スズキ・ワゴンRスティングレー ハイブリッドT(FF/CVT)
“太鼓判”は押せず 2017.04.13 試乗記 新世代プラットフォーム「ハーテクト」をベースに開発された6代目「スズキ・ワゴンR」。新機軸が満載の新型軽ハイトワゴンの実力を、ターボとマイルドハイブリッド機構の両方を搭載した最上級グレード「スティングレーT」で試した。そこかしこに進化が見られる
「アルト」の次のスズキの軽、ということで気になっていた。興味があった。具体的には、例えばハンドルの手応え。真ん中付近にモーレツにあった固着感、ギュッとなって動こうとしないヘンな感じは今回わりと、いやもっとフツーに近づいた。おー。どう考えても、わざわざナンかしたっぽい。アルトのあれはマズいだろという意識があったはず。ステアリング関係の具体的にどこをどうしたのかは、聞いていないので知らない。でも運転しやすくなったのは間違いない。これだけでも大いにメデタイ。
パワートレイン関係。いまの日本車の水準に照らして「これはちょっとなあ」(または、「いくらなんでもなあ」)というような、つまり運転しにくさの原因としてガッツリ指摘しないといけないと思われるところは別になかった。「ソリオ」のハイブリッドや「スイフト」(1.2リッター4気筒+CVTまたは5MT)と比べたら、「おおイイぞ!!」な感じは半段ほど落ちる。落ちるけど、13km/hとかでエンジンが勝手にお休みしちゃうスタート&ストップ機構由来のウザさがハイブリダイゼーションで軽減されたのはいい。
それと、再始動のスムーズさも(ただしこれも、ソリオのハイブリッドやスイフトのハイブリッドと比べるとチョイ落ち)。リチウムイオン二次電池の電力残量にもよるけれど、クリープ走行時とかに一瞬点灯するEV表示。でもなんかおかしいな……と3秒ほど考えてそうだと思い当たったのは、駆動用電気モーターの位置。というか、オルタネーターですからね。たとえEVモード中でも、クランクシャフトを回さずにクルマを動かすことはできない。
高速でもう少し安定してほしい
乗り心地は、簡単にいうとマイルド調。コンフォート重視系。あからさまなピッチング系の動きはなかった(と思う)ので、これもまあ、よしとしましょう。あとブレーキは、いまの日本車っぽくフツーにペダル踏力がカルい。踏力一定=制動G一定のブレーキングをパワートレイン由来の減速Gによって激しくジャマされた記憶は……特になし。忘れてるだけかも。いやそんな。
よんどころない事情で撮影が延期されたので、1人で6時間ぐらいドライブした。厳密にずっと乗りっぱなし走りっぱなしではなかったのでアレだけど、乗り終わって感じた疲労とそこまでの距離や時間の関係から感想をいうなら、「まあ疲れないクルマだな」。疲れなさにビックリするほどでは別にないとしても、疲れて困ることはない。じゃあオススメするかというと……。
この試乗記のオチというわけではないけれど、走りの安心感がちょっと足りない。一般道の真っすぐ区間やほぼ真っすぐ区間を走っていて「あーこりゃダメだ!!」とは、思わなかった。ならなかった。でも例えば、高速道路の100km/h巡航はビミョー。ビミョーとはつまり、あからさまにフラフラグラグラしたりはしないけど……という。ズドーンと真っすぐ走ってほしかったのに、なんというかバランスボールの上にうまく乗れてるときのような進路の揺れが。ちょっと。ビュッと強い横風を食らったときの動きというか安定感なんかは、むしろわりといい。だけど、フツーに平和に100km/hは、このクルマの場合、すでにスーダラ領域の一歩手前か始まりか、そのぐらい。ガッシリ地面をとらえて踏ん張っている感じが希薄。
リアタイヤの“踏ん張り”があまい
普通のクルマの場合、ハンドル=ステアリングホイールは前輪と機械的につながっている。カーブを曲がる際にハンドルをきると前輪に角度がついて、前輪がコーナリングフォース(CF)を発生して、クルマ全体の向きが変わる。クルマ全体に角度がつくと、そうなって初めて、後輪にも角度がつく。角度がついて、コーナリングフォースを発生して、踏ん張る。問題はそのリアの踏ん張りが出るタイミングや強さで、例えばクルマの向きが十分に変わらないうちからグギュッとリアが踏ん張りすぎると、これは運転しづらい。
今回のクルマの場合は、そのリアの踏ん張りが出るタイミングが遅い。遅いし、ちょっと弱い感じもある。なので、ワインディングロードを走ったりすると、運転手としては気をつかう。頼りなげなクルマに向かって「これで、大丈夫!?」とかアタマのなかで声をかけながら走る感じ。
