神社ゆかりの旧車イベント「谷保天満宮旧車祭」の会場から
2015.12.20 画像・写真2015年12月6日、東京・国立市の甲州街道沿いにある谷保天満宮およびその周辺で「谷保天満宮旧車祭」が開かれた。これは神社の境内をメイン会場とする、非常に珍しい旧車イベントである。そもそも谷保天満宮は、903年(延喜3年)に菅原道真の三男道武が父を祭ったことに始まる、東日本最古の天満宮という由緒のある神社。そんなところでなぜ旧車イベントが開催されるのかといえば、これまた由緒正しい理由があるのだ。
国産初のガソリン自動車である「タクリー号」を作らせたほどのクルマ好きで、“自動車の宮様”と呼ばれた有栖川宮威仁親王が、1908年(明治41年)8月1日に、3台のタクリー号を含む11台による日本初の遠乗会(ドライブ)を主催した。日比谷公園を出発した一行の目的地が谷保天満宮で、梅林における食事会の席で、わが国初の自動車クラブとなるオートモビルクラブジャパンが設立された。いうなれば谷保天満宮は、日本における自動車趣味発祥の地なのである。
それから100周年を迎えた2008年、偉大なる先達(せんだつ)に敬意を表すべく、地元国立の旧車愛好家が中心となって遠乗会を再現したイベントを開催。それをきっかけに翌09年から「谷保天満宮旧車祭」が始まり、今回で7回目を迎えたというわけだ。今回の参加車両はおよそ200台で、境内には収まりきらず、近隣の駐車場に第2・第3会場を設ける盛況ぶり。多くのギャラリーが訪れにぎわった会場から、リポーターの印象に残った車両と光景を紹介しよう。(文と写真=沼田 亨)

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本殿前にもご覧のようにクラシックカーが並ぶ。
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本殿へと続く坂道を下る「シトロエンSM」。
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参道の展示指定位置に向かう「マツダ・サバンナRX-7」。型式名SA22Cこと初代RX-7の初期型である。
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本殿前に並んだ、参加車両中最古の1910年「ロールス・ロイス・シルバーゴースト」と参加国産車中最古の58年「ダットサン210」。
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参道にもこのとおりズラリと参加車両が並び、参拝者(見学者)を迎える。
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日本初の遠乗会の一行が無事だったことから、谷保天満宮は交通安全祈願発祥の地ともなっている。1986年「ランボルギーニ・カウンタック5000QV」をはじめ、この日も全参加車両とオーナーがおはらいを受けた。
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ファニーな雰囲気にデフォルメされた、国産初のガソリン自動車である「タクリー号」のレプリカ。ちなみにタクリー号の名は、「ガタクリ、ガタクリ」と音を立てて走ったことに由来する。
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天満宮には、1908年に行われた、日本初の遠乗会の写真が数葉残されている。参加車両が並んだ道は、天満宮が面している甲州街道だろうか。
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遠乗会の際に食事会が催されたという梅林では、恒例となっている、石油発動機の愛好家グループによるデモンストレーションが行われた。境内には有栖川宮台臨記念の石碑も残されている。
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境内の第1会場に入りきらない参加車両約70台が、近隣の駐車場を使った第2、第3会場に展示された。これは第2会場だが、手前のロケットのような個体はいったい? 答えはあとのお楽しみ。
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午後2時過ぎから、参加車両は1台ずつ盛大な見送りを受けながら、国立市内をパレードする遠乗会ならぬ近乗会に出発した。出ていくのは1958年「メッサーシュミットTg500」。空冷2ストローク2気筒500ccエンジンを積んだ四輪のメッサーシュミット。
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近乗会にて、JR中央線の国立駅とJR南武線の谷保駅を結ぶ、通称大学通りを行く1989年「ノーブルP4」。60年代後半のフェラーリのプロトタイプスポーツ「330P4」のレプリカだが、この個体は「フェラーリ348」用のV8エンジンを積んでいる。
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レーシングスポーツである1959年「エルバ・マーク5」。フロントに、2.5リッター/1.5リッター時代のF1用エンジンで有名なコベントリー・クライマックス製1.1リッター直4 SOHCエンジンを積む。
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谷保駅のロータリーを行く1969年「アウトビアンキ・ビアンキーナ・カブリオレ」。「フィアット500」をベースとするモデルで、日本では非常に珍しい。
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これも珍しい1969年「フィアット124スポルトクーペ」。2015年11月のLAオートショーでデビューした「フィアット124スパイダー」のモチーフとなった初代モデルの兄弟車である。スパイダーのボディーがピニンファリーナ・デザインだったのに対して、こちらはフィアットの社内デザイン。
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大学通りを谷保駅から国立駅方面に向かう1955年「MG-TF」、73年「トライアンフTR6」など。
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参加車両中最大級の1959年「キャデラック・セダン・ドヴィル」と、同じ年で似たような色ながら、最も小さい部類の59年「ダイハツ・ミゼットMP5」がすれ違う。
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国立駅と谷保駅間を循環していた来場者用無料シャトルバスは、こだわりの昭和のバスである1981年「日野RC700型」。このほか第1会場と第2会場を結ぶ無料タクシーも運行されていた。第1と第2会場間は徒歩でも数分だが、お年寄りなどにはうれしい配慮である。
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謎のロケット(?)の正体は、1989年「パルス」。アメリカのメーカーが製造した二輪車で(左右の主翼状の下にそれぞれ補助輪が付いているが)、この個体はパワーユニットとして「ホンダGL1500」用の1.5リッター水冷フラット6を搭載。登録は大型二輪なので、運転時はヘルメット着用が義務づけられる。FRP製ボディーカウルの後部は現オーナーが作り替えたそうで、本来尾翼はなかったという。オーナーいわく「普通に乗れますよ」とのことだが、公道上でこれを目にした周囲の人間は、かなりの衝撃を受けることだろう。
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いまにも飛び立ちそうな「パルス」のリアビュー。性能は、法さえ許せば150km/h以上でのクルージングが可能という。しかし、こうしたクルマが改造申請をクリアして晴れてナンバーを取得、堂々と公道を走れるのだから、時代は変わったものだと思う。もっともオーナーの話では、白バイなどに停車を命じられることもあるというが……無理からぬところだろう。