「昭和のくるま大集合 2018」の会場から
2018.04.23 画像・写真2018年4月15日、茨城県東茨城郡城里町の「サテライト水戸」で、「昭和のくるま大集合 2018」が開かれた。タイトルのとおり昭和時代に生産された国内外の車両によるミーティングで、2004年に茨城県の土浦市内で始まり、今回で15回目を迎えた。会場がサテライト水戸に移ってから4回目となるが、あいにくここ3年連続して雨にたたられている。特に今回は、雨に加えて風も強く大荒れになるかもとの天気予報が出ていたため、参加キャンセルが続出。6台の特別展示車両を含め約200台のエントリーのうち、4分の1にあたる50台近くが会場に姿を見せなかった。実際には雨は降ったりやんだりで、風はまったくといっていいほどなかったのだが……。それでもおよそ150台を数えた参加車両の中には、7台がそろった空冷エンジン搭載の「ホンダ1300」シリーズをはじめ希少なモデルも少なくなく、退屈することはなかった。そんな会場から、リポーターの印象に残った車両を紹介しよう。(文と写真=沼田 亨)
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1/30ズラリと並んだ「ホンダ1300」(H1300)シリーズ。この写真は閉会後に並べ直して撮ったもので、すでに1台のセダンが会場を後にしてしまっているが、参加はセダン3台、クーペ4台の計7台だった。1969年にホンダ初の実用的な小型乗用車として登場したH1300は、熱烈な空冷エンジン信奉者だった本田宗一郎の肝いりの二重空冷(DDAC:Duo Dyna Air Cooling systemの略)と呼ばれる特殊な空冷エンジンを搭載していた。
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2/301969年「ホンダ1300 77デラックス」。H1300の基本形であるセダンの77(セブンティセブン)。他社の1.8~2リッター級に匹敵する最高出力100psという驚異的な高出力を誇るDDACエンジンを搭載し、しかもこのデラックスで56万8000円という低価格(ちなみにボディーサイズが近いがエンジンは小さい「カローラ1100 4ドアデラックス」は52万6500円、排気量は同じだがボディーは大きい「ブルーバード1300 4ドアデラックス」は62万4000円)。ホンダは発売から半年以内に月産1万台ラインにもっていくと豪語していたが……。
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3/30「ホンダ1300 77デラックス」のエンジンルーム。DDACエンジンのシリンダーヘッドとブロックは、アルミで一体鋳造されたエアジャケットと呼ばれる外壁に覆われており、エンジンとエアジャケットの間を、ファンによって送られた空気が通過して強制冷却される。走行中は導入された外気によってもエンジン外壁は冷却されるため、強制空冷と自然空冷を合わせて二重空冷というわけだ。77はシングルキャブレター仕様で、1298cc直4 SOHCから最高出力100ps/7200rpm、最大トルク10.95kgm/4500rpm(いずれもグロス値)を発生。ちなみにそれまで1.3リッター級の量産市販車で最も高出力だったアルファ・ロメオの「1300」系や「ランチア・フルヴィア」のスポーツモデルでも90ps前後だったから、少なくとも額面上のパワーにかけては、H1300は世界最高峰だったのだ。
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4/301969年「ホンダ1300 99S」。4キャブレターエンジンを積んだ高性能版は99(ナインティナイン)と呼ばれ、77の角形に対して円形ヘッドライトを持つ。「デラックス」「S」「カスタム」の3グレードがあったが、新車以来の「群5」ナンバーを付けたこれは、最もスポーティーな99S。新車価格は68万円だった。
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5/30「ホンダ1300 99S」のエンジンルーム。4連キャブレターを備えた99では、さらにパワーアップされ最高出力115ps/7500rpm、最大トルク12.05kgm/5500rpmを発生。空冷エンジンではオイルによる冷却も重要であることから、H1300ではレーシングマシン譲りのドライサンプを採用。左端にあるオイルタンクもエンジン同様アルミ製で、冷却フィンが切られている。DDACは水まわりのメンテナンスが不要でタフという空冷の美点はそのままに、エンジンが二重壁を持つゆえ、泣き所である騒音は水冷並みに抑えられた、とホンダはうたっていた。反面、複雑な構造ゆえに大きく重くなり、コストも上昇。シンプルで軽量、低コストが特徴の一般的な空冷とは正反対のエンジンになってしまった。
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6/301970年「ホンダ1300クーペ9 S」。セダン発売の翌1970年に加えられた2ドアクーペ。セダン同様シングルキャブ仕様と4キャブレター仕様があり、前者が「クーペ7」、後者は「クーペ9」と呼ばれるが、ボディーは双方とも共通。ちなみにセダンは発売から約半年後に、中低速域のトルクを重視してカムプロフィールとバルブタイミングを変更、最高出力は77が95ps/7000rpm、99が110ps/7300rpmへとデチューンされた。その後に登場したクーペも、同じデチューン版のエンジンを積む。
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7/301972年「ホンダ1300クーペGTL」。H1300クーペは1971年にマイナーチェンジされ、シングルキャブ版がゴールデンシリーズ、4キャブ版がダイナミックシリーズと呼ばれるようになった。ゴールデンシリーズは1970年に先行してフェイスリフトされたセダンと共通のおとなしい顔つきとなり、従来からの2分割グリルを持つダイナミックシリーズは、このGTLのみとなった。この個体は、ハヤシストリートのアルミホイールを除き、ブルーの塗装も含めオリジナルのままという希少な残存車両である。ちなみにH1300シリーズ全体の販売台数はおよそ3年間で約10万台と、ホンダのもくろみには遠かったものの、想像するほど悲観的な数字ではない。とはいうものの皮算用が大きかっただけに量産効果が得られず、「1台売れるごとに5万円の赤字」と言われたほど製造コストがかさんでしまい、ホンダの経営を圧迫した。
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8/301975年「ホンダ・シビック1500RSL」。H1300シリーズの失敗から、空冷から水冷に、高回転高出力型から中低速重視へと、ドラスティックな転換を果たして1972年に登場した初代シビック。見事ヒットしてホンダの財政を建て直した。その初代シビックでも排ガス未対策の高性能グレードである「RS」は旧車イベントでよく見かけるが、CVCCエンジン搭載のスポーティー仕様であるRSLは珍しい。
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9/301989年「ホンダ・レジェンド ハードトップ」。2.7リッターV6エンジンを積んだ、初代レジェンドの2ドアハードトップ。「参加資格は1970年代半ばまで」ということが多い一般的な旧車イベントには参加できない、こうしたモデルが見られるのが、このイベントの魅力である。
