フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)
フィアットの魂 2026.10.16 試乗記 欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」の新世代モデルが登場。「グランデパンダ」を名乗って日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。暫定の“グランデ”
欧州から約2年遅れで日本上陸した新世代パンダの正式商品名は、グランデパンダだそうだ。そういえば、2005年(日本は2006年)に発売となった3世代「プント」も、同様に「グランデプント」と呼ばれていたことをご記憶のファンもおられるだろう。当時は、前身の2代目プントに対して車体サイズが大幅に拡大したことに加えて、地元の欧州で2代目プントがしばらく併売されたこともあり、差別化のためもあって、グランデ~を名乗った。
今回も状況はそれと似ており、3代目もエントリーフィアットとして、現在も継続販売されている。ただ、その3代目パンダはグランデパンダの発売に合わせて「パンディーナ」と改名しているから、現時点で正式にパンダという名のフィアット車は存在していない。
だったら、今回はグランデである必要はないのでは……とツッコミを入れたくもなるが、欧州メディアの報道によると、今のパンディーナの直接的な後継となる(グランデパンダより)スモールなフィアットが2030年までに発売予定らしい。ということは、それが晴れて新型パンダを襲名する……のか。
グランデパンダは「600」に続いて、2021年に発足したステランティスグループ傘下で新開発された新世代フィアットである。600と同じく、プラットフォームやパワートレインといった基本メカニズムは旧プジョー・シトロエン由来といってよく、グランデパンダは「シトロエンC3」に続いて「スマートカー」プラットフォームを土台とする。
グランデパンダは車体サイズもC3とごく近く、2540mmというホイールベースはピタリ同じ。日本に導入されたパワートレインもおなじみのマイルドハイブリッドの1.2リッターターボで、110PSという控えめなシステム出力もC3と共通なら、今回試乗した上級の「ラプリマ」グレードで1270kgという車両重量も、同じくC3ハイブリッドの「マックス」と同じだ。
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リスペクトあふれる内外装
グランデパンダのデザインも「500」や600に続いて、1980年デビューの初代パンダのあやかり系……というか、その偉大なる先達のみならず、フィアットそのものの歴史に対するリスペクトが満載である。
グランデパンダの実寸は初代パンダのそれより、全長で600mm以上、全幅で300mm以上、ホイールベースで400mm弱も大きい。実際に2台をならべると、2階級どころか3階級くらいの差はあるが、ボクシーなシルエットと太いリアクォーターピラー、そして台形(?)のホイールアーチが印象的なハイトワゴンスタイルは、まさにパンダ的というほかない。“PANDA”のロゴがプレスされたドアは初代パンダのチャームポイントだった樹脂ドアプロテクターを思わせるし、タナ形状のダッシュボードやパイプが貫通したような意匠も、初代パンダに通じるものがある。
スクエアな灯火類も初代パンダっぽいが、それを四角いドットで表現するのがグランデパンダの新しさで、これは1916年に建設されて2022年まで残っていたイタリアはトリノのリンゴットにあった、旧本社の窓ガラスをモチーフにしているそうだ。そのドットで表現されるセンターグリルパネルが左右非対称で、“FIAT”のロゴが右にオフセットしているところに、初代パンダ(の初期モデル)を思い出す中高年カーマニアも少なくないだろう。
FIATのアルファベットに加えて、グランデパンダでは1980~1990年代にかけて使われた“4本ライン”も復活。内外装のあちこちに、この2種類のロゴがおどる。リアクォーターガーニッシュにいたっては、前方からはFIAT、後方からは4本ラインが見える「レンチキュラーグラフィック」の成型となっている。往年のディテールがこれでもかとテンコ盛りなのは、巨大なステランティス傘下でフィアットブランドを再確立するためでもあろう。
フィアットらしいパリッとした乗り味
ドアを開けて運転席に座ると、今度は長円モチーフのオンパレードだ。この長円形も前記のリンゴット本社工場の屋上にあったオーバルのテストコースが元ネタで、インパネやシフトパネル、ドアインナーパネルなどにリフレインされる。とくにメーターパネルとセンターディスプレイを取り囲むオーバルには、ごていねいに初代パンダのミニチュアカーが走っている(笑)。
また、試乗車のシート表皮には「PANDA MADE WITH LOVE IN FIAT(≒パンダはフィアットで愛情をこめてつくられています)」というメッセージが刺しゅうされていたが、受注生産あつかいのエントリーグレード「アイコン」ではPANDAのアルファベットが型押しされる。いずれにしても見た目には柔らかそうなシートだが、実際には昭和のプリン(?)を思わせる硬めの肌ざわりで、いわば最近のふわふわパンケーキ的なC3の「アドバンストコンフォートシート」とは明らかにちがう。いかにも古典的な欧州車らしいしっかり食感……ならぬ触感のシートは、フランス車とは真逆のフィアットの伝統といえる。
