人とくるまのテクノロジー展2011
2011.05.20 画像・写真2011年5月18日〜20日、神奈川県のパシフィコ横浜で、恒例となった日本最大の自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2011」が開かれた。自動車メーカーをはじめ、部品メーカー、材料メーカー、計測・解析機器メーカーなどが最新の自動車技術を展示するこの技術展。今回は東日本大震災の影響でやむなく出展を辞退したところもあったそうだが、出展者数は昨年を上回る370社(昨年365社)を数え、パシフィコ横浜の展示ホール全館を埋める規模の開催となった。展示の傾向としては、言うまでもなく環境関連技術が中心だが、中でもリポーターの印象に残った展示を紹介しよう。(文と写真=沼田亨)

会場風景。展示面積は、これの約2倍である。
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会場風景。展示面積は、これの約2倍である。
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トヨタが出展していた「iQ」ベースの試作EV。最高速度125km/hで、JC08走行モードでの航続距離は108km。トヨタはこのほか「プリウスα」と「プリウス プラグインハイブリッド」のカットモデルも展示していた。
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昨秋にフルモデルチェンジされた小型トラック「三菱キャンター」に、商用車では世界で初めて採用された6段デュアルクラッチギアボックス「DUONIC」用のクラッチパックとダンパー。「エクセディ」のブースにて。
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「東京R&D」が出展していたノルウェー製のEV「THINK City」。欧州6カ国に加えて、今年1月から北米でも販売されているという。特徴はボディが成形色のまま無塗装のABS樹脂製であること(ほかに水色、黄、赤あり)。軽量化でなくエコロジーを目的としたもので、ボディ材は100%リサイクル可能。肝心の耐衝撃性についても、欧州および北米のクラッシュテストをクリアしている。航続距離は欧州モードで160km。日本への導入は未定。
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富士重工業の「ボクサー スポーツカー アーキテクチャ」。ボクサーエンジンを積んだ新世代FRスポーツカーの提案ということだが、つまりは「FT86」から「サイオン FR-Sコンセプト」へと進化しつつある、トヨタとスバルの共同開発モデルのレイアウト見本である。
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マツダは新世代技術「スカイアクティブテクノロジー」を初めて商品化した高効率直噴エンジン「SKYACTIV-G 1.3」を、この会場でお披露目した。レギュラーガソリンを使用する量産エンジンとしては、史上最高の14.0という圧縮比を実現。2011年前半に発売予定の「デミオ」では、アイドリングストップやCVTとの組み合わせによってリッターあたり30.0km(10・15モード)の低燃費を達成したという。
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年内に発売予定で、すでに受注を開始している「三菱ミニキャブMiEV」。このプロトタイプでは、スペアタイヤが押し出されて居場所がなくなっているが、それを除けば貨物スペースは犠牲になっておらず、最大積載量もガソリン車と同じ350kg。低回転域のトルクはガソリン車の倍以上あるため、発進時や登坂時の力強さは大きなメリットだという。
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2010年12月にアメリカの一部の州から販売が始まったGMのレンジエクステンダーEV(シリーズ方式プラグインハイブリッド)の「シボレー・ボルト」も展示されていた。
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ホンダが参考出品していた「家庭用ガスエンジンコージェネレーションユニット」。ホンダ独自のマルチリンク機構によって、圧縮比より膨張比が大きいアトキンソンサイクルを実現した「EX link」(複リンク式高膨張比エンジン、写真左))を動力源として、発電と給湯を行うシステム。燃料は都市ガスまたはLPガスで、エネルギー利用率92%という高効率とコンパクトさが売り物。