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10/302台の1966年「トヨタ・パブリカ コンバーチブル」。右のボディーカラーは純正色にはなかったと思うが、どこかで見覚えのある色。オーナーに尋ねたところ「ミニMk1」のグレーだという。なるほど。
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11/301982年「トヨタ・カローラ1600レビン」。型式名TE71こと4代目カローラのレビン。直線的なハッチバッククーペのスタイリングは、個人的には歴代レビンの中で一番好きだが、ステアリングがメチャ重かった記憶がある。
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12/301974年「日産バイオレット ハードトップ1600SSS」。510「ブルーバード」の後継モデルとして登場した、型式名710こと初代バイオレットのスポーティーグレード。東日本大震災で被災したが、復活させたクルマという。
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13/301973年「日産セドリック2000GX」。230の型式名を持つ、「グロリア」と双子車になった3代目セドリックの後期型。GXはSUツインキャブエンジン搭載の高級高性能グレードだが、セダンGXの残存車両は非常に珍しい。
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14/301988年「日産Be-1」。初代「マーチ」をベースとしたパイクカーの第1弾。フルオリジナルのキャンバストップ仕様、見たところ程度もすばらしい。
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15/301986年「日産サニー305Re NISMO」。通称トラッドサニーこと6代目サニーのハッチバックをベースに、ニスモがプロデュースしたコンプリートカー。
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16/301988年「日産プレーリー」。ミニバンの先駆である初代プレーリー。「左右ともBピラーがなく、リアドアがスライド式」というボディー構造は、剛性は低いものの解放感と使い勝手は非常に良好だった。
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17/301985年「日産グロリア ワゴン」。1983年から99年まで作られたロングセラーだった、型式名Y30の「セドリック/グロリア ワゴン」。この個体は、本来ワゴンには存在しなかった特別仕様車のジャック・二クラス(ニクラウスではなく日産はこう表記していた)バージョン風に仕立てられている。
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18/30日本では珍しいノーズブラを装着した1988年「スバル・アルシオーネ」(右)と、スバル初のフルタイム4WDモデルだった1986年「スバル・レオーネRX/II」(左)。
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19/301971年「オペル・マンタSR」。オペル初のスペシャルティーカーだった初代マンタの、インポーターだった東邦モーターズによる正規輸入車。本来、SRはオレンジやイエローなど鮮やかなカラーのボディーにマットブラックのボンネットという派手ないでたちなのだが、ご覧のようにシックな装いに仕立て直されている。
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20/301953年「ビュイック・スーパー」。GMの中でキャデラックと今は亡きオールズモビルの間に位置するビュイックの、派手なテールフィンがそびえ立つ前のモデル。5.3リッターV8エンジンを搭載。
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21/30特別展示車両紹介の際に行われた、1926年「ブガッティT35T」のエンジン始動パフォーマンス。雨にぬれてしまったエンジンはご機嫌ななめで、メカニック氏の努力にもかかわらず、火は入らなかった。
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22/30イベントが終了し、大方の参加車両が退場した後に「ブガッティT35T」をけん引して、押しがけならぬ引っ張りがけをしたところ、エンジンは咆哮(ほうこう)を上げた。開催中の雨模様がまるでウソだったかのように晴れ上がった会場内を疾走する。
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23/30閉会式終了後、参加車両はギャラリーに見送られながら雨上がりの会場を後にする。これは1979年「いすゞ117クーペ」。俗に量産角目と呼ばれる後期型である。
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24/301963年「ポルシェ356Bスーパー90」。モチ網のようなヘッドライトのストーンガードがイカす、最高出力90psの1.6リッター フラット4を積んだ356Bのトップグレード(4カムエンジン搭載の特殊な「カレラ2」は除く)。
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25/301964年「トヨペット・コロナ1500デラックス」。1960年に1リッターエンジンを積んでデビューしたが、翌61年に1.5リッターに拡大された2代目コロナの最終型。
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26/301970年「トヨペット・クラウン スーパーデラックス」。「白いクラウン」のキャッチフレーズで知られる3代目クラウンの、最高級グレードの後期型。ボンネットの先端にグレード名を示す“SUPER DELUXE”のエンブレムが貼られている。
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27/301975年「ダットサン・サニー エクセレント」。型式名B210こと3代目サニーの、L14エンジンを積んだ上級版。
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28/302ストロークエンジン特有の青白い煙を吐きながら行く、1972年「スズキ・フロンテクーペ」。
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29/30優雅な後ろ姿は1965年「プリンス・グロリア スーパー6」。日本初となるSOHCの直6エンジンを搭載している。
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30/30連なって会場を後にする「ポルシェ911T」「メルセデス・ベンツ500SL」「MGB」「トヨタ・パブリカ」、そして「ディーノ246GT」など。