新型「アウディA8」が“レベル3”を実現!?
自動運転の実用化までに存在する、これだけの課題
2017.09.11
デイリーコラム
業界を騒然とさせたアウディの発表
2017年7月11日、アウディはフルモデルチェンジで第4世代に進化した「A8」を発表しました。アウディのフラッグシップセダンの最新型ですから話題になるのは当然ですが、今回はさらに大きな驚きがありました。それは「2018年以降、“自動運転レベル3”を搭載する」とアナウンスしたのです。これには自動車業界だけでなく、一般メディアも仰天。大きなニュースとして世界中に「自動運転レベル3の実用化」が伝えられたのです。
しかし、いったい自動運転レベル3のなにがそんなにすごいのか? そもそもレベル3とはなんなのか?
まず、自動運転のレベルに関して。
自動運転といっても、その言葉だけでは、どれだけのことができるのかが不明です。アクセルとブレーキだけが自動で操作されるACC(アダプティブクルーズコントロール)も、自動といえば自動です。逆に、車両側がすべての操作を行う、無人でも走れてしまうクルマも自動運転です。ACCと無人走行車では、技術レベルは大きく異なりますよね。それを一緒くたに「自動運転」とくくるわけにはいきません。
そこでレベル分けをしようという話が出てきました。もちろん、今はグローバル化されていますから、国ごとにバラバラなことを言っていては困ります。そのため、現状ではアメリカの自動車技術者協議会(SAE)が定義したレベル分けがグローバルスタンダードとなっています。
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6段階に分けられる自動運転のレベル
SAEの定義によると、自動運転はレベル0からレベル5までの6段階に分けられています。
【レベル0】
ドライバーがすべての運転操作を行います。事故があれば、もちろんドライバーの責任です。
【レベル1】
システムが、前後もしくは左右のどちらかの操作を行ってくれます。ここでも事故が起きないようにドライバーが注意深く見守る必要があります。実用化された技術で言えば、ACCやステアリングアシスト付きのレーンキープ機能などがこれにあたります。
【レベル2】
システムが前後と左右の両方の操作を行ってくれます。まだ事故を防ぐ責任はドライバーにあります。ステアリングアシスト付きのレーンキープとACCが同時に作動するもので、現状の最先端がここ。日産やスバル、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンなどが実用化しています。
【レベル3】
「高速道路限定」など、一定の条件下でシステムがすべての運転を行います。システムが運転しているとき、ドライバーは監視も不必要。万一の事故の責任はシステムが負うことになります。ただし、システムがギブアップしたときは、ドライバーが運転に戻ります。アウディA8が新たに導入すると予告したのは、このレベルです。
【レベル4】
一定の条件下で、システムがすべての運転を行います。基本的にシステムがギブアップすることはありません。ドライバーが不必要であり、事故の責任もシステムが負います。
【レベル5】
どんな状況でも、すべてシステムが運転を行います。もちろん事故の責任はシステム。無人でも走行が可能です。
ここで話をもとに戻しましょう。アウディによるレベル3実用化のアナウンスがここまで注目されたのはなぜか? それは、レベル2からレベル3への進化が、相当に難しいと思われていたからです。
ポイントは事故の責任がどこにあるのか? という部分です。
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「レベル2」と「レベル3」の間にそびえる壁
レベル2までは、「何があっても最後はドライバーに責任がある」ことになっています。ところがレベル3からは、「システムに責任がある」という状況が生まれます。ここが大問題です。
まず、法制度の問題があります。アウディA8のプレスリリースにも「導入には、各国における法的枠組みを明らかにし、おのおのの市場におけるシステムの適用とテストが必要となります」とあります。万一の事故のときにどのような罰則が適用されるのか? 自動車メーカーが罰金を払うのか? 開発者が裁判所に出頭するのか? 自動車のオーナーがペナルティーを受けるのか? そうした具体的な法律がないと導入できないというわけです。
次に技術的な問題もあります。「システムが責任をとる」のですから、やすやすと故障されては困ります。そのため、センサー類にも、ブレーキやステアリングなどの作動側にも2系統のシステムが構築されており、片方の系統が故障しても大丈夫な仕組みとしているのです。
さらに運転の引き継ぎの問題もあります。「システムがギブアップしたら、ドライバーが戻る」とありますが、そのための時間はどれだけ必要なのでしょうか? 「1秒以下でドライバーが運転に復帰する」のであれば、人が運転を常に監視するレベル2と変わらない=意味がないとなります。
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人とクルマが“ハンドルをやり取りする”ことの難しさ
例えば、レベル3での自動走行中に、ドライバーのあなたが食事をしていると想定してください。右手にハンバーガー、左手にコーヒー。そこでシステムから「運転に復帰して!」と言われたら、ハンドルを握るまでに何秒必要でしょうか? 自動車開発者や研究者のリポートなどでは、短くても4秒、最大で10秒、という数字を見ることができます。
逆に言うと、その間はどんな状況でもシステムにギブアップは許されません。高速道路では、パイロンで走行車線を規制してあり、走行車線が減少するようなシーンがよくあります。クルマの走る環境は、電車と違ってイレギュラーの連続です。すべてとは言いませんが、そのほとんどに対応できるだけの技術が求められます。
ちなみに、日本ではまた別の問題も発生するでしょう。それは「速度のダブルスタンダード」です。日本では法定速度と実際のクルマの流れが大きく異なることがよくあります。例えば、首都高速のほとんどは法定最高速度が60km/hですが、実情は違い、もっと高い速度でクルマは流れています。また通常の高速道路でも、雨や霧などで部分的に50km/hなどに速度が規制されることがありますが、実際にはそこまで速度が落ちていないケースも数多く見られます。
そうした中で、レベル3のクルマが実直に制限速度を守って走るとどうなるか? あまりに速度差が大きいと、かえって危険なことにもなるでしょう。
このように、レベル3の実用化には、法制度、技術、交通環境など、数多くの解決すべき課題が存在します。だからこそレベル3は難しく、そして、それを実現したという新しいアウディA8は「すごい!」と話題となったのです。
(文=鈴木ケンイチ/編集=堀田剛資)
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鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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