに三方よしの道筋が見えてくるのではないかということが、社内的には前向きに捉えられたそうです。

マツダからの熱いオファーとちょうど重なった社内の補用変革プロジェクト、さらにもうひとつの偶然がミクニにはありました。それはメタポンの設計に携わった社員さんが、最後の1人だけ社内に残っていたこと。定年は2026年8月とまさにギリギリのタイミングで、再雇用のプランもなく自分時間を満喫しようとしていたその方にアクセスできたことで、技術伝承の重要な機会が得られたといいます。

ミクニが最後に手がけた、「RX-8」(SE3P後期型)用のメタリングポンプ。作動は機械式からソレノイド式に進化していた。
ミクニが最後に手がけた、「RX-8」(SE3P後期型)用のメタリングポンプ。作動は機械式からソレノイド式に進化していた。拡大

自動車文化が成熟したことの表れ

これらの経緯をもって社内で再検討した結果、プロジェクトが社内稟議で承認されたのは2026年5月の話。その月末に行われた「榛名ロータリーミーティング」では、開発検討の開始が公表され、ロータリーファンの反響を呼びました。替えが利かない部品を異なるサプライヤーが純正品質(ここにはマツダもミクニも相当なこだわりをもっているようです)で供給してくれるかもしれない。これは旧車乗りにとってはとても心強いことです。

ちなみにメタポン、オーバーホールとかリビルトとかできないの? とお思いの方もいるでしょう。そこで尋ねてみたわけですが、岩手での製造や完検工程のビデオを拝見するに、その作業の手仕事ぶりは想像をはるかに超えたものでした。なんだか時計でもつくっているかのような細々(こまごま)した手順。同じ岩手のご近所にある、グランドセイコーの工房を思い出したほどです。が、それはあながち的外れな話ではなく、地域性的にも根気の求められる細密な仕事に向いた方が多いと思う……と、現地を取りまとめるエンジニアさんがおっしゃっていました。

日本のものづくりを守る! というのは中身スカスカな政治家がキリッと感を醸すための常とう句になっていますが、その実、OEMという動脈に張り巡らされる毛細血管のようなサプライチェーンには、なかなか日が当たらないのが現実でもあります。一方で、サプライヤーの持てるポテンシャルを最大化しなければ、OEMの瞬発力や持久力も気づかぬうちに減衰していくことになりかねません。

ティア1でいえば、もはや昔のような護送船団の残像を追う会社は皆無でしょう。仮に規模で押せる余裕があったとしても、生き残りを賭して自分たちにしかできないものを求め続けている。ミクニもまた、そういうステージにいるのかと察します。なにより、歴史的名品の動態継承という通り過ぎた過去のために、相応の対価をいただく前提で持てるリソースを費やす。就業時間内でそういうことができるようになったこと自体が、日本の自動車文化の成熟を示しているのではないでしょうか。

(文=渡辺敏史/写真=ミクニ、マツダ、渡辺敏史/編集=堀田剛資)

2026年の榛名ロータリーミーティングの様子。
2026年の榛名ロータリーミーティングの様子。拡大
渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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