メルセデス・ベンツS63AMG(FR/7AT)【海外試乗記】
小さくとも変わらず 2010.07.30 試乗記 メルセデス・ベンツS63AMG(FR/7AT)AMGのハイスペックエンジンが新世代に移行。ダウンサイジングを果たした新ユニット搭載の「メルセデス・ベンツSクラス」で、そのパフォーマンスを試した。
AMGに何が?
“63”の記号が与えられた各車に搭載されるAMG製の6.2リッターV8エンジン――車種ごとのチューニングの違いにより出力スペックは微妙に異なるものの、そのパフォーマンスの高さは世界各地で例外なく賞賛されてきたものだ。「自然吸気エンジンならではのシャープなスロットルレスポンス」、「排気量の大きさを忘れさせる、高回転にかけての鮮烈な伸び感」、「スポーツ心を満たす鮮烈なエキゾーストサウンド」等々と、実際自分もこの心臓を搭載したモデルの動力性能を、そんなフレーズを使って絶賛した覚えがある。しかし、そんなAMGきっての高回転・高出力型エンジンに後継モデルが現れた。その名もM157型を名乗る、5.5リッターのツインターボ付ユニットがそれだ。
6.2リッターエンジンの型式がM156だったことからも、それを「後継ユニット」と推測するのは容易なのだが、さらに決定的な根拠も存在する。それは、新エンジンを搭載して2010年9月にローンチ予定のSクラスが、「S63AMG」の車名を継承することだ。すなわちこの秋、S63AMGには「エンジンのみをフルチェンジ」という、かつて例を見ないリファインが行われる。独自の完全新設計がうたわれたM156型が世に出てまだ5年足らず。一体AMGに何が起こっているのか!?
どうやらその目的は、CO2排出量の大幅削減にあるようだ。
排気量ダウンを感じない
6.2リッターエンジンを積んだこれまでのS63AMGのCO2排出量は、ヨーロッパの測定モード(NEDC)で347g/km。それが、新エンジンでは一挙に3割近く減少するという。ちなみに新型での246g/kmという値は、300psと41.5kgmを発生させる2.5リッターターボエンジン搭載のヨーロッパ向け「スバル・インプレッサWRX STI」のそれ(243g)とほとんど同数値。それでいながら、こちらは544psと81.6kgm。さらに、1.0barから1.3barへのターボブーストアップを軸としたチューニングオプション「パフォーマンスパッケージ」を選択すれば571psと91.8kgmにもなるというのだから、なるほどその”エコ度”のほどをアピールしたくなる気持ちも分かろうというものだ。
そんな新しい心臓に、トルクコンバーターの代わりに湿式の多板クラッチを採用して伝達効率と変速レスポンスの向上を図ったAT 「MCT7段スポーツトランスミッション」を組み合わせた新しいS63AMGの走りを、正式デビューに先駆けての国際試乗会で試してきた。
ピエゾインジェクターを用いたスプレーガイデッド式の直噴システムに、アイドリングストップシステムも標準装備という新たなパワーパックを手にしたS63AMGは、相変わらずとんでもない速さの持ち主。驚いたのは、その加速フィーリングがターボ車をほとんど意識させないことで、通常シーンでは2速ギアからの発進を選択する「C」のポジションにシフトモードをセットしておいても、動き出しの瞬間からあふれるトルクを実感。端的に言って、そこでは従来型エンジンに対する約750ccの排気量ダウンなど、まるで意識させないのだ。
重量級モデル用として
その先、アクセルペダルを踏み込んでいくシーンでも、ターボ車にありがちな、加速力がある時点から急激に高まって、ドライバーの意思にそぐわない感覚はほとんど抱かない。しかも、そこで聞かれるちょっと派手めの排気サウンドは典型的なAMG車のそれで、ここでも「ターボ車らしさ」はほとんど実感しないのだ。ちなみに、0-100km/h加速タイムは、標準仕様で4.5秒、前述のパフォーマンスパッケージ仕様で4.4秒と発表。これは従来の6.2リッターエンジン搭載車の4.6秒をいずれも上回る。
ただし……AMGの開発陣は、そんなこの新しいパワーパックを、「主に重量級のモデルに対して用いる」というコメントも付け加えた。冒頭述べたように、6.2リッターエンジンのキャラクターは、生粋のスポーツエンジンとして捨て難いもの。すなわち、「C63AMG」や次期「SLK63AMG」には、従来の高回転・高出力型ユニットを継続的に使用するという意思表示であろうか?
ちなみに、M156型ユニット派生のM159型を搭載する「SLS AMG」に関しては、エンジン換装の計画はないという。「ドライサンプ構造のこちらは、専用設計のピュアスポーツカー向けユニット」というのがAMGの見解なのだ。
(文=河村康彦/写真=メルセデス・ベンツ日本)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】 2026.10.16 欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
NEW
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。





























