トヨタ・アクアZ(FF/CVT)
いい人なんだけど 2025.12.06 試乗記 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。コンパクトカーの壁はあるか
一時話題になった「ラーメン1000円の壁」も最近は耳にしなくなった。物みな値上がりする世の中であってもラーメン一杯に1000円以上払うのはどうも納得できない、いやラーメンだけに安さを求めるほうがおかしい、という意見の違いが議論の元だったはずだが、いっぽうでそもそもラーメンが庶民の手軽な食べ物であるという認識は昭和世代にしか通用せず、安い時代を知らない世代に共感を求めてもしょうがない、との意見もあった。昭和ど真ん中世代の私にとってはやはり二度見するような値段だが、いつの間にか1000円を境にとやかく言う声も(少なくとも大都市では)聞こえなくなったように思う。もはや当たり前になりつつあるからだろう。
こんなことを思い出したのも、新型アクアの仕様表を眺めてウームとうなったからである。最上級グレードであるZ(FWD)の本体価格は282万4800円。カラーヘッドアップディスプレイ(パーキングサポートブレーキ、アドバンストパークとセットで8万1400円)や合成皮革+コンフォートパッケージ(6万2700円)など合計24万0350円のオプション代を含めると306万5150円と記されていた。マイナーチェンジ直前のモデルと比べると約25万円の上昇と聞くが、2021年夏に発売された現行型(2代目)の発売当初は同じZのFWDで240万円だったから、物価上昇と装備の充実ぶりを考えれば相応だと頭では理解しても、気持ちは正直ちょっと抵抗感がある。とはいえフル装備を求めればコンパクトカーでも300万円が当たり前の時代になったと飲み込むしかない。
そういえば、先日発売された「三菱デリカミニ」の新型でも4WDの最上級グレードになるとほとんど300万円という。それでも初期受注1万台のうちの4割がその300万円近い仕様なのだという(最初からフル装備にして残価設定ローンで買う人が多いと聞いた)。軽自動車でも200万円以上が当たり前になった、なんて言っていたのはつい最近のような気がするが、これからは頭を切り替える必要があるのだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ハンマーヘッドに変身
2025年9月に改良を受けたアクアの特徴は「プリウス」や「クラウン」のようないわゆるハンマーヘッド顔に一新されたことである。アクアは前述のように2021年に2代目にモデルチェンジした国内専用にしてハイブリッド専用のコンパクトハッチバックである。これまでの穏当な顔つきは、バイビームLEDヘッドライトとLEDターンランプ、LEDクリアランスランプを一体化したシャープな容貌に変わった。さらにこのZグレードには左右のヘッドライトをつなぐLEDのアクセサリーランプも備わり、正面から見ると何のクルマか戸惑うほどシュッとした今風のデザインだ。
新しいフロントデザインのためか全長のみ30mm延びたが、それ以外のボディーサイズは従来と変わらず(全幅も1695mmのまま)、むしろドアミラー全開時の車幅は30mm縮小したという。扱いやすさの追求はアクアの譲れないポリシーである。パワートレインも従来型と同じく、最高出力91PS/5500rpmと最大トルク120N・m/3800-4800rpmを発生するM15A-FXE型1.5リッター3気筒エンジンに80PSと141N・mを生み出すモーターを組み合わせたハイブリッドを積む。
2011年にデビューした初代アクアは一時年間20万台以上を売り、3年連続(2013~2015年)で登録車販売台数No.1を記録した人気モデルだったが、最近はベスト10に入るかどうかのあたりに落ち着いている(2024年は年間約6.4万台、「ヤリス」「カローラ」は各16万台以上)。ライバルは明らかに身内にあるが(2017年に当時の「ヴィッツ」にハイブリッド仕様が追加された)、ご存じのようにヤリスやカローラの台数にはSUVタイプの「クロス」が含まれており、今やそちらが主流だ。それを考慮すればボディータイプもパワートレインも1種類に絞られるアクアは大健闘していると思えるのだが、トヨタの基準からすると今ひとつなのかもしれない。それゆえの大変身である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
明るく上質なインテリアだが
随所にソフトパッドが使用された明るいグレー基調のインテリアはルーミーで心地よさを感じるものだ。ただし、このライトグレーのトリムはZグレード用の前述の合成皮革+コンフォートパッケージに含まれるオプションだ。ほかにも前席シートヒーターとステアリングヒーター、6ウェイ運転席パワーシート、さらに助手席シートバックポケットおよびアンダートレイも含まれるが、これら全部で6万円ちょっとなら、せめてシートバックポケットぐらい標準装備にしてもいいのではないかと思うが、そういう綿密なコスト管理あってこそのトヨタである。
いやいや待てよ。何しろトヨタのやることである。本来、地図や雑誌などを入れるための薄いシートバックポケットこそ、当節では多くのユーザーが必要ないと答えている調査データを持っているのかもしれない。新しいアクアでは運転支援システム関係や便利な装備が細かいものまで、いわゆるダウンサイザーにも不満を感じさせないほどさらに充実しているが、隅を突くようなことを挙げると、パワーシートの調整は動きがぎこちなく微調整しにくい、シートヒーターはお尻の部分だけ熱くなりがちで頻繁にオンオフしなければならない等、きめ細かさに欠けると感じる点もある。
スムーズストップとは?