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ベアリングのトップメーカーである「NTN」。現在はさまざまな精密機器へと事業を展開しており、今回はEVの駆動系に関する展示が多かったが、個人的に注目したのが「ステアバイワイヤ」。なかなか実用化に至らない「バイワイヤ」の最後のとりで(?)であるステアリングだが、これは操舵(そうだ)するメインモーターが作動しない際には、瞬時(0.1秒)でサブモーターに切り替わるフェイルセーフを備える。ステアリングシャフトが不要になるので、設計の自由度が高まり、安全対策上のメリットもあるが、加えてサブモーターによるトー角の制御によって直進性と燃費も向上するそうだ。
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ドイツに本社を置くトランスミッションを中心とした大手部品サプライヤーである「ZF」。今回の展示の目玉である世界初の乗用車用9段ATの姿がなく、なぜかスペックのみ(写真中央)。聞けば放射能汚染を理由に、本社が直前になってカットモデルの送付をキャンセルしたのだという。「ZF本社ともあろうものが、そんな科学的根拠に乏しい決定をするとは何事かと抗議したのですが、『日本に送ると、そこから韓国や中国のショーに回せなくなる恐れがある』と言われてしまって……」とZFジャパンの担当者。そういえば、今回の会場には外国人の姿が少なかった。
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樹脂部品を得意とするトヨタ系の部品サプライヤー「小島プレス工業」が出展していた「10年後のインパネ」。EVだからエンジンがなくなり、エアコンユニットもコンパクトになるため、余裕のできた前方の空間をクラッシャブルゾーンを兼ねた2段式のインパネとしたという。表示系はマルチディスプレイで好きな場所に表示でき、スイッチ類は一切なくしてタッチパネルまたは音声認識……といったところである。ステアリングは位置を示しただけで、形状に特に意味はない。
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「三菱化学」による有機太陽電池の提案。塗装工程でボディに有機太陽電池を塗り込み、「太陽電池面積5平方メートル、変換効率10%、場所は東京、燃費は1kwあたり10km」という前提で、太陽電池だけで年間3250km走れる計算になるという。コストと耐久性を筆頭にこれから解決すべき問題はあり、数年後に実用化というわけにはいかないが、けっして夢物語ではないそうだ。
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「住友電工グループ」が出展していた、ケーブルを中心としたハイブリッド車のシステムモデル。
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1967年にデビューした初代から、「トヨタ・ハイエース」を一貫して製造している「トヨタ車体」のブースに展示されていた、ハイエースの変遷をたどった解説パネル(これは3代目までだが、ブースの反対側には4代目から現行モデルまである)。デザインスケッチや試作車の写真などもあり、じっくり眺めたくなる内容だった。ぜひともホームページなどで公開していただきたい。
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「小さく、薄く、軽い」平面スピーカーのメーカー「FPS」。「ダイハツ・コペン」のAピラーに埋め込んだ、単体でわずか63gのスリムなスピーカーからの音をフロントガラスに反射させてセンターに音像を定位。そのサイズとは思えないダイナミックなサウンドを放っていたが、加えてそのサウンドがオープン走行時も楽しめるのが特徴という。
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小学生と幼児とおぼしき、衝突実験用のダミーの兄弟。座った姿がとても愛らしく、癒やされた。
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レーシングエンジンおよびパーツの専門メーカーである「戸田レーシング」のブースに展示されていた、F3規格に合わせたオリジナルエンジン。実戦で鍛えた設計・製造・解析・メンテナンスなど同社の持つノウハウの象徴として置かれていたのだが、エコ関連技術だらけのなかにあって、逆に新鮮に見えた。
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屋外会場には電動バイクおよび自転車の試乗コーナーがあり、好評を博していた。これはホンダが4月から企業および個人事業主向けにリース販売を始めた電動ビジネスバイク「EV-neo」。
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会場外通路にあった、2003年から自動車技術会が主催している「全日本学生フォーミュラ大会」のブースにて。610cc以下の4ストロークエンジンを積んだシングルシーターという、設計の自由度の高いレギュレーションに沿って作られたマシンによるレースで、これは昨年の第8回大会で総合6位に入った静岡大学の「浜風」。二輪「スズキGSX-R600」用の4気筒エンジンをドライバーの脇に搭載している。