それはサスペンションの調律にも通じる。C3に対してわずかに大きな径のタイヤを履くグランデパンダは、シートに加えて、フットワークも引き締まっている。C3と比較するとロールも小さめで、クルマ全体がパリッとした小気味いい乗り味は、いかにもフィアットである。市街地では硬めの乗り心地に感じるものの、かわりに速度が上がるほどヒタッと安定して、サイズに似合わぬ高速安定性を披露するあたりも、昔ながらのヨーロッパの小さなクルマっぽい。
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似つかわしくない(?)先進装備
1.2リッターターボのハイブリッドは、ほかのステランティス車と同じく、基本的に電気で発進して、その後はエンジンが始動、定速走行ではエンジンのみ、加速時はそこにモーターが加勢して、減速では回生、低負荷巡航ではときおりエンジンが停止する。
C3と同じくスポーツモードやパドルシフトが用意されないのは、グランデパンダがいわばゲタグルマゆえの割り切りだろうが、シフトセレクターにある「L」レンジは意外なほどに“使える”のが面白い。これは速度に応じて低いギアを選ぶレンジで、世間一般では下り坂などでエンジンブレーキを強めに利かせたいときに使う。
ただ、Lレンジでは減速時にもエンジンが停止しなくなり、しかもメーターにリアルタイムでギアポジションが表示される。さらに、基本的にどんな走行状況でも、速度が一定まで落ちると律義にギアダウンするので、山坂道でのターンインでしっかり減速すると同時にシフトダウンして、脱出加速に向けたレスポンスも良くなる。この“セミスポーツモード”として使えるLレンジがあれば、山坂道でもパドルがほしくなるようなケースはなかった。
グランデパンダの先進運転支援システムは必要なものはそろうものの、あくまで最低限なのもC3同様だが、Aピラーの内側に見慣れない突起が……と思ったら、高度な自動運転車に必須のドライバーモニタリングシステム(DMS)のカメラだった。このクルマにはアダプティブクルーズコントロールすら備わらないので、ハンズオフ運転ができるはずもないが、走行中にちょっとわき見をしたらクルマに注意された。EU域内で販売される新車には、この2026年7月から原則としてDMS搭載が義務づけられたのだ。ちなみに、日本でも新型車には約5年後の2031年9月発売分から、継続生産車にも2033年9月から搭載が求められる予定である。
グランデパンダは2024年夏にグローバルデビューして、このところの欧州におけるフィアット躍進の原動力になっているとか。フィアットは良くも悪くも日常のゲタグルマブランドであり、魅力的なスモールカー/コンパクトカーがあってこそ……ということだ。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=ステランティス ジャパン)
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テスト車のデータ
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4010×1765×1630mm
ホイールベース:2540mm
車重:1270kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:101PS(74kW)/4264rpm
エンジン最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)/1750rpm
モーター最高出力:20PS(15kW)/4264rpm
モーター最大トルク:51N・m(5.2kgf・m)/750-2499rpm
システム最高出力:110PS(81kW)
タイヤ:(前)205/55R17 95V(後)205/55R17 95V(グッドイヤー・エフィシエントグリップ パフォーマンス2)
燃費:20.8km/リッター(WLTCモード)
価格:409万円/テスト車=420万円
オプション装備:ボディーカラー<アクアアジュール>(5万5000円)/ウインターパッケージ<シートヒーター[前席]、アコースティックヒーテッドウインドシールド、ヒーテッドステアリングホイール>(5万5000円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:2910km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:314.4km
使用燃料:23.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.6km/リッター(満タン法)/13.9km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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