最新型には「スムーズストップ」なる新機能が備わっていることもトピックだ。停止時の揺り戻し(サスペンションの跳ね返り)を防ぐためにドライバーは停止寸前にわずかにブレーキを弱めるのが普通だが、それを自動で行ってくれる機能という。「アルファード/ヴェルファイア」のプラグインハイブリッドモデルや「センチュリー(SUV)」に既に採用されているものと同様らしいが(ただしあちらは可変ダンパーとの連動制御)、実は私はその効果を感じられなかった。普段から減速Gをコントロールするのが染みついている人にはありがたみがあまり感じ取れないかもしれない。無論この機能はブレーキ操作の不足を補うものではなく、ある程度以上の急制動の場合は作動しないという。それにしても至れり尽くせりである。
最近のトヨタ車はおしなべてしっかりした足取りが好ましいが、アクアもまたコンパクトカーの心もとなさとは無縁である。段差が連続するような路面など、場合によってはもう少しダンピングが引き締まっていてもいい、と感じることもあるが、そのぶん実用域では滑らかで、しかもレスポンスが力強く、ヤリスよりも(全開にしなければ)静かで全体的に洗練されている。もちろん燃費も良好でまさにファミリーカーのかがみといってもいい。だがその穏当なキャラクターゆえにアピールに欠けると思われているのかもしれない。他メーカーからすればうらやましい限りだが、身内のライバルが多いのは悩みどころでもある。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=トヨタ自動車)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
トヨタ・アクアZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4080×1695×1485mm
ホイールベース:2600mm
車重:1160kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3800-4800rpm
モーター最高出力:80PS(59kW)
モーター最大トルク:141N・m(14.4kgf・m)
タイヤ:(前)195/55R16 87V/(後)195/55R16 87V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:33.6km/リッター(WLTCモード)
価格:282万4800円/テスト車=306万5150円
オプション装備:ボディーカラー<シルバーメタリック>(0円)/195/55R16タイヤ&16×6Jアルミホイール<切削光輝、ブラック塗装、センターオーナメント&ブラック塗装ホイールナット付き>(3万9600円)/LEDリアフォグランプ(1万1000円)/パーキングサポートブレーキ<周囲静止物>+トヨタチームメイト<アドバンストパーク>+カラーヘッドアップディスプレイ(8万1400円)/合成皮革+コンフォートパッケージ<合成皮革+柄ファブリック表皮、運転席6ウェイパワーシート[前後スライド、リクライニング、上下]、助手席シートバックポケット、助手席シートアンダートレイ、シートヒーター[運転席、助手席]、ステアリングヒーター>(6万2700円)/寒冷地仕様<ウインドシールドデアイサー、リアヒーターダクト、PTCヒーターなど>(1万9800円) ※以下、販売店オプション フロアマット<デラックス>(2万5850円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1262km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:295.3km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:20.4km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】 2026.7.18 ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。
-
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】 2026.7.17 「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。
-
フェラーリ849テスタロッサ スパイダー(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.7.15 歴史ある車名が与えられた「フェラーリ849テスタロッサ」は、従来型から大幅な進化をとげた高性能スポーツカーだ。では、そのオープントップバージョンの走りはどうか? 日本での発売を前に、フェラーリ通として知られる西川 淳が試乗した。
-
ポルシェ・カイエン ターボ エレクトリック(4WD)【試乗記】 2026.7.15 ポルシェ最新の電動ハイパフォーマンスSUV「カイエン エレクトリック」。そのラインナップのなかでも、最高峰に位置するのが「カイエン ターボ エレクトリック」だ。最高出力1156PS、最大トルク1500N・mという、とてつもないパフォーマンスの一端に触れた。
-
プジョー308 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2026.7.14 マイナーチェンジで内外装がブラッシュアップされた「プジョー308 GTハイブリッド」に試乗。大胆なデザインのフロントフェイスに目を奪われるが、ステランティス自慢の1.2リッター直3マイルドハイブリッドを搭載する最新モデルの仕上がりと走りやいかに。
-
NEW
第340回:一にエンジン、二にカッコ
2026.7.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。マツダ渾身(こんしん)のラージ商品群を応援するカーマニアのひとりとして、「CX-60」と「CX-80」の動向は常に気になっている。3列シートSUV、CX-80の最新モデルにあらためて試乗して感じたこととは? -
NEW
日産は“再挑戦”でホンダは“終了” 新型「エルグランド」発売に見る、プレミアムミニバンの今
2026.7.20デイリーコラムトヨタが圧倒的なシェアを占める上級ミニバンの世界において、新型「エルグランド」で復権をねらう日産。しかし、なぜフルモデルチェンジは16年ぶりになったのか? ホンダはどうするのか? この市場の今を考察する。 -
NEW
ホンダ・インサイト(FWD)【試乗記】
2026.7.20試乗記3000台の限定で販売される新型「インサイト」は、クロスオーバー風のフォルムと、これまでのホンダ車にはなかった内外装のデザインテイストが新鮮だ。中国で生産され、日本独自の名前が与えられた新型電気自動車の走りと仕上がりを、ロングドライブで確かめた。 -
ポルシェ911カレラT(後編)
2026.7.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルとSTIでクルマの走りを鍛え、モータースポーツにも積極的に取り組んできた辰己英治さん。彼の目に、“スポーツカーの水準器”こと「ポルシェ911」はどのように映ったのだろう? 走りの楽しさを追求した「カレラT」グレードに乗っての印象を聞いた。 -
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。

















































