スズキ・ワゴンRスティングレー T(FF/CVT)【試乗記】
オトナの軽乗用車 2012.11.14 試乗記 スズキ・ワゴンRスティングレー T(FF/CVT)……158万250円
5代目となった「スズキ・ワゴンR」の仕上がりやいかに? 走りや乗り心地、そして実際の燃費を、個性派のターボモデル「ワゴンRスティングレー T」で確かめた。
電気が燃費に効いている
燃費をよくする上で、ひとつの障害になっていたのが、「発電でした」と、ハリウッドスター、ケン・ワタナベに言わせてしまったのが新型「ワゴンR」だ。
助手席クッション下のバケツは初代ワゴンR以来の装備だが、5代目になる新型は、さらにその下に東芝のリチウムイオン電池が置かれる。通常の鉛バッテリーもあるから新規増設だ。
加えてオルタネーターの発電能力を従来の倍にしたという。これで減速時にガメつく発電してためておく。アイドリング・ストップ中に電装品やアクセサリーを使っても、これまでよりはエンジン停止が長持ちする理屈である。従来の発電回路のなかに電気のダムをつくったわけだ。
テスト車は一番若向きで高性能な「スティングレー T」。試乗したのはまだ暑い時期で、エアコン入れっぱなしだったが、信号待ちの最中に電気不足でエンジンが勝手に再始動することはたしかに一度もなかった。エアコンは、コンプレッサーが回っていないときにもパラフィンの蓄冷剤で冷気をつくる新型だ。
アイドリングストップに入ると、節約されている架空のガソリン量がミリリットル(cc)単位でカウントされる。試乗車のオドメーター(積算距離計)は、返却時に899kmを示していた。その間、アイドリングストップで節約したのは228ml。おろしてから900km近くを重ねてきて、一番小さなペットボトル(280ml)にはまだ足りない。多いとみるか、少ないとみるか。ま、そんなことはワゴンRのなかでもターボ付きのスティングレーを選ぶ人はあまり考えないかもしれないが。
走る、曲がる、止まるが冴える
ワゴンRスティングレー Tは、およそ150万円。軽としてはそうとうプレミアムなお値段だが、仕上がりもプレミアムだ。速くて、快適。最新の軽自動車がいかに優れているかを思い知らされるクルマである。
3気筒ターボ+CVTによる動力性能は、街なかから高速道路までおよそ不満なしだ。早朝、信号の続く大通りで俊敏なスタートダッシュを楽しんでいたら、個人タクシーのクラウンがムキになって追いかけてきた。気持ちはわかるけど、速いのだから仕方ない。
FFでこれだけパワフルでも、前輪が“無駄がき”する気配はない。64psのパワーがちゃんとしつけられている。電動パワーステアリングは軽いが、剛性も高いから、操舵(そうだ)感に安っぽさはない。シャシーもしっとりしていて、乗り心地は快適だ。大人のスティングレー・ターボである。
「ホンダN BOX」が人気だが、全高1.7mを超すスーパーハイト軽ワゴンと比べると、こちらはドライビングの入力に対して遅れがないというか、身のこなしがハキハキしている。ターボパワーの軽快な走りを楽しむなら、ノーマルハイト軽ワゴンのほうが適している。
新車購入時に取得税と重量税がゼロになる「免税」適用モデルは旧型にはひとつもなかったが、今度は全モデルがゲットした。そのためのエコ技術がもっぱらクローズアップされる新型ワゴンRだが、「走る・曲がる・止まる」の基本性能が一段と磨かれているのも見逃せない。
クルマとしては死角なし!?
試乗車のボディーカラーはフェニックスレッドパール。BMWみたいな深みのある赤だ。ひと昔前までのスズキではお目にかかれなかった塗色である。アウディみたいに大きな口を開けたフロントマスクは好きずきにしても、外装の品質感は旧型よりワンランク上がった。ダッシュボードの質感やデザインも大人びている。
リアシートはだだっ広い。フロアも見事にまっ平ら。そんなのはもはや軽ワゴンの常識か。乗っていると、クルマとしてほとんど死角なしに思えたが、強いて言うなら、リアシートの乗り心地と静粛性が前席ほどよくないことだろうか。運転の楽しいスティングレー・ターボの特等席はやはりドライバーズシートである。
高速道路6、一般道4の割合で約180kmを走って、燃費(満タン法)は15.0km/リッターだった。同じ区間を測った車載コンピューターの燃費計は17.1km/リッターを示していた。
これまでの試乗経験で言うと、満タン法の燃費データは車載コンピューターの燃費ほどよくない。スタンドの給油機には検定制度があるが、クルマの燃費計にはない。そのせいなのかどうかはわからないが、今回くらい誤差があると、かるく頭を抱える。でも、この速さと、この快適性と、この広さで、ターボエンジンの軽ワゴンがリッター15km走れば立派なものだと思う。
高速道路でも、その気になれば速いが、それよりも、エンジンが静かなことに感心する。それもそのはずで、時速100kmでの回転数は2400rpmと低い。昔の試乗メモを調べてみたら、93年に登場した初代ワゴンRの3段AT付き3気筒エンジンは、100km/h時に5800rpmもブン回っていた。この19年間で6割もエンジン回転数を下げ、今は信号で止まると0rpmになる。そりゃ燃費もよくなるはずだ。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=高橋信宏)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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