第214回:「ディーノ」は大切なクルマです
パオロ・ピニンファリーナCEOが来日
2013.11.29
エディターから一言
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イタリアンカロッツェリアの雄・ピニンファリーナの美意識は、これまでどのように受け継がれてきたのだろうか――TSUTAYAやTカードなどを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は2013年11月27日、ピニンファリーナグループのパオロ・ピニンファリーナ最高経営責任者(CEO)を代官山 蔦屋書店(東京都渋谷区)に招き、トークイベントを開催した。父、セルジオ・ピニンファリーナの思い出や、名車「ディーノ」への思いなど、なかなか聞けない貴重な話に、会場はじっと耳を傾けていた。
「銀の魚」に父と2人で
トークイベントのテーマは「デザインで文化を創る~世界を変えるための新しいスタイル、建築学的方法~」というもの。ピニンファリーナグループといえば、いまでは自動車だけでなく、建築に家具、家電、そして小型ジェット機などの運輸関連を手がける総合的なデザインハウスとして知られる。
その代表を務めるパオロ・ピニンファリーナCEOと、CCCの増田宗昭代表取締役社長兼CEOが、デザインから文化、美、そしてライフスタイルにいたるまでを語り合うというのが、今回のイベントの趣旨である。
まずはCCCの増田社長が、「私とピニンファリーナ(の作品)との出会いはといいますと……」と切り出した。
「今から40年ほど前、大学生時代に観光ツアーでローマに行ったときのことです。私が乗っていた観光バスを、銀色の『ディーノ』が抜いていきました。当時私は『トヨタ・カローラ』に乗っていたんですが、その“別物感”に圧倒されました。いつか買おうと誓ったんです」
すると、ピニンファリーナ氏も、「私にとってもディーノはとても大事なクルマです」と答えた。
「当時、私の父(セルジオ・ピニンファリーナ氏)は『フェラーリ365GTC/4』に乗っていました。週末になると私と兄(アンドレア・ピニンファリーナ氏)を乗せて、いろいろなところに連れて行ってくれました。いつも父が運転し、私と兄が後席に座って」
GTCは2+2シーターだが、多くのフェラーリは2シーター。父がディーノで出掛けるときは、兄をさしおいて、弟である自分が指名されなくてはならない。そんな自分にある日、チャンスが回ってきた。
「イタリアのリヴィエラ海岸の町でヨットに乗って、陸に戻ると、父が『お前に銀の魚を紹介するよ』と言って、ディーノを見せてくれたのです。当時はそこから(自宅がある)トリノまで3時間ぐらいかかりましたが、『銀の魚』に父と一緒に、しかも助手席に座るということは、私にとって特別な体験でした」
パオロ少年、10歳のころの思い出という。
ディーノは特別なクルマ、という共通点を見いだした両氏。話は2013年のジュネーブショーで公開されたコンセプトカー「セルジオ」に及んだ。
「私」ではなく「私たち」の精神
「ピニンファリーナ・セルジオ」は、2012年に逝去した父・セルジオにささげるかたちで作られたコンセプトカーである。そのデザインは、1960年代のフェラーリデザインの集大成的なものと言われるが、ピニンファリーナ氏によれば、より直接的なモチーフはディーノであるという。
「父が亡くなったときに、父へのオマージュとしてコンセプトカーを作ろうと考えました。テーマはやはりフェラーリだろうと思いました。そしてもうひとつ重要なエレメントを入れるとしたら何がいいだろうかと考え、母に尋ねました。『ディーノを基本に作ろうと思うんだけど、それでいいと思う? 父が一番好きだったクルマはディーノだと思うんだけど』と。すると母から『お前の言うとおりだ』という返事をもらいました」
セルジオの晴れ舞台となったジュネーブショーでは、量産型ディーノの原型となった「ディーノ ベルリネッタ スペシャル」(1965年)も一緒に展示された。
ところで、われわれが感じる「ピニンファリーナらしさ」とは、作り手の側からすると、一体どういう言葉で説明されるのだろうか。モノを見れば、「これはピニンファリーナっぽい」と直感でわかる。しかし、それを言葉に置き換えるのは簡単ではない。ピニンファリーナ氏はこう語った。
「ピニンファリーナデザインのバリューが何かというと、まず余計なものがない本質的なものであるということ。そして機能的であるということ。さらに革新的であり、ここが一番難しいところではあるのですが、エレガンスがあるということです」
この発言を受けて、増田社長が尋ねた。
「では、みなさんは、どうやってそのエレガンスの感覚を養っているのですか」
「エレガンスとは自然であること。自然を大切にすることと言えるかもしれません。そういった知識や経験は、企業内で伝えていかないといけないものだと思います。教育とは文化であり、なにより共有することだと思います。自分の中だけに止めておくのではなく、自分の持っているものを人に伝えていくということが大切です。父はいつも『私』と言わずに『私たち』と言っていました。ピニンファリーナの精神の中には『私たち』という精神があるのだと思います」とピニンファリーナ氏。
トークショーは約2時間に及んだ。その読後感は、とっておきのエッセーを読んだときの充実した気分に似ていた。筆者は豊かな気持ちで代官山を後にした。
(webCG 竹下元太郎)

webCG 編集部
1962年創刊の自動車専門誌『CAR GRAPHIC』のインターネットサイトとして、1998年6月にオープンした『webCG』。ニューモデル情報はもちろん、プロフェッショナルによる試乗記やクルマにまつわる読み物など、クルマ好きに向けて日々情報を発信中です。
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