新型「スバルBRZ」&「トヨタGR 86」の味つけの違いを読み解く
2021.04.14 デイリーコラム限界性能を引き上げる
2021年4月5日、トヨタ自動車とスバルはオンライン合同イベントにて、「トヨタGR 86」を世界初披露するとともに、新型「スバルBRZ」の日本仕様(北米仕様は2020年に公開済み)をお披露目した。
最近は世界的な傾向として、自動車各社は既存のメディアに先んじて情報発信力、拡散力のあるインフルエンサーに向けて発表会を行う傾向にある。この2モデルも先にYouTuber向けに撮影の機会が設けられたようで、すでにいくつもの動画がアップされている。
YouTuberでない筆者にとっては未見のモデルなのだが、編集部からのお題は「資料を読み込み、トヨタとスバルがそれぞれどんなスポーツカーを目指したのかを読み解け」というものだ。なんともアナログな話だが、取りあえず資料を読み進めてみることにする。
まずスペックだが、まだ正式発表前ということで両者の資料にはいずれも“開発目標値”とただし書きがついている。そして全長や全幅、全高、ホイールベースやトレッド、車両重量、エンジン出力など、記載されている数値はすべて同一だ。
先代からの主たる変更点は、エンジンはボア径を拡大し、2リッターから2.4リッターに排気量をアップ。最高出力は現行型の207PSから235PSにアップしているが、より差を感じるのはトルクの出方の違いだろう。現行型が205N・mを6400-6600rpmで発生する高回転型なのに対して、新型は250N・mを3700回転という中回転域で発生するため、より日常でも扱いやすい特性となっていると想像される。
プラットフォームは基本的にキャリーオーバーだが、全長は4240mmから4265mmへと25mm拡大し、全幅の1775mmは同寸。全高は1320mmから1310mmへと10mm下がり、ホイールベースは2570mmから2575mmと5mm拡大した。最低地上高は130mmで変更なし。トレッドは現行型が前:後=1520mm:1540mmなのに対して、1520mm:1550mmとリアを10mm拡大。わずかながらも全高を下げ、ホイールベースを延長し、リアのトレッドを拡大して、限界性能の向上が図られている。
車両重量は新型のMT車で1270kg。装備が同等となるグレードは不明だが、現行の「G」が1210kg、「GT」が1240kgであることから、30~60kg増といったところのようだ。
資料によれば、スバルが「レヴォーグ」などにも採用しているインナーフレーム構造や構造用接着剤などを用いて、新型ではボディーを再構築。初代モデルに対してフロント横曲げ剛性を約60%、ねじり剛性を約50%と大幅に向上。フードやフロントフェンダーをはじめ、ルーフパネルにもアルミを採用して軽量化と低重心化を図っている。さらに軽量化はフロントシートやマフラーにも及んでいるようで、重量増は最低限に抑制されたようだ。
デザインの違いはごくわずか
ここからは両者の違いを見ていくことにする。まずわかりやすいのはフロントマスクだ。GR 86のグリルがGRヤリスにも共通するメッシュの四角い形状なのに対して、BRZはグリル内に横桟が配されており、よりワイドに見える。また左右のエアインテークもデザイン処理が異なるが、ホイールハウスに空気を取り込んでブレーキを冷却し、ドア手前にあるアウトレットから排出するという構成は同一のものだ。特徴的なサイドシルや量感のあるリアフェンダーなども共通。テールレンズなどはまったく同一のようだ。リアビューはエンブレムがなければ見分けがつかないかもしれない。外観上の違いは基本的にフロントセクションのみのようだ。
インテリアも基本は共通のデザインだ。新型はメーターがアナログタイプから7インチのTFTディスプレイへと変更になった。イグニッションをオンにした際のオープニングアニメーションは、GR 86とBRZでつくり分けされている。
そして乗り味についてだが、トヨタもスバルも共通の文面として、以下のように前置きしている。
「共同開発の特徴(スバルは“特長”と表記)として、クルマのベースを共有しながらも、それぞれの個性を引き出した『異なる走りの味』を持たせることに注力」
そのうえで各自のブランドについて、トヨタは「『スポーツ性能に特化した、さらなる高い次元でのダイレクトで気持ちのいい走り』を実現しました」と説明し、スバルは「『誰もが愉(たの)しめる究極のFRピュアスポーツカー』を実現しました」としている。
発売時期が微妙にずれた理由
ここから先はあくまで想像だが、基本的には現行モデルと同様に、GR 86はドリフトを許容する方向、BRZはリアのスタビリティー重視、という性格の異なるセッティングが施されているはずだ。
スバルのBRZプロジェクトゼネラルマネージャーである井上正彦氏のインタビュー映像が公開されているが、一部を要約してみる。
「BRZがFRであるというところはスバルの中でもいろいろな議論がありました。FRだからこそフロントとリアの荷重バランスによってクルマの挙動が変わる。今まで4WDしか知らなかったエンジニアが、FRを知ったことによって、車両の前後の挙動も含めて適切な車両のバランスや安心な走りとはどういうものなのかということをさらに追求した。そして新型BRZに行き着いた。スバルが目指す安心と楽しさの走りの部分は、しっかりとスタビリティーを上げることでクルマの挙動が穏やかですぐにわかるようになり、だからこそ先が読める。先が読めるからこそ安心してコーナーを攻められる。しっかりとした安全装備も付いていますし、それらが備わってこそスポーツカーの走りが楽しめるというのがスバルの考えです」と述べている。スバルの側には基本的に、源流として「インプレッサ」やレヴォーグといったAWD車があるといえるだろう。
一方のGR 86は、まだコメントなどは発表されていないようだが、資料に「86ファンに喜んでいただける、86らしい味の進化を追求」とある。現行モデルの流れをくみ、「GRヤリス」などでも具現した思いのままに取りまわせる“手の内感”や“操る楽しさ”を進化させていくようだ。
新型の発売はスバルが2021年夏、トヨタが2021年秋の予定だという。なぜ発売時期にズレが生じているのか。うわさによると、最終的な性能をチェックするトヨタのマスタードライバーの一人である、豊田章男社長のゴーサインがすんなりとは出なかったためという。
これほどコンパクトで安価なFRクーペは世界的にみても絶滅危惧種だ。それを協業体制をとることでどうにか代を重ねることに成功したトヨタとスバルに、そして世界最大級の自動車メーカーのトップでありながら、最後まで乗り味にこだわる強い気持ちを持ち続けている豊田社長に、ただただリスペクトの念を抱くばかりだ。
(文=藤野太一/写真=トヨタ自動車、スバル、webCG/編集=藤沢 勝)

藤野 太一
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