「コーナリング中に後ろを気にしなくていい」という言葉というか表現がある。これはどういうことかというと、ハンドルをきって前輪がCFを発生してクルマ全体に角度がついたらイイ感じのタイミングと強さでリアがグッと踏ん張ってくれて、運転手的には「ヨシッ!!」とか思いながらさらにハンドルをきっていける。「これで曲がれる。後ろは大丈夫だから、気にしなくていい」ということで、これはどんなクルマもほんとはそうなるようにしつけられていないといけない。少なくとも、通常の運転の範囲内では。あるいは、マトモに運転して、タイヤのグリップの上限までは。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
商品力は高いのだけど
このワゴンRは、そこが少し弱い。少しというか、もっと。だからといって破綻はしないだろうけど、安心感との関係でいうと、気になる。具体的には、リアの踏ん張りがちゃんと出てくれるのを待ちながらこわごわ、ソーッとハンドルをきっていく感じ。そういうことでいうと、今回のクルマはアルトとはけっこう別モノ。そのへん、アルトはバッチリだったのに(舵感はけっこうヒドかったけど)。
表筑波スカイラインなんかはまだいいとして、そういうわけで今回のクルマ、首都高2号目黒線(下り)はフツーにコワかった。「この速度で、あのカーブで、曲がれないわけがない」とアタマではわかっていても、体は正直。脚が縮む。曲がる。つまり、アクセルペダルの踏み込みをスーッと戻してしまう。おー……。
安心感 どれだけあれば 安心か――森 慶太ココロの五七五。あ、字余りだ。
クルマを買い換えたから、インプレをしに山道へいく。でゲンカイまでトバしてみる。そんなヤツはいない。いたとしても、フツーではない。フツーに運転しているなかで、「お、これは大丈夫っぽいぞ。しっかり走る」。そういうのなら、なくはない。でも今回のワゴンR、そういうのではないっぽい。むしろ「あ、これは慎重に走ろう」のほうに近い。だからダメだといいたい気持ちはあまりないけれど、でも、状況によってはハッキリ気をつかうクルマでしたね。気をつかう状況が、日常的な運転の範囲内にクイ込んでいる。商品力は高い。その一方で、“しっかり走る”のプライオリティーはあんまり高くなかった……のかなーと。
(文=森 慶太/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
スズキ・ワゴンRスティングレー ハイブリッドT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1650mm
ホイールベース:2460mm
車重:800kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:98Nm(10.0kgm)/3000rpm
モーター最大出力:3.1ps(2.3kW)/1000rpm
モーター最大トルク:50Nm(5.1kgm)/100rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:28.4km/リッター(JC08モード)
価格:165万8880円/テスト車=186万2838円
オプション装備:ボディーカラー<ブレイブカーキパール>(2万1600円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション<メモリーナビゲーション+TV用ガラスアンテナ+ハンズフリーマイク+外部端子+全方位モニター+フロント2ツイーター&リア2スピーカー>(14万0400円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万0142円)/ETC車載器(2万1816円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2257km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:403.9km
使用燃料:21.9リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.4km/リッター(満タン法)/17.1km/リッター(車載燃費計計測値)
![]() |
